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夥しい数の虹色をした小さな粒達が突然現れ活字の上や行間を動き回った。 それらはある規律をもって行動しているようでもあり、個々に勝手に蠢いているようでもあった。 一瞬、クラブのミラーボールの下にいるような錯覚に囚われたが、確かに朝の通勤電車の中であった。 気を取り直して光源をつきとめようと目を上げると、そこには30歳前後であろうか黒のダウンのコートを着た女がケータイを手にして立っていた。 左手で保たれたケータイには小さなビーズ達が表面を覆い尽くす程多く綺麗に貼り付けられてあり、ビルの間から洩れてくる冬の低い朝日を撥ね返して いた。 女がケータイを操作する度に光の粒達は激しく走り、また急に静止した。 私は軽い目眩を覚え字を追うことが困難になり、この光害に一向に気付く気配もない女に腹を立てた。そして光と苛立ちを遮断するために目を閉じた。 幾駅かが過ぎ都心のビルが太陽を隠した頃を見計らって本を開き、何事もなかったかのようにひっそりと静まり返った紙面から物語の中に帰っていった。
2011年2月
2011年02月24日 (木) 00時47分
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