(アクゼリュス後〜ユリアシティのネタバレを含みます)
アッシュの振るった剣に打ち倒され、衝撃に吹き飛ばされたルークが仰向けに倒れた。 「う、嘘だ……俺は……」 中空を見上げて呟く言葉に力はない。 剣を交えて受けた傷よりも、それ以前に知らされた事実によって相手が混乱の極致にある事は、容易に想像できた。 しかし、それが免罪符になるはずがない。 呆然と同じ言葉を繰り返すルークを忌々しそうに睨め付け、アッシュは吐き捨てた。 「俺だって認めたくねえよ!こんな屑が……、俺のレプリカなんてな!」 目の当たりにした事実への抑えきれない嫌悪感が込み上げる。 剣を握る手が震えた。 「こんな屑に俺の家族も居場所も全部奪われたなんて……情けなくて反吐が出る!」 勢いのままに剣を振り上げ、アッシュは言い放つ。 「死ね!」 怨嗟を凝縮した言葉と共に振り下ろされた一撃は、しかし相手の命を奪うものではなかった。 今更不抜けたレプリカを殺したところで意味はない。脅しのようなものだ。 だが。 鈍い金属音と共に、アッシュの剣が跳ね返された。 反射的に身構えた彼は、倒れたルークのすぐ傍らで抜き身の剣を手にした青年の姿を捉え、わずかに目を見開いた。 「ガイ……」 「俺はこいつの護衛剣士なんでね」 仲間たちは先へ進んで行ったはずだが、ガイだけが引き返して来たらしい。 ガイはアッシュに視線を固定したまま、僅かに立ち位置を移動した。 その足下に幾筋も流れる赤い髪。 しかし、ガイが背に庇った相手は既に意識を失っているようだった。 アッシュは自身と同じ顔を持つ存在を侮蔑の眼差しで一瞥すると、握ったままの剣を鞘に納める。 「……殺しはせん」 相手の行動を確認した上で、ガイもまた手にしていた剣を流れる動作で鞘に納めた。 「ああ。本気なら俺も容赦しないさ」 蒼い瞳が鋭い光を帯びたのは、一刹那。
──ガイはホドの出身だ。ホド戦争ではファブレ公爵に一族郎党皆殺しにされたそうだぞ?
その昔、ヴァンに知らされた事実がアッシュの頭を過ぎる。 鋭い眼光に、一瞬、アッシュは躊躇した。 ガイはそんな彼に背を向けると、ルークの傍らに膝をつく。 「ティア、ルークを休ませられる場所はあるかい?」 これまでのやりとりとは打って変わった柔らかい口調だった。むしろこちらが生来のものなのだろう。 それまで固唾を呑んで状況を見守っていた少女は、弾かれたように顔を上げた。 「え、ええ。私の家に連れて行きましょう。案内するわ」 「すまないな」 ガイはルークの脇を支えるようにして抱えると、ちらとアッシュへ視線を向けた。 「レプリカなんかに構ってる暇はないんだろう?」 温度の感じられないその声に、アッシュの瞳が細められる。 「……そうだな」 呑気に気を失ったレプリカを睨め付け、アッシュは先を行った者たちの後を追った。
幾分距離を感じていたものの、尊敬してやまなかった父親。 常に自分を慈しんでいた優しい母親。 使用人であり世話係として身近な存在だった少年。 この上なく大切で愛おしかった、幼馴染みの少女。 その昔、自分を取り囲んでいた世界は、一枚絵のようにアッシュの記憶に焼き付いている。 だが。 人好きのする笑顔で、控えめながらも常に自分の傍らにいた少年は、既に過去の人間だった。 ――いや、それすらも幻だ。 ヴァンからガイの出自を知らされた時、幼心にそう悟ったのだ。 記憶の連なりがアッシュの脳裏に一人の少女の姿を思い起こさせる。 幼いながらも国の行く末を憂い、共に力を合わせて国を変えようと誓い合った少女。 だが、あの約束も『ルーク』のものだ。 今の彼にそれを叶える術はない。 「……全てを捨てたというのに、未練がましい限りだな」 誰にも聞かれる事のない独白には、隠しきれない自嘲が込められていた。
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2週目ユリアシティでのアッシュVSルークを見た時、思いついた話です。 ここでガイがルークを庇ったのは書き手の願望なのですが、 ルークは直前に気を失っているので、こういう展開もありかな、と。
ベルケンドのガイの言動で、アッシュは現実を思い知らされた部分があるように思います。 反面、彼への想いが変わっていないナタリアの存在に救われていたのではないかと。
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