ウガンダの高校生を変えた日本の躾② (10585) |
- 日時:2012年06月26日 (火) 07時37分
名前:伝統
1.生徒に夢を持たせるには
札幌の中学校教師だった小田島裕一さんが、青年海外協力隊の一員として アフリカのウガンダ共和国セントノアセカンダリー高校に赴任したのは、 平成19(2007)年9月のことだった。
「野球を通じた国際貢献」を志したのは10年も前のことだった。 教師生活も5年経ち、無気力な生徒たちを見て、 「何か生徒に夢を持たせ、それに向かわせたい」と思っていた。
平成8(1996)年、元近鉄バッファローズの野茂英雄投手がメジャーリーグで大活躍した。 当時は日本人がメジャーで活躍するのは「絶対に無理」だと考えられていた。 野茂投手は日本での実績をすべて捨て、その「常識」に挑戦して、成功したのだった。
小田島さんは、野茂投手の夢に挑戦する姿勢を見て、生徒に夢を語らせる前に、 自分が夢を持ち、挑戦しなければならないと思った。 そこで中学生時代にやっていた野球を通じて国際貢献する、という夢を描いたのである。
2.「熱い思いが伝わった」
夢は山と同じで、遠くから見るときは美しいが、 実際に登り始めた途端に多くの困難にぶつかる。
青年海外協力隊の選考試験に何度挑戦しても、合格できない。 ある面接官からは「あなたみたいな『ただ行きたいだけの人』が行くと、 相手の国が迷惑なのだ」とまで言われた。
6回目の不合格通知が送られてきた時は、「叶わない夢だってある」と諦めかけた。
しかし、それから1週間後、南北海道代表の駒澤大学付属苫小牧高校が 夏の全国優勝を果たして、心が熱くなった。雪や寒さのために練習環境では 圧倒的に不利な北海道の高校が日本一になった。再び、夢に灯が点った。
翌年、7回目の選考も落ちた。
今までは「なぜ自分のやる気を評価してくれないのか」と相手を責めていたが、 今回は「自分が相手の国の人々に喜んで貰えるような一流の野球指導者になることを 目指そう」と考えた。
そして一流の指導者、一流の学校を訪ねて、自分を磨き続けた。
8回目、自分の思いを手紙に綴り、2年間の活動計画を添えた。 「合格」を電話で伝えてきた面接官は、 「小田島さんの手紙に感動しました」と言ってくれた。
熱い思いが伝わった瞬間だった。 10年かかった夢がようやく実現しようとしていた。
3.「君たちは野球の前にすべきことがある」
赴任したセントノアセカンダリー高校は、 中高一貫、男女共学の私立校で、富裕層の子弟が通っている。
案内してくれた先生は、野球部には素晴らしい選手が揃っている、 と言っていたが、実際にグラウンドに行って見ると、選手は5人。
上半身裸で練習している生徒やら、ガールフレンドに膝枕され耳掃除をして 貰っているもの、練習中に立ち小便をしたり、鬼ごっこをする者。
誰一人としてまじめにやっているようには見えなかった。
部室に案内して貰うと、まるで「ゴミ箱」。 書類や段ボール箱が積み上げられ、グローブやバットが床に置き捨てられていた。
5人の選手に目標を尋ねると、「ウガンダ・チャンピオンになりたい」と答える。 「コーチのいる2年間でウガンダ・チャンピオンになれますか?」と聞いてきたので、 小田島さんが「なれる」と答えると、彼らは喜んで笑顔になった。
聞けば、現チャンピオンであるチャンボゴ高校には、 今年1対30で負けたという。
小田島さんは、一言付け加えた。
「ウガンダ・チャンピオンになるために、君たちは野球の前にすべきことがある」。
4.「いいこと言いますね。コーチは天才です」
翌日のミーティングで、第1回ワールドベースボールクラシックで、 日本チームの優勝シーンをDVDで見せた。選手の瞳は輝き、背筋が伸びた。
「私は、日本の野球をモデルにして君たちを指導したい。いいか?」 「はい、コーチ」
日本の野球が世界一なのは、その目的が人間を育てることにあるからだ。 私は日本のやり方で、君たちをジェントルマンにしたい。
ジェントルマンとは「自分のためだけでなく、人のためにも喜んで動ける人」 のことである。 野球はあくまでも選手一人ひとりをジェントルマンに育てるための手段である。
その考えを小田島さんは書き出して、部屋に貼った。
【セントノア野球部 理念】 ジェントルマンになるために 1.私たちは、すべてのものに感謝します。 2.私たちは、礼儀正しく謙虚です。 3.私たちは、日々向上します。 4.私たちは、目標を立て、それを実現します。 5.私たちは、チャンピオンのように振る舞います。 なぜならば、私たちはチャンピオンだからです。 「この理念でいいか?」と選手たちに尋ねると、 「いいこと言いますね。コーチは天才です」。
小田島さんは、お世辞の混じった答えに安心したが、現実はそんなに 甘いものではないことを、すぐに思い知らされることになる。
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