月の赤い紫空に望む砂丘のアテムはこんな感じ。
[144]arshe
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2008年04月14日 (月) 17時13分
男は王に罵声を浴びせると同時に自らの魔物を王に襲いかからせた。その攻撃 が王に届くかという瞬間、人々は全ての時が止まったかと思った。未だその身に 合わぬ大きさの玉座にゆったりと腰かける王を守るように、一瞬にして巨大な竜 が現れたのだ。神々しい気配を纏う赤い竜は王に牙を向いた男へと襲いかかる。 恐ろしいほどの速さだった。 「よい」 王は華奢な手を気だるげにあげて、自らに暴言を吐いた男に迫る赤き竜を制し た。今まさに恐れおののく男をひと呑みにしようとしていた竜は、王の言葉に動 きは止めたが、退こうとはしなかった。 「その男は吠えただけだ、構うな。」 王は左肘をつき、己の右手の爪を眺めている。きらきらと指の黄金が光るが、 王の興味をひきはしなかった。 「余は今気分が悪い、この上その男の悲鳴で害されたくない」 王がどこまで本気か、周りの者には量りかねた。ついこの間まで王子だった王 は年相応に幼く内に秘めたる激情をもて余してはいるが、聡明で王者にふさわし い冷酷な一面も持っている。ゆっくりと残念そうに男から離れる赤き竜に、王は 手をあげてその身を撫でる。その体で玉座の周りにとぐろを巻いた竜は、釜首を もたげて男を注視し続けていた。 「連れていけ」 王の言葉でようやく時が動いた。男が見えなくなっても、竜には見えているの か、視線を動かしもしなかったが、王がもう一度なだめるように撫でると首を下 ろした。
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