[ No.270 ]
第71回日本アレルギー学会学術大会参加報告
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2022年10月11日 (火) 09時49分 |
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会期:2022年10月7日(金)、8日(土)、9日(日) 会場:東京国際フォーラム
第71回日本アレルギー学会学術大会に参加したので、講演について報告する。
【経口免疫療法】 「アレルゲン免疫療法における制御性細胞や抑制性サイトカインの役割」 滋賀医科大学医学部耳鼻咽喉科 神前英明先生 アレルゲン免疫療法(AIT)は、現在、アレルギー疾患に対する唯一の根本的な治療法と考えられている。 その主な効果は、症状の改善、薬物療法の必要性の減少、新たな感作の防止、AIT終了後の効果の持続などである。このAITの分子メカニズムとしては、アレルゲン特異的T細胞など機能を抑制するような細胞が誘導され、それらからIL-10やIL-35などの抑制性サイトカインが産生されることにより症状改善が得られ、免疫寛容を形成するものである。 鼻炎患者は健常者よりもダニ抗原やスギ花粉抗原に反応して産生されるIL-10やIL-35が少ないが、免疫舌下療法を実施した後にIL-10やIL-35の産生が亢進されたことが確認された。
「標的外アレルゲンへの効果の可能性」 埼玉医科大学呼吸器内科 中込一之先生 アレルゲン免疫療法は、アレルギー疾患の原因アレルゲンを投与することにより、アレルゲンに曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法である。したがってアレルゲン免疫療法の効果はアレルゲン特異的である点が特徴とされるが、実際には標的としていないアレルゲンに対するアレルギー症状を緩和されることがある。今回は、ダニとスギ両方に感作がある患者にダニ単独の舌下療法を実施したところ、ダニだけでなく、スギに対するIL−5産生能が低下したことが確認された。また、同様にスギ単独舌下療法を行ったところ、スギだけではなくダニに対するlL−5産生能が低下したことが確認された。これにより、アレルゲン免疫療法は治療ターゲットとしていないアレルゲン免疫も抑制する可能性が示された。花粉症患者に免疫療法を行うと喘息発症予防効果があるという報告もあるが、これらは、免疫療法による抑制性サイトカインの誘導によると考えられる。
考察 現状では、舌下治療で用いられるアレルゲンの種類は限られているが、この結果により様々な標的外アレルゲンへの効果も期待できるものと考えられる。また、花粉による小児のアレルギー性患者はその後に喘息を発症するおそれがあり、アレルゲン免疫療法を行わない場合は半数が発症する可能性があるともいわれている。このことより、小児がアレルゲン免疫療法を行うことは意義があると考えられる。小児の免疫舌下療法においては、他の発表で3年間の継続率が約65%というデータもあり、患者および保護者の継続服用に対する服用支援が必要であると考えられる。
【生物学的製剤(アトピー性皮膚炎・気管支喘息)】
「皮膚科領域における生物学的製剤〜現状と展望」 九州大学大学院医学研究院 中原剛史先生 アトピー性皮膚炎の治療としては、とにかく炎症を抑えることが第一であり外用剤が中心であることは以前とかわらないが、現在はその後の寛解導入の全身療法に生物学的製剤が用いられることもある。生物学的製剤は現在、2種類が使用されているが、主にIL-4/13受容体抗体であるデュピルマブが用いられている(アトピー性皮膚炎に対する適応は成人のみ)。皮疹、自覚症状の痒みなどアトピー性皮膚炎の症状をバランスよく抑え効果と安全性が高いものとされているが、重症の結膜炎を発症する副作用もある。現在、治験中の生物学的製剤もあるが、デュピルマブ以上の効果を示せるかということに苦労しているのが現状である。
「小児アレルギー疾患と生物学的製剤〜現状と展望」福岡市立こども病院 手塚純一郎先生 現在小児で使用可能な生物学的製剤は、抗IgE抗体のオマリズマブ、抗IL-5抗体のメポリズマブ、抗IL-4/13受容体抗体のデュビルマブの3種類である。 ・オマリズマブ(気管支喘息:6歳以上、季節性アレルギー性鼻炎:12歳以上、特発性慢性蕁麻疹:12歳以上) ・メポリズマブ(気管支喘息:6歳以上) ・デュピルマブ(気管支喘息:12歳以上) これらは、対象年齢・対象疾患が全て異なるために使用にあたって注意が必要である。 小児の気管支喘息に対する使用は重症な人が適応となっているが、生物学的製剤の使用を検討する前に、 ・服用の問題(アドヒアランス、不適切な吸入) ・合併症(肥満、アレルギー性鼻炎) ・劣悪な環境(ペット、家庭内喫煙) ・発達・心理的・精神的問題 これらの問題を除く必要がある。これらの問題に対しては、多職種連携が必要である。 生物学的製剤は長く使用するものであるが、小児から大人になる際に経済的負担が増えるため、保護者には最初にそのことを伝えておき、できれば小児から大人になる時にやめられるよう環境要因の改善などを指導している。
考察 生物学的製剤については新たな製剤が増えて、選択肢が多くなっている。ただし、アトピー性皮膚炎に関しては、あくまでも追加で補うものであり、外用剤が重要であることは変わらない。気管支喘息については、重症喘息が対象であるが、使用前に検討する問題のひとつとしてアドヒアランスや適切な吸入があり、この点については薬剤師が関わるべきことである。また、生物学的製剤を検討するような重症患者だけでなく、気管支喘息患者全てに対して適切なフォローをしていくことが必要であると考えられる。
【食物アレルギー】 「食物アレルギー診療ガイドライン2021」 あいち小児保健医療総合センター 伊藤浩明先生 食物アレルギーガイドラインが昨年2021年に改訂された。 食物アレルギーを根本的に治すような薬はないため、新薬などの点での進歩はないが、ほかの面で進歩がみられ大幅にアップデートされた。特徴としては、成人領域の食物アレルギーを含む内容にしたこと、食物経口負荷試験及び経口免疫療法について掲載したこと、食物抗原以外から感作を受けて発症する食物アレルギーについての記載が追加され、小児における食物アレルギーの主なリスク因子に関する記載も大幅にアップデートされるなどした。 「リスク因子と予防」 ・小児期に食物アレルギー発症に関しては、アトピー性皮膚炎があること、離乳食における抗原食物の摂取開始が遅れることがリスクとなることがわかってきた。 ・妊娠中、授乳中に母親が特定の食べ物を除去しても予防効果はない。 ・離乳食開始時期は5〜6カ月が適当であり、遅らせても効果はない。 ・5〜6カ月から加熱卵黄を摂取してよい。 ・乳児期早期の湿疹が食物アレルギーのリスク因子となることは多くの疫学研究から明らかであり、離乳食開始前に湿疹を発症している場合には、早期から治療を開始し湿疹を十分コントロールすることが推奨される。 ・湿疹を発症しておらず健康な乳児に早期から保湿剤などのスキンケアをすることが食物アレルギーの発症を予防するという効果の十分なエビデンスはない。 ・母乳が混合に比べて食物アレルギー予防という点において優れているという十分なエビデンスはない。 ・ビタミンと魚油の摂取が食物アレルギーを予防する十分なエビデンスはない。
「食物アレルギー予防戦略としてのアトピー性皮膚炎治療」杏林大学医学部 成田雅美先生 アトピー性皮膚炎はアレルギーマーチの始まりである。アトピー性皮膚炎の病態は皮膚のバリア機能障害に起因する多病因性の慢性炎症であり、その後のアレルギー性疾患のリスクになる。 乳児のアトピー性皮膚炎に対する早期からのステロイド外用剤による積極的な治療は、2歳児の食物アレルギーを抑制する。 アトピー性皮膚炎と診断された後に、卵を除去するかどうかであるが、卵を除去する方が、卵を少量ずつ食べさせるよりも卵アレルギーになる割合が高い。なぜ、鶏卵を食べさせていないのに感作されたのか?これは、家庭のホコリの中に鶏卵タンパクが存在するからである。このホコリの中の鶏卵タンパクはダニよりも存在するため、感作されてしまうのである。 そのため、鶏卵の摂取を遅らせることは、食物アレルギー発症予防のためには推奨しないこととし、5〜6カ月から加熱した卵をとり、あわせて、しっかりした肌のお手入れをすることとする。
考察 食物アレルギーについては、アトピー性皮膚炎など肌が荒れているお子さんには肌のお手入れの適切な指導が必要であるが、その外にも妊娠中からリスク因子と予防について保護者に適切な情報を啓蒙することも必要であると考えられる。 |
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