(シルヴァラント救いの塔ネタバレ)
サイバックで捕らえられたリフィルとジーニアスを救出したロイド達は、その足でレアバードを回収すべくフウジ山へ向かった。 距離から考えると途中のメルトキオで宿を取るべきだが、ゼロスを含めた全員がお尋ね者となってはそれもできない相談だ。 出来うる限り急いだものの、結局、フウジ山の麓で日没を迎えてしまった一行は、山道口で野宿をすることとなったのである。 寝付けそうになかったロイドが夜の見張りをする事となり、食事を終えた皆がそれぞれ眠りにつくと、辺りは静まり返った。 たき火のはぜる音が耳に残る。 ぼんやりと焚き火を見つめていたロイドは、冷たい風に身をすくませた。 シルヴァラントに比べて温暖な気候のテセアラだが、それでも夜は冷える。 「っと!」 ロイドは慌てて荷袋から毛布を出すと、隣に座っているコレットを毛布でくるむように包み込んだ。 しかし、表情を失ったままの少女は全く反応を示さない。 わかっていても、そうせずにはいられなかった。 「……絶対に、元に戻してみせるからな」 呟く声に応えはない。 無表情のコレットに普段の明るい笑顔が重なって見え、ロイドは心に疼くような痛みを感じた。 「くぅん」 突然背後から頭を小突かれ、ロイドは振り返る。 ノイシュだった。幼い頃からロイドと共に暮らしてきたノイシュもまた、彼らと共にテセアラへやってきたのである。些か強引な方法であったが。 ロイドは右手を伸ばした。 「心配かけてごめんな、ノイシュ」 気持ちよさげに目を細めるノイシュをなでつつ、ロイドはふと眉をしかめる。 少年の不機嫌を察したのか、ノイシュが物問いたげな瞳を向けてきた。 「おまえ、なんであんな奴になついてたんだよ」 ノイシュが小首を傾げた。しかし長い付き合いなのだ。ロイドの言葉は理解しているはずである。 「あいつはずっと俺たちを見張ってたんだろ。……敵だったのに、なんで」 くーん、とノイシュは鼻を鳴らす。 ――やり直す、か。やり直せるのならば、そうすればいい。 ハイマでのクラトスの言葉が蘇った。 あれはコレットの天使化を意味していたのだろう。 世界再生の旅を続ける自分たちの愚かさを、内心嘲笑いながら。 ロイドは空いている左手で拳を作った。 「畜生……」 悔しさに声が震える。 ――我が教え忘れずに、仲間と自分を守れよ。
ロイドは目を見開いた。 あれは、ハイマで最後の剣術指南を受けた後だった。 師と呼ばれたクラトスが、弟子と認めたロイドに向けた言葉。 「くーん」 ノイシュがロイドに顔を近づけ、頭を傾けた。彼の様子を気遣うように。 その声に応じるように顔を上げたロイドだが、しかし意識は別の所にあった。 「……なんで、クラトスは俺を鍛えたんだ?」 強くなりたいと思った。 剣を扱うロイドにとって、腕を鍛えるならば、卓越した剣術を身につけていたクラトスに師事するのが最も近道だったのだ。 旅を始めたばかりの頃は身を守るだけで精一杯だった。仲間を庇う余裕などあるはずもない。それが今こうして足手まといになる事もなく、仲間と協力して戦いをくぐり抜けて来られたのは、クラトスの剣術指南に寄る所が大きい。 認めるのは悔しいが、事実である。 クラトスにしてみれば、ロイドが多少力を付けたところで障害にはなりえない、という目算があったのだろうか。 事実、ロイドはそれなりに力を付けたとはいえ、あの時のクラトスに対しては全く歯が立たなかったのだ。 むしろその考え方ならば納得できる。
――おまえは後悔するな……。
ロイドは軽く頭を振った。 クラトスは自分たちを裏切った。それは曲げようのない事実なのだ。 今、優先するべきは……。 ロイドは隣に座る少女を振り向いた。 澄んだ瞳には感情の片鱗すら見えない。 ただ、彼女を見つめる少年の悲しげな表情だけが映っている。 いつも笑顔を浮かべていたコレット。 シルヴァラントを救うために全てを擲とうとした少女の瞳は、何の感情も映さない。 「……必ず、元に戻してみせる。だからもう少しだけ待っててくれ、コレット」 返る声はない。ただ周囲の静けさが耳に付くだけだ。 ロイドはコレットから視線を外して、そっと膝を抱えた。 俯く少年へ寄り添う大きな影。 静寂の中、微かに響く火のはぜる音を聞きながら、ロイドはじっと夜明けを待った。
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タイトルを見た時、救いの塔のイベントを連想しました。 コレットが心を取り戻すまで、ロイドはクラトスの件を冷静に考えられないかもしれませんが。 ところでこのロイドの独り言、ゼロスだけは聞いているような気がします。 ゼロスとロイドの話も書きたいな…。
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