うちのジョンは変なものを持ち帰る癖がある。
　最初は棒きれやゴムボールといった、他愛のないものだった。「いい子、いい子」と誉めてやると、とても誇らしげな顔をした。
　時間もだいたい決まっていて、朝刊を取りに扉を開けるころ、玄関ポーチにちょこんと置いてある。
　どうも夜寝ているあいだに、こっそり垣根から外に抜け出しているらしい。庭に犬を放し飼いにする私がいけないとは思うのだが、どうしても鎖につないでおく気になれないのだ。
　子どものズック靴が片方とか、男物のかつらとか、演歌のカセットテープとか、思わず笑ってしまうものも少なくなかった。一度だけ、小鳥の死骸があったときは、さすがに悲鳴を上げた。きつく叱っておいたから、もうそれ以降は、気味の悪いものは持ち帰らなくなった。
　ひとり暮らしで家に閉じこもりがちな私は、次第に飼い犬の冒険のおみやげを楽しみにするようになった。
　ところが、ある日、ジョンはとんでもないものを持ち帰った。
　真珠のネックレスだ。
「こんなもの、どこで？」
　と訊いたが、ジョンはただ得意そうに、頭をなでられるのを待っている。
　たまたま前の日に、折り込みの通販のチラシを見ながら、「欲しいなあ。真珠のネックレス」とつぶやいていたことを思い出した。
「まさか、あんた。あれを聞いてたの？」
　それから数日すると、ポーチに新品のスマートフォンが一台置いてあった。
　今度こそ、間違いない。私はその前の日にジョンと散歩しながら、わざとそうつぶやいてみたのだから。
「あんたって、まるで花咲かじいさんの犬みたいね」
　32型の液晶テレビを見つけたときは、たまげた。テレビの角にかわいい歯型がついている。小さな柴犬のどこにそんなものを引きずる力があるのだろう。
　私はジョンを利用して、欲しいものを自在に得る生活を営み始めた。友人とランチや小旅行を楽しむ元気も出てきた。
　車の免許を取ったら、またつぶやいてみようかな、さすがにワゴン車は無理かな、などと考える。
　ある日、離婚調停中の夫から電話があった。私は電話口で、また盛大な口論を始めてしまった。
　若い女と不倫したあげく、家を出て行った夫。
　思わずつぶやく。「あんなやつ、顔も見たくない」
　次の朝、玄関の扉を開けた私は、大きな物体を見つけた。
　ジョンたら、気味の悪いものはだめよと、あれほど言ったのに。
　それには、私の要望どおり顔がついていなかった。