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[500]雪夏 [ Mail ] [ HOME ] 2007年03月11日 (日) 02時15分
創作FT・童話風の小説メイン、児童文学・YA小説・童話好きな方
に。

【ナナシノハナシ】「ただ懐かしき」「さいご」アップいたしました。
定期更新最後となります、ありがとうございました!

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 ナナシはぎゅっと握りしめました。
 それが何かは知るところではないのですが―――だって不思議と視覚できないので―――ナナシはただぎゅっと握りしめました。
「なぜだろう。ボクにとってこれは、とても大切なんだ」
 理由も知らず、ナナシはただただそれを大事にしました。(でも具体的にどう大事にしたかはナナシにもわかりません。)
 道行く人たちに手の中に何を持っているのか尋ねられても、ナナシはただただ
「とても大切なので、見せられません」
 と言うばかりです。(でもナナシにも何が大切なのかわかりません。)
 ある日出会った人に、ナナシはやっぱり手の中のものが何か尋ねられましたが、同じ答えを言いました。
 するとその人は不思議そうにナナシに言いました。
「自分でもなぜ大切なのかわからないのに、それでも大切にするのかね?」
「だってボクには、これしかないんです」
「それが何かもわからないのに、それでも大切にするのかね?」
「だってボクには、これしかないんです」
 ナナシの言葉にその人は「うむ」とひとつ、頷きました。
「ではそれを、私がいただくことにしよう」
 そう言うと、その人はナナシの手の中からそれを盗んでしまいました。
 とても綺麗に、とてもあっさりと。
「返してください!」
 ナナシが怒ったように叫びます。
「いいや、返さない」
 その人は言いました。

【ナナシノハナシ 「ただ懐かしき」より 】

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