[雨降りの罪]
[41]jessica
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2004年02月27日 (金) 06時56分
―細い。 いちばん最初に思った事はそれだった。
[雨降りの罪]
珍しく二人で駅前の本屋へ出かけた。家(工藤の)を出た時は、雨なんかちっとも降りそうにないほど晴れていたのに。今は、太陽はその姿を灰色に隠していた。 玄関に駆け込んだ途端、チッと小さく舌打ちをした。工藤も気にする事もなく、むしろしだしそうな顔をしていた。 「先、入るか?」 工藤が俺に背中を向けたまま、戸棚から引っ張り出したところのタオルをこっちに投げながら言った。 「え…?」 俺がワケがわからないという風な答えを返すと、頭をタオルで拭きながら、くるりとこっちを向いた。 「風呂だよ、風呂!」 ちょっと不機嫌そうな顔が可愛くて、つい吹き出しそうになってしまった。が、それを顔に出すほど俺は未熟じゃない(つもりだ)。仮にも、奇術師を目指しているし、キッドなんてものもやっているのだから。 「あ〜…でも、そしたら工藤はどうすんの?」 「……とりあえず、この濡れてる服を着替えるな」 俺の問いに、工藤はさも「こいつ、何言ってんだ?」とても言いたげな顔をした後、そう言った。返された言葉はごくごく、当たり前なことで。ニュアンスが違ったな……と内心思った。 「いいよ、先入りなよ」 「でも……おまえ………」 風邪ひくぞ?と工藤が困ったように言った。たぶん、明日キッドの仕事があるから、気をつかってくれてるんだろう… 「心配してくれるのは嬉しいけどさ、名探偵こそ風邪引くぜ?」 ついでに「なんなら一緒に入る?」と、にやりと笑うと、工藤は素直に風呂場へ向かっていった。 ちょっと残念とは思いつつも、俺は服を着替えるために2階へ上がった。 ぶっちゃけ、逃げたかったから。 目の毒。あれ以上、工藤を見てたら理性が保ちそうになかったから。 ―ああ、もう。なんで、真っ白なシャツが濡れて、張り付いて、透けてるのに。そのシャツより、工藤の肌は白いのかねぇ…露わになった細い肩とか腕とか腰とか。下がジーンズだから、分かりづらくてよかったよ! 頼むから自覚してくれ!!と心の中で叫びながら、扉を開けて自分の部屋に入った。クローゼットから着替えを出して、濡れた服に手をかけた。ふと、その手を止めて。はた、と気付いた。気付いてしまった。 工藤の着替えは、着替えの服はどうなるんだ、と。 はぁと溜息を吐いて、工藤の部屋へ向かう。が、工藤の部屋のクローゼットには全くと言って良いほど、家の中で着るような、ラフなものが入っていなかった。 ―しまった…… そうなのだ。工藤の服は、工藤が溜め込んでいた所為で、今日、出かける前に全て洗濯機の中へ放り込んでしまった。 仕方なく、ズボンは工藤のを。シャツは、俺のを。 その二つを持って、下にむかった。 と、リビングに入ったところで、鉢合わせてしまった。 まさに、最悪のタイミング。
風呂に入った所為で、ちょっと赤くなってる頬とか。 未だぱたぱたと床にしぶきを落とす濡れた髪とか。 なにより、その格好。 頼むから、腰にタオル一枚巻き付けただけという、その格好をやめてほしかった。
―蛇の生殺し状態…… 内心泣きたくなりながら、にこっり笑って工藤にもっていたシャツとズボンを渡した。 「あ、わりぃ」 工藤がふわっと笑って言った。 俺みたいにつくったような、「にこっ」じゃなくて、花がほころぶような「ふわっ…」って感じの笑みで。
―自覚、してくれよぉ………
「じゃ、次俺入ってくるよ……」 ちょっと…いや、かなり。同じその空間にいれる自身がなかったのでいそいそと工藤の横をすり抜けるように通ろうとした。 すると、工藤が俺の腕を掴んで止めた。
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