オレは半端な男じゃない。それはいままでについたあだ名が物語ってる。
　最初についたのが『伝説の男』。小学生の時、誰よりも早く伝説のポケモンをコンプした。
　その次は中学、『二宮殺し』だ。ふざけてて薪背負ったおっさんの銅像を倒しちまった。でも壊れなかったから未遂だと思うが。
　次が『ジャックナイフの富蔵』だ。これは高校ん時のあだ名だが好きじゃなかった。安直で全然イカしてねえ。だから別のネーミングを自分で広めた。触れれば切れる鋭さがあって安直じゃねえあだ名――『関の包丁トミー』だ。和風テイストも織り交ぜた分、名前を英語っぽくしてバランスをとった。
　そんなオレも車には勝てなかった。道路で立ち往生した犬を庇ってトラックに跳ねられた。気がつけば目の前に天使がいやがった。
　小学生男子ぐらいの姿に白くふわりとした服。何もない薄暗い世界でふわふわ浮いている。
「やあ、元気？」
　はあ？　コロスぞ、天使。
「まあまあ、そう眉間にしわ寄せないで。キミは犬を助けてんだんだ。覚えてる？」
「ああ。犬はどうなった？」
「無事さ」
　よかった。オレはこれでも無類の犬好きだ。それに考えてみりゃ犬を庇ってぬのもイカした幕切れかもしんねえな。
「で、キミの行き先は……記録によると生前の行いはどっちかって言うとワルいね。だから地獄でいいかなって」
　大雑把で軽いな、天使。
「でもね、キミが助けた犬にお願いされたんだ。天国に行かせてあげてって。その代わり何でもするからって」
「犬って天使と知り合いか？」
「天使なんてどこにでもいるさ。人間の目だけが薄汚れてて見えないってだけ」
　なんか腹立つ。コイツ腹立つ。だが、ワン公ありがとな。
「あそこにある階段登って最後まで行けたらそこが天国ね。でも登れなかったり階段が崩れたら地獄行き」
　天国への階段ってか？　そんな歌があったな。天使が指差す方をみたオレは息をのんだ。
　確かに階段があった。同じ犬ばかりが一列に並び、高さを変えて空まで続いている。天国への階段は犬の階段だった。
「これを登れって？　犬大好き人間のオレに？」
「それしかないよ。でも犬が耐えられるかなあ」
「ボクなら大丈夫です」
　犬がしゃべった。間違いない、あの時助けた犬だ。だが驚く余裕もオレにはない。
「大丈夫ですから」
　いや、お前チワワじゃん。小っせーじゃん。ぷるぷる震えてんじゃん。踏んだら絶対潰れるじゃん。
「怖えーよ、ある意味」