窓には虚ろな鳩甘美な言葉だけを食べてしまった
[40]jessica
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2004年02月26日 (木) 00時55分
おれがあの人に貰ったものは、たくさんあるけれど、おれは彼に何もしてあげられなかった。 子供だったから、もっともっとと、望むばかりで。 与えられることが嬉しかったから。欲しがれば与えられるということが嬉しかったから。 ただ、我が侭に、自分勝手に望んでいた。 欲しい、欲しいと。 ただそれだけを。
[屋根には虚ろな鳩甘美な言葉だけを食べてしまった]
独りで見る景色には、もう慣れていたけれど。あの人を好きになってからは、物足りなさばかりで。 しんしんと降る雪が、全て覆ってしまえばいいのにと思った。 あの人絡みだと、おれは‘ぼくらしく’ないことを考えてしまうみたいだから。 押し殺した感情が行きを吹き返すらしいから。 この醜い心を覆ってくれればいいのにと思った。 そうすれば、周りにつもる雪と同じに、真っ白になって元に戻るんじゃないかって。生まれ変われるんじゃないかって、そう思ったから。
いつしか、愛されることを恐がるようになっていた。 あの人しか愛せない何て、実はきっと建前に過ぎない。 おれにそんなことできるはずないから。 でも、唯一、だと思っている。 彼はこの世で唯一の人だと。 まっさらの、そのままのおれ…取り繕った‘ぼく’ではなく、醜い‘おれ自身’を愛してくれた、唯一の人だから。 だから、ただの建前ってだけではないと思っている。 彼はきっと消えない。 おれの中にきっと今も。 この風の中にだって、彼は息づいている。
けれど、酷い。と思う。 結局、彼も。彼さえも。 おれをおいていったのだから。
約束だけ。言葉だけ。思い出だけ。気持ちだけ。それだけ残して、彼はおれから去ってしまったから。
うそつきは嫌いって、言った筈なのにな……
ひとりごちては、考えるのだ。 どうすれば、どうすれば。 彼以外の人を愛せるだろうか。
誰かひとりに愛されれば、それでよかった。 でも、その誰かひとりが叶わなかったから、誰にも嫌われたくなかった。 約束も、言葉も、思い出も、気持ちもいらなかった。 そんなものは、いらないから、ただ傍に。 傍に居て欲しかった。 それだけで、よかったのだ。 他は、何も要らない。 望まない。 欲しがらないから。
傍 に い て
紡いだ言葉は、雪の中へと消えた。 届く事はない。 きっとずっと。 彼は、おれをおいていってしまったのだから。
本当に欲しかったものは、ただ、ひとつだけ。 たったひとつなのだ。
そ ば に い て
お れ は ひ つ よ う ?
う ま れ て き て も 、 よ か っ た ?
お れ さ え い な け れ ば 、
あ な た は し な ず に す ん だ ?
そ ば に い て 。 こ こ に い て 。 お い て い か な い で 。
「おれ、あんたのこと結構好きだったよ?」
『‘さよなら’はまた会う日のために言うんだって』
「 さ よ な ら … 」
end
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