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風と渡る者
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投稿者:雨雫姫
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(2007年11月09日 (金) 00時21分) |
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どうしようも言えない不快な風を感じていた…。
とは、数刻前までのある少年の談である。
「助かった、団体さんがやってきてくれたみたいだね…」
森に溶け込むような深く静かな千歳緑の瞳。 チャートリューの明るく柔らかな黄緑の髪。 鶸萌葱と苔色を中心とするタートルネックの服装。 一見、森と一体化しかねない一人の少年が其処にいた。
やや白めの肌と、留紺のジーンズが目立つように見えるのは、 やはり彼が木々の中にいて、うっそうとしげる葉の緑が視界いっぱいに広がっているからだろう。
彼は、ジャスティン達が来る数刻前よりこの木の上にいた。 肉食の獣や魔物達が異常繁殖し、森を横行していた。 原因は謎だが、其処にさらに旅人狙いの山賊が加わり、この森は今危険きまわりなかった。 一人では決してそれらを相手にすることは出来ないと判断した彼は、木々の上を渡って移動する事で狼やその他の魔物達の目から逃れてきた。
少年の下方で、彼より幾らか年下であろう者達が多数の狼と戦っている。 唸り声、足音、気配、風の囁き。森は視界が遮られ、彼らはまだ気付いていないかもしれない。 でも、其処には明らかに多数の狼の一団がいることが彼には分かる。 吹き抜けていく風が、其れを彼に伝えてくれる。 彼の知りたい事を、風は伝えてくれる。
改めて一行を見た。 先ほど人外の…風が伝えるには鬼であろう人物が疲労によってか後退したのを確かに見た。 2〜3人、いかにも傭兵という出で立ちの人物はいるが、多くは自分と同年代かそれ以下。 狼…フォレストウルフはそう強い魔物ではないというのが救いではあっても………
「拙い、かな?」
音無き声を空へと向ける。 内にある暖かな力と、声に応じて集まった風とがある一つの形を成す。 暗く生い茂った森に、白く純白の…そして水色の透き通った陰をもつ翼はとても映えるものだった。 太く大きな木の枝から、翼を得た彼はふわりと飛び降りる。
空中で狼達の方を振り向くと、静かに目を閉じ此処からは見えぬ空を仰ぐ。 葉っぱが動く音がした。 次の瞬間には、大きな風の流れがあった。 少年から狼達の方へと動いた風速20m程の強い風の流れ。 木々には決して影響を与えずに…その風は多数の狼の抵抗をもろともせずはるか遠くへと吹き飛ばした。 まだ、全て飛ばしたわけでは無さそうだと、彼は感じた。
彼自身は、風を全く気にする様子も無く…一行の方を振り返る。
「助太刀するよ。………勿論、君達が嫌ならしないけどね。」
少年の名前は、クロス・ティーア。 白き魔力の翼をもつ、風と渡る者。
一陣の風が吹いた。柔らかく、暖かい風。 彼の傍らにいつも在る、その彼特有の風は。
彼が類稀なる風術師の才を持つことを、静かに控えめながらも示していた…。
[19] 雨雫姫 > 同行承諾まで行かなかった…! ある目的の為、アムニまで同行いたします。どうぞよろしくです。 (2007年11月09日 (金) 00時22分)
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