↓「バリ島で想う Ryoさん一家の日常の話 チャンプル便り 52」
Written By Ryoより
「ちょっとバリ気分 06/30 発行
インドネシアには、国外で働く人がとぉ〜っても多い。私の家のある、約40戸からなる集合住宅群も、3軒のご主人様が海外出稼ぎ組だ。そのすべてが、外国の(少しだけ)豪華な客船のウェイターやウェイトレスとして働いている。彼らは約6ヶ月船の上で働いて、約2ヶ月の休暇を自分の家で過ごす。
こんな船乗りがインドネシア中には星の数ほどいる。国内での就職難は相変わらず解決策が見出せず、失業者が毎年2乗計算のスピードで増えていく。こうなってくると、手っ取り早いのが客船フード&ビヴァレッジ(F&B)スタッフになる道だ。船に乗るのに学歴はいらない。必要なのは、手続き費用のみだ。若干の資本もしくは借金する若干の勇気があれば船には乗れる。
陸地に上がって出稼ぎをする人たちも海組に負けずかなりの数に昇る。上陸目標はほかならぬ日本。日の出づる国に入り込み、仕事を探すインドネシア人の若者は海組に劣らず非常に多い。しかもそのほとんどがツーリストとして入国し、ある者はつてを頼って、またあるものはギャンブルで雇い主を躍起になって探し出そうとする。私の近所の人は、成田に着いた直後に強制送還となってしまった。不可解なツーリストということで入国できなかったのだ。
その一方で、数ヶ月不法就労して、インドネシアに戻って土地を買って家を建てたり、小さな事業を家族で営むようになる者もいる。
上陸目標の次点は、マレーシアやサウジアラビアなどイスラムのお金持ち国。インドネシアの女性がこれらの国で『お手伝いさん』として働くのだ。この『お手伝いさん出稼ぎ』は、政府も公認する非常に真っ当なお仕事なのだが、借金をしたりして必死になって集めた大金を手続き料や諸々の費用として使い込んでも、憧れの地でで病に倒れたり、ご主人様に遊ばれてしまったり、挙句の果てには売り飛ばされてしまう女性も多い。中には、亡骸となってインドネシアに帰る女性たちも時々TVなどのニュースを賑わす。
こうなってくると二国間の外交問題に発展しなければならないのに、今なお『お手伝い志望』の女性は跡を絶たない。死んでしまうかもしれない!? 犯されてしまうかもしれない!? と誰もが思いながらも、定期的に『お手伝いさん軍団』はインドネシアから飛び立っていく。
これがインドネシアの職探し状況だ。私たちからすれば、『何で外国へ行きたがるのだろう!?』、『何で死を覚悟してまで他人の国へ行くのだろう!?』、『賄賂をたくさん払っても100 %の保証がないのに何で不法就労に挑戦するのだろうか!?』といったところだが。いわゆる日本人の常識だけで思考を巡らせても、おそらく答えは見つからない。
こういった問題の答え探しは理屈や理論ではなく、『そうならざるを得なくしてそうなっている。』という前提に立って、『インドネシアで現金収入を上げることはそんなにも大変なことなのか!』と思うだけで十分だ。もちろんこの回答が正しいのか正しくないのかは誰にも分からない。しかし、外部の人間が『どうして?』と考えても答えを見付けることはとても難しい。
バリ滞在若干9年目の私が想像するに、彼らは原則的に近道をしたくてしょうがない。何かをコツコツと積み上げて目標を達成しようとする意思はほとんどなく、それが故に、きちんと勉強するために銀行からお金を借りるなんてことは考えない。これには国内の経済をはじめとする様々な問題が絡んでくるのだが、勉強しても仕事にありつけなければ意味がなく、勉強しなくても払えば仕事にありつける方法へと走る。収入に直結しないことには投資できないのだ。仮に卒業すれば必ず仕事にありつける学校があったのなら、それはそれは大盛況のはずだ。
ただ、こういう短絡的な進歩や進化の仕方だと、長いスパンで考えた際にいわゆる労働者としての質の空洞化が促進してしまうことになる。この短絡的でショート・スパンな考え方がこの国の最大の弱点だと私は思う。簡単に言ってしまえば、経済の弱さを発火点とした教育システムのすさみであり崩壊である。やさしく言えば、『将来を夢見ることのできない人たちの悲しさとそういった人たちの多さ』を誘発してしまう、これまでの歴史と現状と悲観的な将来展望しかイメージできない現実の厳しさだ。