まるでその手の中に世界が在るかの様に
[88]jessica
[ Mail ] [ HOME ]
2005年02月20日 (日) 01時57分
榛色の瞳が瞬いた。 望むままに、その目が自分だけに微笑むならば。万人は総てを彼に与えるだろう。きっと総てを彼の思い通りに、好きに、させるのだろう。 世界でいちばん、人は彼を愛し、そして憎むだろう。
「ぼくは、ずっと見ていた」
ぽつり。ぽつりと漏れる言葉。少しだ捻った蛇口から漏れる水滴のようだ。 もういちど、瞼の向こうにヘイゼルが隠れた。 そのときだけ、思考が彼から解放される。捕らえて放さない瞳から、自分へと戻ってくると、愛しいと、悲しいと思う。限りなく可愛いけれど、限りなく可哀想な瞳だ。
「いつもここから、世界が滅びるさまを見ている」
見る、とは手に入れる事、自分のものにすること。
与えられるまでもなく、彼は総てを手にしている。総てが、元々彼のものなのだ。 欲しいと思うまでもなく、手に入ってしまうから、彼には欲しいと思うことがない。思った事がない。
だから、ひとは彼を欲しがる。恣にしたい。その瞳を、心も。 その瞳の色が子供のように変わるところ、人間らしくなるところを、ひとは見たい。手に入れたい。 だが、彼は決してそれをひとには見せなかった。 そうすれば、世界がひとのものになってしまうからだ。 彼は自分の手の中に世界が在ることを知っている。 だから、それを見た者は、まるでその手の中に世界が在るかの様に、残虐で傲慢で、それでも、そのひとの優位は揺るがない。 そのひとはそれを見たからだ。自分のものにした。手に入れた。だから、その時から世界はひとのものなのだ。だからそれが当然なのだ。
|
|