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「040614【智慧コラム】イスラム文明拝見 - イラク民主化の意図」より
■民主化 vs イスラム化
〜〜〜 アラブ・サミットで、「アラブ圏首脳が、イスラム圏の未来を見据えて「中東民主化改革」路線を了承した」 〜〜〜
この意味は、ひと言で言えば、今後のイスラム文明圏全体の方向性を決定したということです。
つまり、あけすけに言うと、「イスラム教を捨てて民主化を採る」この基本決定をアラブ各国トップが了承したということなのです。この意味は重いです。
もちろん、イスラム圏の民主化は、大枠合意のみで中身はこれからです。紛糾し、右往左往するでしょうが、サイは投げられたと筆者は見ています。
「民主化」といえば、1人1票の選挙、主権在民。それがどうしたのか? と思われるかもしれません。
ちょっと説明しますと、
「民主化」「民主主義」には、双子の兄弟のように「自由化」「自由主義」が必ず付いてきます。
この「民主」「自由」という考え方が出てきた背景には、「人間は1人1人皆、神から造られた存在であるから平等であり、個性・能力に応じた自由を発揮して生きる権利がある」というキリスト教以来の根拠があります。
これを根拠に「基本的人権」が出てきています。
この「民主」「自由」が確立するにつれて、欧米を先頭に、世界各国は徐々に近代社会=つまり国民国家という枠組みへと成熟してきたというのが地球の歴史的な経緯です。
つまり、中世時代までは、国王の財産であったり、不当に扱われがちだった一般民衆が、「ともに平等かつ、個性に応じた自由を発揮して生きる権利を持つ1人1人の国民」という存在へと変化していったわけです。
ここから、国民国家(=ネイション・ステイツ)では、主権在民(=主権は国民1人1人が持つ)が導きだされ、それが、1人1票の自由選挙結果を反映した国政を行うことにつながっているわけです。
よく、アメリカは、中国など人権侵害を続ける国に対して、人権、人権、男尊女卑と盛んに抗議したり、経済制裁したり、今回のイラク戦争のように軍事圧力をかけますが、それは、このキリスト教以来の「民主主義」「自由主義」の考え方に沿って、行っているわけですね。
片や、イスラム教はどうでしょう?
■新しい始まり
実は、イスラム教はキリスト教の世界観と対立しています。イスラム教世界では、男女は平等ではありません。
以前の号でも触れましたが、イスラム教のコーランには、女性は男性より劣る性であると位置付けられています。男女は平等ではないんです。
今でも、パキスタンなど、女性には教育が不要だとするイスラム国も多いのです。女性が他の男性と話したといってガソリンをかけて焼き殺そうとしたり、目や鼻、耳をえぐったりする事件も後を絶ちません。離婚した前の奥さんが他の男性と再婚するのを妨害したり、傷害を負わせたりもあるようです。
王族が民衆を統治するイスラム国もまだあります。近代社会の入り口にさえ立っていない国もあります。
イランのホメイニ革命に代表されるような、反米イスラム復古運動が伸張して、女性たちにベールを被らせ家に戻らせた国もあります。
選挙も、
イスラム圏各国では、男女共に1人1票の自由選挙を実施している国は、イスラエル1国のみなのです。他のイスラム国は、自由選挙は男性だけです。女性には参政権がありません。
この根拠が、コーランにあるわけです。
ですから、
アラブ・サミットで「アラブ各国トップが、イスラム圏の未来を見据えて「中東民主化改革」路線を了承した」ということは、
この、男女共に1人1票の自由選挙を実施していく。選挙結果を政治に反映させる国の運営を行うように舵を切る。と大枠で決めたということです。キリスト教の世界観を受け入れると決めたということです。
つまり、具体的には、イスラム教の教えを政治統治手法から切り離すことを意味します。
以前の号でも書きましたが、
イスラム世界では、「宗教+政治+軍事」が渾然一体となっているのが特徴です。「宗教」を「政治手法」から切り離せない点が、イスラム文明の近代化を阻むボトルネックになっていたわけで、それを外すというわけなのです。外す合意が、イスラム各国トップ・レベルで公然となされたのです。
このアラブ各国合意を引き出したのは、今回のイラク戦争で見せたアメリカの威力のプラス面での成果でしょうね。
■固唾を飲む各国イスラム教徒
このアラブ・サミットでの「民主改革合意」は、単にアメリカからの圧力をアラブ各国の為政者が感じたからだけではありません。
実は、
この6月末から始まる「イラク暫定政権 ⇒ 国民会議 ⇒ 総選挙 ⇒ 議会の選出 ⇒ 憲法制定 ⇒ ⇒ 本格政権へ」というイラク復興の流れを注視しているのは、イスラム圏各国の一般の人々なのです。
特に、イラクで2005年1月までに実施される「総選挙」です。
この「総選挙」は、文字通り、イスラム圏の一般人が初めて経験するイラクで実施される「男女共通の1人1票の自由選挙」なのです。
「男女共通の1人1票の自由選挙」。この実施こそが、アメリカを主導とする自由・民主主義勢力側の意図であり、イラクの人々がコーランの教えを捨てて、民主主義=つまりキリスト教的世界観を受け入れる第一歩となるわけです。
いま、イラクでは、油田施設とオイル算出量がイラク戦争前の状態まで回復し、南部のペルシャ湾の港から輸出され、替わりに輸入した食料品がバスラを経由して続々とイラク各地に送られ、国民は配給チケットと交換で安く食糧を入手しているのだそうです。
ですから、まだ食糧が乏しく不足ぎみとはいえ、餓死者は出ていないようですね。
TV報道では爆破テロ現場中継などばかり映るので、イラク国内が毎日戦争状態にあるように考えがちですが、イラク全体の報道を正しく反映したものではない、と冷静に見たいところです。
国民生活は、まだ貧しいとはいえ、食糧品の配給チケットで住民台帳が管理されているそうで、この食糧配給時に、「選挙人登録をしなさいよ」と言えば、選挙準備はかなり順調に進むといわれ、「男女共通の1人1票の自由選挙」を実施するのに当り困難はないようです。
一旦、「男女共通の1人1票の自由選挙」が行われれば、女性は1度手にした権利を手放すとは思えません。世界各国を見ても、男女自由選挙から後戻りした国はないのではないでしょうか。
そうしたイラクの総選挙を見たら、民主化を求める他のイスラム各国の人々が自国政府にさまざまな要求をしていくのは必須でしょう。
イスラム圏の民主化要求の勢いは、一気に盛り上がるはずです。下手にこれを抑えようとしたら、政権が倒れる可能性があります。
もう、そうなったら、イスラム政治手法での収拾はつきません。つまり、イスラム教による国民統治を捨てていくしかないのです。
ですから、アラブ・サミットでの「民主改革合意」は、しなければ政権が倒れる瀬戸際にある危機感をもって、アラブ各国トップが決断せざるを得なかったことでもあるのです。
これは、イスラム圏の解体が本格的に始まったということですね。とてもとても感慨深いものがあります。
トルコの位置付けは? などなど、次回以降にまとめる予定です。
来週は、イラクの暫定政権をめぐる動きを眺めます、お楽しみに
……
(著者あとがき)
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