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徒然日記

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アーシェスが見ていた!
[133]arshe [ Mail ] [ HOME ] 2008年01月07日 (月) 11時21分
「お兄ちゃん、」
 おお、既視感。
 あの時と同じ路地裏、彼女と同じ年頃の少女、そういえば容姿もどこか似ている。いや、顔は見えないが、後姿でアーシェスはそう判断した。時刻はあの時と違って寒風吹き荒ぶ夜、自分の立ち位置も違うが、呼び止める言葉はに通っている。だが、あの時の少女の言葉もそれだったら、どんなによかったかとか、アッシュは思っているんだろうな、とアーシェスは苦笑した。
 しかし、風に乗ってアーシェスまで届いた声(実際にはアーシェスの常人離れした聴覚のために聞こえただけだ)は、緊張した怯えを含んでいるように思えた。

 ケセドニアの夜は冷える。砂漠地帯なので当たり前なのだが、幼い頃から任務でキムラスカ・マルクト両国のありとあらゆる町の外周(フリンジ)に潜入し、順応してきたアーシェスにはその厳しさは身にしみている。おまけに季節は冬だった。灼熱の砂漠地帯に入るケセドニアでは関係ないとはわかてはいたが、晩秋というだけで、他の季節よりも空気も風も冷たく感じると、アーシェスは思っている。
 裏路地に入る前に、マーケットで姿を見られたために、今影に身を隠して伺っている紅と似た朱の一行にずっとつけられている。彼らはそろって腕は立つし、3人は軍属である。しかし、アーシェスのように偵察や密偵、暗殺を専門にする者ではないためか、はたまた内2人は王族の天然モノのためか、気配がわかりやすかった。別についてくるなら言えばいいのに、と思いつつ目指す先が見られて困るところではないので、アーシェスは気にしないように努めていたのだが。
 見慣れた紅の気配が、まさに足を踏み入れようとした少路にあったのだ。
 それだけなら、アーシェスは気にせず声をかけただろう。既視感が襲ったのだ、それがアーシェスをとどまらせ、身を隠させた。

 アーシェスにとって、あの時のことは間違いではない。むしろ、アッシュのことを思ってしたことだった。しかし、残酷なことを強制したのは事実であるし、きっと、アッシュの中の何かを壊すような行為だったということは充分に理解していた。それをアッシュがちゃんと理解していることも知っている。
 だからこそ、心苦しかった。

 少女の呼びかけに応えてか、アッシュが少女に振り返った。ヴァンに離反してからずっと、それまで以上に周りを警戒している彼にしては、ぎこちない動作で。おそらく彼も、いや、彼の方が、強烈な既視感に襲われているからだろう。今まさに、あの時の情景を重ねながら、自分の外套の裾を縋るように掴んだ少女を見ているに違いない。
 だが、アーシェスはアッシュが過去に囚われて、目先のものを見ないということはないとわかっていた。確かに、少女をみるまでは、アッシュの眼にはあの時の少女が蘇っていただろう。振り向けば、そこに彼女がいるような気さえしていただろう。しかし、彼女を少女に重ねることはない。少女に彼女を重ねて見るような、そんな奴ではない。きちんと、今、目の前にいる少女を認識する、アッシュはそういう几帳面なところがある。アーシェスの知る限り、彼がそれをできていないのは、彼のレプリカに対してだけであった。
 しかし、アッシュが眉を顰めたことに驚いてしまった。アーシェス以上に、彼を呼び止めた少女がびくりと体を震わせる。アッシュにそのつもりはないのだろうが、彼は普段でも不機嫌に見えるのだ。
 アッシュはレプリカに対して差別意識を持っていない。自分に厳しいから、レプリカルークに対してきつくあたってしまうだけだ。事実、レプリカイオンに対しても、アッシュの態度は他のものに対するそれと変わらなかった。同様に、外周に対する偏見もない。それはアーシェスが外周にいたと知ったときのアッシュの反応を見れば明らかだった。およそ貴族、しかも王族の血をひくとは思えない反応だと、アーシェスは少し嬉しかった覚えがある。
 ならば、何故か。表情から嫌悪は読み取れないので、アーシェスはさらにわからなくなった。
 もしかして、何か自己嫌悪にでも結びつけてしまったのだろうか。こんな、彼の所為ではないことで、また。アッシュは変なところで潔癖だ(アッシュのそういうところを、どう言ったらいいのかわからなかったのだが、ヴァンがそう評していたので、アーシェスはその表現を使うことにしている)。諜報員として人間観察が仕事でもあるアーシェスにも、アッシュは時々わかりにくい。

「…買って、……」
 風に乗って聞こえてくる、直接的な物言いに、アーシェスはつい先ほど小耳に挟んだことを思い出した。
 このあたりの外周のストリートチルドレンで、今日始めて商売をする子がいるらしいと聞いていた。おそらく、あの少女がそうなのだろう。予断だが、そういう情報をきいた場合、多分客に声もかけられないだろうから見かけたら買ってやる、という暗黙の了解が外周にはある。特にアーシェスはそういう意味でよく教えられるほうだ。
 年齢を気にしないことが外周で周知の事実として知られていることを、どうしたものかとアーシェスは気にはかけているが、直す気はさらさらなかった。彼は綺麗なものも、可愛いものも好きだったし、それこそ外見の美醜を気にしないところがある。あまねくオールドランドのほとんどの町に、外周以外の諜報ラインを持っているし、2・3人は付き合ったことのある女がいた。そのどの女性も、アーシェスは同じくらい好きだった。彼の名誉のために付け加えておくと、同時に複数と付き合ったことはない。大概、アーシェスの仕事のこともあって、長続きしないことがほとんどで、今ではみんな良い友達として付き合っている。
 あの子もあの子も、良い子だったとアーシェスは意図せず思い出していた。同じくらい好きになって付き合ったけれど、それ以上に好きになれた子はいない。『あなたが本当に好きなのは私じゃないわね』とは、聞きなれた言葉だ。何故だろう、みんな本当に好きだったのに、同じくらいに。

 アーシェスがどうでもいいことに思考をめぐらせている間に、アッシュは少女と視界の高さを合わせるように振り向いてしゃがみこんでいた。まるで物色するように、アッシュが少女を凝視していることに気づいたアーシェスは思わすため息をついた。
――それじゃ、余計怯えるって…
 アッシュは態度こそ不遜で横柄だが、根が優しすぎる。自制と自律で自分を縛っているくせに、他人には寛容で全てを許せる人間だ。だが、不器用で、それをそとに示すことができない。故に、よく誤解されてしまうのだ。
 アーシェスがそろそろ声をかけるべきかと一歩を踏み出そうとしたとき、アッシュが少女の額に口付けた。

 アッシュが外周を使って情報収集を行っていたことは知っていた。アッシュもアーシェスと同じ特務師団で、いや、アーシェスがアッシュの監視のために特務師団に配属されたのだが、とにかく表向きには活動が公表されない特務師団であるがゆえに、そういう裏の道にも通じているのは大体予想がついた。
 予想がついた、というのは、アーシェスも監視とはいえ、アッシュに四六時中張り付いていたわけでもなければ、いつもアッシュと同じ任務についていたわけでもない。もちろん、アーシェスと同じく、アッシュの監視のために特務師団に配属された者が同じ任務についていた。幼い頃は、それこそアッシュよりも明らかに年上で、世代も変わってしまう彼らがアッシュの監視をしていた場合、子供といえど聡明なアッシュには丸わかりだということで、比較的年の近い、まだ少年だったアーシェスが監視の任についた。そうして、四六時中、任務がないときはアッシュの傍にいたものだ。でもアーシェスはたとえ年が近くても、アッシュは気づいていたと思う。事実、知っている、とアッシュ自身の口からそれらしいことを聞いたこともある。

「大丈夫だ、リリがついている」

 そう、予想をつけてはいたが、彼はもっと違う方法で、外周のものとコンタクトをとったのだと思っていた。まさか、アッシュがリリを知っているとは予想外過ぎて、想像も及んでいなかった。
 実を言うと、アーシェスは情報収集に外周を訪れた時に、偶然アッシュを見かけたこともあった。その時不思議に思ったのは、彼らが到底外周出とは思えないアッシュに割と好意的だったことだ。余所者には警戒心が強いにも関わらず、顔なじみであるかのように(これは少し言いすぎだが)アッシュに対する態度は柔らかいものだった。

 その後、アッシュは少女の両頬にも口付けた。いや、正確には頬を合わせるだけだ。外周では、そうすることで親愛を示したり、励ましたり、果ては約束や別れの合図になったりする、ある種の動作なのだ。
 余談だが、成人した男同士では滅多なことが無い限りしない。
――そういう意味での心配は、いらないよな…
 わかってはいても、アーシェスは少し胸が騒いだ。もし、アッシュが外周に認められたのが、彼の脳裏に一瞬浮かんだことと同じことでだったとしたら…そう考えると、アーシェスは頭を抱えて叫びだしたいくらいだった。

 けれども、彼の視線はアッシュと少女から放れなかった。声をかけようとしていたことにも、いつのまにか、アッシュが少女の掌に忍ばせた硬貨を、少女が握り締めて歩み去る後ろ姿を見ていることにも、その時になってようやく気がついた。自分が、視線の先の赤に告示した赤を含む一行につけられていたことも、そうしてようやく思い出したのだ。

 意識して放そうとしない限り、アーシェスは眼でアッシュを追ってしまう。監視という役目もあったかもしれない、けれど。
 一度見たものは忘れない自分が、網膜に焼き付けるように、なんて、らしくないとアーシェスは自嘲した。
 





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