無限界廊を進む中、そろそろ最下層に手が届くかという所までやってきた、その時。 悲劇は起こった。 「きゃああああーーっ」 その界廊へ全員が足を踏み入れた途端、黄色い悲鳴が全員の鼓膜を刺激する。 咄嗟に、数名が両手で耳を塞ぐ羽目になった。 「ななな何でこんな所にアレがいるんですかー!?」 「や、やだやだちょっと動いてるよ!?」 手を取り合って青ざめる者、約2名。 「ったく、何だってんだ、いきなり!」 「だだだだってアレ、ちょっと動いてるし!!」 カイルの文句など聞こえていないらしく、ソノラは震える指先でこのフロアに陣取る大型の虫――ジルコーダの女王3体を指し示す。 「ほぉ、無限界廊ってのはこんなヤツまで出てくるんだな」 「女王も動くんですか!?」 「オレも巣穴以外で見るのは初めてだ」 ヤッファは興味を引かれているらしいが、アティやソノラはそれどころではない。 「せ、先生、悪いけどアタシ今回パスね。うん、ちょっと休ませてもらおっかなー」 「あ、ずるいですよ!じゃあ私も」 「ちょっとセンセ、召喚術の要の貴女が抜けてどうするの」 「だ、だって……」 「ソノラの代役はヤッファのおっさんに頼むにしてもだ、あんたの代わりはいねぇんだぜ」 スカーレルとカイルの二人がかりで諭され、アティは今にも泣き出しそうな顔で周囲を見回す。 しかし、助け船を出してくれそうな人物は見当たらない。 「せ、先生、ほら、魚釣りの時は虫だって平気じゃないか」 「サイズが全然違います!」 ナップのフォローも逆効果である。 「じゃが、あの時一番奮戦したのはそなただと聞くぞ?」 「ええ、貴女が率先して進んでくれたおかげで、女王を送還できたんですもの」 「あの時は無我夢中だったんです!ミスミ様やアルディラは平気なんですか!?」 「大きすぎるきらいはあるけれど、連れて帰るわけでもないし」 「確かにちと見目は悪いがの」 「スカーレルは、あの時苦手って言ってましたよね?」 「見ていて気持ちのいいものじゃないけど、センセほどじゃないかしらねぇ……」 スカーレルも虫の類は苦手だが、目の前でここまで大騒ぎされると、却って冷静に対処できるものだ。 半泣きのアティを見るに見かねて、キュウマが助け船を出した。 「これほど嫌がっておられるのですから、今回アティ殿には待機していただいては」 アティの顔に希望の光が射す。 しかし。 「あの女王たちを物理攻撃だけで倒せると思うか?」 沈黙。 「……申し訳ありません、アティ殿」 唯一味方になってくれた人間があっさり退いてしまうと見るや、アティは背後の大柄な鎧姿の人物を振り仰いだ。 一見大柄な男性のようだが、鎧の中身はまだ少女らしさを残す女性である。 「フ、ファリエルは?あれって怖くないですか!?」 「……じ、実は私もちょっと。でも私は物理攻撃専門だから今回は遠慮させてもらおうかと……」 「まぁ、ファリエルの場合、魔法防御にも問題があるものね」 「ああ、今回必要なのは召喚術者ゆえ」 すんなり待機が決まった事に安堵したものの、ファリエルは済まなげな声でアティへ詫びる。 「すみません……」 こうなるとまさに孤立無援、救いの主は現れそうにない。 アティは悲愴な面持ちで女王たちを見やった。 そこへ、ことさらに明るい声が掛けられる。 「はいはいセンセ、こうなったら覚悟を決めてちょうだいな」 「スカーレル……」 瞳の端に涙を溜めた顔で見上げられ、スカーレルは苦笑する。 「大丈夫、アタシたちが絶対アレをセンセに近づけさせたりしないから」 「……本当に?」 「もちろんよ。だからちょっとだけ辛抱してちょうだい。ね?」 スカーレルの励ましに、アティの表情が少しだけ和らぐ。 「……あちらは彼に任せておくとして。全員アクセサリを変えておきましょう」 二人からやや離れた位置にさりげなく移動したヤードが小声で提案する。 「何でまた」 「今回必要なのは魔法防御力です。特に前衛は注意しなくては」 「笑えねぇな、おい」 「『抗魔の領域』を持つミョージンとペコは必須じゃな」 「『召喚災害保険』も入れておくべきね」 既に今回の対策相手は変わっているが、全員本気だった。
そしていざ戦闘開始。 「いきなり抜剣するか!?」 「来るわよ、ヴァルハラ!」 「は、早すぎます!」
機界の最強召喚術の光が、ゴルゴーダを始めとする魔獣たちを包み込む。 我先にミョージンへ駆け寄る前衛組にとって、召喚獣の姿は後光が差して見えたという。
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サモ3初のコメディに挑戦。楽しかったです(笑)。 ……実はまだ無限界廊深層へ入ったことがありません。 が、女王3体が迫ってくると聞きまして、ついネタにしてしまいました(笑)。 アティでなくても、あんな大型の女王アリが3体も出てきたら、逃げたくなるでしょう。ええ。
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