海外移住といえば、定年退職者のリタイア組が多かったが、近ごろは働き盛りの４０歳前後のサラリーマンの移住が急増しているという。日本に見切りをつけた理由は何か。現地での仕事は、妻子も一緒かなどの疑問がわく。「日本脱出マニュアル　２００４」（羊土社）の著者で、自ら「海外移住情報」サイトも開設している安田修氏（４５）に、事情を聴いた。

◆ 現地で起業家になり収入大幅減でもエンジョイ ◆

――本当に４０歳前後のサラリーマンの海外移住が増えているのですか。

「"増えている"という公式な数字はありませんが、私が３年前に立ち上げたサイト『海外移住情報』を介して得た情報や身の回りでは移住組が着実に増えています。メーカーや商社、外食産業などで働いていた人たちやリストラによる失職者たちです。日本に見切りをつけた理由で共通しているのは、人生のリセット。４０歳前後は自分の能力の限界が見えてきて人生を見つめ直す時期です。このまま日本で仕事を続けていくことに疑問を持ち、さらに今の日本への漠然とした不信もあり、リセット、つまり"やり直し"を考える。やり直すには、日本よりも海外に住んだ方がエンジョイもできそう。それで海外移住に向かいます」

――移住はどんな形で、移住先はどこの国なのか。

「日本国籍を捨てて、永住権を取得する人はほとんどいません。多くは日本国籍を保有したままで、定住に必要な居住権（１年ごとに更新が多い）を取得し、住み続けるスタイル。何か起きた場合、帰国もＯＫ。移住先はニュージーランド、オーストラリア、アジアではタイ、フィリピンが人気です。まず現地で２、３カ月間住んだ後、移住先を決定するのがパターンですね」

――現地での仕事は？

「現地企業に再就職するのは、不可能でしょう。通常、雇用は外国人よりもその国の人を優先させるのが常識ですから。だから現地で起業します。要するに起業家になるということ。スキューバダイビングショップや居酒屋、ラーメン店、カフェ、日本で言えば民宿にあたるゲストハウス、日本の古本やビデオのレンタル店、現地の特産品を売るネットショップ、移住をサポートする会社を興している人もいます。多くは現地に住んでいる日本人ビジネスマン相手の商売。日本でしていた仕事は役に立たず、むしろ趣味を生かした起業という感じですね。開店資金は預貯金やマイホーム売却などから捻出しているようです」

――収入の程度や住まいはどうなっている？

「収入は日本にいるときと比べて大幅に減ります。半減はザラ。しかし物価はどこも安いので暮らしやすい。住まいは中古マンションが多い。タイやフィリピンならファミリーが住める物件は２００万〜３００万円で買えます。とにかくあくせくせずに楽しんで生活を送っています」

――妻子も一緒？

「家族一緒で移住します。奥さんが主導権を取るケースが多い。男よりも女の方がたくましい。子供は日本人学校やインターナショナルスクールに入れています」

――帰国する人もいるのでは？

「確かにいます。原因は現地でお金をだまし取られたなど金銭トラブルがトップ。人間不信に陥っているので、帰国後、立ち直るには時間がかかります」
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リセットしたくなったら、こんな手もあるということだ。
◆ 海外在留邦人は過去最高の８７万人に ◆
　外務省の海外在留邦人数調査統計では、昨年１０月１日現在、在留日本人は約８７万人と前年比４．３％増え過去最高だった。
　職業別では、最も多いのは民間企業の関係者で約３１万人。また伸び率が著しいのは自由業関係者で、前年比約２２％増え１万７０００人いる。安田氏が指摘した起業家の多くは自営業で、外務省が定めた自由業関係者に含まれる。
（日刊ゲンダイ３／１０号より）