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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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ひっそり・02 落ち終った砂時計 (TOS・ロイド&ノイシュ)
長山ゆう | MAIL | URL

(シルヴァラント救いの塔ネタバレ)


 サイバックで捕らえられたリフィルとジーニアスを救出したロイド達は、その足でレアバードを回収すべくフウジ山へ向かった。
 距離から考えると途中のメルトキオで宿を取るべきだが、ゼロスを含めた全員がお尋ね者となってはそれもできない相談だ。
 出来うる限り急いだものの、結局、フウジ山の麓で日没を迎えてしまった一行は、山道口で野宿をすることとなったのである。
 寝付けそうになかったロイドが夜の見張りをする事となり、食事を終えた皆がそれぞれ眠りにつくと、辺りは静まり返った。
 たき火のはぜる音が耳に残る。
 ぼんやりと焚き火を見つめていたロイドは、冷たい風に身をすくませた。
 シルヴァラントに比べて温暖な気候のテセアラだが、それでも夜は冷える。
「っと!」
 ロイドは慌てて荷袋から毛布を出すと、隣に座っているコレットを毛布でくるむように包み込んだ。
 しかし、表情を失ったままの少女は全く反応を示さない。
 わかっていても、そうせずにはいられなかった。
「……絶対に、元に戻してみせるからな」
 呟く声に応えはない。
 無表情のコレットに普段の明るい笑顔が重なって見え、ロイドは心に疼くような痛みを感じた。
「くぅん」
 突然背後から頭を小突かれ、ロイドは振り返る。
 ノイシュだった。幼い頃からロイドと共に暮らしてきたノイシュもまた、彼らと共にテセアラへやってきたのである。些か強引な方法であったが。
 ロイドは右手を伸ばした。
「心配かけてごめんな、ノイシュ」
 気持ちよさげに目を細めるノイシュをなでつつ、ロイドはふと眉をしかめる。
 少年の不機嫌を察したのか、ノイシュが物問いたげな瞳を向けてきた。
「おまえ、なんであんな奴になついてたんだよ」
 ノイシュが小首を傾げた。しかし長い付き合いなのだ。ロイドの言葉は理解しているはずである。
「あいつはずっと俺たちを見張ってたんだろ。……敵だったのに、なんで」
 くーん、とノイシュは鼻を鳴らす。
 ――やり直す、か。やり直せるのならば、そうすればいい。
 ハイマでのクラトスの言葉が蘇った。
 あれはコレットの天使化を意味していたのだろう。
 世界再生の旅を続ける自分たちの愚かさを、内心嘲笑いながら。
 ロイドは空いている左手で拳を作った。
「畜生……」
 悔しさに声が震える。
 
 ――我が教え忘れずに、仲間と自分を守れよ。

 ロイドは目を見開いた。
 あれは、ハイマで最後の剣術指南を受けた後だった。
 師と呼ばれたクラトスが、弟子と認めたロイドに向けた言葉。
「くーん」
 ノイシュがロイドに顔を近づけ、頭を傾けた。彼の様子を気遣うように。
 その声に応じるように顔を上げたロイドだが、しかし意識は別の所にあった。
「……なんで、クラトスは俺を鍛えたんだ?」
 強くなりたいと思った。
 剣を扱うロイドにとって、腕を鍛えるならば、卓越した剣術を身につけていたクラトスに師事するのが最も近道だったのだ。
 旅を始めたばかりの頃は身を守るだけで精一杯だった。仲間を庇う余裕などあるはずもない。それが今こうして足手まといになる事もなく、仲間と協力して戦いをくぐり抜けて来られたのは、クラトスの剣術指南に寄る所が大きい。
 認めるのは悔しいが、事実である。
 クラトスにしてみれば、ロイドが多少力を付けたところで障害にはなりえない、という目算があったのだろうか。
 事実、ロイドはそれなりに力を付けたとはいえ、あの時のクラトスに対しては全く歯が立たなかったのだ。
 むしろその考え方ならば納得できる。

 ――おまえは後悔するな……。

 ロイドは軽く頭を振った。
 クラトスは自分たちを裏切った。それは曲げようのない事実なのだ。
 今、優先するべきは……。
 ロイドは隣に座る少女を振り向いた。
 澄んだ瞳には感情の片鱗すら見えない。
 ただ、彼女を見つめる少年の悲しげな表情だけが映っている。
 いつも笑顔を浮かべていたコレット。
 シルヴァラントを救うために全てを擲とうとした少女の瞳は、何の感情も映さない。
「……必ず、元に戻してみせる。だからもう少しだけ待っててくれ、コレット」
 返る声はない。ただ周囲の静けさが耳に付くだけだ。
 ロイドはコレットから視線を外して、そっと膝を抱えた。
 俯く少年へ寄り添う大きな影。
 静寂の中、微かに響く火のはぜる音を聞きながら、ロイドはじっと夜明けを待った。


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 タイトルを見た時、救いの塔のイベントを連想しました。
 コレットが心を取り戻すまで、ロイドはクラトスの件を冷静に考えられないかもしれませんが。
 ところでこのロイドの独り言、ゼロスだけは聞いているような気がします。
 ゼロスとロイドの話も書きたいな…。

2006年02月13日 (月) 20時52分 (47)

ひっそり・10 叶わぬ恋の切ない好意 (ロマサガMS・アイシャ&詩人)
長山ゆう | MAIL | URL

 夜明けを控え、闇が薄らぎはじめる頃。
 酒場の常連客も家路を辿り、早朝から仕事を持つ者が動き始めるまでの時間は、町全体が寝静まっているようだ。
 宿に泊まる客もまた深い眠りについている筈だが、おもむろに扉を開き、こっそりと抜け出す影があった。赤い髪の小柄な人影――アイシャである。
 アイシャは、まだ薄闇に覆われた町の中をそっと歩き出した。
 向かう先はアムト神殿。
 高台にあるこの神殿は、北エスタミルの中で一二を争う見晴らしの良い場所なのだ。
 色々考え事をするうちに目が冴えてしまったため、思い切って起き出したアイシャは、夜の明ける景色を眺めようと考えたのである。
 人気のない薄暗い道を歩く少女へ、背後から声が掛けられた。
「こんな時間にどうしましたか?」
「きゃあっ!!」
 突然の出来事に、アイシャは飛び上がって振り向く。
 だが、背後に佇んでいた人物の姿を認め、肩の力を抜いた。
「詩人さん……」
 アイシャの声に目を丸くした詩人は、苦笑を漏らした。
「これは失礼、驚かせてしまったみたいですね」
「び、びっくりした……誰もいないと思ってたから」
「つい先程仕事を終えた所ですよ。見慣れた人影が通りがかったので声を掛けたのですが。しかし、こんな時間に若い女性が一人歩きとは感心しませんね。どうしたんです?」
 詩人が姿を見せるパブがアムト神殿のすぐ近くにあった事を思い出し、アイシャは納得したのだが、相手は違っていたらしい。
 やや非難の交じった声音に、アイシャは悪戯を見咎められた子供のような気分を味わった。
 返答もどこか言い訳めいたものになる。
「久しぶりの宿だったせいか、かえって寝られなかったの。眠ろうとしたんだけど、目が冴えちゃったし、せっかくだから朝焼けを見ようかと思って……」
 詩人はアイシャをじっと見つめていたが、彼女の言葉が途切れると、一つ提案を持ちかけた。
「よろしければご一緒させて下さい」
 詩人の意外な発言に、再びアイシャは驚いた。宿に戻るよう説得されるとばかり思っていたのだ。
「でも、詩人さんはお仕事終わったばかりなんでしょ?」
「夜が明けるまでさほど時間はかかりませんよ。それに……」
 詩人の瞳が優しい光を帯びる。
「今の貴女を一人にしたくありませんからね」
 アイシャは一瞬、泣き出しそうな表情を浮かべると、慌てて下を向いた。
 ――この吟遊詩人は、他人の心の機微に聡いのだ。
 短い間ではあるが、共に旅をしていた時、彼はアイシャが落ち込むと音楽を奏でたり、巧みな話術で気持ちを引き立ててくれたのである。
 他の仲間のリクエストにも応えていたし、有益な情報をもたらした事もあったのだから、アイシャだけを特別扱いしたというわけではないだろうけれども。
 俯いたまま、アイシャは彼へ話しかける。
「……あのね、お願いがあるんだけど」
「何でしょう?」
「タラールの族長とローザリアの王様の恋の話を知ってたら、聴かせてほしいの」
 呟くほどの小さな声だったが、彼が聞き漏らすはずがない。
 詩人はそっと微笑んだ。
「お安い御用です」

 偶然に出会い、惹かれあった二つの魂。
 しかし、その魂の宿る身体は、それぞれに生涯を掛けて守るべきものがあった。
 決して重なることのない二つの道。
 けれども想いは自由に天翔け、語り継がれる……。

 朝焼けを迎えるアムト神殿の丘で、詩人は恋物語を歌い上げた。
 傍らには、膝を抱えて彼の楽に聴き入る少女の姿。
 詩人が最後の弦を爪弾き、静寂が訪れた。
 過去の世界から、ゆっくりと現実の世界に還ったアイシャは、地平線の彼方に見える太陽へと目を向けた。
「タラール族が人間じゃないから、昔の族長と国王の恋も実らなかったんだよね」
 朝焼けが広がる空を見つめながら、少女が呟く。
 詩人もまた少しずつ失われる夜空を見上げた。
「どうでしょう。むしろ双方が長という立場にあったがためではないかと思いますがね」
 次の言葉が少女の口をついたのは、聞き手が彼であるが故。
「だったらやっぱり無理だな。だってアルは殿下の傍でローザリアを守っていくはずだもん」
 寂しさの中に諦めを滲ませ、アイシャは空を仰ぎ見た。
 消えゆく星空は夜の名残。それがひどく儚く感じられる。
「ローザリアを守るというならば、ナイトハルト殿下の傍でなくとも為し得ることではありませんか?」
 予想外の言葉に、アイシャは詩人を振り向いた。
 普段と変わらぬ穏やかな表情で、彼は少女を見つめている。
 アイシャは小さく微笑んだ。
「……ううん、やっぱり駄目だよ、きっと。いいの。私、今ならわかる気がするんだ。同じ名前の族長の気持ちが」
「…………」
「私はタラール族の村を離れられないし、アルだって故郷のローザリアで生きていく人だから」
 一陣の風が吹いた。
 風に煽られ肩口に落ちてきた髪を、アイシャは軽く払った。髪飾りが軽い音を立てる。
「さて。アルベルトさんはどう思っているでしょうね?」
 何気ない口調で、さらりと詩人が問いかけた。
 少女の手が固まる。
 短い静寂を破ったのは、彼女だった。
 アイシャはその場で勢い良く振り返り、詩人に笑顔を見せる。
「お話、聴かせてくれてありがとう。そろそろ戻るね」 
「……お気をつけて」
「ありがと、詩人さん。またね!」
 大きく手を振ったアイシャは、詩人に背を向けると、足早に駆けていった。


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 アルアイ、アイシャ自覚編。旅の終わりが見え始めた頃、双方想い合っているけれども当人達は気づいていない状態です。
 彼女は次期族長ですし、出自を知れば尚のこと一族を離れはしないでしょう。
 ただ、これはあくまでアイシャ視点。

 補足になりますが、スカーブ山&地下神殿のみ、詩人さんがパーティにいる設定です。この間、アサシンギルドの噂を聞いたジャミルが一旦パーティ離脱しており、地下神殿クリア後合流してアサシンギルド、という流れ。
 ジャミルが抜けている間だけ詩人さんに協力してもらっているので、彼はアイシャと面識を持ちつつタラールの秘密を知っております。
2006年01月24日 (火) 20時40分 (46)

ひっそり・01 真夜中の公演 (TOS・コレット&クラトス)
長山ゆう | MAIL | URL

 焚き火を囲んでの食事を終え、見張りのクラトスを除いた全員が眠りに落ちた頃。
 コレットはそっと瞼を開き、夜空に広がる星々を眺めた。
 あれ以来、夜に眠りが訪れる気配はない。
 だが、横になっていれば、万一夜中にロイド達が目を覚ましても、夜通し起きている事に気づかれないだろう。
 しばらく星空を眺めていたコレットは、そっと頭を動かすと、ロイドの寝顔を伺ってみた。
 規則正しい寝息と共に、ぐっすり眠る彼の姿を目に留め、小さく微笑む。
 ──どんな夢を見てるのかな……。
 案外、夢も見ることなく熟睡しているのかもしれないけれども。
 再び夜空を見上げたコレットの耳に、ノイシュの鳴き声が届いた。
 視線を向けた先では、クラトスの傍らで膝を折ったノイシュが、彼に鼻筋を撫でられている。
 見知らぬ人には馴れないはずのノイシュだが、共に旅を始めてからはクラトスの隣に座を占める事が多かった。
 よほど、クラトスが気に入ったのだろうか。
 ロイドの幼馴染みであるジーニアスや自分さえ、普通に接してくれるまでは時間がかかったというのに。
 ……クラトスさんが良い人だって、見抜いたのかな?
 彼に甘えている様子のノイシュを見やりつつ、コレットは思う。
 ──眠れぬ夜が長くてつらいなら、星を数えるといい。
 二つ目の封印を解いた夜、彼女の様子を察したクラトスが、そう助言してくれた事を思い出す。
 不意に、クラトスがコレットへ視線を向けてきた。
 コレットは慌てて彼らから目を離し、再び空を見上げる。
 互いに目覚めていると理解しているのだが、言葉を交わす事はない。
 寝ずの番をしているクラトスの気を散らさせたくはなかったし、何より話し声でロイド達が目を覚ましてしまえば、元も子もない。
 我知らず、コレットはそっと溜息をついた。
 ……と。
 視界の片隅で、星が流れた。
「あ……」
 コレットは反射的に身を起こしたが、流れ星は既にその姿を消してしまっていた。
 目を凝らして空を見たが、軌跡も残っていない。
 星が流れる直前の位置を探したが、よくわからなかった。
 一瞬の出来事だったせいか、流れ星を見たというより見逃したように感じられ、ひどく残念な気持ちを抱いてしまう。
 毛布を引き寄せ、再び横になろうとしたコレットへ、低い声が掛けられた。
「もう少し、空を見上げているといい」
 驚いて振り向く少女の目に、夜空を見上げる男の姿が映る。
 コレットも顔を上げて、星空を見た。
「あ……!」
 星が流れた。
 ひとつ。
 ふたつ、みっつ。よっつ、いつつ、むっつ……。
 見る間に流れ星の数が増える。
 コレットは驚きのあまり声を上げるのも忘れてしまった。
「流星群だ。珍しいな」
 クラトスの声に我に返ったコレットは、弾んだ声と共に振り返る。
「綺麗……ロイド、流れ星が」
 呼びかけは、途中でかき消えた。
 コレットの視線の先で、ロイドは熟睡している。
 ロイドは普段から眠りが深い。こういう場合、ちょっとやそっとでは目覚めないだろう。
 押し黙った少女へ、クラトスが声を掛ける。
「起こさないのか?」
 コレットは反射的に笑顔をみせた。
「はい。ぐっすり眠ってるのに、邪魔しちゃ悪いから……」
「そうか」
 短く応じると、クラトスは口を閉ざした。
 コレットはロイドにそっと微笑みかけ、再び夜空を見上げる。
 そうして、こっそりと感嘆の声を上げた。
 一度に見られる流れる星の数は、三つから五つほどである。しかし一つが消える頃に新たな星が流れるので、絶え間がない。
 明日、流星群を見たと言えば、ロイドはずるいとむくれてしまうだろうか。
 ……でも、その後で。
 きっと、心配するだろう。ちゃんと眠ったのか、と。
 ──だから、これは秘密。
 天使になるまで、私の胸にしまっておくの。

 ──ごめんね、ロイド。


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 コレット視点のクラトス話を書くつもりだったんですが、気がついたらロイコレ話になってました。あれ?
 コレットのエピソードはいじらしくて、切ないです。
 だからこそ彼女を守ろうと頑張るロイドを、全力で応援したくなりますね。


2006年01月19日 (木) 22時22分 (45)

ひっそり・09 無名星座の光 (ロマサガMS・グレミリ+ガラハド)
長山ゆう | MAIL | URL


 夜空に煌めく無数の星々を見上げ、ミリアムはこっそりと感嘆の声を上げた。
 既に深い眠りに落ちている仲間を気遣っているのだろう、あくまでひっそりとした声だ。
「綺麗な星空だねー」
 しかし、星空を見上げるグレイの頭にまず浮かぶのは……。
「ふむ、方角は間違っていないようだな」
「……あのさ、グレイ。もうちょっと情緒的にものを見てもいいんじゃない?」
「方角確認は必要最低限の知識だろう。これを怠ればただでは済まんぞ」
 興醒めた顔で文句を付けるミリアムへ、武器の手入れを始めたグレイが淡々と言葉を返す。
 不意に、ミリアムはくすくすと笑い出した。
「何だ?」
 いつもなら更に文句を言いつのるであろう相手の意外な様子に、ふと、グレイは問いかける。
「昔の事を思い出したよ」
「昔?」
「一緒に旅を始めたばっかりの頃。同じような話をして、口喧嘩になったじゃん」
「ああ、そんな事もあったな」
 グレイは旅を始めて間もない頃にガラハドと知り合い、以来二人で世界を回っていたのだが、そこへ突然現れたのがミリアムだった。
 北エスタミルで偶然彼女の術を見る機会があり、その折に仲間になりたいと宣言されたのである。
 ガラハドは躊躇したが、グレイは即座に了承した。
 術士の存在は大きな戦力になる。彼女の腕が立つ事は既にわかっていたのだから、ある意味渡りに船だった。
 しかし、問題は別の所に潜んでいたのである。
 初めての野営で星空を見上げていたミリアムが、グレイの言葉に食ってかかったのだ。
 正直面食らった。自身の発言に間違いはない。ミリアムの言うところの『情緒的』な物言いの必要性が感じられなかった。
 結局、言い合いが口喧嘩に発展し、ガラハドが仲裁に入るまで、二人の意見は平行線のままだったのである。
「あの時、グレイってつまんない男だと思ったんだよね、実は」
「ほう?」
「でもさ、あたいの実力を初めて認めてくれたのもグレイだったから、こんなことで別れちゃうなんて勿体ないってのはわかってたんだ」
 何とか場を取り持ったガラハドは、ふてくされて眠ってしまったミリアムにやや呆れ顔だった。しかし、逆に安心していた節もあったのだ。
 短気な娘だ、今後喧嘩を二つ三つ起こせばすぐに離れて行くだろう、と。
 ガラハドは女性が危険な旅に同行することにあまり気が乗らなかったらしい。当時は彼もまた旅を始めたばかりで、女性に対して保守的な考え方を持っていたのだ。
 しかし、最初の口喧嘩によってミリアムの負けん気の強さを感じたグレイは、むしろ彼女とは長い付き合いになるかもしれないと思ったのである。
 蓋を開けてみると、グレイの予想が当たっていたわけだが。
「それに、しばらく一緒にいたら、気づいたからさ」
「何をだ?」
 焚き火を見つめていたミリアムが声に応じるように振り向くと、にっこりと笑った。
「グレイが本当は色々喋ってるんだって事」
 武器の手入れをしていたグレイの手が止まった。
 そうして、ミリアムの顔を見やる。
 ――最初は眉間に皺を寄せてばかりだった。
 元々言葉がきついので、喋る時は容赦がない。
 共に旅をしてから初めて笑顔を見せたのが、星空を見上げたあの時だった。
 ……次は、いつだったろうか。
 気がつくと、ミリアムはいつも笑顔を見せるようになっていた。
 そうして、いつしかグレイは彼女を良く笑う娘だと思っていたのである。
 最初の頃の顰めっ面など、忘れてしまう程に。
 ミリアムの笑顔につられたかのように、グレイはわずかに口元を緩めた。
 微笑とも苦笑ともつかないものになってしまったのは、仕方がないだろう。
「綺麗な星空だよねー」
 再び空を仰ぎ見たミリアムの視線を追いかけ、グレイも星空を見上げた。
「……そうだな」
 小声ではあったものの、相手の耳にはしっかり届いていたらしい。
 ミリアムは嬉しそうな顔でグレイを振り返った。


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 現実主義のグレイとロマンチストのミリアム。
 これはこれでバランスが取れているのではないかと(笑)。
 そしてミリアムは直感的で感情的。
 だからこそ波長が合えば相手の心の機微もわかるように思います。
 …しかし、ガラハドは苦労しただろうなぁ…(苦笑)。
2006年01月12日 (木) 21時05分 (44)

ひっそり・07 口パク告白 (ロマサガMS・ジャンクロ&グレミリ&ジャミル)
長山ゆう | MAIL | URL

 夕日が地平の向こうへ沈んだ頃、町外れの木立で向かい合って佇む二つの影があった。
 傍目にも緊張していることが見て取れる青年と、黙した中にも気品を感じさせる美しい娘。
 夕闇の木々の中、その場にいるのは二人だけである。
 月明かりに照らされた恋人達の姿は、遠目にも美しく……。

「理性が負けて手を出すに100金」
「せいぜい手を握る程度だな。150金」
「っていうか、何であたいたちがこんな所で出歯亀してんのさ?」
 木立の二人を物陰から見つめられる絶景ポイントで、三つの影がひそやかに囁きあう。
「なかなか進展しない二人を焚き付け……もとい二人の恋愛の成就を願ってだな、こうして舞台を整えた訳だ。結果を見届けるのも重要だぜ?」
「で、あわよくば小銭を稼ごうってワケ?」
「それはそれ、これはこれ。このシチュエーションは美味すぎるって」

 青年は緊張に肩を強張らせながら幾度か口を開いたものの、声を発するには至らなかった。
 彼の前に立つ娘は、ただ静かに待っている。
 不意に、青年は勢いをつけて頭を下げた。そのまま数歩、距離を置く。
 娘は目を伏せた。その表情が寂しさに沈む。
 しかし、彼女は小さく息をつくと、力無く項垂れた青年に何事かを話しかた。
 顔を上げた彼へそっと微笑みかける。
 そんな彼女の姿に、青年が口元を引き結ぶ。
 一呼吸の後、彼はうやうやしく手を差し出した。
 優しい笑みに励まされ、娘がそっと彼の手を取る。
 頬を染める彼女を愛おしげに見つめ、青年は歩き出す。娘の歩調に合わせて、ゆっくりと。
 やがて二人は木立の向こうへと姿を消した。
 
「勝負あったな」
 二人が立ち去ったのを見届けた上で、グレイが結果を述べた。
「ぐ……」
「お前はジャンの性格をわかっていない。あの堅物実直生真面目男が、職務を放って恋愛に走るわけがないだろう」
 悔しげに唸るジャミルの耳にグレイの淡々とした声が届く。
 真実を突いているだけに、その言葉が腹立たしく感じられるのは仕方がない。
「まぁ、こっちだって似たり寄ったりだしなぁ」
 ポケットから出した小銭を手のひらで転がしつつ、ジャミルが嘯く。
 グレイはちらと彼に視線を走らせた。
「ミリアム」
「何、グレ」
 返事をする間もあらばこそ。
 グレイは名前を呼ばれて振り向く彼女の顎を捉え、口づけた。
 ジャミルの手から小銭が転がり落ちる。
「い、いきなり何すんのさ!」
 夜目にもわかるほど真っ赤になったミリアムが、解放された途端に抗議の声を上げた。
「嫌か?」
「……そうじゃないけど、だから、人目を考えなって!」
「ああ、そうだな」
 珍しく殊勝に頷くグレイだが、ジャミルに向けた視線は笑みを含んでいる。
 ミリアムの派手な声よりも、その視線で我に返ったジャミルは、鼻を鳴らして足元の草むらを見おろした。
 落とした小銭は月明かりを反射している。
「ちぇ、久しぶりにエスタミルへ戻りてぇなぁ」
 ジャミルは身をかがめて小銭を拾いあげると、背中越しに放り投げた。
 と。
「ずいぶん楽しそうね、みんな?」
 涼やかな声に、一同が凍りついた。 
 恐る恐る振り向く三人の目に、何も知らなければ思わず見惚れてしまうであろう美しい微笑みが映る。
 傍らで恥ずかしさのあまり硬直しているジャンもいたが、誰の視界にも入っていなかった。否、認識する余裕がなかったと言うべきか。
「ご、ごめんよ、クローディア。あ、あのさ……」
 震え声ながらも何とか取り繕うとしたミリアムに、冷静な声が飛ぶ。
「無駄だ、ミリアム」
「誰のせいだよ!」
 いきりたつミリアムへ応える代わりに、グレイは彼女の背に右手を添えると、左手で両膝を持ち上げた。
「ちょっ……!」
「この方が早い。逃げるぞ」
 直後、グレイはミリアムを抱き上げたまま駆け出した。 
「わわわ悪いーっ!」
 一足先に逃げ出したジャミルは、遠くから詫びていたが、その声はむしろ悲鳴に近い。
 クローディアはおもむろに握りしめていた弓を構えた。
 背負った矢筒から磨き込まれた矢をつがえる。
「ミリオンダラー」
 逃げる三人組に向けられた必殺の矢が、夜を切り裂いた。

 
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 ちょっと悪ノリしてみました(笑)。
 このタイトルならジャンクロかなと思ったんですが、口パクなら告白できないわけで…。
 頑張れジャン!
 普段のグレミリは信頼関係が表に出るので、今回はなかなか新鮮でした。
 コメディのグレイとクローディアは黒い性格になる模様。

2005年12月15日 (木) 22時51分 (43)





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