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□ お題掲示板 □

現在メインはロマサガMSとTOS、サモナイ3です。
他ジャンルが突発的に入ることもあり。
お題は10個ひとまとまりですが、挑戦中は順不同になります。
(読みにくくてすみません…)

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幼い頃・01 言葉の彩(あや) (ロマサガMS・ジャンクロ&グレイ&ミリアム&ジャミル)
長山ゆう | MAIL | URL
「さんってつけるの、やめて」

 クローディアがジャンにこう告げるのは、日常茶飯事だった。
 しかし。
「あ、すみません。でも他にクローディアさ……んをお呼びする言い方が」
「どうして!」
 予想外のクローディアの大きな声に、テーブルを囲んでいた全員の視線が彼女に集中した。
 クローディアは狼狽したジャンの顔を見つめている。
「私だけそんな呼び方なの?」
 普段から、あまり表情を変えることのない彼女の感情を読みとるのは難しい。
 だが、今のクローディアを見れば、誰もが彼女の激昂を理解できただろう。
「グレイも、ジャミルも、ミリアムのことだって、貴方は呼び捨てにしているじゃない。どうして私だけ違うの?」
 帝国軍人であるジャンにしてみれば、皇女たるクローディアを呼び捨てにするなど言語道断だろう。
 普段からその名を様付けで呼びかけそうになる度、何とかごまかしている状態なのだ。
 だが、それはあくまでジャンの都合である。
「私を見張る必要があるなら、みんなに頼めばいいでしょう。無理についてくる必要はないわ」
「ご、誤解です!クローディア様!」
 クローディアがジャンに冷たい視線を向ける。
「私のことを特別扱いにしかできないのなら、もう来ないで。私には帝国なんて関係ないもの」
 言い捨て席を立った彼女は、そのままテーブルを離れた。
「クローディア、ちょっと待ちなよ!」
 宿の部屋へ向かったクローディアをミリアムが追う。
 後には呆然としたままのジャンと、黙って成り行きを見守っていた二人が残された。
「ど、ど、どうしたらいいんだ……グレイ!」
 食堂を出て行く二人の姿を見送ったグレイは、おもむろにジャンへと顔を向けた。
「態度を改めろ」
「どうやって!?」
「普通に話せばいい」
 単純明快な解答である。
「できるわけないじゃないか!」
「何故だ?」
 一瞬、ジャンは怯んだ。
 ここで我に返った彼は、大勢の人で賑わう食堂で騒ぎを起こした事に気づき、軽く咳払いをして椅子に座り直した。
 その上で、隣のグレイに幾分低い声で話しかける。
「クローディア様がどういう方かはわかっているだろう?本来なら一介の軍人が気安く話せる相手じゃないんだぞ」
 クローディアの出自は秘されていたが、共に旅をしていれば察しは付く。ましてやジャンの態度を見れば一目瞭然だ。
 しかし、グレイ一行はこれまでの旅の間、その点に触れることはなかった。
 だからこそ、ジャンの態度が浮いてしまう原因にもなったのだが。
「そもそもあの方は帝国の未来を左右するお方であって……」
「それが嫌なんじゃねぇの、クローディアはさ」
 テーブルに頬杖をついて二人のやりとりを見ていたジャミルが横槍を入れる。
「だ、だが、軍人としてはだな」
「あんたさぁ、それが逆効果になってるって気づいてないの?」
「え……」
 明らかに意表を突かれた様子のジャンに、ジャミルは軽く溜息をついた。
「グレイはともかく、オレやミリアムのことも呼び捨てにしてるくせに、クローディアは『様』付けだろ?実際にはそう呼んじゃいねぇけど、バレバレじゃん。一線引いてるって思うよな、普通」
「それは……」
「要はクローディアがどう思うかさ。あんたの遠慮が距離感、引いては冷たい態度に見えるって事だよ」
 ジャンは絶句した。
 ――まさか、自分の言動がそのような誤解を生んでいようとは。
 想像の範疇を越えていた事態に、ジャンは内心混乱していた。
 そのまま、しばしの時間が流れる。
「なぁ、グレイ」
 ぽつりとジャンが問う。
「今は冒険者だが、お前も軍属だったじゃないか。あの方へ何らかの遠慮というか……そういうものは感じないのか?」
 ジャミルが意外そうにグレイを見やる。
 が、グレイはその視線を無視して答えた。
「玉座で責務を果たす相手には相応の敬意を払う」
「しかし」
「クローディアは迷いの森で育った娘なのだろう?特別扱いする必要などあるまい」
「そう、か……」
 しばし考えた後、ジャンはおもむろに席を立った。

 ジャンは宿の一室の前に立ち、扉をノックした。
「クローディアさんにお話があるんですが」
 扉を開けたのはミリアムだった。
 彼女は小さく笑うと、室内のクローディアを振り向き、ひとつ頷く。
「じゃ、あたいは席を外すよ。……しっかりね、ジャン」
 ジャンの脇をすり抜ける際、小声でこれだけを言い残し、ミリアムは部屋を出ていった。
 入れ替わるように、ジャンが部屋に入る。
 クローディアは、窓際に佇んでいた。
「あの、クローディアさん」
「……何?」
「私はバファル帝国の軍人です。ですからどうしても、貴女を呼び捨てにすることができません」
「…………」
「でも、ですから、クローディアさん、と呼ばせていただくことをお許し願えないでしょうか」
 普段から様付けで呼びかけそうになる事が多々あり、そのたびに言い直していたのだが、最初からこう呼ぶことが出来るなら、距離感も縮まるかもしれない。
 軍属であるジャンにとって、今現在、これ以上は無理なのだ。
「私は、貴方に許可を与えるような人間ではないわ」 
 でも、と彼女は続ける。
「いつか……さんってつけるの、やめてもらえる?」
 普段その口をついて出る言葉よりも柔らかい口調で、クローディアが問うた。
「……努力します」
「わかったわ。……ありがとう」
 クローディアが静かな笑みを浮かべた。
 思わず赤面したジャンは慌てて部屋を後にしたのだが、彼女の微笑みはしっかりと脳裏に焼き付いていた。


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 お調子者っぽいジャンですが、クローディアと行動を共にするとなれば、こういう状態になるのではないかと思ってしまったんです。
 ジャンとしては彼女は本来雲の上の御方なわけで、どうしてもこうなってしまうと。
 でも、それを受けるクローディアは段々我慢できなくなって…という感じ。
 一定期間ならさほど気にならなくても、四六時中「〜様!」じゃ落ち着かないかなと(苦笑)
 で、この後はジャンらしさが発揮されて、アルティマニア巻末小説みたいになるといいな、なんて思ってます。


2005年07月27日 (水) 20時33分 (27)

幼い頃・04 隣の非と前の灯と (サモナイ3・アルディラ&ファリエル)
長山ゆう | MAIL | URL
 アルディラとファリエル、そしてシャルトスの力を用いたレックスによって遺跡が封じられてから、数時間後。
 シャルトスは、帝国軍と戦うレックスの手に戻ってきた。
 同時に発生した、大地を揺るがす地震と強烈な風雨。
 ――これらの出来事に、遺跡が何らかの関わりを持つとしか思えなかった。
 そう感じたからこそ、ファリエルとアルディラは、その夜のうちに遺跡を調査しに来たのである。
 しかし、遺跡は沈黙しており、異変が全く見られなかった。
 些か疑念が残ったものの、様子見が無難だろうと考えた二人は、念のため遺跡内部を破壊した上で、集落に戻ることにしたのである。

 二人が集いの泉へ戻る頃には、夜空に星が瞬くようになっていた。
「こうしてまた話が出来るなんて思いもしなかったわ」
 先程の暴風雨が嘘のように静まる中、不意にアルディラは口を開いた。
 しかし、一歩先を行く彼女には、背後の人物の表情を伺うことはできない。
 徒歩により生じる規則正しい鎧の音が、やや不自然に響いた。
 相手が立ち止まったらしいと気づき、アルディラが背後を振り向く。
 その表情が驚愕に彩られた。
 月明かりの下に、一人の少女の姿を見つけた所為である。
 幼さの残る顔立ち。柔らかに波打つ髪はリボンでまとめられ、風に揺れる衣服は彼女の愛らしさを引き立てている。その昔、彼女の兄が見立てたものだ。
 一見大人しい少女だが、剣術の冴えは見事なもので、彼女に適う者など数えるほどしかいなかったはずである。
 誰より兄を慕い、彼を守り、最後にはその身を盾にして戦った少女。
 アルディラの表情が和らいだ。
「本当に、貴女なのね、ファリエル……」
 だが、彼女は顔を上げなかった。
「ファリエル?」
「ごめんなさい……」
 絞り出すように小さく呟いた少女の一言に、アルディラは意表を突かれた。
 彼女の戸惑いに気づかぬまま、ファリエルは悔恨の思いを言葉に託す。
「すぐ近くにいたけれど、わたし、何も出来なかった。義姉さんが傷ついて苦しんでいるのがわかっていたのに、怖くて本当のことが言えなかったの……」
 ――この子は。
 その身を失い、精神だけを現世に繋ぎ留めながら尚、アルディラを案じていたのだ。
 集落をまとめ、護人としての役割を果たしながら、身近にいた義姉のことまでも。
 ……何故、気づかなかったのだろう。
 常に前線に立って同朋を守る、ファルゼンの姿はまさにファリエルそのものだったというのに。
「ごめんなさい」
 肩を震わせる少女の姿は、記憶に残るそれよりも小さく感じられて……。
 アルディラは思わず手を伸ばしたが、しかしむなしく空を切るだけだった。
「こんなに近くにいたのに、気づかなかったのね。私って、本当に愚かだわ」
 自身の迂闊さに恥じ入るべきはアルディラの方である。
 ましてや彼女はハイネルの幻影に惑わされ、取り返しのつかない過ちを犯そうとしていたのだから。
「義姉さん……」
「貴女が泣くことなんてない。苦しむ必要はなかったのに。ごめんなさいね、ファリエル」
 ファリエルが首を横に振る。
 これほど心優しい少女が、今日までの長い間、人知れず苦しんでいたのだ。
「二度と過ちを繰り返さないと、約束するわ」
 ファリエルが初めて顔を上げた。
 我が身を責める少女の様子に、アルディラは自身の罪の重さを改めて自覚する。
 これ以上、誰かを傷つけないために。
 そして、眼前の少女を悲しませないために。
「私たちはもう一人ではないもの。そうでしょう?」
 アルディラが発した言葉は、彼女が考えていた以上に力強く響いた。
 悲しみに沈んでいた少女の憂いを晴らすほどに。
「ええ……!」
 ファリエルの表情に控えめな、けれども心からの笑みが浮かんだ。


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 11話夜会話の後、こういうやりとりがあったのではないかと思いました。
 ファリエルがいじらしくて、アルディラの言動が切なくて、機霊ルートはもうツボでした…!
 …ところで、ハイネルとファリエルって服の趣味が似てる気がしませんか?
 でもってファリエルの服はハイネルの見立てではないかな、と…(笑)。
 (しかしあの服で剣を振り回すのは危険だと思う…)


2005年07月01日 (金) 20時06分 (25)

幼い頃・08 渦 (サモナイ3・クノン&スカーレル+レクディラ?)
長山ゆう | MAIL | URL
 久しぶりに島へやってきたスカーレルは、クノンに本を数冊と密封された袋包みを手渡した。
「はい、お土産」
「ありがとうございます。こちらは?」
「ふふ、帝国で人気の茶葉なの。美味しいわよ」
 アルディラの紅茶好きを知った上での土産に、クノンは嬉しそうに微笑む。
 ただね、とスカーレルは付け加えた。
「ちょっと曲者で、淹れ方が難しいの」
「そうなんですか?」
「うちの船のキッチンならタイミングもばっちりなんだけど、ポットが変わると条件が微妙に変わるでしょ?」
 どうやら、かなり繊細なものらしい、とクノンは納得する。
「細かな分量までアドバイスできないから、色々試してみてちょうだい」
「はい」
 せっかくもらった茶葉だ。おいしい紅茶をアルディラに飲んでもらいたい。
 しかし、クノンには食べ物の風味を感じるのが困難である。
 クノンが考え込むより先に、楽しげな声が彼女の注意を引いた。
「で、アタシからもうひとつアドバイス」
 唇に人差し指を当て、スカーレルはウィンクをしたのである。

 ラトリクスを訪れたレックスは、目的地に行く直前にクノンに呼び止められた。
「こんにちは、クノン。どうしたんだい?」
「実は、レックス様にひとつご協力をお願いしたい事があるのです」
「何かな?」
 クノンはスカーレルとの経緯を説明した。
「成程、紅茶の風味かぁ……」
 料理は分量の書かれたテキストがあればこなせるが、クノンにはこういった感覚に依存する味を理解するのは難しい。数値変換できない事柄には近似値が代用されるものだが、その幅は一定ではないのである。
「よろしければご協力いただけないでしょうか」
 それでも、アルディラの為に、彼女に近づくために一生懸命なクノンの姿はいじらしく、見ていて微笑ましかった。
 レックスは明るく答える。
「俺で良ければ喜んで」
「ありがとうございます、レックス様」
 クノンの笑顔は相手に優しい感情を抱かせる。そう、レックスは思った。

 一週間後。
 ラトリクスを訪ねたレックスを交えて、アルディラたちはティータイムをとっていた。
 クノンの淹れた紅茶を一口飲んだアルディラは、驚いた顔で彼女を見る。
「美味しいわ、クノン。これ、初めて飲むお茶ね」
「はい。先日スカーレル様がお土産に持ってきて下さったんです。レックス様と一番美味しい淹れ方を研究しました」
「ふふ、ありがとう。レックス」
「いや、役に立てて良かったよ」
 和やかに応えつつ、レックスが苦笑を漏らしてしまった事には理由がある。
 ……ひどくクセのある紅茶だったのだ。
 ここで淹れられた紅茶は、やや強い香りが独特の風味を醸し出す美味しいものだ。
 が。このタイミングを理解するまでが難関だった。
 適量より濃ければ強烈な香りが味にフィードバックする。薄ければ香りが曖昧で中途半端な味になる。
 実際、今の風味を出すまでは、本当に美味しい紅茶になるのかと疑った事が一度や二度ではなかった。
 しかし、アルディラのために一生懸命なクノンを見ると、やはり応援したくなるわけで……。
 レックスの協力を得たクノンは、時間はかかったものの、紅茶の風味を引き出す事に成功したのである。
 こうして一週間の成果を味わってみると、数々の失敗を思い出してしまう反面、だからこそ今の味が余計に美味に感じられる気もする。
 クノンは空になったそれぞれのカップに、再び紅茶を注いだ。
 二杯目は少し渋みが増しているが、これがまた深い味わいを加えていた。
 アルディラは楽しそうに笑っている。クノンも上機嫌だ。
 レックスは少々複雑な思いをしつつも、二人が楽しいならいいか、と納得したのである。

 ――彼は知る由もない。
 紅茶の試飲をレックスに頼むよう、クノンにアドバイスした者の存在を。


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 渦はやきもちの心、ということで(笑)。
 クノンに恋愛小説を薦めたスカーレルなら、こういうアドバイスもありかな、と思いました。
 基本的にクノンはレックスも好きですから、ちょこっとストレス発散させてあげないと(笑)。
 レックスはいい人です。ええ。でもちょっとくらい…ね?

2005年06月20日 (月) 20時43分 (24)

幼い頃・09 時雨唄 (アーク2・シュウ&トッシュ)
長山ゆう | MAIL | URL
『ゆめうつつ あけをいざなう しぐれうた』

「何だ?」
 言葉に不思議な響きを感じ取り、シュウはその呟きを発した男を振り返った。
 大木に背を預けたトッシュが、片方の目を開け、唇の端に笑みを浮かべている。
「いや、雨ってのも、なかなか風情があると思ってよ」
 言い置くと、トッシュは肩に抱いていた刀を手に立ち上がった。
 身体をほぐしながら、短く問う。
「頃合いか?」
「そうだな」
 行動開始までの間に交代で仮眠を取ったおかげで、すぐに動き出せる体勢は整っている。
 ただ、この冷たい雨が幾分身体の動きを鈍らせるかもしれない。

『夢うつつ明けを誘う時雨唄』

「……先程の言葉は何だったんだ?」
 ああ、とトッシュは小さく笑う。
「俳句ってヤツさ。短い詩だな。スメリアの言い回しを使って五・七・五で情景や心情を詠むんだよ」
「ほう」
「……親父が好きだったんだ。俺のは見様見真似だがな」
 雨に煙る景色に目を向けるトッシュの様子に、どこか照れが感じられた。
「時雨唄、か……」
 草花を打つ雨を唄と感じるとは風雅なものだ。言葉の響きも耳に心地良い。
 シュウもしばしに雨音に耳を傾けた。
 スメリアの言葉を編むことは出来ないが、風情は感じられる気がする。
「さて、行くか」
 少しばかり時間を置いて、トッシュは気分を切り替えるように告げた。
 短く応じたシュウの瞳が、雨の源を辿る。
「しばらく止みそうにないな」
 曇った空を見上げる彼に、愛刀・紅蓮を携えたトッシュが不敵に笑った。
「なぁに、好都合だぜ。雨に紛れて進めるってもんだ」
「確かにな」
 この天候なら、むしろ隠密行動には都合が良いだろう。
 振り向いたトッシュに頷いて見せ、シュウは荷物を背負い直す。
 やがて、二人は時雨の向こうへと姿を消した。


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 アーク世界では、国ごとに言語の違いがあるんでしょうか?
 スメリア=日本という印象があるので、俳句を題材に選んでみました。
 渋いトッシュが書きたくなりまして(笑)。
 こういう彼なら、やはり相方はシュウかなと。
 …書き手に俳句の才能がなくてごめん、トッシュ(苦笑)。


2005年06月06日 (月) 20時32分 (23)

幼い頃・03 竹藪 (サモナイ3・スバル&アティ)
長山ゆう | MAIL | URL
 授業の後、青空教室を片づけていたアティは、やや離れた大木の下に小さな人影を認めた。
 アティは作業の手を休めると、そちらへと足を向ける。
 普段は真っ先に帰るはずのスバルが、木にもたれかかり、俯き加減で足下の地面を蹴っていた。
「どうしたの?スバル君」
 弾かれたように少年が顔を上げた。しかし、すぐに俯いてしまう。
 アティが身を屈めて彼の顔を覗き込むと、スバルは躊躇いがちに口を開く。
「キュウマが、なんか、変なんだ……」
 そして、途切れ途切れに、スバルは昨日の出来事を言葉少なに説明した。

 鎮守の森で、一人佇むキュウマの姿。
 決意を秘めた横顔には、けれどもどこか思い詰めた様子が感じられ……。
 一陣の風が起こした笹の葉擦れの音が、ひどく耳に残る。
 どうしても彼に近づくことができず、竹笹の影から、その姿を見つめることしか出来なくて。
 背後の気配に対する誰何の声は鋭かったけれども、仕える主君の姿を認めるや、物静かな普段の彼に戻っていた。
 ……いつもと変わりない筈なのに、あの横顔が忘れられない……。

「おいらを見た時のキュウマはいつも通りだったと思うんだ。けど、なんかおかしい感じがしてさ。それで……」

 城の縁側で、ミスミは庭を眺めていた。
 背筋を伸ばして端座する彼女には、一種近寄りがたい雰囲気が漂っている。
 その表情は伺うべくもないが、膝の上に組まれた両手は、固く握りしめられていた。
 我が子の呼びかけに振り向いた彼女は、笑みを浮かべていたものの……。
 ――泣き笑いにも似た、どこか頼りなげな表情だった。

「おいらが学校の話をしてるうちに、母上も元気になってくれたけど……結局、話せなかったんだ。キュウマのこと」
 でも、何かヘンなんだよ、とスバルは小さく呟く。
 そんな彼を見ていると、心の内をうまく表現できないもどかしさが伝わってきた。
 実を言うと、アティも普段と様子の異なる二人を目撃していたのだ。
 ミスミがあれ程までに怒りに声を荒げる所を見たのは初めてだったし、抑えてはいたものの怯む様子のない、むしろ強い態度のキュウマにも驚かされた。
 どのような話だったのか伺い知ることは出来ないし、部外者の自分が口を挟むべきでない事も承知しているつもりだ。
 ――だが。
「先生も、ちょっと気になってたの」
 不安を隠しきれない少年を目の当たりにしては、そうも言っていられない。
「だから、それとなく尋ねてみます」
「本当?」
 顔を上げたスバルの期待に満ちた眼差しに、アティはしっかりと頷いて見せた。
「ええ。だから安心して。ね?」
「うん!ありがとう、先生!」
 スバルが笑顔を浮かべた事に安堵し、アティもまた笑みを返す。
 アティ自身、気になることは多々あるのだ。護人たちに尋ねたいこともある。
 不思議と、それらは一本の糸で繋がっている気がしていた。

 ――それは、後に起こる出来事に対する、一種の予感だったのかもしれない。



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 好感度が低い場合、泉でのキュウマの暴走を止めるのが、ミスミ様とスバル君です。
 キュウマの様子がおかしい事には、スバルも気づいていたんじゃないかと。
 子供にとって、身近な大人の存在は大きいのではないかと思います。
 キュウマってあれで隠し事は苦手な感じがします。根が素直というか…(笑)。

2005年06月06日 (月) 20時28分 (22)





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