kaishin
[112]jessica
[ Mail ] [ HOME ]
2006年06月21日 (水) 19時30分
「…っあ、」
真下に組み敷いた対象から甘く切ない溜息に似た喘ぎ声が小さく漏れた。たとえそれが男の口から発せられたものだったとしても汚らわしいとは思わない。否、思えない。
「新一」
彼だけでなく自分さえこれっぽっちも余裕がないのは明白な事実だった。新一の排泄器官に挿入した快斗の**は括約筋による締め付けによって刺激を受け、僅かに顔を顰める。一度**した直腸内はやけに温かく、先程よりも滑りが良くなって濡れた音が狭い部屋中に響いた。 今まで新一の自宅で身体を重ねることは何度もあったが快斗の自室でセックスするのは初めてだった。母親と二人暮らしという理由のためだったが、その原因は実家に帰ったため今日はいない。 カーテンの引かれていない窓からは今にも雨が降り出しそうな厚い雲が見えた。
「……は、ぁ……っ、もっと…」
腰を振ってピストン運動を続ければそれ以上を要求する好きな人、躍起になってより一層深く抉るように穿つ。 一時間前は普通に過ごしていた。快斗は音楽を聴きながら雑誌を捲り、新一はここへ来る道すがら購入した新刊の小説を読んでいたのだ。 何を思ったでもなく、ふと自然に顔を上げてみるとタイミング良く彼もこちらを向いた。同じ瞬間に同じ行動をしていたことが無性に嬉しくて、誘われるままにそして誘うがままに恋する者を押し倒した。
「新、一」 「…快、斗っ」
呼び掛ければ直ぐさま返ってくることがこの世で史上最大の幸福に思えた。
(どんな乙女なんだ、俺は)
馬鹿馬鹿しくて笑える。 律動を繰り返せば結合部から**が音を立てて噴き出す。漏らした子供みたいだった。 快斗は新一の背中と腰を両手で抱えてベッドに沈んだ彼をおこしてやる。繋がったまま二人は対面して新一が自ら動ける体制に移行した。生理的に溢れた涙の跡を舌を突き出して辿ってやれば目の前の身体が怯えたウサギの如く震える。 電源を入れたままのCDコンポのデジタル表示が七色に変化しながら点滅していた。
「…っ」
新一が腰を振るのを促すように数回下から突き上げると眉間に皺を寄せて迫り来る何かに耐える。それが言葉に出来ないくらいに魅惑的で果てのない男の情欲を引き出すのだ。
(好きだ好きだ好きだ)
何度言っても世界中の人間共に大声で叫んでも足りない。言えば言うほど迸る血液のように熱い恋心は絶え間なく発生するのだから厄介だと思った。
「っ、あ……やっ、………」
抑えた声は聞こえるか聞こえないかのものだったが、自分で下半身を動かして必死に善いところに当てるだけで言語には成り得ない音が零れた。思うように動けないのか、それとも動き難いのか、だがそれがエクスタシーへのスパイスとなって新一を快楽へ突き落とす。
「ああっ…」
彼は今、後ろ手に縛られている。それは紛れもなく自分が行ったものだ。
「……んっ、……っ快、斗、」
恋人とセックスするときに快斗は必ず相手を縛る。何もサディストというわけではない、新一ががそれを望んでいるからだ。
(逃がさねえ、絶対に)
一見淡白に思われがちな東の名探偵、あまり知られていないが実はセックスが好きで好きで堪らないセックス依存症だった。 暇さえあればそこらへんの者を引っ掛けては一夜限りの夜を過ごしていた。しかも少しばかり嗜虐的に扱われるのが何よりも好物だったのだ。 この事実を知った快斗は彼を自分だけのものに留めるがために毎日セックスをする。少しでも間があけば新一は他の人間とヤるからだ。 顔を合わせる度に交わり、見詰め合う度に体温を分かち合う。恋人同士だというのにデートもイベントも何もない。ただ快楽を求めるだけ。
(それでも良い)
彼がこの手に入るならば。 何を思ったのか快斗は予告もなく眼前にある剥き出しになった新一の肩に力の限り噛み付いた。白い歯が軋むようにして肉に食い込んでいく。工藤新一という名の血の味が口内を支配した。 セックスにしか興味のない男を嫌いになれたらどんなに良かったことだろう。
「あっ!……っ、や」
痛みに感じたのか新一は一際大きな声で愉悦した。快斗の計り知れない苦しみなどこれっぽっちも知らないかのように。
空全体を一様に覆う灰色の乱層雲は未だに泣こうとしない。
|
|