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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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儚く輝く・07 踏み絵の微笑 (サモナイ3・ナップ&アール)
長山ゆう | MAIL | URL
 ナップはつい数日前に訪れた断崖を、再び登っていた。
 今の同行者はアールだけだ。
 身軽なアールはリズミカルに断崖を登っていくが、まだ身長も低く、自慢できるほど力もないナップには一筋縄では行かない道のりである。
 だが、彼は黙々と上を目指した。
 一足先に頂上へ到達したアールが、ゆっくり進むナップを見下ろしている。
「もうちょっと待ってろ、アール。すぐに行くから……」
 足下に注意を払いつつ、ナップは一歩一歩進んでゆく。
 そして。
 頂上へたどり着いたナップは、目的のものを発見すると、小さく息をついた。
 数日前の戦いの現場、その地点に散乱する碧の破片。
 ナップは用意した大きな布を広げると、破片――砕けたシャルトスをひとつひとつ、丁寧に拾い集めた。

 イスラのキルスレスにシャルトスを砕かれたアティは、悲鳴を上げて泣き叫んだ。
 仲間がアティを守り、敵を退ける間、ナップは何も出来なかった。
 スカーレルに叱咤されたおかげで、かろうじて取り乱さずにすんだものの、彼女を守る為に何も出来なかったのだ。
 アティがイスラを止める手段として殺害を口にした時。
 言いしれぬ不安を抱いたあの時、何故止められなかったのか。
 あの時のアティの笑顔の意味に、どうして気づけなかったのだろう。

 ヤッファやスカーレルは、アティの笑顔の意味を察していたという。
 しかし、ナップは素直にアティの笑顔を笑い顔だと信じていたのだ。
 そう信じさせていたアティの本当の気持ちには、気づけなかった。

「いてっ」
「ビ!?ビビビ!」
「て……ああ、大丈夫だよ、アール」
 集めた破片が指先に小さな傷を作る。少し血が流れたが、大した傷ではない。
 最後の破片を拾い上げ、ナップは布に集めたシャルトスの欠片の量を確認する。
 そして、崖下を覗き込んだ。
「あれもか……」
 シャルトスが砕けた時、散らばった破片は崖下のやや張り出した部分にも落ちていたらしい。
 斜面はかなりの勾配を持っている。素手で降りられるかどうか、という所だ。
 しかし、躊躇している場合ではなかった。
「アール、ちょっと待っててくれよ」
 護衛獣に言い聞かせ、ナップは崖降りに挑んだ。
 足場を探しつつ、崖下の張り出した場所に向かって、一歩一歩進んでゆく。
 体重を掛ける腕が震え、指先に力が籠もる。
 幸い、この辺りは地盤がしっかりしているらしく、こういった経験のないナップにも何とか降りられる事ができそうだった。
 ――それが、油断に繋がった。
 あと少し、という所で、ナップは足を滑らせたのだ。
「うわ!」
 右手の指が岩をつかみ損ね、爪が割れたと直感した。左手一本で体重を支えられる筈もなく、ナップは崖下に滑り落ちる。

 船に戻り、錯乱状態のアティを薬で何とか休ませたものの、翌日から、彼女は何の反応も示さなくなった。
 ぼんやりと、ベッドに座っている。
 子供よりも無邪気に笑い、毎日忙しく駆け回っていた、あの面影はどこにもない。
 皆が心配していたが、どうすることもできなかった。
 ……シャルトスが砕けたせいだ、と言ったのは誰だったろう。
 アティの心を象徴するあの剣が失われ、心が壊れてしまったのではないかと。

 ――だったら、砕けたシャルトスを元に戻せばいいのだ。

 後頭部に小さな石が当たり、ナップは我に返った。
 周囲を見回す。大小の碧の欠片を確認し、自分が目的地に到達したことに気が付いた。
 安堵の息を漏らしてシャルトスの破片に手を伸ばした時、強烈な痛みが左足を襲った。
 ナップは足の痛みを堪えて身を起こす。
 左足の状態を確認したが、足首の腫れ以外に外傷は見られなかった。
 捻ったにしては痛みが鋭く、収まる気配がない。
「折ったかな……」
 幸い、ここはさほど広くない。
 破片が一部に集まっていたこともあり、拾い集める事は難しくなかった。
 ハンカチにシャルトスの破片を包み、ポケットに収めると、ナップは先程滑り落ちた岩肌を見上げた。
 一番高い位置で待機している筈の、アールの姿がない。
 崖から滑り落ちたナップを見、誰かを呼びに行ったのだろうか。
 確かに、この足では崖を登るのは難しいだろう。となると、救助を待つしかない。
「……情けねぇな」
 ナップはポケットに手を入れ、ハンカチ越しで破片に触れた。
 シャルトスを手に戦っていたアティの姿を思い起こす。
 そして、数日前、ここに来る前に見た、寂しげな笑顔を。
「先生……」
 ナップはしっかりと破片を包んだハンカチを握りしめる。その指先に血が滲んでいたが、強い足の痛みでこちらの感覚はほとんどなかった。

 ――絶対に、シャルトスを元に戻してみせるから。だから……。

 ナップの耳に、慌てるアールの声がかすかに聞こえてきた。
 誰かを連れてきてくれたのだろうか。
 崖の上を見上げたナップは、そこに小さな人影を確認した。


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 このイベントは生徒の一途な想いに涙、でした。
 無力な自分に何が出来るか、必死で考えたんだと思います。
 ナップの話を書いたことが無かったので、彼視点に挑戦してみました。
 彼はアティのことが好きだと思うんですが、スカーレルが好きなアティに対して、複雑な感情を抱いているのではないかと。
 相手がカイルやヤッファならともかく、スカーレルですからねぇ。
(そのうえ勝てない事がわかってるから、なお悔しい、と…(笑))

2005年08月24日 (水) 22時52分 (32)

幼い頃・10 緑の宴 (ロマサガMS・ジャンクロ)
長山ゆう | MAIL | URL

 森の中を歩くクローディアの表情は普段よりも柔らかだった。
 自然と肩の力が抜けている彼女の様子は、また一段と魅力的である。
 先を行くクローディアから数歩遅れて進むジャンが、つい彼女の顔ばかりを見つめてしまうのも、無理からぬ事だった。
 突然、クローディアが振り向いた。
 完全に不意打ちを受けたジャンは、一瞬うろたえる。
「何?」
「え、な、何でしょうか」
「さっきから私の事を見ていたでしょう。どうしたの?」
 まさか見惚れていたとは言えない。
「いえ、その、森に入ってからリラックスした様子だなと思っていたんです」
 本心に近い言葉だったせいか、クローディアは特に訝る事はなかった。
「自然に囲まれて育ったから、こういう場所は安心できるの」
 迷いの森でなくとも、こういった自然の息吹を身近に感じられる場所が、クローディアには居心地が良いのだろう。
 そんな彼女が魅力的な反面……。
「町は苦手ですか?」
「そうね、人が多すぎて疲れてしまうわ」
「メルビルを訪れた時は驚いたでしょう」
 クローディアが再び歩き出す。
「正直、どうしようかと思ったわ。貴方以外に知っている人もいなかったし」
 確かに、他人と面識を持たず森で生活していた人間が、突然あの賑やかな城下町を訪れれば、戸惑いもするだろう。
 しかし何より、彼女の声音に少しばかり非難が含まれている事を察し、ジャンは慌てた。
「すみませんでした。その、どうしても貴女にメルビルへ来ていただきたかったので、強引に誘ってしまったんです」
 公的には、その正体を確かめるために。
 けれど、私的には……。
「職務で?」
 あまりにタイミングの良すぎる質問に、ジャンは思わず息を呑む。
 クローディアは立ち止まり、静かな瞳で彼を見つめていた。
 澄んだ瞳が問いかけている。
「……確かに、職務ではありますが」
 わずかに翳った彼女の瞳に、ジャンの心が揺れる。

 特に用事があったわけでもなく。
 ふと気が向いて訪れた迷いの森で、モンスターに遭遇し……。
 クローディアと出会った。

 『迷いの森には魔女が棲む』
 メルビルでこの言い伝えを知らぬ者はいない。
 だが、帝国の上層部にはまことしやかに囁かれている噂もあったのだ。
 ――行方不明の帝国の皇女が、迷いの森で生きている、と。

 助けられた直後は、口数の少ない彼女からなかなか言葉を引き出すことができなかったため、自分が喋ってばかりだった。
 指輪を見た瞬間、現実に返ったものの、少しだけ耳にした彼女の声は印象的で。
 半ば強引にメルビルまでの地図を手渡したものの、正直期待はしていなかったのだ。
 ――だからこそ。
 来訪の報せを聞き、慌てて飛び出した宮殿の外で、所在なげに佇むクローディアの姿を見た時、沸き上がる喜びを抑えることが出来なかった。

「私情も……ありました」
 ひっそりと加えた言葉に、クローディアは少し驚いたように目を見開いた。
 硬直したジャンの様子を見るうちに、彼女の瞳が和らぐ。
「……嬉しいわ」
 その一言に多くの意味を含ませ、クローディアは彼に穏やかな笑みを見せたのである。


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 気が付いたらジャンとクローディアだけの話になってしまいました。
 将来、クローディアはメルビルに行くのかをジャンが尋ねるつもりだったのですが、
 いつの間にか話の流れが変わっていて、書いた当人もびっくり(笑)。
 この二人はやはりジャンが積極的にならないと進まないですね。うん。
 彼には頑張って欲しい所です。

2005年08月17日 (水) 21時41分 (31)

幼い頃・05 流れる紅 (ロマサガMS・グレミリ&ガラハド)
長山ゆう | MAIL | URL
 グレイの前を、紅の色彩が通り抜けた。
 彼がそちらに目をやると、紅の色彩を身にまとった娘──ミリアムが、とある店の前で立ち止まっている。何か珍しい物を見つけたらしい。
 彼女の視線の先に目を向ける。と、店の軒先に小さな鐘が吊られていた。
 鐘の中には細長い棒が吊るされ、その先に結わえられた短冊が風を受けると音を鳴らす……風鈴である。
「風鈴か」
 澄んだ音を聞きながらグレイがその名を告げると、ミリアムは目を丸くした。
「知ってるの?」
「前に聞いたことがある。リガウ独特の細工物らしいな。音で涼感を出すそうだ」
「そうなんだ」
 ミリアムは目を閉じると、耳をそばだてた。
 風が吹く度に、風鈴が澄んだ音を立てる。
 雑踏にかき消されそうな小さな音色だが、意識すると耳に届くものだ。
「確かに、綺麗な音だね。涼しいかはよくわかんないけどさ」
 彼女の素直な感想に、グレイは小さく笑う。
「そうだな」
 続いてミリアムは刀鍛冶の店を覗いた。
「グレイ、これさ、折れたりしないの?」
 店先には反りを持つ薄い刃の武器──刀が、抜き身の状態で一振り展示されている。
 周囲の刀は全て鞘に収められているので、これは見本品なのだろう。
 一見して確認できる刀の形状では、長剣や大剣に比べて些か心許なく感じられるのも無理はない。
「ああ。刀は斬るものだからな。叩きつける長剣や大剣とは用途が異なる。しかし達人が手にすれば、大岩も真っ二つにできるそうだ」
「真っ二つ!?ホントに?」
「俺もこの目で見たわけじゃないがな」
 ここで、グレイは売り物として並べられている刀を一振り手に取った。
 鯉口を切り、静かに刀身を滑らせる。
「ほう」
 思わず感嘆の声が漏れた。一片の曇りもない刃、鏡の如く彼の瞳を映す刀身。手に馴染む感触も申し分ない。見事な逸品である。
 残念ながら、今の彼が手にするには少々値が張っていたが。
 刀を鞘に戻し、元あった場所に返すと、ミリアムは感心した様子でグレイを見つめていた。
「どうした?」
「ん、なんか手慣れてる感じがしてさ」
「基礎を学んだ折に一通り教わったからな」
「へぇ、そうなんだ」
 ミリアムは再び店先に飾られている抜き身の刀に目をやった。
 そこへ、悠然と近づいてくる一つの影。
「ここにいたのか、二人共」
 威風堂々とした体格の男に、ミリアムは笑顔を見せた。
「ガラハド、精算は済んだ?」
「ああ。全く、面倒事を私に押しつけるのはいい加減にしてほしいものだが」
「この中で一番数字に強いのはアンタなんだから、適材適所でしょ」
「少しは自発的にだな……」
 小言が始まりそうになった事を察し、ミリアムはするりと二人から離れる。
「さて、無事ジェルトンに到着したんだし、まずは情報収集だね」
「ミリアム」
「急がないと誰かに先を越されちゃうよ、ほら早く!」
 軽やかに駆け出すミリアムに、ガラハドは溜息をつく。
「グレイ、お前もだな……」
「必要に迫られればな。今はお前に任せておくのが適任だろう」
 グレイの言葉にガラハドが複雑な表情を浮かべた。
 誉められたことを素直に喜ぶべきか、注意を促すべきか、迷っているらしい。
 そんな彼の耳に、明るい声が届く。
「グレイ、ガラハド、急ぎなよ!」
 ミリアムの声に応じ、グレイは彼女の元へと歩き出す。
 その背後で、ガラハドの微かな溜息が聞こえてきた。


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 冒険者一行の話。グレイはリガウ出身らしいので、色々知っていそうだなと。
(リガウ島はウエスタン+江戸がモチーフだそうなので、風鈴もあると思うのですが……多分)
 ロマサガ関係のサイトを見ているうちに、ガラハドが面倒見の良い人という印象が強くなりました。
 冒頭の三人組ならこんな感じかな、と思います。
 口数の少ないグレイは、案外誉め上手ではないかと(笑)。


2005年08月11日 (木) 21時28分 (30)

幼い頃・07 それしかいえない (ロマサガMS・アルアイ)
長山ゆう | MAIL | URL
 夜も更け、大勢の人で賑わうクリスタルシティの灯りも随分減った頃。
 宿のテラスに一人で佇んでいたアルベルトへ、背後から近づく小さな影があった。
「アルベルト」
 普段より幾分小さな声で、影は彼の名を呼びかける。
 振り向いたアルベルトは、月明かりの下に立つ赤い髪の少女に気がついた。
「アイシャ」
「ここにいたんだ。あのね、お茶をいれたんだけど、飲まない?」
 見ると、彼女は両手で包み込むようにマグカップを持っていた。カップからは湯気が上っている。
 ナイトハルトへの謁見後、彼らはクリスタルシティに宿を取っていた。
 アルベルトは夕食にほとんど手をつけず部屋に戻ったのだが、なかなか寝付く事ができず、テラスでクリスタルシティの夜が更けてゆく様子を眺めていた。
 アイシャはそんな彼の姿に気づいたのだろう。
 いや、それだけではない。寒空の下のアルベルトを気遣って、温かい飲み物を用意してくれたのだ。
「ありがとう」
 マグカップを受け取ったアルベルトは、良い香りのお茶を一口飲んだ。
 冷え切った身体を中から暖める感覚に、我知らず息をつく。
 隣に立つアイシャへ、彼は微笑んだ。
「おいしいよ。これはハーブティかい?」
「うん。寒い夜はいつも飲んでたの。温かいでしょ」
「アイシャは薬草に詳しいんだね」
「タラール族はみんなそうなの。村の子供は小さい頃から薬草について教わるから。勉強を重ねて調合師になる人も多いんだ。でも、私はまだ調合についてよく知らないから、そのまま煎じて使う事しかできなくて。……ヤーナさんにちゃんと教わっておけば良かった」
 最後が呟く程小さな声になり、アイシャの表情が沈んだ。
 タラール族が消失したという話はグレイたちから聞いている。アイシャ自身、故郷の同朋の行方に心当たりがないらしく、手がかりが全くない状態なのだ、と。
 ヤーナという人物はタラールの村で腕の立つ調合師だったのだろう。
「でも、薬草を見分けられるだけでもすごいよ。アイシャのおかげで普段から傷薬を常備できるんだから」
「ありがと」
 アルベルトの賛辞を素直に受け入れ、アイシャはにっこりと笑顔を見せる。
 そして、彼女は表情を改めた。
「あのね、アル」
 彼女はアルベルトをこう呼んだ。
 名前を略されることに慣れていないので少し面映ゆいが、親愛の表れでもあるその呼び方に、アルベルトは好感を抱いている。
 だが、後に続いた言葉が彼の意識を今現在の状況に引き戻した。
「お姉さんの事なんだけど……」
 自然と目を伏せかけた少年へ、アイシャは身を乗り出して続けるべき言葉を発した。
「一緒に、捜しましょ」
「え……」
 意外な一言だった。一瞬、アルベルトは戸惑う。
「私もね、村のみんながいなくなった時は途方に暮れちゃったけど、グレイたちが一緒に捜してくれるって言ってくれたから、元気が出たの」
 そんな彼にアイシャは熱心に言葉を継ぐ。
「みんなもきっと協力してくれるよ。ミリアムは頼りになるし、グレイはちょっと無愛想で、ジャミルはお調子者だけど、二人とも優しいもん。世界中を旅すれば、きっと手がかりが見つかるよ」
 一生懸命なアイシャの様子に、アルベルトは笑みを返す。寂しげで、虚ろな微笑みを。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけれど、私は覚悟を決めているから……」
 イスマス城の兵士はことごとく討ち死にを果たし、城は廃墟となり果てていた。
 ニーサ神殿に葬られた城主ルドルフとその妻マリアの亡骸が比較的綺麗に残っていたことでさえ、奇跡に等しいというのに、それ以上を望むことができようか。
 ディアナは、世継ぎであるアルベルトを逃がすため、脱出路に待ち伏せしていた巨大なレッドドラゴンに戦いを挑んだのだ。
 屈強な戦士が束になって戦うべきモンスターに、ただ一人、勇敢に立ち向かった姉の姿。
 ……殿下も私をお責めにならなかった。婚約者の死に等しい状況を聞きながら尚、私を気遣い、ねぎらってくださったのだ……。
「ダメ!!」
 大きな声音に、アルベルトは我に返った。
 アイシャが彼を睨んでいる。唇を引き結び、眉を寄せて。
「……アイシャ?」
「諦めちゃダメだよ、アル」
 怒っているかと思ったが、彼女の口調はひどく頼りない。
「だって、生きてる可能性があるんでしょ?お姉さんは頼りになる人だって言ってたじゃない。アルが信じないでどうするの。アルが捜さなきゃ、誰がお姉さんを捜すの?」
 見る間にアイシャの瞳に涙が溢れ、アルベルトは動揺した。
 しかし、彼女はそれに気づいた様子もなく、アルベルトの手を両手でつかみながら、懸命に続ける。
「きっと……きっと、どこかで生きてるから。だから一緒に、お姉さんを捜そう。諦めないで、アル。お願い、だから……」
 最後は涙ではっきり聞こえなかったが、アイシャの気持ちは痛いほどに伝わってきた。
 ――ああ、そうか。
 アイシャもまた故郷の人々の消息がわからないのだ。行方不明の人間を死んだものと考えるアルベルトの思考に、居たたまれないものを感じたのだろう。
 アルベルトは右手に持っていたマグカップを手すりの上に載せた。自分のもう一方の腕をつかむ彼女の手を、そっと覆うように触れてみる。
 いつしか俯いて泣いていたアイシャが、顔を上げた。
 ――あの状況で、ディアナが生きているとは思えない。
 だがこの時、アルベルトは一途な少女の健気な想いに応えたいと、強く思ったのだ。
「ありがとう、アイシャ。私も……信じるよ」
「アル……」
「これから、一緒に捜してくれるかい?」
「うん!」
 元気な返事に、笑みがこぼれる。
 アイシャの天真爛漫さは、周囲を元気づけるのだ。
「もちろん、君の村の人も一緒に捜そう。大丈夫、きっと見つかるよ」
「うん……ありがとう、アル……」
 彼女を元気づけたくてこう言ったのだが、アイシャはどこか寂しげだった。
 互いが相手に希望を抱かせたいと願う言葉の中に、なにがしかの諦めを感じ取るせいだろうか。
 それでも、アイシャへ向けた言葉が真実になることを、アルベルトは願わずにはいられなかった。


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 実はアルベルト編はまだ遊んでいないのですが、彼の台詞から察するにディアナのことは諦めている節があると思います。
 …まぁ、レッドドラゴンなんて終盤のパーティで何とか倒せる相手ですし(汗)。
 相手を想っての言葉に、むしろ現実を思い知らされるというのは、つらいことですけれど。
 励ましたいという気持ちは伝わると思うので。
 アルアイは見ていてほのぼのするカップリングです。ちょこちょこ書けるといいな。

2005年08月09日 (火) 21時13分 (29)

幼い頃・06 翼はいらない (サモナイ3・スカアティ+ヤッファ)
長山ゆう | MAIL | URL
 ヤッファとの酒宴……というにはいささか静かな酒の席に、突然アティが姿を見せた時。
 実の所、嫌な予感がしたのだ。
 アティは相変わらず屈託のない様子で、ヤッファと酒を酌み交わしつつ談笑していた。
 彼女を呼んだ当人であるヤッファも楽しそうに酒を呑む。
 表面上は二人に合わせていたものの、彼女をこの場に呼んだヤッファの行動が気に入らず、つい杯を重ねてしまったのが、問題だった。
 スカーレルにしては珍しく、酒量の限度を超えたのだ。
 ――ハメられた。
 反射的にヤッファを見たスカーレルは、己の直感が間違っていないことに気づいた。
 視線が合った途端、このユクレスの護人はしてやったりと言わんばかりの笑みを返してきたのだから。
「センセ、今日はそろそろ戻りましょうか」
「え、でも、まだ早くないですか?」
 ちゃんと酒量に気を付けてますよ、と訴えかける瞳に抗いがたい衝動を感じつつ、スカーレルは苦笑を返す。
「女のコが遅くまで呑んでちゃダメよ。明日も学校でしょ?」
 切り札を持ち出すと、アティはしぶしぶ頷いた。
 本来こういう手は使いたくないのだが、やむを得ない。
 酒量の限度を超えたとはいえ、すぐに理性を失うことはないが、早めに手を打つに越したことはないのだ。
 後片づけを首謀者に押しつけ、スカーレルはアティを伴って庵を出た。
 ユクレスの夜は、ひっそりとしている。
 しかし、そこに棲む動植物の息吹は伝わるものだ。
 夜にユクレスを訪れる事が滅多にないアティには、普段と異なる集落の雰囲気が珍しいのだろう。
 スカーレルの隣を歩く彼女は楽しげだった。
 アティの様子は、変わらない。
 ――おそらくは、意図しての事なのだろう。
 何事も前向きに前向きにと考える彼女らしい選択であり、優しさだった。
 きっと、これからも普段の笑顔を見せてくれるのだ。
「センセはアタシが怖くない?」
 隣を歩きながら、スカーレルは軽い調子で問いかける。
 無意識に口をついた言葉の真意に、しかし彼自身気づいていなかった。
「どうしてですか?」
 アティが小首を傾げて訊き返す。
 スカーレルの視線が軽く周囲を巡った。
「今が夜で……」
 そして、視線はアティを捉える。
「アタシと貴女が男と女だから」
 アティが不意をつかれたように目を丸くし、直後、赤面した顔を慌てて伏せた。
 彼女の反応に、ようやくスカーレルは己の失言を認識する。
 酒のせいだけではない。確かにその要素は大きいが、自制心が働いていないのは、彼自身の欲望ゆえだ。
 心を鎮めなければ。冗談だと誤魔化して、一刻も早く船に戻るしかない。
 その時、赤い髪がふわりと揺れた。
 続いて、軽い衝撃。
 アティがスカーレルの胸に飛び込んできたのである。
 普段の彼女からは予想できない行為だったが、ここでようやくスカーレルは彼女も酒を呑んでいたことに思い至った。
 二重の不覚である。
 酒量の限度を超えると、こうまで頭の働きが鈍るとは。
「私……」
 俯いたアティのくぐもった声が耳に届く。
「あの時はきちんと言えませんでしたけど……スカーレルの事が、好きなんですよ」
 彼女の両手がスカーレルの服を握りしめる。
 ──決して、アティに言わせてはならない言葉だった。
 それゆえに一線を引いたのだ。彼女を傷つけると知って尚、拒絶した。
 何故なら……。
 スカーレルは右手でアティの顎を捉えた。
 涙目になっている彼女の綺麗な瞳をしっかりと見据え、その唇を塞ぐ。
 アティの身体に緊張が走ったが、スカーレルの左手は、彼女を強く捉えて離さない。
 やがて、アティの身体から力が抜けた。
 しばらくの時を置いて、スカーレルは僅かに彼女から身を離した。
 腕の中で頬を上気させながら自分を見上げる娘に、彼は小さく笑む。
「ごめんなさいね。最後の最後まで踏ん切りがつけられなくて。己の不甲斐なさが情けないわ」
「スカーレル……」
「貴女に自由でいて欲しい。それは偽らざる本音なの。アタシなんかに関わらずにってずっと思ってた。アタシには貴女を幸せにする事なんて出来るはずがないんだもの」
「いいえ!」
 我知らず自嘲を含む言葉を、アティは強く否定する。
 その声音に驚くスカーレルへ、彼女はにっこりと笑いかけた。
「だって、私、スカーレルと一緒にいられるだけで、幸せなんですよ」
 あれ以来見られることの無かった、全開の笑顔である。
 日陰者であるはずの彼をも魅了した、アティの天真爛漫な笑み。
 その笑顔の下で幾多の苦難を越えているのだと気づいた時から、惹かれていたのだ。
 スカーレルは思わず苦笑した。
「完敗ね。センセに張り合おうとしたアタシが間違ってたわ」
 一度つかまえてしまえば、二度と手放すことなど出来はしない。
 だから最後の一線を引いたのだ。
 ――けれど。
 スカーレルはそっとアティを抱きしめた。
 そして、万感の想いを込めて、囁きかける。
「愛してるわ、アティ」
「……はい」
 彼の言葉を噛みしめているアティへ、スカーレルは短く続けた。
「続きは部屋に戻ったら、ね?」
 途端に耳まで真っ赤になった彼女に笑いつつ、スカーレルはその頬にそっと口づけた。


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 スカアティ告白話。
 15話の夜会話が消化不良状態だったので、いつか告白させたい!と思っておりました(笑)。
 ただ、こういう時のスカーレルの行動がつかみ切れていないため、微妙な話になってしまった観がありまして…。精進せねば。
 ちなみにこれは以前のお題「友達」から続いた話となっております。
 ヤッファの企みが功を奏したようで何よりです(笑)。


2005年08月06日 (土) 21時24分 (28)





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