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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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記憶・02 プラスチックの指輪 (TOS・ゼロス&ロイド)
長山ゆう | MAIL | URL

 女の子が一人、急ぎ足で道を駆けていた。
 脇目もふらずに走っていた少女は、ゼロスの脇を通り抜けようとした時、不意に足をもつれさせた。
 小さな身体がゆらりと傾ぐ。
「おっと!」
 あわや転倒しそうになった少女を、咄嗟にロイドが抱き留めた。
 と、彼女の手から何かが転がり落ちる。
「ん?」
 目聡くそれに気づいたゼロスは、地面で太陽の光を反射していたものを拾い上げた。
 ロイドはその場にしゃがみこんで少女に怪我がないかを尋ねている。
 彼の質問に頷いた少女は、右手を見やると真っ青になった。
「落とし物だぜ、愛らしいお嬢ちゃん」
 すかさずゼロスが右手を差し出し、彼女の前で開いて見せた。
 手のひらにのっていたのは、おもちゃの指輪。
 少女の顔が輝いた。
 彼女は受け取った指輪を右手の薬指に嵌めると、大切そうに何度も撫でた。
 やがて少女は顔を上げ、満面の笑顔を浮かべて元気に礼を言う。
「神子様、お兄ちゃん、ありがとう!」
 少女が再び駆けてゆく。
「気をつけろよー!」
 ロイドの声に彼女は笑顔で大きく手を振った。
 やがて、その姿が遠くなってゆく。
 少女の姿が完全に見えなくなってから、ロイドはゼロスを振り仰いだ。
「あの子が指輪を落としたって、よく気がついたな」
 感心した様子の少年へゼロスはにやりと笑ってみせる。
「甘いぜロイド君。女の子への細やかな気配りは基本基本。それがわからないってんなら、まだまだ俺さまの足下にも及ばねぇなぁ」
「別にお前みたいになりたかねーよ」
 だっはっは、と笑うゼロスをロイドは呆れた体で見つめる。
 既に日常茶飯事のやりとりだ。
 ロイドもゼロスはこういう性格だと割り切っているのだろう、あっさりと話題を変えた。
「しっかし、いきなり真っ青になるんだもんな。具合悪くしたのかと思ったけど」
 よっぽど大切な指輪だったんだろうな、と微笑むロイドに、ゼロスが珍しく真面目な声を返す。
「そうだな。女の子にとって、指輪ってのは特別な意味を持つもんだ」
 女性に贈られる指輪は、願いの象徴だろう。
 幸せを願い、約束する証だ。
 ……昔、一度だけ。花で作ったことがあった。
 花束から小さな花を一輪抜いて、その場で茎を丸めて編み込んで。
 赤い髪の少女はゼロスが作った指輪を嵌めると、本当に嬉しそうな笑顔を見せたのである。
 ――遠い昔の思い出だ。
 ロイドがゼロスの顔をまじまじと見た。
「ゼロスも指輪をあげるような子がいるのか?」
 意外そうに、けれども真面目な声音で尋ねられ、ゼロスは思わず苦笑を返す。
「おいおいおい。話が飛びすぎでないの、ロイド君」
「いや、だってなんか実感こもってた感じがしてさ」
 刹那の間、ゼロスの表情が凪いだ。
 ロイドは騙されやすい根っからのお人好しだが、時折鋭い目で真実を見抜く事がある。
 それはおそらく、彼の天賦の才であり、意図的なものではない。
 しかし、だからこそ意表を突かれるのも事実だった。

 花で編んだ指輪は儚くて、すぐに枯れてしまったという。
 ……指輪を見繕ってやるという約束も、果たす機会を失った。

 いっそ憎しみだけを向けられれば、心も楽になったものを。

 凪ぎは一瞬の出来事である。
 ロイドが何事かを察する暇を与えず、ゼロスは軽い笑みで本心を覆い隠した。
「いやいや、俺さまはテセアラ中のハニーたちに愛されてるからな。特別に誰か一人ってわけにはいかねーのよ」
「あのなー……」
「だっはっはっ」
 脱力するロイドに笑い返すと、相手は深い溜息をついた。
「ま、いいけどな。おまえの女好きは今に始まったことじゃないし」
「冷たいなぁ、ハニー。心配ご無用、俺さまの一番はハニーだけさ」
「だーもー、その呼び方やめろよな!王様にまで覚えられちまっただろ!」
 ロイドがムキになって怒り出す。この流れになればいつもの通りである。
 反応のわかりやすい少年を楽しく宥めつつ、ゼロスは軽口を叩きながら先に立って歩き出した。


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 ゼロセレ、ゼロスサイドの話。
 ゼロスの会話運びって難しいです。精進せねば。
 うちのゼロスとセレスは互いに相手を大切に思っているのですが、過去の経緯で素直になれない…という関係です。
 頑ななセレスと、微妙に距離を置いて彼女に接するゼロス、という感じかな。

 ゼロスと知り合った当初のセレスは、母親の一件を知らなかったのではないでしょうか。
 なので、幼い頃はそれこそ仲睦まじい兄妹だったのでは、と思っています。
(だからこそ今の状況が切ないんですが…)

2006年04月19日 (水) 22時10分 (52)

ひっそり・06 海に流した思い出 (ロマサガMS・グレミリ)
長山ゆう | MAIL | URL
 リガウ島は不思議な場所だ、とミリアムは思う。
 現在は自治区として成り立っているが、以前はメルビル領だったと聞く。
 しかし、現在その名残はほとんど見られない。むしろリガウ島が古来より培ってきたという風土や文化が根強く残っているのだ。
 他の土地では見かけない片刃の細身の剣――カタナを知ったのもここだった。
 術士であるミリアムには縁のないものだが、相棒のグレイが愛用している武器である。そのため、自ずと知識を深める事になった。
 風雅や侘び寂びといったリガウ独特文化に触れる機会もあったが、こちらは生憎と難解であったためミリアムに理解する事は困難だった。しかし、そういうものに興味を覚えたのは事実である。
 理由は、無論……。
「グレイ、あれ、何?」
 夜の海に広がる多くの光に驚きつつ、ミリアムは傍らの青年に尋ねた。
 今宵彼女を外に誘ったのはグレイである。珍しいものが見られるという言葉を添えてだった。当然、これが何であるかは知っているだろう。
「灯籠流しだ」
 耳慣れぬ単語にミリアムは小首を傾げる。
「灯籠流し?」
 問答をしているうちに二人は今も光を生み出しつつある海辺へとたどり着いた。
 予想だにしなかった人の多さに、ミリアムは目を丸くする。
 遠目にもそこそこ人が集まっていることは見て取れたが、これほどの数とは思わなかったのだ。ひょっとすると、島の住人の大半が集っているのではないだろうか。
 人が集えば場は賑わう。喧噪はやがて何らかの騒ぎを引き起こすものだが、不思議とそういった様子は感じられなかった。むしろどこか静かな雰囲気が漂っている。
 ……まるで、夜の海に広がる数々の光に、心を奪われているかのように。
 波打ち際に佇む人々の中に、光──灯火を手にしている者が、幾人か存在した。
 各々、灯火を海に送り出そうとしている。
 遠目には小さな光にしか見えなかったが、今まさに海へ流されようとしている灯火の正体に気づき、ミリアムは小さく声を上げた。
「小舟なんだ、あれ……」
 灯火の源は小さな舟だった。
 舟の中心に蝋燭が立てられており、それを囲うように組まれた木枠の側面四面には紙が貼られている。おそらく風除けのための細工だろうが、紙を通して蝋燭の明かりに照らし出される小舟の姿は、間近から見てもどこか幻想的に映った。
 海辺から流された小舟が、ゆっくりと夜の海に揺られていく。
 彼方で揺れる光も多々あった。随分前に流されたものだろう。
「灯籠流しは別名を送り火とも言う。現世に戻った祖先の霊を再び彼岸――あの世に送り出す儀式だ」
 灯火の正体を知ったミリアムへ、グレイは改めて説明を加えた。
「霊を……送り出すって、どういうこと?」
 人はそれで終わりである。最後を迎えた地、あるいは祀られた墓所で国の行く末を見守る聖人の話や、この世に縛られた霊や魂が地上を彷徨うという話なども聞くが、概ねは者の国へと旅立つとされる。
 者が地上の縁者を見守るとしても、それはあくまで遠い世界の向こうからなのである。
 しかし、霊魂が者の国から戻ってくるという話は初耳だった。
「リガウではこの時期に先祖の霊が此岸――現世に戻り、再びあの世へ行くという言い伝えがある。また昨年から今年にかけて亡くなった者を送り出す意味も持っているな。……つまりは者を悼み先祖への感謝の意を表す儀式、と言えるか」
「ふーん……」
「現世に戻る霊を迎える時もやはり火を使うが、こちらは迎え火と言う」
「たくさんの魂が還っていくんだね。……不思議だな。あれが全部、もういない人たちだなんて」
 人は終わりだ。これまでそう思っていただけに、連綿と続く人の営みに根差す信仰が、ミリアムの目には新鮮に映る。
 そして、彼女にしては珍しく、この風習がすんなり理解できた。
 知識としての学ぶ歴史よりも、身近であるが故に実感を伴ったせいかもしれない。
 しかし、流される光が少しずつ遠ざかって行く様は、どこかもの悲しさを感じてしまう。
「あの灯火は者への手向けだが、同時に手向ける者がいるという証でもあるな」
 ミリアムの抱いた寂しさを察したかのように、グレイが言った。
 特に彼女に視線を向けたわけではないけれども。
 ミリアムはグレイを見上げ、再び海に目をやった。
 暗い海に広がる数多くの光。
 先程と同じ景色だったが、灯火の揺らめく色が、優しい暖かさを宿しているような気がした。
「あの明かりと同じ数だけ、見送る人がいるんだね」
 蝋燭の点された舟が水面に揺れる。幾多の小舟とそれを浮かび上がらせる灯火。
 喪った大切な人のため、また顔も知らぬ先祖のために。
 捧げられる、幾多の祈り……。
「ひとつひとつが人の生きた証、なのかな」
「そうだな」
 最後の灯火が消えるまで見送りたいと、そう思った。
 自分はこの地で生活を送っているわけではないけれど、厳かで暖かさを感じるこの儀式は、心を揺さぶる。心が揺さぶられると思えてならなかったのだ。
 ミリアムはしばらくの間、静かで荘厳な光景に見入っていた。
「また、見たいな」
 どれほどの時間が経ったろうか。
 呟くほどに微かな声で、かろうじてこれだけを口にしたミリアムへ、グレイが応じる。
「これから一緒に来ればいい。灯籠流しは毎年この時期に行われる」
 ミリアムがグレイの顔を見上げた。
 それまで彼女に向けられていたらしい灰色の瞳に迎えられ、幾度か瞬きを繰り返す。
 やがて、ミリアムはにっこりと笑った。
「……そっか。うん。そうだね。来年も、再来年も一緒に見に来よう」
「ああ」
 低い、けれども確かなグレイのいらえが耳に届き、ミリアムは幸せそうに微笑んだ。
 そんな彼女を見返すグレイの口元にも、小さな笑みが浮かんでいたのである。


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 リガウは昔の日本も一部モチーフにされているので、灯籠流しもあるかも!とちょっと強引に考えてみました(笑)。
 冥府への道中、三途の川を挟んで現世を「此岸」冥府側を「彼岸」と表記されていたので、一応それも組み込んでおります。
 グレイはリガウの民の血を引いているという設定なので(王族という話も聞いたような)この島の文化に詳しいでしょうし、懐かしさを感じているならば、やはりミリアムにもリガウの事を知って欲しいと考えるのでは…と。
 普段より少し良い雰囲気、かな?(笑)

2006年04月04日 (火) 20時57分 (51)

ひっそり・04 花は知っているの (TOS・セレス&トクナガ)
長山ゆう | MAIL | URL

 その日、セレスはお気に入りの紅茶を淹れ、窓の外をぼんやりと眺めていた。
 先程まで読んでいた本は栞を挟んでテーブルの片隅に載せてある。内容が頭に入ってこなくなったため、読書は断念してしまったのだ。
 カップに手を伸ばしたセレスは、テーブルに置かれた花瓶に目を留めた。
 花の生けられていない花瓶を見つめる少女の瞳が揺れる。
 ──期待と不安。
 セレスは席を立つと、本棚へ歩み寄った。
 背表紙を指でなぞり、厚みのある一冊の本を手に取る。
 頁を繰ると、色鮮やかな押し花が現れた。
 淡く色づいた青い花。はっきりした色味を残す花。やわらかな紫に染まる小さな花……。
 何十頁か毎に、様々な花の姿が蘇る。
 最後に開かれた頁に挟まれていた押し花を見つめ、セレスはそっと瞼を伏せた。
 ……どのくらいの間、そうしていただろうか。
 セレスはふと我に返った様子で顔を上げると、開いていた本を静かに閉じた。
 それを元あった場所に収め、椅子に戻る。
 テーブルの紅茶がすっかり冷めていたことに気づき、彼女は小さく溜息をつく。
 そこへ、ノックの音が響いた。
 扉の向こうから少女の名を呼ぶのは、修道院に来る以前から彼女に仕えるトクナガである。
「……どうぞ」
 一呼吸置いてから、セレスが応じる。
 失礼します、と言いつつ扉を開けたトクナガは、大きな花束を手に抱えていた。
 思わず席を立ったセレスの顔が綻んだ。
「メッセージカードが添えられておりますよ」
 隠しきれない喜びと安堵を見せる小さな主人へ、トクナガは花束とともに一枚のカードを手渡した。

 ――愛しい妹君へ、誕生日おめでとう。

「……お兄様は、本当にお優しいのね」
 ぽつりとセレスは呟いた。
「前に会いに来て下さった時だって、すぐに追い返してしまったのに。捨て置かれても当然のわたくしを、心に留め置いて下さって……あの時も」
 紫を帯びた淡い桃色の花にそっと手を触れ、セレスは言葉を紡いだ。
「あれほど酷い言葉を投げつけたのに、お見捨てにはならなかったわ。きっともうお顔を見ることはないと覚悟を決めていたのに、何度も訪ねていらっしゃって。……どうして」
 震える声を飲み込み、少女は潤んだ瞳を伏せて花束に顔を埋める。
 そんな彼女を椅子に掛けさせ、トクナガはテーブルに目をやった。
 冷め切った紅茶、閉じられた本、そして生ける花を待つ花瓶……。
「お茶を淹れて参ります、お嬢様」
 小さな主人が微かに頷くのを見届け、トクナガは部屋を出て行った。
 開け放った窓からそよ風が吹く。
 微かに揺れる花々によってそれを感じつつ、セレスはしばらく淡い芳香に身を委ねていた。
 緩やかに時間が流れてゆく。
 やがて彼女は顔を上げると、花束を包んでいた紙とリボンを丁寧に外し、淡い桃色に彩られた花々を生け始めた。
 可憐な色彩に室内が華やぐ。
 セレスの表情もまた、和らいだ。
 ほどなくして、紅茶を淹れたトクナガが戻ってきた。花瓶用の水差しも用意されている。
「よろしゅうございましたね、お嬢様。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、トクナガ」
 執事の祝いの言葉にセレスはそっと笑みを返した。
 そうして、彼女は生けられた花を見つめ、メッセージカードの文字をなぞる。

 ――ありがとうございます、お兄様……。


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 セレスのいじらしさが好きです。ドラマCDにはツボ突かれました…!
 現在クラトスルート攻略中。救いの塔のイベントには、ただ涙でした。
 お互い素直になれないけど、でもセレスは何よりゼロスの無事を願っているのに…!
 ゼロスは妹の本心に気づいている、と思っています。
 そして、セレスは彼が守りたかった唯一無二の存在ではないか、と…。

2006年03月31日 (金) 21時38分 (50)

ひっそり・03 入れっぱなしのラブレター (サモナイ3・ミスミ&アルディラ)
長山ゆう | MAIL | URL

 ミスミは行李の奥に仕舞い込んでいた書簡を、久方ぶりに手に取った。
 広げられた中に綴られているのは、雄々しく伸びやかな手跡。
 手跡は書き手の性格をそのまま映し出すという。実際、この書簡の差出人は豪快な人物だった。
 ミスミは懐かしさと共にその手跡の主を思い起こす。
 誰よりも強く、懐の深い、郷人の皆に愛された男。
 そして、ミスミが生涯を共に生きてゆくと誓った相手である。
 
 書簡に目を通していた彼女の耳に、客人の報せが届いた。
 ミスミの顔に笑顔が浮かぶ。
 ほどなくして、彼女の前に一人の女性が姿を見せた。
「こんにちは。お邪魔して構わないかしら?」
 部屋の主が書簡を手にしていた事に気づき、アルディラが問いかける。
 ミスミは微笑みを返すと、畳んだ書簡を文机に置いた。
「無論じゃ。よう来たの」
「お言葉に甘えてね」
 滅多に自身の治める集落を離れなかったアルディラだが、最近はミスミの招きに応じて風雷の郷を訪れる機会も増えている。
 また時折、狭間の領域へ顔を見せているとも聞く。
 こちらには義妹のファリエルがおり、霊体の彼女はマナの満ちる狭間の領域に身を置く事で自身のマナの消費を抑えられるため、二人が会う折は専らアルディラが出向く形となっていた。
 元来、アルディラは外出を拒む性格ではなかったが、集落ごとの交流が絶えていた頃は中央管理施設を出ることもほとんど無かったと聞く。
 こうして彼女が積極的に他集落と交流を深めるようになったのも、レックスの存在あればこそなのだろう。
 挨拶を交わす間に運ばれてきた茶を勧め、互いの近況を話しあった所で、二人の間に短い沈黙が降りた。
 ミスミの前に端座したアルディラの視線が、文机の書簡に向けられる。
 もの問いたげな様子を察し、ミスミもまた書簡を見やった。その瞳は穏やかな色をたたえている。
「昔の恋文じゃ」
 あら、とアルディラは身を乗り出した。
「リクトがそんな手紙を書いていたの?」
「ほほ。意外かの」
「正直なところ、意外だわ。リクトの性格なら告白は直接以外考えられないもの」
 驚きを隠せない様子のアルディラへ、ミスミは袖で口元を隠して悪戯っぽく笑う。
「無論、求婚の言葉は良人の口からしかといただいておる。これは夫婦になってから書いて下さったもの故な」
 一瞬の沈黙の後、アルディラは小さく息をついて肩をすくめた。
「でしょうね。あのリクトが手紙で告白なんて天地が逆転しても有り得ないもの。そもそも手紙を書く事が得意だったようにも見えなかったし……」
「そうじゃな、余程の事がなければ書簡など書かれなかった。それゆえ、これだけしか残っておらぬ」
 行李の中には他にも何通かの書簡が残っている。だが、それで全てだ。
 ミスミの表情を寂しさが過ぎったが、しかしアルディラが案じるより先に、それは払拭された。
「長らく仕舞い込んでおったが、お主らを見ているうちに懐かしゅうなってな」
 穏やかに微笑むミスミに、アルディラもまた小さな笑みを返す。
「……私も、あの頃のディスクを見るのがつらかったわ。映像を見返す事が出来るようになったのは、彼のおかげね」
 静かに話すアルディラを見ていると、彼女の今の幸せが伝わってくるようだった。
 同時に、ラトリクスを統べ、クノンと共にひっそり暮らしていたかつてのアルディラの姿が、随分昔の出来事のように思われる。
 穏やかな表情と柔らかな笑みに彩られるアルディラと、彼女を変えたレックスの仲睦まじい様子を見るうちに、ミスミはふと、今は亡き良人の形見を改めて収めておこうと思い立ったのである。
 そうして出てきたのが、昔の書簡だった。
 再び目を通すことなどできはしないと思っていたが、いざ書簡を開いてみると、過去の出来事が懐かしく思い出され、時を忘れてしまう程だった。
 キュウマに良人の死を告げられ、その事実を受け入れてから、幾度墓前で涙したことだろうか。
 気持ちの整理をつけるためには時間が必要だ。
 だが、時間だけでは解決しない問題もまた存在する。
 それを知った今だからこそ、こうして良人の書簡を懐かしく読み返すことができるようになったのだろう。
 スバルが無事元服の儀を済ませた事もまた、ミスミの心に安らぎを与えた。
 とはいえ、我が子のやんちゃさは相変わらずで、まだまだ目を離せないのだが。
「ミスミ。ちょっと青空教室へ行ってみない?」
 予想外のアルディラの提案に、ミスミは二重の意味で目を丸くした。
 彼女の口から外出に誘われた点もさることながら、我が子を想う心の内を見透かされたように感じたのである。
「今なら午後の授業が始まっている頃じゃないかしら。たまには保護者参観もいいと思うわ」
 アルディラの言葉は、レックスのそれを思わせた。
 ――こうして、人は少しずつ変わってゆくのだろう。
 ミスミ自身、あまり集落の外へは出ない性質だが、アルディラの誘いに気が乗った。
「そうじゃな。ひとつ皆を驚かせるとしようか」
 我が子の驚く顔を想像しつつ、ミスミは文机の書簡を元の行李に仕舞う。
 ほどなく鬼の御殿を出た二人は、連れ立って青空教室へと赴いたのである。


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 密かにお気に入りのミスミ様。この方とアルディラのやりとりも好きです。
 最後のお誘いは書き手にとってもちょっと意外でした(笑)。


2006年03月27日 (月) 21時07分 (49)

ひっそり・05 小指の約束 (ロマサガMS・ジャンクロ)
長山ゆう | MAIL | URL

――ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんの〜ます。

「ねぇ、ジャン。あの子たちは何をしているの?」
 メルビルの街並を歩いていたクローディアが、隣のジャンへ不思議そうに尋ねた。
 クローディアの視線の先をジャンの瞳が追う。
 そこにいたのは、指切りをしていた子どもたち。
 ああ、とジャンは頷いた。
「指切りですね」
「ゆびきり?」
 聞き慣れぬ言葉を反芻した彼女へ、ジャンは説明を加える。
「小指を絡めて約束をするんです。違えたら針を千本飲まなきゃいけないんですよ」
 クローディアは少し目を見開いた。あまり感情の変化を表に出さない彼女にしてみれば、随分と驚いているらしい。
「そうなの?物騒な事をしているのね」
「あ、いえそうではなくて……」
 説明を額面通り受け止められた事に気づき、ジャンは焦った。
「これはあくまで喩えの話なんです。そのくらい重い約束を交わすというか……うーん、ちょっと違うような」
 つい、指切りで唱える言葉をそのまま話してしまったが、これはあくまで比喩である。
「約束を必ず守るための取り決め、でもなくて。約束を守る固い誓い──いえ、ますます難しくなりますね」
 言葉を費やすほどに袋小路にはまりつつある事を実感したため、ジャンは一旦話を止めた。
 指切り。子供の頃、自分も何度か友達とした事がある。だが、説明となると……。
 ジャンはしばし考え込んだ。いくつか過去の思い出を回想する。
 適切な言葉を探しながら顔を上げたジャンは、澄んだ鳶色の瞳に迎えられ、一瞬思考が停止した。
 クローディアは彼の顔を見つめたまま、次の言葉を待っている。
 彼女の瞳に浮かぶのは、一欠片の疑いも持たない信頼の色。 
 自分の拙い説明にじっと耳を傾けてくれていたその姿を思い起こし、ジャンは得も言われぬ嬉しさを感じずにはいられなかった。
 改めて、視点を変えた説明を試みる。
「約束を破らないおまじないのようなものですね」
 クローディアの顔が少し明るくなった。理解する糸口を見つけたのだろう。
 相手に伝えやすい言葉が出た事に、ジャンは安堵する。
 続いての説明もすんなりと口をついた。
「針千本も喩えのひとつですよ。絶対守ってね、という気持ちの表れではないかと」
 クローディアは納得したらしい。
 そうして、再び子どもたちを見やった。
 しかし、もうそこに人影はない。どこかに行ってしまったのだろう。
 少しだけ寂しそうに見えた彼女の前に、ジャンは右手を差し出した。小指以外の指を軽く折ってみせる。
「ジャン?」
「私たちも指切りしましょうか、クローディアさん」
「え……」
 思わず彼女は目を丸くした。どうやら完全に意表を突く発言だったらしい。
 そんなクローディアへ、ジャンは優しく微笑む。
「何か、約束して欲しいことを言って下さい」
 しばしジャンの顔を見つめた後、クローディアがゆっくり手を伸ばした。
 二人の小指が絡められる。
「……ずっと、一緒にいてね」
「ええ、もちろんです。これからも、ご一緒させていただきますよ」
 ジャンは、既にクローディアへの忠誠を剣に誓っている。一人の騎士として、そしてジャンという一個の人間として。
 しかし、彼女が喜ぶのはそういった形式に則った誓いではない。
 こうした日常で交わされる、ささやかな約束なのだ。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます」
 互いに願いを込めた小さな声が合わさる。
 ──約束を破らない、おまじない。
 クローディアは指切りした小指を見つめていたが、やがてジャンの顔を見上げ、ふわりと笑った。


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 クローディアを支えられるジャンを書いてみたくなりました。
 二人の想いが通じ合った後の話。
 サルーインを打倒した後、二人でメルビルに帰ってきた頃でしょうか。
 ……うちのジャンが格好良いのって珍しい気がします(笑)。

2006年03月10日 (金) 21時50分 (48)





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