79] 翻訳夜話書評 From:schazzie REPLY 2000/11/06 06:01 本書は4つの部分から成る。このうち、第一部は東大駒場柴田教室の学生、第二部は翻訳学校の学生、第四部は若手翻訳家を聞き手に、柴田・村上両氏が大いに語ったフォーラムの記録を編集したものである。聞き手の翻訳レベルが初級・中級・上級とあがるにつれ、質疑応答の内容も、翻訳とは何ぞやといった基本翻訳論から、主語をどう訳すかといった、翻訳の現場に即した実践論へと自ずと移行する。心憎い構成である。ちなみに、第三部は柴田・村上両氏がカーヴァー及びオースターの同じ短編小説をそれぞれ翻訳、これを並べて収録し、第四部翻訳実践編のための具体例とする。
小説家の村上春樹とアメリカ文学者の柴田元幸との間には、確かに翻訳に対する姿勢に微妙な差がある。しかし、原文を「美しい日本語」に置きかえるより、かたや「原作者の心の動きを息をひそめてただじっと追うしかない」(村上)と述べ、かたやあくまで一読者として、自分が「ほとんど召使というか、奴隷というか、そういうものになって、主人の声をとにかく聞いて、それを別の言語に変換するというふうに考える」(柴田)と述べるなど、その姿勢はいずれも対象(原文テキスト)を最重視する、深い愛に貫かれている。繰り返しになるが、このまっとうさが実に快い。
対象との深いコミットを旨とする、彼らの展開する翻訳論は、自ずと人は他人とどう関われば良いかという問題にまで射程が伸び、その意味でも実に刺激的な1冊である。
評者:国際日本文化研究センター教授・井波律子 MAIL HOME ------------------------------------------------------ [80] Re:翻訳夜話書評 From:schazzie REPLY 2000/11/06 06:05 昨日の新聞に載っていた書評です。 情報ボードに書こうと思ったんですが、ちょうどこの話題なので、ここに載せました。
ベスト10にも入ったようで、村上春樹の名で売れるのか、はたまた柴田さんの翻訳論ということで売れるのか、よけいな勘繰りまでしてしまいました。(^_^; MAIL HOME ------------------------------------------------------ [82] Re:翻訳夜話書評 From:ごろんちょ REPLY 2000/11/08 07:10 こんにちは。早速拝見にうかがいました(^^) うんうん、なるほど、プロは上手い紹介をするものだ、と思ってしまいます。確かにこんな感じの内容でした。ただ、その確固たる信念とやらが、時折押しつけがましく感じてしまうことがあって、あまり好感は持てなかったんですね、実は。柴田さんだけの翻訳論の本のほうが良かったのになぁ、などと、村上ファンであるはずの私は思ってしまいました。
そうですね、どちらの名前で売れているんでしょう。まさか翻訳家志望者がこんなに多いとは思わないし。私は今回の場合は、明らかに「柴田元幸」の名前で買いましたけどね。たぶん世間的には、村上春樹なんでしょうね。 ------------------------------------------------------ [84] Re:翻訳夜話書評 From:schazzie REPLY 2000/11/08 17:03 「確固たる信念」、「このまっとうさが心地良い」などというところは、私はいささか首をひねらざるを得ません。翻訳者は皆、確固たる信念を持って、まっとうな訳をしている、あるいはそう努力しているのではないでしょうか?と思うんですけど。 まっとうでない翻訳とは、どういうんでしょうね?シェルダンの超訳とかのことでしょうか?それはそれで、日本では売れるのだから、いいんじゃないかと・・・。 この書評も、本を売るための書評なんだろうと思うと、致し方ないとも思いますが、原作があっての翻訳だから、翻訳の部分だけを押しつけられるのも、一般読者には辛いですよね。 ------------------------------------------------------ [85] Re:翻訳夜話書評 From:schazzie REPLY 2000/11/08 17:15 もうひとつ、実はこの書評の頭の部分は省略したんですが、この評者の恩師が「原文にある言葉はすべて訳せ。書いていない言葉は絶対に付け加えるな」と言っていたそうなんです。柴田氏と村上氏の翻訳論は、その恩師を彷彿とさせる「まっとうなもの」であると言うんです。
この部分をなぜ省略したかというと、実際に春樹氏の訳は、その恩師の言ったようなものではないし、柴田さんも原書の雰囲気を壊さない程度に、さりげなく文章を補って、120%の翻訳をしていると思うんですね。だから、この部分を頭に置くと、書評を読んだ人に、両人の実際の翻訳について、違う先入観を与えてしまうと思ったのです。そういうわけで、この評者は、両人の作品をあまり読んでいないと勝手ながら推測して、削りました。 ------------------------------------------------------ [86] Re:翻訳夜話書評 From:ごろんちょ REPLY 2000/11/09 07:58 翻訳論っていうことになると、私は全くの素人なので、見当違いのことを言ってしまうかもしれませんが。
> 「原文にある言葉はすべて訳せ。書いていない言葉は絶対に付け加えるな」
なんですが、村上・柴田氏ご両人は、意識の上ではそうあろうとしているみたいです。
えっと、本文の適当な箇所を引用できるといいんでしょうが、もうあまり覚えてなくて。ただ、年月の経過とともに、あるいは作品自体の個性によって、段落の場所をかえたり、現在形の表現を過去形に直してみたりするけれど、それは決して原文の形を変えているのではなく、テキストに忠実に耳を傾けるからこそ、こういう訳文になるんだ、というようなことを言ってました。あぁ、説明が下手でごめんなさい。
それと、学生、翻訳学校、新人翻訳者さん、と三箇所でのレクチャーの模様が収録されているんですが、時々によって、ご本人の「信念」も実は少しずつ揺れているんです。柴田氏自身もこのことは認めていて、要するにテキストによって、臨機応変ってことのようです。 ------------------------------------------------------ [89] Re:翻訳夜話書評 From:schazzie REPLY 2000/11/09 15:10 どなたがおっしゃっていることも「まっとうな」ことであると思うんですが、まさに柴田氏の「臨機応変」というのが最も翻訳にあてはまる気がします。
「英語=日本語」ではありませんから、全くイコールでは訳せないと思うんですね。アーヴィングなどは細かく書き込んで、省略などもあまりないので、補う必要もないかもしれませんが、そうでない場合には、さりげなく補ってやらないと、日本語として成り立たない、あるいは意味不明になるということもあると思います。 だから「こうあるべき」と断言することはできず、「臨機応変」としか言えないと思います。どんなふうに「臨機応変」にするかは、その訳者の腕次第ってことなのでしょう。
意識の上では忠実にと心がけているのは当然ですが、どの程度までを忠実といい、また忠実というのがどこまで可能かということになるのでしょうね。
ただし、このあたりを問題にする方は、基本的には英語がわかる人だと思うので、はなから原文で読んだ方がいいとは思います。
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