夏休みの宿題に、猫の怪談を千文字で書けと言われた。
　まず
『猫が犬を食う話』
が良いと思ったが、考えてみれば虎だって犬は食わない。犬を食うのは人間ぐらいだ。それに食われたぐらいじゃ怪談にならない。
　次に
『猫が犬になる話』
を思いついた。でも、こっちは巷に溢れている。ヤクザや権力の犬の３割ぐらいは猫なで声をしているではないか。馬鹿馬鹿しくなってこれ以上考えるのを止めた。
　では
『猫が犬を生む話』
猫好きが猫を飼っていた筈なのに、それが犬を生んだらさぞかし怖いだろう。だが、今は時代が違うのだ。遺伝子工学の発展を考えれば、猫が犬を生む話はSFにはなっても怪談ではない。
　類似ネタで
『猫が犬に憑く話』
それって犬がニャーと鳴いたり鼠を追いかけたりする訳で、これではコメディだ。
　逆に
『猫が犬と話す話』
猫がワンって言ったら犬はどう反応するだろう・・・童話の世界だ。

　どうも設定が簡単過ぎるのがいけないようだ。そこで今度は
『猫が犬をそそのかして狗を滅ぼす話』
現代そのものの寓話ではある。でも、いくら猫怪談とはいえ、狗が可哀相でちょっと書けない。
　次は
『猫が主人をたぶらかして犬を放逐する話」
既視感があると思ったら紫苑物語だった。猫ではなく狐だけど。
『猫が犬小屋を占拠する話』
いや、これは怪談ではないよなあ。コミカルな話しか思いつかない。
『猫が犬に木登りを教える話』
うんうん、犬が木に登れるようになるとさぞかし怖いだろう。だがだ、猫と虎の話ではないが、そんな馬鹿な猫が存在するとは物語の上でもあり得まい。
『猫が犬と一緒に水泳をして橇を引いて一目散に走るトライアスロンをする話』
泳げる猫は無理すれば想像出来る。でも橇を引く猫なんて、怪談世界ですら想像出来ない。
『猫が犬軍団を率いて人間を滅ぼす話』
うー、これは怪談と云うより夢だよねえ。だって、この場合の人間って悪の組織に決まっているし、猫は正義の味方の女の子が変身した姿に違いないし。
『猫が犬と人格交換して人をからかう話』
これも既視感があるが、そっか聊斎志異だ。もっともアレも狐だけど。

考えているうちに、いつしかネタが９９個もボツになっていた。
ローソクは僅かしか残っていない。消える前に考えつくか、考えついたら消えるのか・・・。