[ No.268 ]
第70回日本アレルギー学会学術大会参加報告
投稿者:
2021年10月18日 (月) 09時49分 |
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会期:2021年10月8日(金)、9日(土)、10日(日) 会場:パシフィコ横浜 ノース
第70回日本アレルギー学会学術大会に参加したので、講演について報告する。 免疫舌下療法については演題が多く、現時点での実情がわかるように複数講演の報告をすることとした。
【乳幼児の免疫機構とアレルギー疾患発症予防戦略】 森田英明ほか(国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー・感染研究部) ・アレルギー発症の3要素は「バリア機能の低下」「自然免疫応答」「獲得免疫応答」。 ・乳児期にアトピー性皮膚炎/湿疹を発症することにより、バリア機能が低下し、そこから抗原が侵入 してIgE抗体の獲得が引き金となり、食物アレルギー、気管支喘息などを発症することが知られている。このアレルギーマーチは小児の特徴である。よって、乳児期に積極的に皮膚湿疹を治療することで食物アレルギーを予防できるのでは?と考えている。 ・妊娠中のマウスにIgE抗体を打つと、生まれた子供は生後4カ月くらいまでIgE抗体を産生しない。まだ動物実験の段階だが、アレルギーの発症予防に効果的かもしれない。 ・アメリカでの実験。妊娠中のヒトにオマリズマプ(ゾレア)(抗IgE抗体)を投与すると、生まれてきた子供の抗IgE抗体の血中濃度は母親よりも高いものとなった。子供に直接打つよりも母体に打つ方が抗体値が高くなるという結果になった。 →乳児には湿疹の段階でまずは積極的な治療を行うことが大切である。保湿剤塗布+ステロイドで肌を整えることによりアレルギーマーチの進展を予防することができる。将来的には生まれる前からのアレルギー対策ができる可能性もある。
◎免疫舌下療法 【小児における舌下免疫療法の実際と新たな取り組み】 佐藤さくらほか(国立病院機構相模原病院臨床研究センター) ・スギ花粉アレルギー患者は低年齢(就学前)も増加している。 ・体重の違いは有効性に影響なし。 ・服薬中止後も2年間は治療効果が継続。少なくとも3年間は継続が望ましい。 ・気管支喘息への効果は気道改善性試験を実施し改善はみられたが、まだエビデンスレベルではない。 ・現在、1〜4才のダニ舌下療法の研究を行っている(4施設)。低年齢で介入することにより今後どうなるかを見ている。来年の学会で結果が発表ができるかもしれない。
【舌下免疫療法の新展開】 大久保公裕(日本医科大学大学院医学研究科頭頚部・感覚器科学分野) ・1年間しかやらなくてもしっかりやれば、そこでやめても効果は残る。3年目までは効果あり。4年目は有意差は消えるが効いてはいる。 しかし、期間依存性があるので、1年間よりも2年間、3年間続けた方が、より効果は出る。 ・小学生まではサポートが必要と考えている。開始するにあたり、まずは1分間つばをのみこまずにためられるかをみている。それができる子であれば、舌下療法は可能であると考えられる。 ・新型コロナの予防接種の日は投与をお休みさせる。感染したときも一旦中断させている。 ・歯の生え変わりで出血ある時も休薬を提案している。 ・胃部不快感や下痢などの消化器症状には吐き出し法への変更も検討している。 ・一緒に処方する抗ヒ剤は、前もって服用しておいてもOKと言っている。 ・患者の20年後を考えると、5年間継続してもよいかもしれないとは考えている。 ・免疫舌下療法の継続をやめるときに患者に伝えていること。 1.時間の経過とともに再び症状が出ることがあること。 2.また症状が出たら再開できること。 3.症状再発で治療が必要になったら来院すること。 ・続けてないと不安という人もいる。続けるのもアリだが、最終目標をどこにするか。1回休薬をすすめて、症状出て再開すればまた効果は出ると伝えるのもアリだと考えている。 【アレルゲン免疫療法の治療予後―治療終了後の有効性−】 後藤 穣(日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頚部外科) ・免疫舌下療法において、今のところ、どのような人が有用かどうかのマーカーの検証はされていない。 ・今後の課題としては、「ダニとスギの併用」「治療後の効果の継続」「ヒノキへの応用」 ・服用終了について。基本的には継続しなくてはいけないものではない。3〜5年と言われているが、また再開すれば効果は出るので、その時点で一旦やめてもよいと思っている。自分は3年間で一旦中止している。 【2018年にスギ舌下免疫療法を開始した小児患者の経年的検討】 川島佳代子ほか(大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター) ・15歳以下、N=26、開始時平均10.4歳 アレルギー合併80%(喘息、食べ物、AD) ・継続率 1年目 97%、2年目 87%、3年目 72% ・中止理由 毎日できない、通院できない、転居 ※副反応での中止例はなし。 ・副反応 口腔掻痒8%など。全身例はなし。 ・薬物スコアは成人と同じで1年目からスコア低下傾向あり。 ・重症度の変化 何らかの改善(1段階以上の改善)88.4% 。ただし、改善にばらつきがあるため、今後も詳細な検討が必要。 ・3年続けた後には、ほぼ全員がもっと続けたいという回答だった。ただし、これは最初の年齢が平均10.4歳であり、3年後でも平均13.4歳だったというのも関係があるかもしれない。15歳くらいになると学校や部活動などで忙しくなることもあり、継続が難しくなるかもしれない。 【スギ花粉舌下免疫療法薬によるヒノキ花粉飛散期間のアレルギー性鼻炎症状に対する評価】 黒川友哉ほか(千葉大学) ・スギ花粉の飛散時期は2〜4月。ヒノキは4〜5月。スギとヒノキは同じヒノキ科であり、高い相関性がある。 ・ヒノキ花粉飛散ピーク期間にシダキュアを投与し検討したところ、鼻症状が有意な低下を示した。 ・特異的IgE抗体の変化量の推移は、スギもヒノキもかなり類似している。 ・シダキュアがヒノキのIgE抗体に影響を与えていると考えられる。 <結論>シダキュア5000は、ヒノキ花粉に対する症状を有意に抑制する有用性を示した。 ただし、詳細なメカニズムについては、今後の検討課題となっている。 【スギ・ダニ舌下免疫療法の治療成績と併用療法の検討】 永倉仁史(ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック) ・発売からしばらくたち、今は治療終了の判断が求められる時期に来ている。 ・今後は新規感染の抑制、ほかのアレルギーの発症の抑制 などの検討が必要。 ・服用終了後の持続効果については、引き続きエビデンスの集積が必要である。 ・服用後2時間(風呂や運動禁止)のしばりについて。 運動など心拍を上げるものは避けるべきだが、お風呂は症状が安定している患者なら2時間たたずに入ってもよいのではないかと考えている。 ・脱落を下げるために心がけていること。 @初期の副反応に注意 A抗ヒ剤を一緒に処方 B何かあったら写真を撮るように伝える。C何かあったらすぐにCLに連絡するよう伝える。 【アレルギー性鼻炎治療の現在】 阪本浩一(大阪市立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉病態学) ・アレルギー性鼻炎の罹患率はほぼ50%で、最近の傾向は9歳までのスギ花粉の有病率がアップ。 ・今までは子供は通年性アレルギーがメインで、成人して花粉の方が多くなっていたが、今は逆転して、 子供も花粉症がメインになっている。 ・ステロイド点鼻は有効性が高く、副作用の割合が低い。小さい子から使える(抗ヒ剤だとのめないものもある)ので、小児にステロイド点鼻は効果的である。 ・免疫舌下療法は、自分は5年間継続を目指して実施している。 ・小児への免疫舌下療法は早期介入が大事。今は5才から使える。 ・フランスでは喘息発症予防効果も発表されている。 ・新規アレルゲン感作予防効果も報告されている。 ・舌下療法を2カ月間やると抗ヒスタミン剤がいらなくなる人がほとんどである。 ・ダニの場合は抗ヒスタミン剤を必ず一緒に出すようにしているが、継続している間に自然に抗ヒスタミン剤は服用しなくてもよくなり使わなくなる。 ・舌下免疫療法は、現状では唯一の花粉症を治しえる治療法。しかし全員には効かない。 20%治癒。30%かなりラクになる、20〜30%症状あるが以前よりラク。10%効果なし。 ・舌下療法で注意が必要な人→重症AD、重症食物アレルギー、総IgEが高い人、重複抗原が多い人、 →これらの人は副反応の重症度が高くなるため注意が必要。 ・シダキュアとミティキュアの併用について ダニある人はダニからが基本。季節によってスギから治療開始。5分あけずに連続して服用していいと言っている。 →「3年間の継続で、そこで中止しても2年間は効果が持続」というのはデータでも出ているが、そこから先の継続期間の検討、効果の持続については、さらに検討が続いている。 治療方針についても具体的な例も多くあげられていたが、施設による違いもあり、さらなるエビデンスの集積が待たれることとなる。 また、効果がある人、ない人の差も課題となっているが、治療反応性の予測の試験(血清ペリオクチン値で判定)も行われており、将来的には効果がある人を同定してから治療導入ということになるかも しれない。
【食物アレルギー研究の最新の進歩】 千貫裕子(島根大学医学部皮膚科) ・0歳の時点では、卵、ミルク、小麦が3大アレルゲンだが、加齢とともに治ることが多い。 ・18歳になると、アレルゲンは甲殻類、小麦、魚類、果物の順となるが、治る可能性は低い。 正しい診断と適切な対処が大切となる ・診断については、アレルゲンコンポーネントを用いた血液検査が正確だが、今は10項目のみしかないため、さらなる検査項目の拡大を期待している。 ・遺伝子レベルで診断することも可能になっている。 ・「感作には4種類ある」(1)経皮感作 (2)粘膜感作 (3)気道感作 (4)経口感作 それぞれの対応が ある。 ・加水分解コムギ含有石鹸の事件で、経皮感作の重要性が広く知られることとなった。 その後、石鹸を中止後4、5年で治るデータも出てきている。このように、経皮感作は、感作経路を 断つことができればアレルギーは治りうる。 ・治療は、原因食物を避けることから、可能な範囲で食べる時代へと移行している。 ・魚アレルギーを治すためにしていること。 (1)まず、乾燥肌、湿疹のコントロール(プロアクティブ療法を用いて悪化させないようにする) (2)食べられる魚は食べてもらう。カツオやマグロからはじめることが多い。抗ヒ剤を一緒に服用。 今まで大きなトラブルはない。 ・粘膜感作から始まる食物アレルギー 代表的なのは、花粉−食物アレルギー症候群、(シラカバ、ハンノキ→交差反応→リンゴ、モモ(バラ科)) 花粉感作が減弱すれば、交差する食べ物アレルギーも治りうる。今は花粉の免疫療法はスギのみだが、今後、ほかの花粉への拡大も期待している。 ・低年齢は経皮感作の卵、牛乳アレルギーが多いが自然に治ることが多い。学童期までに治らなかったら 経口負荷試験で対応している。治らない子は腸管感作の可能性もある。そういう子にはオマリズマブが効くが根本的に治すのは難しい。 →最初に記載した講演の先生も、アレルギーマーチ進展の予防のために乾燥肌、湿疹のコントロールが大事と話されていたが、本講演の先生も食物アレルギー治療にはまず乾燥肌、湿疹のコントロールを行い、肌のバリア機能を高める重要性を話されていた。 3日目の講演でも、調理従事者による職業性食物アレルギーが増加しており、手荒れ、手の湿疹も原因であると経皮感作に触れられており、子供のみならず、大人における乾燥肌、湿疹の治療の重要性を再確認することとなった。
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