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通路だけを境にした別々の二等船室に男子と女子は行儀良く落ち着いた。 神戸を出港した船は時化を避けて瀬戸内海を進み豊後水道から日向灘へと抜けた。 外海に出ると船は大きく揺れた。床が足から離れてしまう空中散歩を幾度となく経験した。 風呂場では揺れの度に浴槽から湯が盛大に溢れた。
トランプで遊ぶグループは時々場所を変え二間(ふたま)を往復していた。 自分も時々ゲームに参加したが車中から気になっていた人とは言葉を交わせず仕舞いだった。 デッキに出てみると潮風が火照った頬に心地良かった。 真っ黒な空と海に波頭が白く不気味に浮かんでは消え、 飛沫が髪から爪先までを濡らしてゆく。 掃除で汚れたモップを船員が投げ捨てた。 モップは海面で柄を一度高くジャンプさせた後、急な速度で左舷を流れて行った。 ウイスキーの酔いとも船酔とも判別がつかぬまま寝付かれない一夜を過ごした。
いつの間にか揺れは収まって静かな航海となった。 その日の午後、名瀬に寄港した。昨夜までの荒天とコントラストをなす快晴の空、 まだ三月だというのに全ての思考を停止させるかのような強烈な日が射していた。 ここで事件が起きたなら、釈明には”太陽のせいだ”が似つかわしい程であった。
2009年02月16日 (月) 23時30分
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