●夢設定?アッシュとある少女。
[123]arshe
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2007年12月06日 (木) 14時16分
「お兄ちゃん、」 既視感が訪れた。裏路地を通っている時に、あの時と同じように小さな手が後ろから
外套をひいた。呼びかけの言葉まで一緒だが、その声には怯えを感じる。それに、時刻
はあの時は昼だったが、今は夜だ。
体を少しひねり、背後の小さな少女を視界に入れた。あのときの少女は身形のきちっ
とした服装をしていたが、この少女は一目でそれとわかる形をしている。所謂ストリー
トチルドレンである。まだ十にも満たないであろうこの少女が、身売りをしているのだ
。そうして、彼女のように身売りをする者に面倒を見られている子どももいる。もしか
したら、彼女は今日が初めてなのかもしれない。
アッシュは、不快感に眉を顰めた。
それは、不潔だとか生理的な理由で少女に対して感じたものではなかった。かつて、
貴族以外の者でもみんなが飢えることのない国を作りたいと願ったからこそ、今はもう
どうしようもできない自分が腹立たしかったのである。
眉を顰めたアッシュに少女はたじろいだ。やはり声をかける人を間違えたかもしれな
い。でもどんな人に声をかけたらいいのかわからない。寒くて手足が悴んでおり、裏路
地なんて元々人通りの少ないところに、もう人など通らないだろうという時刻になって
きた。 今日、朝からずっとここにいるが、通る人はみんな恐い人ばかりだった。恐くて恐く
て、不安でたまらなかった。痛いのだろうか。自分より年上で自分と同じくらいの年か
らやっているひとは、時折タバコを押し付けられたりするとか、ナイフで傷をつけられ
るとか言っていた。痛いのだろう。でも、やらなければならないんだと、次に通った人
に声をかけようと意を決した。そして現れたのがこの人だった。 真っ赤な髪が血を連想させて、少女は一瞬やめようかとも思った。だが、今声をかけ
られなければ、一生誰にも声をかけられず、みんなに迷惑をかけることになると理解し
ていた。 「…買って、……」 しかし、どう言えばいいのかわからなかった。掠れたように小さな声は、それでも、
怯えの中に決意を含んで強かった。
直接的な物言いに、アッシュは痛みを耐えるように顔を歪めた。やはり、と確信した
のだ。慣れている子どもはそれこそ娼婦がする艶やかな物言いで誘う。 少女の手から外套を取り戻し、小さな彼女と目を合わせるように屈みこんだ。肩に腕
を置くと、少女はびくりと震えたが、泣きそうに揺れる瞳から涙が零れることはなかっ
た。 腕に感じる体はその年頃にしてはあまりに細く手折ることも容易く感じられた。それ
に氷のように冷たく、少女がどれだけこの路地裏にいたかを、如実に表していた。よく
見れば服は確かに汚いが、体は綺麗にしてあった。おそらく水でも浴びたのか、この寒
い時期に。 少女の肩に手を置いて、アッシュが少女を検分する間、少女はじっと動かずただアッ
シュの瞳を見つめていた。髪は、血の赤でとても恐かったけれど、この人の眼はとても
温かい気がする。強すぎる意志の光を秘めた、深い透明感を持った翠に少女は、いつの
間にか安堵さえしていた。
こんなに小さな子どもでも、必死に生きている。 「大丈夫だ、リリがついている」
掌で少女の両頬を包み込むと、アッシュはその額に優しく口付けた。 まだ彼がルークだった頃、バチカルの下層で迷子になったときに、心配して近寄って
きた、年上の少年に言われた言葉である。不安でたまらなかったルークに、少年は額を
合わせてそう言った。意味が知りたくて、無事に屋敷に戻ってからいろいろな本で調べ
たが、やはりわからなかった。意味を理解したのは、誘拐されてからだった。 アッシュが少女と視線を合わせると、彼女は大きな瞳を零れそうなほど見開いていた
。何故、アッシュがそれを知っているのか、わからなかったのだ。少女には、アッシュ
が同じ貧民層の出だとは思えなかった。 少女の両頬にも、順に口付けると、アッシュは彼女の頭を撫でて、そうして、外套を
冷たい風に翻し、路地裏を進む。少女の手の中にはいつの間にか数枚の硬貨があった。
歩み去るアッシュの後ろ姿を見ながら、少女はきつくそれを握り締めた。
補足
[124]arshe
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2007年12月06日 (木) 14時17分
※外周(フリンジ、貧民層、貧民街のこと。スラムとも)の説明がちょっとうざったかったので省いた方がよかろう…設定として書くべきかな? (ってことで設定っぽく文を変えてみた!) ※リリ 預言を、ユリアを信じない貧民層にのみある、おまじない。オールドラントの貧民層にあまねく広がっていて、他の町の貧民街に行って困ったときは、それを言えばなんとかなると言う。 さらに、スラムは外の人間を信用しない、同じ貧民層でコミュニティを作っている(外の人間とは普通に町に住む人間以上の者のことである)。情報収集をするにしても、信憑性の低い、胡散臭い情報が多いにもかかわらず、「全ての情報は貧民街に集まる」とまで謳われる。それを出せば、彼らは無条件で信頼するから、実際、アッシュも何度かそれを使って諜報を行っており、今もまたそうしようとしていたところだった。 ※自分メモ どうやらオールドラントにも季節がある模様!
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