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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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ひっそり・08 体育館裏の待ち人 (サモナイ3・アリーゼ&レックス)
長山ゆう | MAIL | URL

 卒業式を無事済ませ、級友と別れの挨拶を交わした後、アリーゼは単身校舎を離れ、校庭内を駆け抜けた。
 目指すは体育館。屋内用の実技施設である。
 ――卒業式が終わったら、そこで待ってるから。
 今朝になって突然姿を見せた彼女の『先生』は、簡単な約束だけを交わして、すぐにいなくなってしまった。
 最も今日は学校の一大行事でもある卒業式当日、生徒の身内でも式典が終了するまでは校舎への立ち入りは御法度なのだ。彼の行動は当然といえば当然だった。
 だが、会えると思っていなかった相手の訪問に、アリーゼはすっかり舞い上がってしまったのである。
 式典の最中、失態を演じなかった自分を誉めたい気分だった。
 目的の建物に到着すると、アリーゼは裏手へ回り込んだ。
 人気のない場所へ佇む、一人の青年の姿。
「先生!」
 アリーゼの声に彼が振り向いた。途端に破顔する。
「やぁ、アリーゼ。卒業おめでとう」
「ありがとうございます。……って、先生!来て下さるなら、どうして事前に連絡してくれなかったんですか!」
 会えた喜びや懐かしさより、文句が先に出てしまったのは仕方ないだろう。
 事前に約束していたなら、色々と準備もできたのだ。
 何より先生に見守られて迎える式に臨む心構えだってできたのに。
「ごめんごめん。式に間に合うか微妙だったからさ、ぬか喜びさせるのも悪いかなと思って」
 苦笑を浮かべて詫びるレックスの姿に、アリーゼは得も言われぬ懐かしさがこみ上げてくるのを抑えられなかった。
 全然、変わっていないのだ。
 幼い頃から人見知りの激しかったアリーゼにとって、素直に文句を言える気安い間柄の人間は、そう多くない。
 嬉しくて、でも少しだけ寂しくて……。
 レックスは改めてアリーゼに微笑んだ。
「すっかり見違えたね。女の子って変わっちゃうんだなぁ」
 アリーゼはくすりと笑う。
「学校に入ってから何年経ったと思ってるんですか?」
「うん、そうだね。でも、ついこの間入学したばかりっていう感じが残っていてさ」
「子供はすぐに大きくなるんですよ」
 すんなりとこんな言葉を口にした自分に驚いた。レックスも同じ気持ちだったのか、目を丸くしている。
 多分、彼の中でのアリーゼは、未だ小さな女の子のままだったのだろう。
 ――島にいた頃は、子供である自分が不甲斐なくて、歯がゆくて仕方なかった。
 だが、どれほど一人前になりたいと望んでも、時間という壁は越えられないのだと気づいた時、今の自分に出来る精一杯の事をするしかない、と思ったのである。
 その心構えは学校に入ってからも活かされた。
 いや、むしろ島での経験が、学校生活をより充実したものに変えてくれたのだ。
 レックスが眩しそうに教え子である少女を見つめる。
「本当に……見違えたよ、アリーゼ」
「ありがとうございます」
 彼の言葉が嬉しい。常に自分に進む道を示してくれた恩師が認めてくれたという事実が、アリーゼには何より誇らしかった。
 ここで、ふと、レックスが問いかける。
「だけど、本当にいいのかい?」
「何がですか?」
「これから島へ来る事だよ」
 既にアリーゼは文書で卒業後は島で教職に就きたい旨を打診しており、これについては了承の返答を受け取っていた。
 だが、一方でレックスの危惧も頷ける事だった。
 名門マルティーニ家の一人娘が、人知れぬ島へ行きたいなどと言い出したとしても、周囲から見れば酔狂な戯れ言と受け取られかねない話なのだ。
 だからこそ、アリーゼは休暇の度に父親に将来の夢を語り、その実現に向けて幾度も説得を試みたのである。
 無論、最初は相手にされなかった。当然といえば当然だろう。
 しかし、アリーゼのひたむきな姿勢によって、少しずつ話を聞いて貰えるようになり、遂には父親を説き伏せることに成功したのである。
「もちろんです。私、学校で勉強しながら将来のことを色々考えました。その時、いつも頭に浮かぶのは島のことだったんですよ。私も島で先生になりたいって思ったんです」
「そっか……」
 感慨深い様子で微笑むレックスの表情は温かい。
 不意に、アリーゼは背筋を伸ばして彼に向き直った。
 驚くレックスへ、深々と頭を下げる。
「これからよろしくお願いします、レックス先生」
 レックスは驚いた様子だったが、すぐに表情を引き締めると、こちらも一礼して応えた。
「こちらこそよろしく、アリーゼ」
「まだまだ色々教えて下さいね、先生」
「ああ。一緒に学んで行こう。僕も毎日が勉強だからね」
「はい!」
 これから始まる新しい生活を思いつつ、アリーゼは元気良く返事をした。


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 アリーゼとレックス。二人だけの話は初めてですね。
 番外編で生徒は島で教師になっているという設定なので、こういう話があるのかな、と思っています。
 スバルやパナシェと再会したら、また一騒動あるのかも(笑)。

2005年12月08日 (木) 20時24分 (42)

儚く輝く・08 日傘の下 (ロマサガMS・詩人&グレイ一行)
長山ゆう | MAIL | URL

 吟遊詩人の爪弾く楽器の音は、道行く人々の足を止める。
 ある時は勇壮な歌を、またある時は可憐な歌を、さまざまな伝説に彩りを添えながら、詩人は物語を紡ぎ出す。
 伝承は夢物語。なのにそれらは詩人の手に掛かると、つい先程起こった出来事のように語られるのだ。
「まるで本当に見てきたみたいだね」
 ウソの村で詩人の弾き語りに耳を傾けていた女性が、感心した様子で笑った。
 淡い金の髪に華やかな印象を持つ、勝ち気そうな娘である。
「うん、とっても不思議。どうしてそんなに詳しい話がわかるの?」
 彼女と同席している少女も、大きな瞳に興味を湛え、歌い終わった詩人を見ていた。
 こちらは草原の民タラール族の少女である。色彩鮮やかな民族衣装と結い上げられた赤い髪はタラール族の特徴だ。しかし彼らは外界との交流を好まない遊牧民族なので、町でその姿を見ることはまれである。
 詩人は二人の女性に顔を向け、穏やかな笑みを口元にはいた。
「伝承は姿を変え形を変えてゆきますが、集めてゆくと自ずとひとつの話に繋がるものなのですよ」
「ふーん、そうなんだ……」
 タラールの少女は感嘆とも感心ともつかない様子で、詩人の言葉を聞いている。
「けどさ、シルバーの具体的な話なんかはわからないんだろ?」
 椅子の足をきしませながら、別の声が割って入った。
 首の後ろで両手を組み、上体を反らせながら問いかける青年へ、詩人はつと視線を向ける。
 女性二人の隣のテーブルに陣取っている一人だった。悪戯少年が長じた風情の青年である。傾けた椅子に背を預ける細身の身体は安定しており、斜めに被った帽子が動く様子もない。バランス感覚が優れているのだろう。行儀の悪さはともかくとして。
「さっきの歌はなかなか胸の空く活劇だったけどさ、財宝がどうのって話じゃなかったぜ」
 不満そうな青年に、詩人はつい笑みを誘われてしまう。
 他に客のいないパブ代わりのテントで、詩人は彼らの求めに応じて伝承の弾き語りを披露していたのだ。
「ええ、残念ながら私が伝え聞いているのは、シルバーがメルビルの皇帝と渡り合い、風のオパールを手に入れたという逸話くらいですね」
「具体的なことがわかっていれば、既にシルバーの宝は人手に渡っているでしょう」
「そりゃまぁ、なぁ……」
 同じテーブルの、一見して品の良い少年に的確な所を突かれ、青年は残念そうに口ごもる。
 女性陣のテーブルに笑いがさざめいた。と。
「シルバーが存在していた事は事実だ。そして財宝が眠っているという噂を裏付ける証拠もある。それだけで充分だろう」
 結論を出したのは、旅慣れた様子の銀の髪を持つ青年だった。隙のない身のこなしから、腕が立つであろう事が見て取れる。
 そうして彼は皆の意見を聞きながら、今後の方針を固め始めた。
 詩人はこの一行の様子を見守りながら、楽を奏でている。
 彼らの会話を妨げぬ、けれども心を落ちつかせる調べだ。
 やがて、リーダー格の青年が立ち上がった事で、一行はそれぞれ席を立つと移動を開始した。
「良い音色だった」
 言いつつ、彼は詩人のテーブルに心付けを置く。
 口々に詩人の腕を誉めながら、四人の若者達はリーダーの後に続いてテントを出て行った。
 詩人は演奏の手を休め、彼らの後ろ姿を見送る。
 その姿が完全に消えてしまうと、再び彼は楽器を爪弾き始めた。


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 日傘でウソのテントを連想しまして、詩人さんの話を書いてみました。
 グレイ達の姿は、傍目にはこんな風に見えるかな、と。
(念のため、パーティメンバーはグレミリ&アルアイ&ジャミルです)
 今回は入りませんでしたが、うちの詩人さんは内心アイシャを深く慈しんでいるので、いずれそういう話も書ければいいなと思っています。

2005年11月18日 (金) 20時54分 (41)

儚く輝く・06 空に放った手紙 (ロマサガMS・アルアイ)
長山ゆう | MAIL | URL


 夜の帳が降りた森の中、焚き火を囲んで眠る仲間達を見守りつつ、アルベルトは周囲への警戒を続けていた。
 野宿の際、夜の見張りは三交代と決められている。
 まずグレイ、継いでジャミル、そしてアルベルトは朝方に掛けてを担当していた。
 イスマス城ではよく寝坊をしていたものだったが、長い旅を続けるうちにアルベルトは自分が朝に強いらしいと気づいたのである。夜更かしした翌日よりも、未明から行動する方が身体が楽だった。
 グレイやジャミルは夜型なので、三交代の見張りは互いに好都合だったのだ。
 あと一刻もすれば東の空が白み始めるだろう。
 アルベルトの耳が、微かな異音を捉えた。
 しかしすぐにその正体を悟った彼は、優しい声音でそっと尋ねる。
「眠れないのかい、アイシャ?」
 名を呼ばれた少女が目を開く。そして、隣に座る相手を見上げ、ゆっくり身を起こした。
「うん……」
 アイシャは焚き火に近づいて腰を下ろすと、膝を引き寄せた。
 下ろし髪のせいか、彼女は普段よりもひどく静かに見える。
 何と声を掛けようか迷うアルベルトに、アイシャがぽつりと言葉を漏らした。
「アル、お願いがあるの」
「何だい?」
 躊躇いがちな彼女へ、なるべく明るい調子でアルベルトは聞き返す。
「文字を教えてくれない?」
 予想外の頼み事に彼の返答は少しばかり遅れた。
「……ローザリアの文字、だよね?」
 しかしタラール族は独自の文化を持つという。文字もその例外ではない。
 もっとも、見識を広めるならば読書は必須だろう。マルディアスで広く使われる文字を覚えなければ、書物を読むことは出来ない。
 念のために確認すると、アイシャはひとつ頷いた。
「手紙を、書きたいの。おじいちゃんに」
 消失したタラール族の安否は未だ不明である。手がかりが全く残されていないのだ。
 元来外界との接触を好まない一族であり、独特の文化には謎も多い。
「だけど、タラール族には独特の文字があるんじゃないのかい?」
「私、タラール文字の読み書きが出来ないの。まだ教わってなくて……だけど、おじいちゃんはローザリアの文字で読み書きも出来るから」
 アイシャの祖父はタラールの族長だったと聞いたことがある。
 外界との接触を持たねばならない族長には、必要な知識なのだろう。
「私が元気にしてること、伝える方法があるかもしれないでしょ?だから、文字を覚えたいの」
 アイシャは少し寂しげに微笑んだ。その表情にアルベルトは胸をつかれる。
 普段元気一杯のアイシャを見ると心が和むだけに、やるせないのだ。
 しかし、アルベルトはそんな心の内を隠して、ただ尋ねた。
「でも、どうして私に?」
 アイシャが姉のように慕うミリアムも、読み書きは出来るはずである。
「ミリアムは知識が偏ってるんだって。色んな事を万遍なく教わりたいなら、アルベルトが一番だよって言ってたの」
「ああ、成程……」
 ミリアムは術師なのだ。当然彼女の知識はそちら関係が豊富である。実践では頼りになるが、読み書きの指導には向いていないのだろう。
 確かに仲間内では、アルベルトが一番教師役に相応しく思えた。
「そうだね、君の将来のためにも必要だと思う。私で良かったら教えるよ」
「ありがとう、アル!」
 手紙を書いたとしても、読み手が見つかるのだろうか。
 文字を覚え、文章を綴ることが出来るようになったとして、アイシャがより一層悲しみに暮れはしないかという不安がアルベルトの頭をもたげる。
 だが、彼はすぐにそれを打ち消し、周囲に落ちていた木切れの中から、手頃な長さの棒を拾った。
「じゃあ、手始めに……」
 言いつつ、地面にひとつの単語を書いて見せる。
「これが『アイシャ』」
「私の名前ね」
「『ミリアム』、『グレイ』、『ジャミル』……」
 声に出しながら、アルベルトは三つの単語を地面に書く。
 四つ目の単語を書き終えると、アイシャの方から尋ねてきた。
「これが『アルベルト』?」
「そうだよ」
「そっか、これがみんなの名前なんだ……」
 アイシャは目を輝かせながら、アルベルトの書いた文字を見つめている。
 やがて彼女は、アルベルトの字を手本に綴りの練習を始めた。どうやら、眠気は吹き飛んでしまったらしい。
 文字を覚える事は新たな知識の獲得に繋がる。
 おそらく、今後の彼女の人生に新たな光をもたらしてくれるだろう。
 文字の書き方を注意しながら、アルベルトは思う。
 そして、マルディアスの神々に願っていた。
 ……いつの日か、アイシャの祖父が孫娘の手紙を読む日が訪れる事を。


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 前回の続編のような形になりましたが、ようやくアルアイ2作目です。
 アイシャが文字を教わるなら、やはりアルベルトだろうなと。
 他メンバーも加えて、明るいテンポの話も書きたいですね。
2005年11月18日 (金) 20時49分 (40)

儚く輝く・10 『さよなら』が始まる (ロマサガMS・ミリアム&クローディア+ジャン+グレイ)
長山ゆう | MAIL | URL
 旅の汚れを落とし、のんびり湯につかったミリアムとクローディアは、宿の部屋に戻って一息ついていた。普段なら、そろそろ夕食のお呼びがかかるところである。
 今日は随分と町全体が賑わっていた。戸締まりをした窓に近づき、その向こうから届く人々の喧噪に耳を傾けているうちに、ミリアムは遅ればせながら生まれ故郷の町が活気づいている理由に思い至る。
 道理でジャミルが今日に限って宿を離れ、南エスタミルに戻るはずだ。
「ミリアム」
 名を呼ばれて彼女が振り向く。と、声の主は物憂げな表情を向けていた。
「どうしたのさ、クローディア。沈んでるみたいだけど」
「……あなたに訊きたい事があるの」
「何?」
 彼女のこういった様子を見ると、ジャンと何かあったのかと勘繰ってしまう。そして、こういう時のミリアムの勘は、大抵外れないものなのだ。
「もしも、グレイに置いて行かれた場合……あなたなら、どうするかしら」
 突然の質問に驚いたが、内容から大体の事は察せられた。
 クローディアにいつもの覇気がない。常に凛とした空気を身に纏う彼女がこういった態度を見せるのは、ほぼ間違いなくジャンと何らかのトラブルがあった時だった。
 ミリアムはおとがいを人差し指で軽く弾いて、ベッドに腰掛ける。
「つまり戦力外通知を受けたら、って訳?」
「そう……なるのかしら」
「パーティ抜ける理由なら、それしかないじゃん」
 やや心許なげなクローディアへ、ミリアムは軽く肩を竦めて見せる。
 あらかじめ目的を掲げてパーティを組み解散する場合もあるが、クローディアが尋ねている内容は明らかにこちらと意味が異なるだろう。
 行動を共にするならば、いずれ何らかの形で別離が訪れる。
 パーティを組む際は、ひとつの冒険を区切りにする事が多い。所謂目的を掲げた、期限付きの場合である。
 これまで、ミリアムはグレイの誘いに応じて、幾度か共にこういった冒険をしていた。毎回目的を決めた上での旅である。
 しかし、今回は違った。
 おとぎ話でしか存在しない筈のデスティニーストーンを手に入れた事を契機に、何かが始まったように感じられたのだ。
 世界中で邪神の復活が囁かれている中、冒険を続けながら、グレイはその噂の真偽を確かめようとしている。
 長い旅の始まりを予感した時、グレイはミリアムに一言問うたのだ。
 ついてくるか、と。
 ミリアムに否やのあろう筈がない。結末を見届けるまで、離れる気は毛頭なかった。
 故に、冒険の途中で外されるということは、彼女の力不足に他ならない。
「だったら術の特訓だね。あと、他の系統の術を覚えてバリエーションを広げるのもいいかな。……あ、これはいいテかも。財布に余裕があるか後でグレイに確認してみるかな」
「え?」
 ミリアムの返答が意外だったらしく、クローディアは虚を突かれた様子だった。
 言葉が続かない相手へ、ミリアムは自身の発言に説明を加える。
「あたいの得意分野は術だもん。それが戦力不足って言われたら、鍛えるしかないからね。グレイが冒険をしてる間に、あたいの術が必要だって納得させるだけの腕を上げなきゃ意味ないしさ」
 互いに補い合えるからこそ、グレイはミリアムの腕を必要とするのだ。ミリアムの術が彼の望むだけの力を持たなければ、一緒にいる意味はない。
「あたいはグレイについて行きたいから、それに見合う腕を持つようにするだけだよ」
 単純明快な話である。
「……そう」
「うん」
「そう、なの」
「だってあたいたちは一緒に冒険がしたくて、パーティを組んでるんだよ。組むなら互いに足りない部分をカバーしていくもんじゃない?」
「…………」
 クローディアが沈黙する。
 思案する彼女を邪魔しないよう、ミリアムもまた口を閉ざした。
 窓の外の喧噪がこれまでよりもはっきり聞こえるようになってきた。祭りが始まったのだろうか。今日は夜が更けてゆくにつれ、賑やかになるのだ。
「ジャンが同行しているのは、護衛の任務のためだわ」
 しばらく経ってから、ぽつりとクローディアが呟いた。
「他に優先すべき任務を受ければ、彼はメルビルに戻るはずだもの」
「……ふーん」
「何?」
「あたいは、あのジャンが大人しくメルビルに戻るとは思えないな」
 クローディアは意外そうに目を見開く。
 ジャンを見ていれば一目瞭然なのだが、クローディアには伝わっていないらしい。いや、むしろ彼女の場合は「立場」がフィルターになって気づけないのだろうか。
 そのクローディアの立場──彼女の本来の身分は未だ公にされていない。
 だからこそ、メルビル親衛隊としても公的に護衛を置くことが出来ず、公的任務から一時的に外されたジャンが私的に行動を共にするという形をとっているのだ。
 ……無論、ジャンが嬉々としてこの任務を受けたのは容易に想像できる。
 そのジャンを呼び戻して、わざわざ他の親衛隊員を派遣するなど有り得ない話だった。
 立場で考えるならばこういう事だろう。
 しかし、それ以前に……。
「もし万一ジャンが断れない任務なら、グレイにクローディアの事を頼んで速攻で片づけて戻ってくるね」
「そう、かしら」
「賭けてみる?」
 ミリアムが自信たっぷりに問いかけると、クローディアの表情がようやく和らいだ。
「そうだ。ひとついいこと教えようか?」
 言いつつ、ミリアムは窓を指さす。
 陽が沈んだというのに、皓々と灯された明かりが室内におぼろげな影を作っていた。
 遠くから微かに届く歌声が祭りの始まりを告げている。
 その時、扉をノックする音が響いた。
「ジャンです。ちょっとよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「失礼します」
 扉を開けたジャンは、ミリアムの姿を見つけて一瞬躊躇った様子だった。
 ノックに応じたのがクローディアだったので、彼女一人だと思っていたのかもしれない。
 しかし、ミリアムがウインクしてみせると、意を決してクローディアに話しかけた。
「あの、クローディアさん。今日は町でお祭りがあるらしくて……その、よろしかったら一緒に出かけてみませんか?」
 クローディアが目を丸くする。次いで、ミリアムへと視線を送った。
「行っといでよ。あたいはグレイを誘いに行くからさ」
 ひらひら手を振ってみせると、クローディアは少し遠慮がちに、ジャンの誘いに頷いた。
 途端に嬉しそうな顔を見せたジャンにエスコートされ、彼女は部屋を後にする。
 ……気づかぬは本人ばかりなり、ということだろうか。
「さてと」
 声を合図に、ミリアムは気分を切り替えた。
 部屋の扉を開けて、廊下へ出る。と。
「ミリアム」
 名前を呼ばれて振り向くと、お目当ての相手がそこにいた。どうやら向こうも部屋から出てきた所らしい。
 ミリアムは満面の笑みを浮かべると、グレイの元へ駆け寄った。


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「出会いは別れの始まり」ということで。
 始めの頃、クローディアはジャンとの別れが訪れるのを怖れていたと思います。
 面倒見が良いミリアムは、女性同士、クローディアにとって相談事を打ち明けやすい相手ではないかと。
 グレミリは最初から互いの立ち位置がはっきりしています。
 クローディアとジャンはまだ距離が不安定な時期なので、クローディアは余計に二人の関係に憧れているんでしょうね。
2005年11月09日 (水) 22時12分 (39)

儚く輝く・01 大海の泡 (サモナイ3・スカアティ&ソノラ)
長山ゆう | MAIL | URL

「なんだか嘘みたいね」
「え?」
「センセがこの船に乗ってることが、よ」
 アティを見つめるスカーレルは、静かに微笑んだ。
 その瞳には優しい光が宿っている。
 ――島では遠く感じた笑みが、そこにある。
 ふと、アティはつい先日の出来事を思い出した。


 甲板の手すりに両肘を載せて海を眺めていたソノラは、不意に隣に立つアティへ顔を向けた。
「先生がこの船に乗るとは思わなかったなー」
 発言の内容に反して、その声音は明るく、楽しげだ。
「意外でしたか?」
「うん、正直言うとね。だって先生は島で最初の先生だったわけじゃない?ナップは軍学校に入っちゃったけど、島で教師を続けるとばかり思ってた」
「先のことはまだわかりませんけど、今は……あの人の傍にいたいから」
 はにかんだ表情を見せるアティに、ソノラは嬉しそうな笑みを返す。
「ありがと、先生」
「え?」
「スカーレルを選んでくれたこと。嬉しいんだ、あたし。船に乗る女の人が増えたこともそうだけど、スカーレルが寂しそうな顔見せなくなったから」
 一瞬、アティが返す言葉を躊躇うと、ソノラは海の彼方へと視線を向けた。
「スカーレルって、昔からあたしたちに一線引いてるところがあったんだよね。仲間だけどどうしても越えられない部分があって。アニキはそういうの詮索しないから、程良い距離感が保てたんだと思うけど」
 静かな横顔は、言葉以上に彼女の内面を現しているようだ。
 以前、少しだけソノラが話してくれたスカーレルの過去を、アティは思い出す。
 最初は近寄りがたい印象があったけれど、寂しいときは傍にいてくれる優しい人だと気づいたのだ、と。
 ソノラは再びアティを振り向いた。
「それがある意味スカーレルにとっての居心地の良さでもあったのかもしれないけど、やっぱりちょっと寂しいじゃない?」
 苦笑は寂しさを隠す仮面。
 ソノラは優しい。まっすぐな気性で、人懐っこく、そして愛おしい。
 ……だからこそ、距離を置くのだ。彼は。
「たまにね、離れたところからあたしたちのこと見てる事があるんだけど……そんなスカーレルは、どこか寂しげで。あたしはこっちに来て欲しいんだけど、やんわり断られちゃうんだ。アナタは遊んでらっしゃい、アタシはここで見てるからって」
「……なんとなく、わかります」
 距離を置く事で、守ろうとしていたのだろう。
 相手がそれを察しても、やんわりとかわした上で、決して崩さない距離。
 如何にもスカーレルが考えそうなことだった。
「どうしてダメなのか、その時はわからなかったから、あたしもちょっと悲しかったんだよね」
「ソノラ……」
 スカーレルも、ソノラの気持ちに気づいていたのではないだろうか。
 だが、彼にとってはそれが最大限の妥協点で。
 必要以上に懐に入れないように、その上で、彼女を大切にしてきたのだろう。
 理解してしまう事で寂しさを感じる距離感は、しかし、拒絶すれば全て終わってしまうのだ。
 大切な人であるなら尚のこと、切なく思えてならないというのに。
 いつしかソノラは手すりに頬杖をついていたが、不意にアティへ顔を向けると、にっこりと笑った。
「だけど、今は先生がいてくれるから。もうスカーレルがあんな寂しそうな顔する事もないと思う」
 明るい笑顔に翳りはない。
 元気に満ちたソノラの存在は、カイル一家になくてはならないものなのだろう。
「幸せになってね、先生。もちろん、ばっちり見届けるつもりだけど」
「ええ。ありがとう、ソノラ」
 茶目っ気たっぷりの少女へ、アティは応えたのだ。深い感謝の気持ちを載せて。


 アティはスカーレルの左腕に両手を絡めた。そうして、肩に頭をもたせかける。
「現実ですよ、もちろん」
「センセ?」
「だって、スカーレルがちゃんと言葉にしてくれたんですから」
 彼の顔を下から覗き込み、その唇に人差し指で触れながら、アティはにっこりと微笑む。
 スカーレルが小さく笑って、唇に触れていたアティの手のひらを右手で包み込んだ。
「そうよね、アティ。貴女が応えてくれたから、アタシも一歩を踏み出せたわ」
 互いが互いを必要とした。だから、こうしてアティは船に乗ったのだ。

 ――一緒にいられるから、大丈夫。

 安らぎの中で見出した、これが唯一無二の真実なのだから。


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 スカアティ、本編後の甘い話。……の筈が、むしろアティ&ソノラ話ですね。
 カイルやソノラを見守るスカーレル、というシチュエーションも好きですが、
逆にソノラがスカーレルの幸せを願っている、というのも好きなのです。
 保護者と被保護者の優しく暖かな空気とか。
 うちのスカアティを一番祝福したのはソノラですね。
 そしてソノラとアティはカイル一家の名コンビになりそうです(笑)。


2005年11月06日 (日) 22時58分 (38)





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