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[577]橘高 有紀
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2008年04月27日 (日) 18時57分
少年は旅に出る。たった一人、遠い異界の地へと――
「どうして? ラッカは仲間じゃないのか!? 具合が悪いんだ、お願いだからラッカだけでも、だれか!」 なぜ、どうして、とエドが訴えてもトリビトは聞いてくれなかった。あの赤い目をたぎらせ、トリビトの持つ鉤爪や悲鳴、石やバリケードでもって拒絶する。支柱から出てきたものはすべて敵だと思っているのか。リンの存在がそんなにも彼らを脅かしたと言うのか。 彼らの目は狂気が渦巻いているように見えた。これが、本当にトリビトだろうか。まったく別の種族ではないかと、疑いたくなる。列車の窓から覗き込んだあの穏やかさは、微塵もここにはない。 「だれか、ラッカを助けて! だれか――」 エドの叫びが空しく、白の街(オーバールウ)にこだました。立ち上がれないラッカをかばったエドの額になにかが当たる。戦慄した。どうして? ラッカも一緒にいるのに。じわり、とエドの額から広がる赤い色と痛み。今もなお止むことのない罵声と集中する投擲。ラッカは白の種でトリビトなのに! どうして彼らはそれがわからない。 (ラッカは仲間じゃないのか?) 同じ問いかけが、今度は猜疑心とともにエドを打った。敵意が全身にたたきつけられる。エドは異端視された少年へ覆いかぶさるようにして、唇をかんだ。ラッカを守らなければ、ととっさに思ったのだ。そこに今度は別の煌きが飛んでくる。身を盾にしたエドの足に灼熱が走った。 「……っ!」 悲鳴は、あげなかった。エドのズボンが赤く染まっていく。身体の芯が凍えた。鋭い刃はラッカを狙っていたのだ。同じ仲間であるはずのラッカに。ぎゅ、とラッカをかばう腕に力をこめて、エドが大きく息を吸ったときだ。 「エド、もういいよ……」 静かな、小さなラッカの声を、エドの耳が拾った。か細いそれが聞こえたのは、きっとエトムントただ一人だけ。ハッとなって腕の中の少年を見下ろせば、彼は青白い顔のまま少しだけ微笑んだ。 「もういい、から……。ありがとな……」 その瞬間、エドの中のなにかが崩壊した。必になってこらえてきた何かが、強い感情となって少年を動かす。エドの縦長の虹彩は細くなり、金色に光った。怒りで眩暈さえしそうだ。 「仲間が倒れてるんだぞ。お前ら、ほんとうにトリビトか。ラッカが一体何をしたって言うんだ!」 (3章 白と黒の王国16話より)
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児童書風ファンタジー小説『リンのてがみ』。3章 白と黒の王国17話UP。 それは、リンが気を失っている間のできごと――
『リンのてがみ』直行URL ⇒ http://hakushi.chips.jp/ht/tabi/Lin.htm
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