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[11] 旅立ちに向けて……。 投稿者:ベル MAIL HOME (2007年10月12日 (金) 22時39分)
 ジャスティンは部屋の中で、一週間前と同じようにぼんやりと窓の外を眺めていた。
 左腕の痛みは引いている。もう、十分に剣を振るうことができると確信めいた物を抱けるまでに。




 ジャスティンは待っていた。
 一緒にここへ逃げてきた忠実な従者であり、礼節が服を着ていると表せるほど厳しい自分の先生であり、今唯一心を許せる親友を。
 朝食を済ませたら直ぐに腕の立つ傭兵、旅人の情報を収集しに街を奔走していたラファエルは、殆ど毎日夜に帰ってきては、新しく雇い入れた人間の報告、その人間の性格などを詳細かつ簡潔にジャスティンに報告していた。




 ぼんやりと外を眺めるのも飽きてきたので、向けた視線はそのままで、彼はこの一週間の報告を回想し始める。




「嘉邑ジン……武器なども拝見しましたが、前衛も後衛もどちらもこなせる方ではないでしょうか。能力としては十分すぎると考えても大丈夫です。心強い戦力であると私は思います。ただ……」
「ただ?」
「もともと口数が少ない方なのか、得体の知れない所がまだまだ数多くあります。町の人間にそれとなく聞き込みをしてみても、矢張り無駄でした。半分人で半分鬼……、鬼はとても好戦的な性格と聞きますし、思わぬところで足を掬われる可能性が無いとは云えません」
「なるほど。……その様子だと随分苦労したみたいだね」
「いえ、そんなことは」


 首を横に振り、否定していたラファエル。
 だがそれは、自分を安心させるためにわざと言っているのだとジャスティンは気づいていた。
 何か困ったことがあると、ラファエルは長く目を閉じながら喋る癖があるのだ。
 腕が立つ人間がいればそれだけ冒険が楽になるのは当然だ。
 だが矢張り金で雇った、雇われたという関係である、何が起こるかわからないという心配もある。
 動向に少し注意しなければならないかな、とジャスティンは思い、そして次の人物についての情報を思い出す。


「ルクラ=フィアーレ。メイジの少女です。現在この宿に泊まっているので王子も見たことがあると思います」
「あぁ……あの小さな子かい?大きな帽子を被った……」
「えぇ、その通りです。……潜在能力は凄まじい物を感じました。ですがお世辞にも実戦で役に立つとは云えないでしょう。街で聞き込みをしてみましたが、商店の看板娘のような役割をしていたとのことですし……」
「そんな子をどうして雇ったんだ……?」
「お恥ずかしい話ですが……先ほどお話した嘉邑ジンを雇い入れる金銭が足りなかったのです。其処に彼女は目をつけて、自身の持ち物である宝石を渡す引き換えに雇え、と。無論彼女もこの旅についての覚悟はあるようでしたし、この状況です。嘉邑ジンのような実力者を逃すわけには行きませんでした」
「……そうか」


 この話をしている間もラファエルは目を長く閉じながら喋っていた。
 確かに、困るのも無理は無い。
 猫の手も借りたいような状況だが、そんな少女までこの旅に巻き込むことに、ジャスティンは正直戸惑いを覚えていた。
 大丈夫だろうか、と不安が湧いてくるが、次の人物について思い出すことでそれを無理やり押さえ込む。


「ゼーレ・M・ファンタズム。ギルド組織【ファントム】からの使いで私たちに協力するとの話です。実力は定かではありませんが、前衛をこなせるようです。……仮にも組織に所属する人間です、期待を裏切るような結果にはならないでしょう」
「既にそんな組織にも話は伝わっているんだね」
「えぇ。今回は私たちに味方をするような口ぶりでしたが、アフトクラトルのこともあります。油断はしないで下さい、王子」
「あぁ……わかっているよ」


 純粋にジョーカーの存在を危険視してのこともあるだろうが、ラファエルの言う通りアフトクラトルの力を狙ってこちらに接触した可能性も捨てきれない。
 人を雇うというのは、こんなにも大変なのかとジャスティンは改めて思い知った。
 視界を、手元においてあるアフトクラトルに向けて、再び窓の外へ戻す。


「ラキス=F=アブソリュート。この方も幼いのですが、実力は十分あるでしょう。何か一つのことを極めた人間……ただの少年でないことを物語っていました」
「……思ったんだが、随分子供が多いみたいだね」
「どういうわけか……。私も少々傭兵や旅人について認識を改めなければならないかと」
「まぁ、力を貸してくれるというのならありがたいね」


 何か一つを極める。
 自分達より一回りも小さいような少年が、既に何かを極めていると言う事実に少々驚く。
 心強い存在なのだろうかな、と半信半疑ではあるが、ジャスティンはいい加減でそれを切り上げて、最後の人間に関しての報告を思い出し始めた。
 

「ファル=スターダスト。王子も何度か見かけていると思います。この宿の厨房で働いている方ですから」
「あぁ、何度か話したことがあるよ。随分落ち着いた雰囲気を持っている人だろう?僕より大人びた性格だったよ」
「では、剣の腕が立つという話もご存知でしょうね。場合によっては契約を打ち切るという条件でしたが、了承は得ることが出来ましたので雇いました」
「打ち切る条件、というのは?」
「戻るべき場所がある、と本人は仰っていました。詳しくはわかりませんが」

 
 戻るべき場所、ジャスティンとラファエルなら平和を取り戻したクラウゼル城だ。
 落ち着き払ったあの少年も、何か深い事情を抱えているのだろうか。




 ラファエルが雇った人間についての情報を全て思い返し、再び暇な時間が訪れるかとジャスティンは思った。
 と言うのも、この部屋でぼんやりとしているのはジャスティンの意思ではない。


「私が雇い入れた人間を食堂に集めますから、王子はそれまでここでお待ちになっていてください」
「いや、僕も一緒に行っても特に問題は無いと思うんだが……」
「お怪我に響きます」
「いや、もう治って――」
「響きます」
「………………」


 妙な心配性を見せたラファエルが、無言の圧力をかけたためしぶしぶ従っていたのだ。
 時たま見せる異常なほどの過保護精神、それさえなければとジャスティンはため息をつく。
 



 その時ノックが三回響き、丁寧にドアが開いた。


「お待たせ致しました、王子。雇い入れた傭兵、旅人を全て食堂に集めて参りました」
「ありがとう。待たせるのも悪い、早速行こうか」


 待ちかねたように立ち上がったジャスティンに、軽く一礼をするラファエル。
 ジャスティンを先頭にして二人は部屋を出て行った。
 誰も居なくなった部屋に差し込む光は、眩しいぐらいに輝いていた。




 丁度太陽は、真上に昇りきっている。
 



 二人が一階の食堂に入ると、ラファエルの言葉どおり雇い入れた人間が全て集まっていた。
 壁に寄りかかり、目を閉じたまま微動だにしない嘉邑ジン。
 椅子に腰掛け、床に届かない足をぶらぶらと遊ばせつつ、忙しなく視線を動かし、何度も胸に手をあてて深呼吸をして自身の緊張を和らげようとしているルクラ。
 窓辺に立ち、掌の中に納めたロザリオが光を受けて輝く様をぼんやりと眺めるゼーレ。
 ラキスはテーブルに出された料理を幸せそうな顔で平らげているところだった。
 エプロンを取り去り宿の主人に手渡したファルも、大きく伸びをしてから椅子に腰掛けている。
 食堂の隅には、彼ら一行の動向を探ろうと静かに食事を取るヴァールが居た。


「お待たせ致しました」


 ラファエルの声が食堂に響き、一同は一斉に視線をこちらに向けた。
 明らかに町の住民とは違う雰囲気を持つ彼らに、ジャスティンは奇妙な緊張を感じていた。
 だが雇い主と言う立場上、それを表に出すわけには行かない。
 一歩踏み出し、ジャスティンは口を開く。


「まずは、困難な依頼であるにもかかわらず協力を申し出てくれた皆に感謝する。僕が君たちの雇い主になる、ジャスティン=B=クラウゼルだ。……既に彼、ラファエルから事情は聞いていると思うが、僕達の目的はただ一つ。ジョーカーを倒し、クラウゼル城を奪還することだ」
「その、ジョーカーを倒す手段……それはそちらに御座いますのでしょうか?」


 ロザリオをしまいこみ、ジャスティンに向き直ったゼーレが問う。
 

「ある。僕が持つ剣……これがそうだ」
「……成る程。わかりました」


 丁寧にお辞儀をすると、ゼーレは柔らかな笑みを浮かべた。
 普通の人間が見れば落ち着くはずのその笑顔も、どこか余裕を見せる笑みに見えて仕方が無い。
 今のジャスティンには警戒心を少々高める結果に終わってしまう。




 アフトクラトルの力を狙って接触したギルドの人間かもしれないのだ。




 疑心暗鬼はよくないが、かといって初対面の人間を信用するほど彼は甘い考えの持ち主ではなかった。
 一度全体を見渡し、特に口を開く者が居ないのを確認する。

 
「だが、ここで準備を整えて直ぐにクラウゼル城には行かない。そもそも、その手段が見つかっていないからだ。それに、先にやるべき事がある」
「やるべき事、と言うと?」


 隣で飲み物を飲んでいる、未だ幸せそうな顔をした少年を横目で眺めた後、椅子に楽に腰掛けたままのファルが問う。


「さっきジョーカーを倒す手段がある、と言ったね。……だけど、その手段は今僕達が持っている物ではない。クラウゼル城に伝わる伝説だが、このニーズヘッグ大陸に散らばる四つの聖印……それをこの剣に刻み込んで初めて手に入る力、それを手に入れることが先決になる。……だからまずは聖印の入手を行う」
「……その話、信用できる物なのか……?」


 黙って話を聞いていたジンが、低い、だがしっかりと通る声をあげる。


「……信用してくれ、としか言えない。だが、ジョーカーを倒すための一番現実的な手段だ」
「……一番現実的な手段がおとぎ話か……難儀だ……」


 再びジンは目を閉じる。
 先ほどの話で、何人か降りるのではないかと言う心配もあったのだが、どうやらそれは無い様だった。
 ジャスティンは態度には出さないものの、胸を撫で下ろす。


「……僕からの説明は以上だ」
「ここから先は私が」


 ジャスティンに椅子に座るよう勧めてから、ラファエルは喋りだした。


「先ほどおう……いえ、ジャスティン様が話されたとおり、私達が手に入れるべき聖印は四つあります。場所は全て把握しておりますのでご安心を」
「具体的には、どこにあるのでしょうか?」
「このサントシームの街の南に広がる大森林の奥深くに土の聖印、南西に広がる海の中に水の聖印があります。アムニ王国方面から登ることのできる風の山脈に風の聖印、真南に位置する島の火山……劫火の壷に火の聖印が」
「なかなか、無茶な場所にあるような気がするんですけれど……?」


 料理を食べ終え一息ついた少年、ラキスが始めて口を開く。
 ラファエルは軽く頭を振って答える。

「確かに、海の中や島の火山……どう到達していいのかわからない場所もあります。船はアムニ王国に行けば、ここのような法外な値段ではないので利用することができるでしょうが、先ほど挙げた場所に行くような人物が居るかはわかりません。……ですが、やらなければ何も始まらないでしょう」
「い、今できることをするんですね」


 なかなか話すタイミングが掴めなかったのか、少し詰まりながらルクラが始めて口を出す。
 ラファエルはその言葉に、小さく頷いた。


「そういうことです。今私たちがやるべきことは、食料、水の確保、そしてそれを運ぶ荷馬を二頭ほど手に入れること。……今のサントシームでは恐らく一番困難な準備でしょうが、やらないわけには行きません。できなければ何時まで経っても出発できないことになりますから」

 
 一同の表情が強張る。
 戦いは手馴れた人間ばかりだが、商談に慣れている人間はあまりに少なかった。




 暫く沈黙があたりを支配する。
 隅で食事を取る女性が操るナイフとフォークの音がやけに響いているように聞こえる。


  

 そんな空間に響いた、くぅという可愛らしい音。


「え、あ……ご、ごめんなさい……」


 一斉に一同が視線を向けた先には、恐らく音を出した自身が一番驚いていたのだろう、顔を真っ赤にしたルクラが居た。
 そんな様子を見て、ファルが苦笑いしつつ切り出した。


「とりあえず……まずは腹ごしらえしません?食事しているうちにいい案が出たりしそうですし……」
「……そうですね。私たちもまだ昼食を取っていませんし、それからでも遅くは無いでしょうね」
「ですね、まだ食べ足りません」
「……あれだけ平らげたのによく言う……」
「ふふ……」


 ルクラのお腹の音で妙に緊張感が消えてしまった一同は、お互い苦笑いしつつ席に着いた。
 

「さて、それじゃ。ご注文をどうぞ」


 いつの間にかエプロンを再び身に着けたファルが、どこから出したのかペンと紙を持ったまま一同に笑いかけた。

  

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[10] ヴァールの憂鬱 投稿者:OD (2007年10月09日 (火) 21時10分)
サントシームの風、三階。
その一室に一人の女が泊まっていた。
彼女はベッドに腰掛け、窓の外からクラウゼル城を見た。
そしてその後ため息をついた。

彼女、ヴァールは傭兵である。
クラルゼル城陥落の情報を聞きつけ、相棒のヴァーリとともにこの大陸へと渡ってきたのである。
だが、その相棒は今隣国のアムニ王国に滞在している。
クラウゼル城を陥落させたジョーカーとやらの動向が予測できない以上、このように分散させて情報を集めるしかない。
しかし彼女は暇であった。
上半身をベッドに横たえ、思索するように目を閉じる。
彼女が暇であるのには二つの理由がある。
一つは情報がまったくといっていいほど入ってこないこと、そしてもう一つは彼女の欲望を満たす相手が存在しないということである。
町の大部分の人間が逃げ出しているこの状況下では彼女の欲望を満たせる人間などいない。
この状況が続けばそれは苛立ちに変わりそうだということは彼女も気がついていた。
とはいえこのまま部屋の中に居ても何も変わらない。
彼女は体を持ち上げるとそのまま廊下へと歩き出す。
そして同じ階のとある部屋のドアの前で足を止めた。
彼女にとって興味のある話が聞こえてきたからである。
そのまま彼女はドア越しに話を聞いた後、廊下の端に移動して、金髪の男が部屋から出て行くのを見た後、鍵穴から部屋の中を覗いた。


どうやら自分の欲求は一度に解消されそうね、と彼女は心の中で微笑を浮かべた。

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[9] 少年は剣を取る、在るべき場所へ帰る為に 投稿者:水鏡 聖牙 (2007年10月09日 (火) 20時55分)
 国境を跨ぐ交易都市・サントシームを少年は行く。
黒いシャツの上に皮のコート、ジーンズを履いている蒼い髪の少年。
中性的とも言えなくは無いが、やはり少年らしい顔立ちだった。

「国王が殺されたって…随分と物騒な話だな」

 クラウゼル国王―アデルバート=B=クラウゼル―が城内に侵入した何者かによって殺されたと言う凶報は、既にサントシームにも伝わっていることだった。
何者かが侵入し、けたたましい轟音の後、城は空中へ浮き、国王は殺されたに違いない…。
そのような情報がサントシームに入ってから、住民が街から去っていくまでは短かった。
その情報を少年は不本意ながら立ち聞き・盗み聞きに近い形で入手したのだった。
 因みにこの少年は言わば「世界の迷子」で、元いた世界とは別の世界についた流れ者である。
原因は遺跡の探索中に世界の歪に巻き込まれ、ここまで飛ばされてきたのだった。
世界が違うので、当然どこを泳ごうとも、空路を使おうとも自分の家へは戻れない。
幸い、彼の仲間にはそんな「世界移動」に詳しい・精通した者がいる為、その内迎えには来てくれるのだろうが。

「そして僕は未だ帰れずの身、精々生き残らないと皆に悪いか」

 誰にも聞こえる事は無いような呟きが、街の(雰囲気的に)冷たい風とともに消え去った。
彼は宿の厨房で働く身だが、元々剣士であり、腕は立つ存在だった。
それがどうして宿の外にいるかと言えば、近所の雑貨・精肉・果物屋にてメモにあるものを買って来る、所謂「お使い」だ。
本来ならば今日は休日なのだが、先日の国王暗殺事件によって、宿の従業員が一気に消えてしまったからだった。
そこで少年が「給料上げるか、僕の休みを確保しておいてくださいよね」と念を押して働いているような状況だ。

「はあ…以前よりも仕事が減って、給料も下がったからな…そろそろ野獣討伐の依頼でもやらないと」

 しかし現実は、客が来ない分少年の仕事日数は減るので給料は下降の一途を辿り、そして逆に物価は上がる一方だった。
そのせいで、彼の生活には時間には余裕があったにせよ、以前のような金銭的な余裕は少し無くなっている。
余った時間で街の酒場でもその料理の腕を振るうこととなり、最近では魔物討伐の依頼も受けても時間が余るほどの暇が確保されているのだ。
もっとも、その全てをこなしておけば明日の夕食までは間に合わせることが出来るような状況だ。あくせく働かなければ飢えで■んでしまう状況でもない。
逆に働き過ぎて過労■と言うのも考え物だ。そのような(色々な意味で)無様な■に方は免れたい。

「さて、最後は雑貨屋か…“行くなら一緒に風邪薬もよろしくね”…なるほど、僕はパシリか」

 メモに書かれていた文を読み上げると、“パシリ”を強調して愚痴に聞こえる文句を口にした。
そう、宿の店主は少し風邪気味なのだ。とは言え、症状は軽いのだが。
暫く歩いて指定された雑貨屋に辿りつくと、店の中へ入り、メモの品物を探した。

「ここで卵と砂糖と塩に…これは…バター?…で終わりかな」

 字の掠れ、滲んで来たメモを必■で解読しながら少年は雑貨店の中へ入っていった。
メモの通りに買い物を済ませた少年は両手に買い物袋を引き下げ、商店街とも言うべき大通りを歩いていた。
女性店員にまけてもらい、この状況下では割と安価で購入できた。
結局のところ、ほとんどの店でまけてくれた甲斐あってか、本来渡された金額の2割は余る結果となった。
この状況下でも子供への優しさは忘れていないからなのか、それとも“サントシームの風”が単なる御得意先だったからなのか。
そのつり銭の入った革の財布を懐にしまい、宿へと歩き出した。
今日の仕事はこれで終わりだ、と少年は喜びに顔が綻んでいた。
だが、一瞬にしてそれは覆される。一人の青年を通り過ぎた瞬間に、この様に声を掛けられた。

「あの…宿の厨房で働いている方ですか?」

 この金髪の青年は、近頃少年の勤めている宿「サントシームの風」にて何日も泊まっている二人組の片方だ。
もう一人は茶髪で…左肩に傷を負っていたのを少年は記憶していた。
そしてとりあえず聞かれた質問には答えようと青年の方へ振り返る。

「えぇ、そうですけれど。どうかしましたか?」

 そして単刀直入に聞き、返って来た言葉がこれだった。

「厨房で働く従業員で、少年ながらにしてかなり腕の立つ剣士がいると聞いたもので。貴方ではないでしょうか?」

 それって剣士と言う辺り間違いなく僕のことじゃないか、と少年は心では素直に回答した。
こう言う場合はあまり良い話はないから、と断る理由を並べて、それを崩しては再度断る理由の準備を繰り返した後、答えた内容といえば。

「…恐らく、僕ですが」
「おや、やはりそうでしたか」

 結局素直に受け答えてしまった。しかしその顔は険しい。
 少年は腕が立つかどうかはわかりませんが、と訂正する。
それと同時にやっぱり馬鹿だ、僕―そう自信で嘆いた時には、既に後戻りは許されなかった。
金髪の青年はその言葉を継ぐ。

「私達はクラウゼル城を奪還するために腕の立つ者達を探しています。
 恥ずかしながら今の私達には猫の手をも借り、藁にも縋りたいような状況です。
 …御協力願えませんか?報酬は今は微々たる物でしかありませんが…奪還した後、満足させられるだけの金額を出せるでしょう」

 少年は悩んだ。現在の状況で金銭的困難は強いられていない。
つまり現段階で彼の生活は餓■寸前まで切羽詰っているわけでもない。なので報酬金にも興味はそれほど無かった。
もしクラウゼル城を奪還できたとして、城の図書室から元の世界へ戻る有力な情報を得られるかもしれない。
そのような意味ではこの戦いで手に入るものは大きいかもしれないし、単なる無駄骨に終わるかもしれない。
が、戦いの果てにこの世界で■んでしまえば元の世界へは永遠に帰ることが出来ない。精々言うなら転生するくらいしか方法は無い。
とりあえず帰る時までは■ない、帰ったその後も■ぬわけにはいかなかった。
 大きなリスクを背負ってまでして小さな可能性に賭けるべきか。
わずか数分ながら散々悩んだ挙句少年は答えを出した。

「報酬金はそんなに多くは要らないですし、あまり興味はないのですけど…僕の居るべき所へ帰ることさえ出来れば、僕はそれで。
 …場合によっては、途中であなたの元を去るかもしれませんね」
「…わかりました、それで手を打ちましょう。私はラファエル=ディンフォードと申します」
「ファルです。ファル=スターダスト」

 互いに軽く自己紹介を済ますと、ファルと名乗る少年は言った。

「…ところで、いい加減手が疲れてきたので…行かせてもらって良いですか?」

 どうやらこの少年、両手一杯の買い物袋を提げていたことを、忘れていたらしい。
それに気付くと、途端に手が疲れを訴え始めたのだった。
これは失礼しました、とラファエルは頭を下げ、ファルをいい加減に解放してやった。

「居るべき所…ですか。私達はそれすらも失ったというのに。
 ですが途中で帰られたとしても、私達にとっては貴重な戦力、と言うべき所ですかね」

 レンズの奥の瞳が険しい眼差しになると、
金髪の青年はこうして誰かに頼らなければ目的を果たすことが出来ない無力な自分達を自嘲気味にそう言ったのだった。
すぐに普段の顔に戻ると、別の仲間を探しに歩きだした。
 一方、敏腕剣士と呼ばれた蒼髪の少年は、宿へと向かいながらこう呟いた。

「僕の居るべき所には、そう簡単には帰れない…。
 そしてもし仮に元の場所に帰れたとしても、必ずここへ戻って来れると言う保証も、ない」

 互いに本来居るべき所、現在までの経緯を思い浮かべながら、二人は別々の方向へ立ち去っていった。
疎開した交易都市に吹く風に以前のような活気さは、含まれていなかった。

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[8] 幽霊と少年 投稿者:ライム (2007年10月08日 (月) 22時51分)
 ほんの数日前までは、商人の声が騒がしく聞こえる程、大盛況であったこのサントシームの街も、数日前のあの『大事件』により、今ではその様な雰囲気すら醸し出さない滑稽な状態と化していた。

 『大事件』とはクラウゼル城の陥落、そして不気味に空中に佇んでいると言う異様な状態になっていると言う事である。
この『大事件』はサントシームの街にいる人々を恐怖のどん底に突き落とし、この村にいる殆どの人は隣国のアムニへと逃亡してしまった。

 クラウゼル城が陥落したと言う事は、かの賢王アデルバート=B=クラウゼルが崩御したと言う事と言う事であり、偉大なる主導者が敵によって討たれたとなれば、この国の人々も絶望するのは当然の事であろう。
加えて、国の権威の象徴とも呼べる城が空中に佇んでいると言う状態ならば、この国自体が死んだ様な物である。

 中には隣国のアムニにでは無く、他の諸外国に逃亡しようとした人達もいた様だが、未だにこの町にいる商人がこの事を利用し、交通機関の料金を引き上げた為、その料金を払える物がおらず、結果的にアムニに逃亡する事となった人もいたりした。

 商人による料金の引き上げは、丁度この大陸に滞在している旅人や冒険者にも大きな影響を与えていた。
これらの人々は魔物の討伐等の危険な仕事を遂行する為に、回復薬等を買っていく者が殆どであり、その関連の料金が引き上げと言う事となれば、これらの人々に大変な負担となってしまうのである。

 更に悪い事には、宿舎店等もこの影響を受けてしまい、殆どの宿泊店の料金が他の国では考えられない程高くなってしまっていた。
これらの事が起因して、この町には旅人や冒険者等の類の人はあまり見かけなくなっていた。

 この最悪とも言ってよい様な状況のサントシームの町に、10歳位の青色の長髪・青眼をした可愛らしい顔つきの少年がこの町の東側にある公園で誰かと話していた――だが、それは一部の者にしか分からない事であり、傍から見れば、何も無い所に何か独り言を言っている変な子にしか見えないであろう。

 何故なら、少年が話しかけている相手は俗語で言えば【幽霊】と言う名の存在であるのであり、普通の人間には見えない存在であるのである。
普通ならそうであろうが、この町の過疎の急速化のせいで公園には人が殆どいない為、少年は人目を気にせず友達である幽霊と話す事が出来るのである。
少年の隣には、逞しい体つきをしている剣士風の男がおり、少年と話し合っていた。

「……ラキス様、矢張りクラウゼル王が崩御したのは事実の様です。後、宝剣についてもジャスティン王子が持ち出したとの情報が出ています」

 剣士風の男が淡々と自分が調査した事を、隣のラキスと言う名の少年に告げる。
実はこのラキスと言う少年は、最高神から授けられし神聖な職業『ソウルオペレーター』と言う名の職業についているのである。

 『ソウルオペレーター』とは、人間界の世界で言えば裁判官の様な存在であり、その権利でこの世に存在する悪霊を裁く事を主とする職業である。
そんな大そうな職業についているラキスが何故この大陸にいるのかと言うと、その主な原因が商人のせいなのである。
 上記した通り、突然の商人の価格の値上げにより、丁度悪霊を退治し終えたラキスは、商人の提示した法外な値段を払えるはずも無かったので、仕方なくこの大陸に留まっていると言う訳である。

 隣国のアムニに行けば、元の大陸に帰れる可能性があるが、現在のラキスの所持金ではアムニに到着したとしても、所持金の不足で帰れないと言うのがオチであろう。

 金を稼ごうとしてアルバイト先を探そうとも思ったが、この町の悲惨な状態ではアルバイトで金を稼げるとは到底思えない為、頭の中で却下された。
しかも、空中に漂うクラウゼル城は悪霊の活動を刺激する大きな要因になりうる為、大陸から離れたくても離れられないのである。
更に性質の悪い事に、クラウゼル城には神の力の鍵となるアフトクラトルと言う宝剣がある。

 もし、侵略者側にアフトクラトルが渡っていると言う最悪な状況であったら、大変な脅威になるであろうとラキスは危惧していた。
だが、今の部下である幽霊の報告を聞くと、一先ず安堵し、これからの事を考え始めた。

 アフトクラトルが侵略者側に渡っていないと言う事になると、現在アフトクラトルを所有している者は国内の伝統・身分制度から考えて、無事に城から脱出したジャスティン=B=クラウゼル王子が最有力候補となるであろう。
 情報によると、ジャスティン王子はこの町の東側の宿に宿泊している様だが、いきなり訪問してきても相手に警戒心を与えてしまうだけである事は確実である。
そこで、ラキスはジャスティン王子の家庭教師でもあるラファエルと言う男をパイプとして利用して、アフトクラトルの監視をしようと思いついたのである。

 幸運にも、そのラファエルと言う男は城を侵略した者を討伐する為に傭兵を雇っているとの情報がある為、ラキスは早速ラファエルに会いに行こうと結論づけた。

「御苦労様でした。ウエルス、早速ですが、そのジャスティン王子に謁見しましょう」
「御意、……ところで、ラキス、今日はナンパはし――」
「はいはい、冗談はいいからさっさと会いにいこうよ」

 ラキスはウエルスと言う名の幽霊の冗談を呆れた様に流すと、ウエルスの頬を引っ張りながら、ラファエルを捜索するのであった。





暫くして、ラキスはこの町にいる幽霊達から情報を聞き出しながら、ラファエルがいるであろう場所に向かっていた。
そして、ラキスは正面から広い道路をたった一人で歩いている金髪の優男を発見し、部下であるウエルスに確認を求めた。
ラキスはウエルスが頷くのを見て、間違いなくラファエルと言う名の人物であろうと言うのを判断して、ラファエルに接近する事にした。

ある程度接近すると、魔力と言う物が一般人程度しか無いラキスにでも、ラファエルは魔法に関しては相当な実力者であると、ラファエルから感じられる魔力の大きさから感じ取った。
そうなると、此方が傭兵として雇ってもらう為には非常に面倒な事になる。

理由としては、ラキスにはこれと言って優れている能力が無く、このまま頼みに行っても、戦闘には役に立たないと判断されて断られるのがオチであろう。
なので、ラキスはウエルスを見て、こう言い放った。

「ウエルス、悪いけど、少し力を貸してくれないかな?」
「了解、剣術に関してなら俺に任せときな!」

ウエルスの承認を得て、ラキスはウエルスの魂を取り込んだ。
ソウルオペレーターは魂を取り込む事により、能力の強化やその魂の生前の技等を使用できたりするので、こう言う困った場合等には臨機応変に対応出来るのである。

 その為、あまり身体能力に自信の無いラキスでも、生前アムニで優秀な兵士であったウエルスの魂を取り込む事によって、ある程度の強化が出来るのである。
ラキスは自分の能力の強化を自覚すると、ラファエルと話し合う為、気を取り直して接近し始めた。

「……すみませんが、一寸尋ねても宜しいでしょうか?」
「…!貴方は一体何者ですか!」

ラキスがそう言うと、ラファエルは何故か此方を警戒し始めた。
ラキスが推測するには恐らく、此方(取り付いているウエルスの魂)から放たれる強者の『気』の大きさを感じ取って、強者だと判断したのだろう。
幾ら此方の外見が10、11歳程度の少年とは言え、流石に警戒するであろう。
取り合えず、ラキスは警戒を解いて貰うため、敵では無い事を証明しようと思考した。

「……警戒しなくても大丈夫です。僕は敵ではありません」
「……失礼。貴方が相当な実力者であろうと思ったので、ついつい警戒してしまいました。……それで用件とは?」

ラキスはラファエルが此方に対して警戒を解いたのを判断すると『ジョーカーを討伐する傭兵に、自分も参戦したいと思っています』と簡潔に用件を述べた。
ラファエルからしてみたら、外見は子供でも、実際に対戦しなくとも強者と判断できる者を雇えるとなったら戦力不足の此方としては助かると思えるだろう。
交渉はラキスの予想通り、順調に進み、最後には報酬の話となったが、ラキスはラファエルの心の内を読んでこう言い放った。

「あ、報酬に関しては後払いで構いませんよ。お金には困ってませんし」

こうして、二人との間に契約が結ばれたのである。


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[7] Contact 投稿者:聖龍 光神 (2007年10月08日 (月) 21時33分)

嘉邑 ジン、ルクラ=フィアーレの両名と一度別れを告げ、再び街へと繰り出したラファエル。
実質、増えた戦力は僅か。更なる戦力の追加を狙って街を歩く。ものの・・・

――中々、いませんね・・・――

当然と言えば当然である。
三日前から外との交流は麻痺しているも当然。
こんな時に来るのと言えばよほどの物好きか、何らかの命を受けた者くらい。
その前に来ていたとしても、恐らくはアムニ王国に行ってしまっているだろう。

――期待、出来ませんかね・・・――

「はあ・・・」

気の滅入りそうな考えに思わずため息が洩れてしまう。
と、その時。

「・・・そこのお兄さん」
突然、何処からとも無くラファエルに声がかけられる。
いきなりの声に反応し、周囲を見まわすが、まわりに人影は無い。
「気のせい、ですか・・・」
「気のせいではございませんよ?」
今度の声は正面から。ふと前を見ると、修道服に身を包んだ十二歳くらいの少女が立っていた。

――先ほどまでいただろうか。

ラファエルの脳内に警戒のランプが点灯する。

「・・・私に何か用でしょうか?」
「いえ、何かお困りのご様子でしたので。私でよろしければお話をお伺いしようと、思わず声をかけてしまいました。」
ふわりと少女は微笑む。気を許してしまいそうな暖かい微笑み。しかし警戒は解けない。
「ありがとう。ですが、あなたのような方に話せるような内容ではありませんので―――」
「本当にそうでしょうか・・・」

言葉を遮るように、少女が言葉を発する。その言葉はラファエルを驚愕させた。

「――ラファエル=ディンフォード様?」

「・・・っ!?」

この少女とは今初めて会った。なのにこの少女はラファエルの名を知っている。
名乗った覚えは無い。ファーストネームはともかく、ファミリーネームまで目の前の少女は言い放った。
警戒は強まり、思わず剣の柄に手が伸びる。

「あなたは一体何者です。」

厳しい表情を浮かべるラファエルとは対照的に、少女の顔は依然、穏やかなままだ。

「申し訳御座いません、自己紹介が遅れました。私、ゼーレと申します。」

少女――ゼーレ――は恭しく頭を下げる。

「ギルド組織「ファントム」がリーダーより命を受けて、ここに参りました。」
「そのあなたが、何故私にコンタクトを・・・?」
「追々お話しようと思いますが、その前に一つ、お願いが御座います。」
「・・・なんですか?」

剣を握る手に力がこもる。

「私も雇っていただけないでしょうか?」
「・・・えっ?」

警戒が空転する。予想だにしなかった言葉に思わず声をあげる。

「それは、どういうことでしょうか・・・?」
「今、言った通りのことですよ?」

雇う・・・つまりは一緒に戦うということ。
――この少女が?
齢は十二歳ほど。戦うのは無理に見える。
――しかし、私には気付かれること無く近付いてきましたし・・・

「・・・わかりました。貴方を雇わせていただきます。ですが――」
「報酬のことでしたらご心配なく。最終的に頂ければ構いませんから。」
「そうですか・・・ありがとう御座います。」
「では、改めて自己紹介を。私はゼーレ・M・ファンタズムと申します。どうぞ、宜しくお願いします。」
「ご存知でしょうが、私はラファエル=ディンフォードと申します。」


背丈の違う二人の間に握手と同時に契約が結ばれた。




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[5] 少女よ、前へ進め。歯車は動きだした。 投稿者:ベル MAIL HOME (2007年09月26日 (水) 23時47分)
 サントシーム東門前。
 ここで一人の男と、一人の少女が話を交わしていた。


「……わかったよお嬢さん。嘘じゃないのは認めよう。だが……」


 何かを渋る男に少女は、その外見からは想像の付かないほど丁寧な言葉を返す。


「お気遣いはとても嬉しいです。けれど……ここにずっと居るつもりはわたしにはありませんし、あなたにも迷惑が掛かると思います。……こんな状況なら、尚更ですよね?」
「まだ小さいのにしっかりしたお嬢さんだな……。あぁ、わかったよ。無理に勧めるのは止めよう。だが、困ったことがあれば直ぐにここを頼ってくれよ?多少は力になれると思う」
「ありがとうございます。……あの、お世話になりました」


 少女は男に向かって丁寧にお辞儀をすると、手に持っていた黒い大きな三角帽子をしっかりと被った。
 すっぽりと頭を覆ってしまうそれは、少女の表情がわからなくなってしまうほどだ。
 お互い軽く手を振って、別れの挨拶とする。
 そして男は再び門の外を睨みつける番兵に変わり、少女は街の中を駆け出す一人の旅人へ変わった。




「……新しい宿を探さないと……。前の宿は、もう泊めてくれないでしょうし……」


 駆け出した少女は、だんだんと速度を落とし歩みへ変えてから、ポツリと独り言を呟く。
 少女はここサントシームの街の人間、否――。
 ここニーズヘッグ大陸の人間ではなかった。
 自分で思い返してみても何故そうなったのかわからないほどの不運に巻き込まれ、この大陸にたどり着いてから早い物で三ヶ月の月日が経過している。
 初めのうちは自分の住んでいた大陸、メルディアでは見ることのできない様々な物を見ることができ、飛竜などといった多彩な交通手段があることもあり、故郷へ帰り着くのも楽であろうと前向きな考えを持つことができていた。
 何度も足を運び、知識を総動員して交渉の真似事などもやってみた。




 しかし、返ってくる返事は何時も。




「……夜と昼が逆転してる地域がある?おいおいお嬢ちゃん、まだ昼だぜ?酒のつまみになる話はまだ買い取って無いぞ」
「あーわかったわかった。小さいのに随分想像力豊かだねー。お兄さん達忙しいからその話は別の人にな」
「あー、迷子か?誰か親を探してやってくれー」


 どれだけ自分が必死になっても、相手にしてくれない。一番目印になる情報であるその内容が確かに作り話に近いこともあるだろう。
 だが。
 どうも自分の身長を見て子供の戯言だと聞き流していた人間が多かったような記憶が少女にあった。
 少女は現在十二歳である。
 しかし身長はというと自分の半分の年齢の子供にも負けてしまう、そのぐらい低い。
 先ほど別れた男、自警団の人間であるが、それに厄介になったのも、今まで宿泊していた宿の主人が要らぬ気を利かせたために起こった珍事であった。

 
「女の子が一人で何日も宿に泊まっている。家出じゃないか」

 
 そんな通報で、少女は何度も事情を説明するもやはり身長が原因で信じてもらえず、暫くの間自警団の詰め所で寝泊りしていたのだった。


「でも……」


 自分の身長に関する嫌な思い出はとりあえず置いておくとして、思いは遥か上空に浮いているクラウゼル城に向けられた。
 あの城が突然浮かび上がったのは記憶に新しい。
 そしてそれが陥落を意味することも、少女は分かっていた。
 どのような人物が、どのような目的で。それは少女にはわからない。
 故郷に帰るのが目的の少女には、関係が在るか無いかといえばどちらかといえば無い、という話である。




 しかし完全に無視はできない話ではあった。
 サントシームの街の人間が殆ど逃げ出してしまったためだ。
 複雑な気持ちではあるが、身長の低さによって年齢が低く見られるため、軽い手伝いをするだけで食材をもらえたり、金銭をもらえたりした。
 それに味を占めて悪用をしないのは、そのような真似を少女が絶対に許さない性格だからだろうか。
 何事も完璧にこなし、少女には辛い作業でも進んで手伝い、いつしか少女は商店街のマスコットのような存在になっていた。
 しかし、今は少女の知る商人は殆ど居ない。
 それによって何とか暮らしを成り立たせていた少女には、現在のサントシームの状況は忌々しい事態とも言える。


「………………」


 無意識に鞄に手を入れて、掴んでいたのは大きな宝石。
 それを取り出し、しばし眺めてから再び鞄に仕舞いこむ。
 それは少女の故郷のアカデミーで、優秀な成績だからと送られた物である。
 魔力を秘めた物で、それほど貴重では無いといえども美しさは一級品、それなりの値が付く代物だ。
 いざとなったらこれを売ってしまえば。
 大切な品物で売るのは忍びないが、そんな考えが一瞬頭をよぎる。




 だが、手伝いがなくなって何も手に入らなくなったら?宝石を売って手に入れた金もいずれ底を付くのは明らかだ。
 そうなって宿に泊まれなくなったら?
 何時故郷に帰れるチャンスが訪れるのか?




 まだ甘えたい盛りの少女には、高すぎる壁が立ち塞がっている。
 仮に新しい宿を見つけたとしても、そこから先の行動は空白であった。
 だんだんと不安な気持ちがつのり、足取りは重くなる。




 とぼとぼと大通りを歩いていたその時。


「事情は分かる……だが……やるべき仕事に見合った報酬を求める……それは当然じゃないか……?」
「確かにそうです。……しかし、何度も言うように現在私にはそこまでの金額を払う余裕はありません。ご理解を頂ければ……」
「だが……な……」


 赤と青という対の瞳を持ち、黒髪を大雑把に後ろで結っている、それ以外はあまり特徴の無い青年に、金髪に眼鏡、どこか貴族に似通った衣装を身につけた優男がなにやら言い合っている。
 どうやら仕事に対する報酬についてもめているようだと少女は察した。
 そして、どうせ宿を見つけてもやる事がわからない、まだ街に残って何事かをしようとしている二人に興味を抱き、こっそり物陰から話を聞くことにした。


「前金でこれだけお支払いします。……奪還が成功した暁には、その何倍もの報酬を支払うことをお約束します」
「……その前金が問題なんだ……クラウゼル城の奪還……それに見合った金額とは考えられないだろう……?」
「クラウゼル城の……奪還……!?」


 青年の口走った単語を少女は鸚鵡返しに呟く。




 少女は何度か、クラウゼル城にも足を運んでいた。
 賢王と名高いクラウゼル王は、大変本が好きだと聞いている。
 もしかすれば、自分の故郷に関する書物が城に眠っているかもしれない、そんな淡い期待を抱いて訪れたのだ。
 しかし結果は、門前払い。
 考えてみれば当然のことである。
 身分もわからぬ、少女が城に入りたいと言っても門番が聞き入れるはずが無い。
 クラウゼル城で調べ物をする、という行為は諦めていた少女だったが、青年の語った内容を聞いてそれを思い直していた。
 奪還が成功すれば、書物を読む権利を貰うのは容易いのではないか。
 久しぶりに興奮に胸が躍り、少女は話の続きを聞こうと聞き耳をしっかりと立てた。




 優男が静かに目を閉じて、ゆるゆると頭を左右に振っているのが見えた。


「……これ以上の金額はお支払いできません。これで納得できないようであればこの話は無かった――」
「……待て……」


 優男の話を途中で遮り、青年はじっくりと辺りを見回す。
 慌てて少女は顔を引っ込めたが、青年は其処をじっと見つめていた。
 優男も、最初から少女には気づいていたようである。
 少々呆れを含んだ声で、隠れている少女に声を掛ける。


「……出てきなさい。隠れても無駄ですよ」
「っ……!?」
「……出たくなければ……出してやろうか……?」
「まっ……待ってくださいっ、でますっでますからっ!」


 このまま隠れていたらとんでもない事になるのを感じ取った少女は、慌てて物陰から飛び出した。
 じっとこちらを見つめる二人分の視線に、思わず後ずさりをするが何とか踏みとどまる。


「貴女の様な方がこんな話を盗み聞いても何の得にもならないでしょう?早く立ち去りなさい」
「………………!」


 優男の冷ややかな視線に、思わず少女はその場に立ち竦んでしまう。
 しかしこのままで居れば、せっかくのチャンスを逃してしまう。
 勇気を振り絞り、少女は口を開いた。


「そそ、その話……!わ、わたしにもくく、詳しく聞かせてくださいっ!」
「……は……?」


 優男は口をぽかんと開いているのが見える。
 構わず少女は更に言葉を続ける。


「わわ、わたしも……だっ、奪還のお手伝いをし、したいんですっ!」
「……遊びじゃないんですよお嬢さん?」


 眼鏡の位置を整え、威圧的な視線で睨みつけると優男は言った。
 睨みつけられ、少女は足を震えさせるが、強気な口調で言い返す。


「そ、その方の報酬でもめているのはさ、さっきから聞いているので知ってます!わ、わたしを奪還に参加させてくれるなら……!」


 慌てて鞄を探り、先ほど取り出した大きな宝石を優男の目の前に突き出す。


「これを差し上げますっ!売ったら、その方が満足するほ、報酬が払えるでしょう!?」
「…………!」

 
 優男の表情が強張り、もう一度眼鏡を整える振りをして表情を隠す。


「随分強気な交渉ですね……」


 優男は誰にも聞こえないよう小声で呟いてから、再び眼鏡を整える手を離す。
 正直目の前の少女は役に立つか立たないかと云えば間違いなく立たない、と言える。
 だが、この少女を雇えば――恐らく前金云々を飛ばすだろうと予想している――打って変わって優秀な能力を持つこの青年を雇うことができる。
 素早い損得勘定を終えた優男は、しかし自分に非の無いようもう一度少女に問いかけた。


「もう一度聞きます。……貴女が思うほど楽なものではないですよ?それでも貴女は協力するというのですか?」


 少女は、今度は迷いの無い調子ではっきりとこう答えた。


「はい!魔術の心得がありますから!……足手まといにならないよう一生懸命頑張ります!」
「……なるほど、わかりました。貴女を雇うことにしましょう」
「……!」
「では約束です。それを渡していただけますね?」


 大きくお辞儀をした後、少女はぱたぱたと優男に駆け寄り、手に持っていた宝石を丁寧に渡した。
 少女の様子からして贋物では無いことはわかっているのだが、優男は宝石を眺め、その輝きが本物であることを確かめる。
 そして、先ほどから黙って優男と少女の会話を聞いていた青年に向き直り、満足げな笑みを浮かべた。


「……先ほど掲示した金額の二倍。……前金はそれでどうでしょう?」
「……いいだろう……少し、妥協点だが……な……」
「ありがとうございます」


 青年に丁寧にお辞儀をして見せた優男は、再び少女に向き直る。


「自己紹介が遅れましたね。私はラファエル=ディンフォードと申します」
「嘉邑ジンだ……」
「は、はいっ!わたしは……ルクラ=フィアーレと申しますっ!よ、よろしくおねがいします!」


 優男、ラファエルに青年、ジン。
 少女、ルクラは二人と硬い握手を交わした。

 


 幼い少女の運命の歯車が、ゆっくりと回りだす……。

[6] ベル > 自キャラであるルクラを合流させました。
↓の方で持ち金があぶなっかしくなりそうだったので小細工も少々。 (2007年09月26日 (水) 23時56分)
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[4] 強欲な半鬼 投稿者:卯月 (2007年09月24日 (月) 06時17分)
「御前か…?傭兵を募集してるってのは…」
ラファエルは突如、背後からした声に驚き振り向いたが誰も居ない。空耳だと思い再び前を見るとその声の主が居た。

一瞬、ラファエルはジョーカーの傘下の者かと思ったが声の主は丸腰で得物を持っている訳でもなくただ突っ立っていた。

「え、えぇ。そうですが…?傭兵の方でしょうか?」
そう聞き返すと

「あぁ、そうだ……自己紹介がまだだったな…
 俺の名は嘉邑ジン、年は今年で21になる。」

「あ、私の名は「知ってる…ラファエル・ディンフォードだろ…?」
途中でジンに発言を遮られて名前を言われる。
何時の間に調べたのだろうか?不思議だ。

「そ、そうですが…所で得物の方は…?」
傭兵の癖に何も持っていないジンに不信感を抱き問う。
実際に傭兵に成りすまし報酬の前金だけを持って逃げる者も居る為。


「…見せてやるよ。」
ジンがそう言った瞬間に不気味な子供の様な姿をした何かが大量に地面から湧き出す。異様な程に腹が膨らみ明らかに生気の無い肌の色。一瞬でラファエルはこの世のモノでは無い事を悟った。

「大した物ですね…その年で召還術が使えるなんて…」

「餓鬼を呼ぶ位、、、普通の鬼なら誰でも出来るさ…」
即答。

「鬼…?」
ラファエルは耳を疑った。目の前に居る彼は人間だ。
なのに鬼などと口走った。

「言い遅れたな…俺は半人半鬼だ…」
半分人間で半分鬼。
つまり、余程の事では無い限り死ぬことは先ず無い。

ラファエルは良い傭兵を手に入れたと思っていたがこの先の言葉でガックリ来た。

「そうだ…何をするか知らんが、報酬はかなりの額を貰う。」
傭兵って金にがめついな、と思う今日この頃。

(…まさか、資金稼ぎに使う資金とは言えまい)





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[2] 希望を探せ 投稿者:ベル MAIL HOME (2007年09月22日 (土) 00時37分)
 宿『サントシームの風』の窓から見える景色は、一見いつもと変わらぬそれであった。
 大通りを人々が行き交い、時たま元気の良い商人の声が響く。
 いつもと変わらぬ光景。




 しかしそれは、今の時刻が早朝だったらの話であった。
 今は太陽が真上に昇りきった昼間。
 それにしては明らかに人通りが少ないし、商人の掛け声もまた同じである。
 それに、と窓から人々の様子を眺めていた青年は思う。




 人々の表情は皆不安に、悲しみに満ちている、と。




 クラウゼル城陥落の知らせがここサントシームの街の隅々に行き届くのに、三日と掛からなかった。
 城を堕とした人物が何時街を襲うかわからない。
 それならば、少しでも安全な場所へ逃れよう。
 人々の殆どはそう考え、遥か西に存在するアムニ王国へと逃れている。
 現在サントシームの街は、街を捨てきれない想いを持つ者、様々な事情を抱え逃げることのできない者が僅かに残り、何時もの生活を続けていた。
 そんな少数の人間達をぼんやりと眺めていた青年の背中に声が掛かる。


「……王子」
「わかっているさ……ラファエル。今はアフトクラトルの力にだけ意識を向けろ、そう言いたいんだろう?」
「……は」


 王子、そう呼ばれた青年は振り返り、寂しげに笑ってから、身に着けている剣を指で軽く叩いた。
 茶髪の上にサークレットを着けた、ようやく少年の域を脱した程度の年齢と思われる青年。
 その格好は旅人のようにも見えるが、貴族のようにも見える。
 青年は名を、ジャスティン=B=クラウゼルといった。
 『あの』クラウゼル城の王子であり第一王位継承者その人である。
 そんなジャスティンに畏まった態度で先ほどから向き合っているのは、金髪の、眼鏡をかけた美青年。
 彼の名はラファエル=ディンフォード。
 王子ジャスティンの教育係である。
 彼らは、あのクラウゼル城の襲撃から何とか生き残り、この宿に腰を落ち着けていた。


「幸い、聖印の在り処は全て分かっております。何しろ古い伝説ゆえ、本当かどうかは定かではありませんが、ジョーカーを倒すためにはこれしかないかと……」
「あぁ……」


 聖印、その単語に反応したジャスティンは剣を抜き放つ。
 それは剣と言うにはあまりに奇妙な形をしていた。
 宝剣アフトクラトル、その名の通り貴重な宝石細工のような剣は、窓から差し込む太陽の光を受け輝きを放っている。




 四つの聖なる力宿す時、神々が剣に舞い降りる。




 クラウゼル城に代々伝わる古い伝説である。
 ラファエルの言うとおり、本当なのかどうかは定かではない。
 しかし今は、可能性の有る事になら何にでもすがりつきたい、二人はそんな心境であった。
 

「………………」


 城の面々がふとジャスティンの脳裏に浮かび上がる。
 少し慌てものの侍女、何時も元気よく挨拶をしてくれた兵士達。
 そして、危機を察知しいち早く脱出の手はずを整えた、優しく聡明な父。
 彼らのためにも、ジョーカーは必ず倒さねばならない。
 そんな決意を改めて確認し、ジャスティンは剣を鞘に戻した。


「このサントシームの南の大森林……そこに一つ目の聖印【土の聖印】が眠っているそうです。少しでも容易と思われる場所から聖印の入手を進めていきましょう。……しかし、一つ問題があります」
「……僕にも大体わかるが、言ってくれるかい?」
「は……。あの森に限らず、ジョーカーが現れてからと言うものの魔物の活動が活発になっているとの情報を耳にしています。容易であると言いましたが、とても深い大森林です。私達二人だけではとても聖印までたどり着けるとは思えません」


 サントシームの南に広がる森は、街の人々からは『帰らずの森』と呼ばれ恐れられていた。
 魔物の巣窟であり、昼間でも木々が光を遮り薄暗く、森自体が非常に迷いやすいのだ。
 ラファエルの言うことは尤もである、ジャスティンも無言で頷き、続きを促す。


「そこで、ここへ訪れている旅人、傭兵の力を借りようと考えています。彼らが満足する額を支払えるほど今は手持ちが十分ではありません。これからの旅に必要な物資の金額も考えると、尚更です。しかしクラウゼル城を奪還できれば、彼らにも十分な報酬を与えることができると思います」
「確かに……今はその案が最善に思えるよ」
「ありがとうございます。……雇うのは私にお任せください。王子は怪我の治療に専念して頂ければと思います……」


 ラファエルに言われ、ジャスティンは自分の左腕に視線を移した。
 左腕は脱出の際、崩れ落ちる城壁によって負傷をしていた。
 ジャスティンは左利きのため、怪我が治るまでは満足に武器を振るうことができないのである。
 

「……わかった。それは任せようラファエル。僕は……一刻も早く怪我を治さなければね」


 少し俯き加減に、早口に言うとジャスティンは備え付けの椅子に深く腰掛けた。
 ラファエルは黙って深く頭を下げると、ドアを開け宿の廊下へ出る。


「………………」


 今のジャスティンの気持ち、それはラファエルも痛い程分かっていた。
 一刻も早くジョーカーを倒したい、その気持ちは二人とも一緒なのだ。
 だが感情に任せて動けばどうなるか、それは火を見るより明らか。

 
「王子……堪えて下さい」

 
 出した答えは、ジャスティンにとって酷な選択だろう。
 全てはジョーカーを倒すための下準備、そう自分に言い聞かせながらラファエルは廊下を歩き出した。

[3] ベル > 再開の一歩を踏み出しました。
Loreさんが書かれた前回の物を参考にしつつ私なりに色々と想像を膨らませて書いてみました。
暫く旅人・傭兵募集期間とします。
ある程度集まったら再び進行を開始します。 (2007年09月22日 (土) 00時40分)
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[1] プロローグ 投稿者:Lore (2007年09月20日 (木) 22時41分)
アデルバート=B=クラウゼルは、緊張した面持ちで分厚い鉄の扉の向こうを見ていた。
ここはクラウゼル城、玉座の間。
兵士達は玉座に座する王の前に扇状に並び、各々の槍を構えている。
王も、兵士も、ここにいる全員が扉の向こうを凝視していた。


「なんて奴だ……たった1人で城の守りを突破し、ここまで来たというのか……」

「我等以外の兵士は皆、扉の前で戦っております……しかし何時までもつか……」


王の呻きに、兵士の1人が答えた。

その時、異変が起きた。
玉座の間とエントランスホールを隔てる大きな扉が、一瞬にして消えたのだ。
その直後の轟音で、事実はそれとは異なることを全員が認知する。
鉄の扉が、まるで紙屑のようにひしゃげ、固い石床の上に転がっていた。

扉は凄まじい衝撃で吹き飛ばされたのだ。

扉の向こうは煙に包まれ、何も見えなかった。
王と兵士達は固唾を飲んでその向こうを見つめた。

煙の中に、1人の影が浮かび上がった。
兵士達は反射的に槍を向ける。
乾いた足音と共に影が濃くなっていき、煙の中からその姿を現した。

長い蒼碧の髪。
異国風の青い服装。
男性とも女性とも取れない顔。
耳の代わりに小さな白い翼。
そして、魔術の素養の低い者でもはっきり感じ取れるほどの、強大な魔力の波動。


「こんな謁見の仕方で失礼します、クラウゼル王」


侵入者は恭しくお辞儀をした。
しかしどこか白々しい。


「…お前は何者だ」


王は最大限の威厳を持って、侵入者に問うた。


「ふふふ……物語の配役ですら無いキミに、名乗る名前は無いよ」


侵入者は不遜な態度で、王に向ってゆっくりと歩を進める。
すぐさま兵士達が侵入者を取り囲み、槍を向けた。
しかし侵入者は、兵士達など見えていないかのように、歩を進めることを止めなかった。

次の瞬間、何の前振りも無く、兵士達は吹き飛んだ。
1人は天井に叩き付けられ、1人は壁に激突し、1人はコマのように回転して地面に落ちた。
兵士達は皆、一瞬の悲鳴すら上げず、絶命した。


「………ッ」


王はごくりと唾を飲んだ。
そんな王を嘲笑うかのように、侵入者はさらに歩を進める。


「……あぁ、そうだ」


侵入者は突然、そう呟いて歩みを止めた。
そして何か良い事を思いついたような、子供のような笑みを浮かべると、くるりと翻り王に背を向けた。

侵入者が右腕を中空に翳すと、濃い紫色の光の玉がそこに現れた。
光の玉はひとりでに浮かび上がると、弾けるように8個に分裂した。
そして、光の玉はそれぞれ兵士達の亡骸の中へと吸い込まれた。

魔力を用いて様々な事象を起こす術……魔法、だ。

王は、目の前で起きた事象に、自分の目を疑った。
すでに息絶えたはずの兵士達の身体が、緩慢な動作で起き上がったのだ。
しかしその目は虚ろで表情が無く、動きも人間味が無い。

生き返った? いや、これは……


「さすが、賢王と名高いクラウゼル王だ……理解したみたいだね?」


兵士達が、王をじりじりと取り囲んでいく。
殺意も敵意も何も無く、ただただ、動く。

王は、自らの死を悟った。
しかし、玉座から動こうとはしなかった。
それは…王としての誇り、そして国を預かるという責任から来る行動だった。


「ふふふ……最後の瞬間まで王として生きる、か。
 あなたのその誇り高い行為に敬意を表して、私の名前だけでも教えてあげよう……」


兵士達の槍が、王を肌を切り裂くところまで迫った。
彼らの腕に、偽りの力がこもる。


「私の名はジョーカー=デスバイブル……この世界の王、いや神となる者」


王は、断末魔の悲鳴すら上げなかった。








同日。
クラウゼル城が、浮いた。
文字通り、地面を刳り貫き、重力法則を無視して空中に。

その報せは、瞬く間にニーズヘッグ大陸中に広まった。





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