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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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偽り・05 移り気 (ロマサガMS・詩人&グレイ一行)
長山ゆう | MAIL | URL

 酒場で楽器を奏でていた吟遊詩人は、扉の開かれた音に顔を上げた。
 演奏の手を止めることなく、新たに酒場へと足を踏み入れた一行を観察する。
 幾度か言葉を交わした記憶のある者たちだった。
 吟遊詩人という肩書きを持つ彼は、あらゆる町で数えきれない程の人々とささやかな関わりを持つ。
 言葉を交わし、望まれれば楽を奏で、語らうことで詩の題材を得ることもあるのだ。
 当然ながら、一度しか会うことのない者もいれば、幾度か顔を合わせる者もいる。
 そういった中で、この顔触れに含まれる少女の存在が、吟遊詩人に一行の存在を強く印象づけていた。
 ガレサステップに住まうタラール族の少女。
 屈託のない笑顔が印象的なこの娘は、行方不明となった一族を捜していた。
 タラール族がガレサステップから姿を消してしばらく経つが、その行方は杳として不明であるらしい。
 職業柄世情に詳しい彼の耳にも、タラール族のその後については未だ何の噂も届いていなかった。
 顔を合わせるたび、少女は詩人に何か噂を知らないかと尋ねてきたが、そのたびに色好い返事が出来ない事を気の毒に思っていたのである。
 テーブルのひとつに腰を落ち着けた一行の人数が減っている事に彼が気づくとほぼ同時に、話し声が聞こえてきた。
「ガラハドを捜そうよ。多分この辺りの町にいるんだろうし」
「だがヤツは何とかいう武器を探すと言っていたぞ。クリスタルシティでは姿を見かけなかったしな。果たしてすぐに見つかるか」
「そういえば、ガラハドって武器蒐集が自慢だったっけ……。あーもう、どこまで探しに行ってるんだい!」
 出来るだけ声を潜めようとしているらしい女性の声は、しかし意に反して周囲に筒抜けである。
 パーティのリーダーである青年は、何事かを考え込んでいる様子だった。
 そして、詩人が気に懸けている少女は、沈んだ表情で俯いている。
 隣に座を占める品の良い少年が気遣う視線を向けているのだが、意識に届いていないらしい。
 演奏を終わらせた吟遊詩人は、周囲から向けられた賛辞に笑顔を返してその場を離れ、曲の余韻が消えた頃に目当てのテーブルへと近づいた。
 先程から話は全く進んでいないらしく、テーブルの上には手つかずの料理が残されている。
 グラスの酒は減っていたが、ノンアルコールの飲み物はカウンターで用意された状態のままだった。
「少しよろしいですか?」
 話しかけた彼に四人の視線が集中する。
 それぞれが大なり小なり訝しげな感情を向けてくる中、詩人は穏やかな笑みでそれに応えて言葉を継いだ。
「実は先程、皆さんのお話が聞こえまして……よろしければ私を一時、旅の仲間に加えていただけませんか?」
 一瞬の沈黙。
「詩人さん……を?」
 呟くように尋ねたのはタラール族の少女──アイシャだった。
「はい。そろそろ新しい詩の題材を探したいと思っておりまして。こういう時は冒険者の皆さんに同行させていただくのが一番の近道ですから」
 詩人が彼女へ微笑みかけると、アイシャは少し困惑した面持ちでリーダーの青年へ視線を向けた。
 同様に上品な顔立ちの少年と華やかな雰囲気を持つ女性の視線が彼へと集中する。
 詩人もまた彼へ向き直った。
「これでも身を守る術は心得ております。一人旅を繰り返しておりますし、詩の題材は安全な場所にばかり残されているものではありませんからね。足手まといにはなりませんよ」
 言いつつ、彼らから感じる躊躇いを帯びた空気に、詩人は少しばかり考える。
 行きずりの吟遊詩人の提案は、すんなりと受け入れるには難しいものだろう。
 この青年が求めているのは戦力になる人間だ。実戦のひとつもこなして見せるべきかもしれない。
「何か得意とするものはあるか?」
「剣術と弓です。光の術法には自信がありますよ」
 詩人の言葉に女性が反応を示した。興味と闘争心がない交ぜになった表情である。
 グレイは検分するように相手を見つめ、やがて軽く頷いた。
「いいだろう」
「グレイ!」
「確かに腕は立つようだ。今の俺たちが戦力不足なのは事実でもある。条件に適っているだろう」
 一同を見回すグレイの視線が女性の上で止まった。
 彼の瞳を見返していた彼女は、やがて勝ち気な笑みを浮かべる。
「グレイがいいならあたいは構わないよ。詩人さんが仲間なんてオツだしね」
 そうして彼女は詩人へ笑顔を向けた。
「よろしくね、詩人さん。ご自慢の術法の腕を拝むのが楽しみだよ」
 術法使いらしい女性の言葉から、彼女自身の腕に対する自負が伝わって来る。こういった率直な態度は、むしろ彼に好感を抱かせた。
「詩人さんが一緒なんて嬉しいな。色々なお話聞かせてね」
 彼が同行を申し出た一番の理由である所の少女が、嬉しそうな声を上げる。
「ええ、喜んで」
 先程の沈んだ表情が影を潜めている事に、詩人は内心で安堵を覚えていた。
 とんとん拍子で話が進んだ事に対して、危惧の声が上がったのはこの時である。
「でも、いいんですか?」
「アルベルトは反対か?」
「いえ……その、あまりに突然の話でしたから」
 名指しで問われ、品の良い様子の少年──アルベルトが言葉を濁す。
「確かにアルベルトさんのご心配は尤もですね。素性の知れぬ吟遊詩人の提案を受け入れる事に躊躇いを覚えて当然だと思います」
「あ、いえ、そういうわけではないんです。私も幾度か貴方とお会いしていますし、とても感じの良い方だと思っておりましたから。ただ、その……」
「私の剣術や術法の腕については、貴方の目で見て判断して下さい。期待を裏切るつもりはありませんよ」
 少年を安心させるように言葉を重ねて微笑みかけると、彼は消極的な否定を飲み込んだ。
 頷きはしたものの、釈然としない様子のアルベルトへ、詩人は密やかに耳打ちをする。
「ご心配なく。貴方が危惧している事はありませんから」
 驚いて振り向いてきた少年を見やり、詩人はおやと彼の顔を見た。
 そうして口の端に苦笑を浮かべる。
「いえ、何でもありませんよ。ともあれこれからよろしくお願いしますね」
「……はい」
 思いの外、進行状況が緩やかであることを知った吟遊詩人は、しばし間近で彼らの様子を見守ることとしたのである。


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 アイシャを一歩下がった場所から見守っていた詩人さんですが、気がかりが出来たので行動を共にすることにした、という話。
 この話の少し前にジャミルがアサシンギルドの調査でパーティを一時離脱しています。
 その後、スカーブ山登り1回目で戦力不足を認識したグレイ達が臨時で仲間を捜していた所へ、詩人さんが声をかけたわけですね。
 ふとした気まぐれで…という予定だったんですが、その点ちょっと薄かったなあ…。

2006年10月01日 (日) 20時46分 (62)

記憶・08 花びらの中 (TOS・ゼロス&コレット)
長山ゆう | MAIL | URL


 色とりどりの花が飾られたその店で名を呼ばれたゼロスは、金の髪の少女の姿を目に留めると、笑みを見せた。
「コレットちゃん、一人?珍しいな〜。ロイド君は?」
「リフィル先生の授業を受けてるの」
「あー、成程。居残り組ってやつか」
 納得するゼロスに小さく笑い返し、コレットは店先に飾られた花々に目を向けた。
「綺麗だね。ゼロスはお花を買いに来たの?」
「ん、まーねー。さっき珍しい花を見かけたから、ちょっと気になっちまってさ」
 ゼロスもまた店先を彩る花々へと視線を移す。
「お花が好きなんだ」
 言いつつ、コレットはゼロスの横顔を振り仰いだ。
 ゼロスは少しばかり肩を竦めると、曖昧に応じる。
「好きっつーか、そもそも花は女の子に似合うもんだろ?ま、男の嗜みってやつ?」
「贈る人がいるんだね」
「ほら、俺さま人気者だし?プレゼントしてくれるハニーたちにお返ししなきゃいけないでしょ」
 ウインクと共にこう返され、コレットは「ゼロスらしいね」と軽やかな声で笑った。
 花は女性に好まれる。贈り物には最適と言えるだろう。
 ――何より、形として残らない。
 その美しさを愛でられるのは短い間の事。やがて萎れて枯れてゆき、姿を消すのが運命だ。
 こうして店先で咲き誇っている花々も、いずれは枯れてしまう。
 花の命は短いもの。故に美しさを称えられるのだ。
「お花って、素敵だよね」
 店先の花々へ優しく微笑みながら、少女は言う。
「一生懸命咲いているお花を見ていると、元気づけられる気がするの」
 コレットの言葉に誘われるように、涼やかな風が吹いた。
 そよ風に揺れる明るい色彩に囲まれた彼女を見つめながら、やっぱり女の子には花が似合うな、などとゼロスは考える。
 少女の長い金の髪が、肩口で切り揃えられた鴇色の髪と二重写しになった。
 閉じこめられた狭い世界で切り花を愛でる少女。
 ……無聊の慰めも数日限りのものである。
 だからこそ種々の花を贈るのだ。
 形を残さぬが故に、贈る想いも陰に隠れ、やがては消え果てるだろう。
 鴇色の髪の少女の姿を脳裏に描きつつ、我知らず目を細めた彼の耳に、静かな声が届いた。
「花は種を実らせて、それが次の年に新しい花を育むでしょ?受け継がれていくんだなあって思うんだ」
 ゼロスが僅かに目を見開いた。
 花に微笑みかける金の髪の少女の姿を視線に捉えると同時に、先程の言葉が耳元で蘇る。
 こういった店に飾られる花々には、有り得ない未来だった。
 コレットが言うのは地に根付く花。
 手折られて短い間に命を散らせる切り花ではない。
 切り花は萎れて枯れるのみだ。決してその命を継ぐ事はないのだから。
 不意に、ゼロスは色彩で人目を引く赤い薔薇へと手を伸ばした。
 棘が取り除かれ、鑑賞するためだけに存在する大輪の花。
 華やかな外見が好まれるので、あまたの女性に対する贈り物として選ぶ事の多い花だ。
「そうだな。自然に咲く花は、そうやって新しい命を芽吹かせるんだよな」
 大輪の花の赤い色彩が虚ろな影を纏っているように感じられ、ゼロスは花びらに触れていた手を引いた。
「ゼロス?」
 ひどく静かな、穏やかな声音に何かを感じ取ったのか、コレットが小首を傾げて彼の名を呼ぶ。
 ゼロスはコレットに笑いかけた。普段と変わらない、少し軽い笑顔で。
「良いこと言うねえ、コレットちゃん。俺さま惚れちゃいそーだ」
 コレットは目を丸くしたが、やがてくすくすと笑い出す。
「ゼロスったらそればっかり。だからみんなが呆れちゃうんだよ?」
「俺さまはいつでも本気だぜ?……まあ、コレットちゃんに何かあったら、ロイドが黙っちゃいねーよなあ」
「え、そんな事、ないと思う……けど」
 茶目っ気たっぷりなゼロスの台詞にロイドの名が出たせいだろう、コレットはやや困惑した様子で俯いた。しかし、その頬は赤く染まっている。
 そんな少女を微笑ましく見つめると、ゼロスは得意の軽口で瞬く間に彼女へ明るい笑顔を取り戻させたのである。


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 ゼロスは誰に対しても、形を残す物を贈らないような気がします。
 だから花を選ぶのではないかと。
 唯一の例外がセレスに託した神子の宝珠。
 あれは最終的に自分の手元に戻るので、それまで預けているという形ですよね。
 ゼロスルートでロイドに託されるこの宝珠は、ある意味ゼロス自身のような気がします。


2006年08月25日 (金) 22時41分 (61)

記憶・09 誰かの台詞 (アーク2・アーク×ククル)
長山ゆう | MAIL | URL


 夕食を終えた後、酒の入った賑やかな空気が流れる中、いつしかアークの姿が消えていた。
 どうやら外に出て行ったらしい。
 ククルはこの場をシャンテに任せると、アークの姿を捜して部屋を出た。
 既に夜も更けている。
 月明かりによって足下が危ういといった事はないのだが、それでも仲間を心配させるほど遠方へ足を伸ばすとは考えられず、ククルはひとまず神殿の周囲を巡る事にする。
 ほどなくして、アークの姿が見つかった。
 神殿の裏手に根付いた枝振りの良い木の傍である。
 アークはその幹に手を触れて、生い茂る枝葉を見上げていた。
 物思いに耽る彼の邪魔をせぬよう足音を殺して歩み寄ったククルの耳に、アークの深い吐息が微かに届く。
 そして。
「……疲れた、な……」
 おそらくは意識せずに洩らした言葉だったのだろう。枝葉を見上げる顔に動揺が走る。
 しかし、辺りに彼の声を聞く者がいない事に気づいたらしく、アークは瞼を閉じると改めて深い溜息をついた。
 普段の彼ならば、決して口にしない言葉である。
 ククルの逡巡は一瞬だった。
 躊躇いを振り払い、彼女は穏やかな声音でその名を呼ぶ。
「アーク」
 木肌に触れていた手が震えた。
 一呼吸置いた後、アークはゆっくりと背後を振り向く。
「ククル……」
 どこか痛みを押し隠しているような瞳だった。

 ――いつからだろう。アークが年齢より遙かに大人びて見えるようになったのは。

 そっと微笑みを返し、ククルは彼へと歩み寄る。
 アークの視線が彼女の姿を追っていた。
 傍らに立ち止まった彼女の真っ直ぐな瞳に、アークはやや弱い笑みを返す。
「俺はみんなが言うほど強い人間じゃないんだ」
 先程の言葉を聞いていたであろうククルに対して、本音が口をついて出たらしい。
 共に旅をしている仲間がこの発言を聞いたなら、どういう反応を示すだろう。
 否、簡単に予想できる事だ。少なくともエルクやリーザは驚きながらも否定する。
 アークに何らかの憧れを抱く者がそういった反応を示す事は、容易に想像が付いた。
 トッシュやゴーゲンといった旅を始めた当初の仲間ならば、アークの年齢を思い起こし、納得する所もあるだろう。
 それでもやはり意外に感じるかもしれない。これまで否定的な発言を極力避けてきたアークを見ていれば尚のことである。
 ククルは正面から彼を見た。
「ええ、わかっているわ。一緒に旅をしていたもの」
 アークは心優しい少年だ。そして責任感が強い。
 頼られればそれに報いるよう努力する。期待に応えるだけの力を備えているが故に。
 ──だからこそ、気づかれない。
 アークの心に潜む弱さを。苦しさに耐えかねる心を。
 彼自身、まだ年若い少年でしかないという事を。
 否定も疑問も差し挟まず、ただ彼の言葉を肯定したククルへ、アークはふと苦笑を洩らした。
「すまない。君はたった一人で神殿を守っているのに、俺が弱音を吐いている場合じゃないよな」
 ククルは頭を振る。
「いいえ、つらい時にはつらいと言って欲しいわ。せめて私が隣にいる間だけでも、自然な姿でいて欲しい。私だって苦しいときはあなたにそう言うでしょう。言葉にするとつらい事もあるけれど、支えられる人がいるならそれも分かち合えるはずだから」
「…………」
「ここはあなたが安らげる場所であって欲しいもの」
 ククルが願いを伝えた、その刹那。
 アークの手が伸び、彼女の身体を包み込むように抱きしめていた。
 不意の出来事に驚くより先に、囁くほどの低い声がククルの耳朶を打つ。
「──ありがとう」
 ククルは小さく微笑むと、アークの背へそっと腕を回した。
 添えた手が彼を支える力になって欲しいと、密かな願いを込めながら……。


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 久しぶりのアーク×ククルです。
 「2」のアークを見ていると、彼の年齢をつい忘れてしまいがちになってしまいます。
 1でのやんちゃっぷりはすっかり影を潜めていますし、
 あの落ち着きようは二十歳を過ぎていてもおかしくないと思うんですが。
 周囲の期待に応えようと努力するアークだからこそ、ククルの存在が大きいのではないかと。


2006年08月14日 (月) 20時34分 (60)

記憶・03 汚れたぬいぐるみ (ロマサガMS・アルアイ)
長山ゆう | MAIL | URL
(『タラール族消失』ネタバレを含みます)


「あった!」
 言うなり、アイシャは小さなぬいぐるみを手にとった。
 彼女がその頭を軽く叩く。周囲に埃が舞い、幾分汚れが落ちたはずだが、見目はさほど変わらなかった。
 薄い土色地のぬいぐるみだが、どうやらこれは色が抜けたせいらしい。愛らしい熊の元色は濃い茶だったのではないだろうか。察するに、かなり年季の入ったものと思われた。
 ――お願い。ぬいぐるみ、持ってきて欲しいの。
 そう言ってアイシャの服を握りしめた、小さな少女の姿を思い起こす。
 タイニィフェザーよりタラール族が砂漠の流砂に飲まれたという情報を得たのは、つい先日のことだった。
 それを頼りに探索を始めたアルベルトたちは、カクラム砂漠の地下深くにひっそりと残されていたニーサ神殿と、ここへ逃げ延びていたタラール族を発見したのである。
 村人との再会を喜んだアイシャだったが、彼女の祖父である族長ニザムは、タラール族が地底に姿を消した理由と合わせて、これまで秘していた一族の伝承を孫娘に告げたのだ。
 孫を送り届けたアルベルト達にも話を隠さなかったのは、おそらくここでアイシャと道を分かつであろう彼らへ、真実を伝える必要性を感じた為と思われた。
 まだ幼いとすら言える少女が、長い旅を経てようやく身内と再会できたのである。
 アルベルト自身、アイシャはこの地底に残るものだと思っていた。
 しかし、アイシャは彼らと旅を続けることを選んだのである。
 地上へ戻ろうとした彼女へ、年端もいかぬ少女が必死の様子で頼み事をしたのは、その時だった。
 くだんのぬいぐるみが、彼女の祖母から譲られた大切なものなのだと説明を加えたアイシャへ、グレイは軽く頷いて見せ、一行はタラール族の住居を再び訪れる事となったのである。
 一人でテントの奥へ向かおうとしたアイシャを、アルベルトは引き止めた。
 すぐに済むから、という彼女を何故か一人にしたくなかったのだ。
 結局アルベルトも仲間に断りを入れて、アイシャと共にテントへ向かう事にしたである。
「見つかって良かったね」
 安堵の混じったアルベルトの声に、ぬいぐるみの埃を落としていたアイシャが振り返った。
「うん。一緒に探してくれて、ありがとう。アル」
 荷袋にぬいぐるみを仕舞い込む彼女へ、アルベルトは気になっていた事を尋ねてみる。
「お祖父様の所に残らなくて良かったのかい?」
 一瞬、荷袋に隙間を作っていた手の動きが止まったが、アイシャはすぐに片付けを終えた。
 そうして閉じた荷袋の口を見つめながら、答えを返す。
「地底は安全かもしれないけど、でも隠れて知らない振りをするのはずるいと思う」
 曲がったことを嫌うアイシャらしい意見だった。
 しかしサルーインの復活は時間の問題だ。逃げる先があるのならば、そこへ避難するのも一つの方策である。ましてやアイシャはまだ保護者を必要とする少女なのだから。
「旅を続けるのは危険な事だよ。未熟な私が言うのは口はばったい事だけれども、アイシャには身を案じておられるお祖父様もいらっしゃるのだし」
「……私、足手まといかな」
 ぽつりと呟いた少女の言葉は、ひどく力なく感じられた。
 アルベルトは首を振る。
「そんなことはないよ。君は充分に力を付けている。弓の扱いも慣れたものだし、水や土の術法で幾度となく私たちを助けてくれているじゃないか」
 だったら、とアイシャが言葉を募らせる。
「一緒に行ってもいいでしょう?私にも何か出来る事がしたいから……今まで一緒にいてくれたみんなに恩返しがしたいの。少しでも力になりたい」
 不意にアイシャは瞳を翳らせた。
「……私、人間じゃない、けど……」
 ここでようやくアルベルトは、彼女の様子が普段と違っている原因に思い至った。
 族長より孫へと伝えられた、タラール族の歴史。
 連綿と続いた彼らの時の流れは、遙か古代、マルディアス全土が信仰する光の神エロールが誕生する以前までも遡ることができたのである。
 現在マルディアスに生きる人々は、エロール神より生まれ落ちたと伝えられている。
 しかしタラール族はそれよりも昔、世界が混沌としていた頃に地母神ニーサによって産み出されたとされているのだ。
 故にタラール族は、エロール神が産み出した人間ではない。
 ――けれども。
 アルベルトは両手で彼女の肩に触れた。
 不安そうに瞳を揺らせる少女へ、優しく笑いかける。
「私はただ、アイシャが危険な目に遭わないかが心配なんだ。でも、君が覚悟をしているのなら止める気はないよ」
 少しだけほっとした様子の少女へ、アルベルトは更に言葉を重ねる。
「それから。アイシャは人間じゃないと言うけれど、それはただ一族の祖先を異にするだけだと思うんだ」
「…………」
 言葉には出なかったが、憂いを帯びた緑の瞳は心の奥に何かを潜ませているようで。
 けれども、アルベルトはそれに頓着しなかった。
「タラール族はニーサ様を祖先としていて、ローザリアの他の民族はエロール様を祖としている。それだけだよ」
「でもね、お祖父ちゃんが言ってたの。人間は自分と違う者たちとは共存できないって。今はみんなと一緒だけど、旅が終わったらわたしも地底に行くと思う」
「そんな必要はない」
 穏和な物言いのアルベルトには珍しい断言する口調に、アイシャは少し目を見開いた。
 旅の終わりとは悪神サルーインを倒した後を意味する。それまでの道のりには更なる苦難が待ち受けている事は想像に難くない。
 しかし、今重要なのは世界に平和が訪れた後の話である。
 タラール族がいずれマルディアスの人々から迫害され、住居を追われる事を予期したアイシャの選択肢を、アルベルトは受け入れたくなかった。
「殿下は誰もが胸を張って住む国を造りたいとお望みなんだ。タラール族はタラール族としてガレサステップで暮らしていけば良いんだよ」
 まだイスマス城が健在だった頃から、ローザリア皇太子ナイトハルトはアルベルトを我が弟のように可愛がっていた。
 その彼が、幾度となく語った理想を、アルベルトは今も明瞭に思い出すことが出来る。
 ……殿下は常にローザリアの民の事をお考えなのだ。無論タラール族も例外ではない。
 彼が尊敬して止まないナイトハルトの崇高な志を、アイシャにも知っておいて欲しかった。
 彼女は殿下に面識があるという。噂と異なる皇太子の姿が意外だったとも話していた。
 確かにナイトハルトは他国では『黒い悪魔』との異名で称されることがある。だがそれも国を守る戦いに身を投じればこそだ。
 国への、そして民に対する温かな心遣いを、自分は知っているのだから。
 アルベルトの真剣な眼差しを見返していた少女の瞳が、ふと和らいだ。
「そう、なったらいいな」
「大丈夫。殿下は素晴らしい御方だよ。アイシャ達の事を無下になさったりするはずがない」
「……うん。私も殿下の事は信じられると思う」
 アイシャの表情は穏やかだった。皇太子が信を置くに値する人間だと認めている事を察し、アルベルトは嬉しくなる。
「私はアイシャの事が大切だよ。だから幸せになって欲しい」
 刹那、少女の瞳に宿った光は切なさを映し、一片の翳りを帯びていた。
「……ありがとう、アル」
 笑みに覆われた瞳からは、心のうちを推し量ることはできなくなっていたけれども。
 ただアルベルトは、アイシャを泣かせたくはないと、それだけを思っていたのである。


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 書いてみてびっくり。
 アルアイはアイシャの方が先に自覚するとは思っていましたが、
 よもやここまでアルベルトが鈍感だとは…!!
 というか、この時期は未だに殿下一筋なのね、アル…(苦笑)。
 彼が自覚するまで、まだまだ時間かかりそうですねえ。
 …これはひとつ、ジャミルかミリアムに発破をかけてもらうべきかも。

2006年08月09日 (水) 21時48分 (59)

記憶・06 飼い慣れた金魚 (TOS・ゼロス&ロイド)
長山ゆう | MAIL | URL
(テセアラ救いの塔ネタバレを含みます)


 リーガルの用事に付き合う形でアルタミラへ立ち寄り、早めに宿を取ったロイドたちは、午後をビーチで過ごす事になった。
 しかし。
「なぁゼロス、本当に行かないのか?」
 水着に着替えてなお問いかけるロイドへ、ベッドに横になったゼロスは笑って手を振る。
「言ったでしょーよ、アルタミラの名物は夜だってな。ま、確かにビーチのお姉様方にも惹かれるけどよ、今日はちょーっとばかしハードだったし、ここで休ませてもらうわ」
 普段なら率先してビーチに赴くであろうゼロスのこの言動は、ロイドならずとも意外に感じる所だろう。
 しかしアルタミラは昼と夜の二つの顔を持つ。
 夜の舞台となるカジノや劇場が持つ独特の雰囲気は実際ゼロスが好むものであったし、最近の強行軍で疲れが溜まっていたのも事実だ。
 健康的なロイド達は日頃の疲れを忘れてビーチで短い休息を楽しみ、夜にぐっすりと休むのだから、夜のアルタミラを楽しむゼロスとは休息と活動の時間がずれているだけの話である。
 その辺りを納得したのだろう、ロイドは肩を竦めた。
「ま、お前がそう言うならいいけどさ。じゃ留守番頼むな!」
「おう、任せとけ」
 一足先にロビーへ降りたジーニアスの後を追い、ロイドは部屋を出て行った。
 そんな彼の背を見送るゼロスの浮かべていた笑みが、苦笑にすり替わる。
 ロイドたちとの旅は、これでなかなかに面白かった。
 反面、彼らを欺いている罪悪感に似たものを感じているのも事実である。
 身勝手な話だ。
 ……最初は深入りするつもりなどなかった。
 共に旅をするとはいえ、さほど長い時間でもないと踏んでいたし、何より彼らは三つの秤の中で最も軽かったのだ。
 強大な力におもねるならばクルシス。
 隠し球を有効利用できるならばレネゲード。
 起死回生の策を信じるならば……。
 ゼロスの都合など露も知らず、ロイドたちはコレットを、そして世界を救う術を探して世界中を奔走していた。
 幾度挫けそうになっても、諦めずに。
 しかもロイドの考え方は、人間関係においても変わらないのである。
 一度受け入れた相手はどこまでも信じるのだ。
 ロイドが未だにクラトスを信じていると知ったとき、思わず失笑が洩れたのは当然だろう。
 人の心は弱いものだ。いくら言葉を重ねた所で、最後の最後で掌を返すことも有り得るというのに。
 暑苦しい熱血漢に呆れるばかりだった。冗談でからかって、さっさと終わらせようと考えたのはこの頃だったろうか。

 ――なのにいつの間にか、ロイドの信念を羨んでいる自分がいたのだ。

 一度は裏切られたクラトスを、ロイドは今でも心のどこかで信じている。
 再び裏切りにあったとしても、それでも尚ロイドは彼を信じられるのだろうか?
 おそらくはメンバー内で最も状況を把握しているであろうゼロスでさえ、クラトスを信頼するつもりなど毛頭ない。利害関係があればこそ、協力することができるのだから。
 ……だが、クラトスの行動は、ことロイドに関して利害などでは計れないものなのだ。
 ――ロイドの存在が、あの男までも動かしたと言うのか?
 無条件に相手を信じるロイドだからこそ、仲間は彼を裏切らない。信頼を置くに値すると思っているのだろう。
 最初から怪しげな存在であり、決して心を開かない人間へ、手を差し伸べる事などできるだろうか。
 居心地の良さを拒絶したのは彼自身。
 その機会を笑って見過ごしたのは、希望の後の絶望を知っているが故だ。
 いっそ今の立場も何もかもない状態で出会えたなら、心から信頼できる仲間に成り得ただろうか。
 ……これも、無駄な想像でしかないけれども。
 ロイドならば。本性を知った上で尚、自分を受け入れてくれるかもしれない。
 そういう期待を抱かせるのだ。
「随分と罪作りな話だぜ」
 我知らず皮肉げな笑みを口にはき、ゼロスは独りごちた。


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 雪見イベントは初回コレット、二回目クラトス、三回目ゼロスでした。
 尤も1週目はゼロスの好感度最下位だったので、展開にやや違和感があった反面、
 クラトスルートは衝撃的で…(泣)。(2週目好感度2位だったし)
 ゼロスルートをクリアして本当に良かったと思えました。
 間際まで揺れていた彼の心情が何とも言えなません…。

2006年07月31日 (月) 23時05分 (58)





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