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『犬祭4』 狗の怪談の間

怪談・奇談の間へようこそ。蝋燭を灯し、どうぞ心ゆくまで寛ぎください。

奇怪な話をお持ちのお方は、ぜひこちらをご覧くださいませ。

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魔犬 [Machine]
語り部 卯月音由杞

 僕の街には鎖につながれた犬がいたんだ。大きくて、真っ黒。尖った耳と赤い目の。
 魔犬だ、って大人たちは言うの。恐ろしい怪物なんだって。だからこうして檻に入れて、鎖でつないで、城壁の片隅に閉じ込めておくんだって。うなり声を上げると、石を投げられてた。吠え掛かったりしたら、棒で突かれてた。それにあの笛、暴れ出して止まらないときでも、城門の衛兵が持ってるあの笛の鋭い音を聞くと、倒れて眠ったように動かなくなってしまうの。
 でも僕はその犬が好きだったんだ。夕飯の後で、母さんに見つからないようにこっそり抜け出して残り物をあげたりしたよ。
 なんでこんな目にあっているのかな。僕に向かっては吠えたりしない。ただ、赤い目でじっと見つめてくるだけだったんだ。あの笛の音で倒れてしまうのも見たくなかったから、僕はこの犬の耳に詰め物をしてあげた。市場でくすねてきた、遠方で採れる柔らかい「ごむ」とかいうアレ。いつもは丸めて投げて遊んでるの。そうしてあげたら初めて、うれしそうな顔をしてくれたよ。
 その翌日だったんだ、盗賊たちが襲ってきたのは。
 小さな街だったから、五十人ばかりの盗賊でも、古びた城壁を落とすのはわけないだろう、って思った。でも大人たちは、妙に興奮してた。襲われる恐ろしさにじゃなくて、怒りと喜びとで。
 魔犬! 魔犬だ! 魔犬を放て!
 そう言いながら衛兵たちは、あの犬の檻を城門の上から投げ落とした。檻は壊れて……とても犬とは思えない、死ぬ間際の豚みたいな悲鳴を上げながら、犬は鎖を引きずったまま、弓を番えた盗賊たちに飛びかかって行ったんだ。
 城壁の上で見てた僕は、足が動かなかった。だってあんなのって……盗賊たちの合間を駆け回る黒い風が、全員の喉を食い千切るまで、一瞬にしか思えなかった。
 衛兵があの笛を吹いたけど、魔犬は止まらなかった。そうだ、きのう僕は……。
 恐ろしい吠え声がもうひとつ、そして真っ直ぐに立った城壁の割れ目に足をかけて駆け上ると、犬は僕の目の前に降り立って、そこで不思議そうな顔をして動きを止めたんだ。
 衛兵と、街の全員に飛びかかっていったのはそのすぐ後のことだった。
 僕を残して誰も助からなかったんだ。
 獲物を全部仕留めると、あの犬は、魔犬は、恐ろしい速さで城壁の外、荒野に向けて飛び出してった。その後の魔犬のことは、僕も、誰も知らない。ときどき聞こえるあの地鳴りのような吠え声を除いては。

[37] 08/31 00:28
涼しくなった(111)
ほっとした (81)
感想
[涼しくなった] まあぷる ちょっとダークなメルヘン調のお話ですね。子供の犬に対する優しさが思わぬ結果を招いてしまう。他意がないだけに、悲惨な結末に薄ら寒い虚しさを感じました。 39
[感想] 卯月音由杞 感想ありがとうございます。

>まあぷるさん
ホラーや怪談て書いたことがないので、どう恐怖を表現したらいいのかよく分かりませんで……こういう悪い偶然と理不尽さもまた恐怖かな、と思って書いてみた次第です。
しかし、1000文字って難しいですね……。
43
[涼しくなった] 天然記念狼 小さな親切大きな迷惑、じゃあなくて、えっと、何だっけ、知らない者ほど怖がらない、ってやつか。ま、子供じゃなくて、大人に現実にいるんですよね。それを皮肉った表現がトムソーヤーの冒険の最後に出て来たのを思い出してしまいました。って全然違うか。ともかく身に沁みました。 56
[感想] 卯月音由杞 感想ありがとうございます。

>天然記念狼さん
恐ろしさを知らないほど偶然とはいえ恐ろしいことをしますよね。ただ、犬からすれば単純な兵器・機械扱いの境遇から逃れることが出来たという話にしたかったのですが、ここまで皆殺しだとそのような印象を与えるのは難しいかな、と思った次第です。
怪談て難しい!
62
[涼しくなった] 道三 > 僕を残して誰も助からなかったんだ。
 この一文が活きる構成でした。直接書いていないのに、異国ないし異世界の雰囲気がよく醸しだされておりましたです♪
65
[感想] 卯月音由杞 感想ありがとうございます。

>道三さん
競作部門に投稿したのと同じ世界設定の使い回しです(汗)。和風なしつらえのページなのにこれはいいのかなあ、と思いつつ……喜んでいただけたなら、まあいいか、と。
70
[<span style="color:blue;">涼しくなった</span>] 茶林小一  ホラーや……。まさしくホラーや。この善意ややさしさが踏みにじられる様にこそ、ホラーや怪談の真骨頂があると思います。涼しくなった。 85
[<span style="color:blue;">涼しくなった</span>] 迅本 卯月さま、こんばんは。
拝読致しました。 一般の部で投稿されているお話と、両面になっているのですね。 1000字しばりでありながら、それを超える世界観を感じました。 技ありと同時に、ヒヤリです。 いいものを読ませて頂きました。
90
[感想] 梅(b^▽^)b 自分は機械犬のお話を書いたのですが、こちらは機械扱いされた犬のお話ですね。 魔犬の動きが鮮やかに見えるようでした。 よかったです。 99
[感想] 卯月音由杞 感想ありがとうございます。

>茶林さん
ホラーというと読むのはラブクラフトくらいのものなので、超越者がこざかしい人間の努力をワハハと押しつぶす話になってしまうのかもしれません…しかし確かにそこにホラーはあるな、と思う次第です。

>迅本さん
始めは、このくらいかな? と思って書いたら1500文字を超えていて頭を抱えました(汗)。いろいろ削って舞台を具体的に描かなかったのが逆に良かったのかな、と。

>梅(b^▽^)bさん
見せ場の魔犬が暴れ回るシーンはあっさり書きすぎかなあ、とも思いましたが、かえって良かったでしょうか。

感想ありがとうございました。
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