神の怒り(塔)
[118]james
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2007年07月11日 (水) 19時39分
▼016:神の怒り(塔) (寓意札的22のお題/ノア(アベル)ラビv.s.ティキ・ユウラビ?) 「本気で相手してやるさ」 アレンたちは先に行かせた。アレンはこのノアを倒したいだろうが、リナリーのためには、今アレンは彼女の傍を離れない方が良い。加えてクロちゃんがいた方がいいだろう、ジャスデビとかいうのと戦う前の長い回廊のようなときがあるかれしれないから。 せめて自分は時間稼ぎにでもなれたらいい、そう思って残ろうとした。最初は。でも、 ――まだ、ユウが来てないさ。 不愛想で短気だし、気難しいし気丈だし、すぐ怒鳴るし、美人だがきつい容姿を裏切らず、きつい性格なユウ、でも不器用なだけだと知っているから。 ――同い年だからかな、気まずかったのに一緒にいて、あんまし苦痛じゃなかった。 神田は死んだと先ほど目の前のノアが言った。それでも、ラビは信じられなかった。 ユウは生きてる、ユウが来たときにこいつがいたら、今度こそ死んでしまうかもしれない。(来るのが遅いということは、それだけ命を消費したということなはずだから。) ――やってやる… とはいえ、それは危ない賭けだった。力を解放して本気になると、やたら眠くてたまらないせいか、意識が途切れがちになってしまうのだ。 ――でも、ほかに方法ないさ… アレンやリナリーのように、イノセンスを強制解放するようなことは、ラビにはできそうになかった。勇気がないことはないが、生きて来い、とアレン達が言った。強制解放なんかしたら、勝ったとしても消耗して動けなくなりそうだし、イノセンスは壊れてしまいそうだ。 「へぇ、それは光栄だな」 まあ、俺としては少年Aとやりたかったんだが、とティキがぼそりとつぶやいたのを、ラビは聞こえなかったふりをして、バンダナを首までずり下す。 「思ってもないくせに、よく動く口さね」 ラビはティキの軽くくだけた感じの口調に、どこか親しみやすさを感じるも、アレンを瀕死にまで追いやり、イェーガー元帥と数名のエクソシストの命を奪ったこのノアに対してそうそう穏やかではいられない。 ブックマンは自分に傍観者たれと言った。しかしそうあることに対して、ラビは自分がまだまだ未熟とわかっていた。 ――仲間だ、今は。 こいつは自分を倒せば、すぐ先に行った仲間を追うだろう。そして、後から来るとユウは言った。 ――守ってやる、全部。 本気になれば、できるとラビは一種の自信を感じていた。
額が熱い。前に、試して鏡を見たときのように、不思議な文様が今の自分の額には浮き上がっているのだろう。そしてどういうわけか肌の色が日に焼けたように黒くなる。 ――ノア、みたいでちょっとやなんだよな。 ノアがそれを見て少し目を見開いた。 ――ははぁ、ノアから見てもやっぱそう思うんだ… ラビは自分の思考がまだ睡魔が襲って来ていないので冷静なことを確認しつつ、なぜか気分が高揚するのを感じていた。不思議な気持ちだった。この姿になると、なぜかハイになるのだ。 「さて、時間もないことだし、あんたも時間切れとか、つまんねー理由で死にたくないっしょ?」 ちゃっちゃとやろうぜ、ノアの色男さん♪ ああ、やはり不自然なほどハイになっている。槌をノアに向けてそう言った途端、ラビは別人のような自分を見ていた。
「驚いたね、少年、もしかしてノアなのか?」 ティキの表情は、やはり戦いを楽しむ、ある種の悦楽をたたえた余裕のものだったが、江戸城で戦ったときのようなありあまる余裕はなさそうだった。冷や汗が浮かんでいるのが見える。しかしそれは戦っているラビが、ノアかもしれないという不安からきたものだろう。本気になったとはいえ、ラビの今の攻撃は先ほどまでとまだ何も変えていない。 「避けんなよ、めんどくさいんだから」 ノアではない、と自分では否定しようとしたのに、口にはそれは出ない。いつもながらおかしいな、とラビは思う。おかしな口だ、まるで他人のものみたいに。 ヴン、と回りに火や雷、木とか書いた丸が現れる。イノセンスの第2解放「判」を行って、まよわず「?」を選択する。いつもなら何が起こるかわからないので、怖くてできない行為だ。 直に叩きつけてやろうかと思ったら、敵はすでに間合いをとって離れていた。 ――なんだ、つまらない。 凶悪な気分なのだ、今は。しかし口には出さなかった。出さずに、床へ判を叩きつける。「?」が「闇」へと変わる。闇というより、影だよなとあきれたような気持ちで見ていた。 ティキの足元、彼自身の影から、無数の手が現れる。ある意味、ホラーだ、と呑気な気分で眺めてしまう。でもそれもしょうがない、あれは、ラビを引き込んでこないからだ。
――いや、確か一度引き込まれたことがあるような気がする。 思えば、今自分はこの能力を攻撃に使っているが、そこはひどく穏やかなところだった。何もかも忘れて、泣きたくなるほどに、ひどく。 ――俺は、引き込まれたいのかもしれない。 あの時、あの甘美な孤独は、心をゆるやかに満たしていた。裏切られ、絶望した自分のすべてを包んでいた。自分はあの中よりきたのだ、 からきたわけではない。 神の怒りを受けた兄さん、可愛そうに。この世を永久にさまようことになった。でも本当は、知ってる。あの時、神は見ていたのだ。とくとくと流れる血を口を開けて飲み込むあの土よりも残酷な、サーカスに興じたローマ人と同じ残虐さで見ていたのだ。
――しまった、もう眠気がきたさ… 早く、決めちまわねーと…
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