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[88] 騎士宮ライマーの不幸 投稿者:torame (2011年06月16日 (木) 05時52分)
「(スキップスキップヒッルメッシダ)」

などと楽しげに歌いながら、フィエルテ、騎士団宿舎の周囲にある庭をスキップで歩き回るワープ。

「仕事が終わってからだけどなぁえーコラー!!腹減ったー!」

突然立ち止まって叫ぶ。
その姿は誰が見ても「少しおかしなヤツ」だった。

「おふざけはこのぐらいにしますか」

立ち止まり、ズボンの裾をぱんぱんと掃う。





時は遡り、数十分前。
ベッドとクローゼット、机しか置かれていない簡素な自室。
ベッドの傍らにある机の上に置いている連絡用魔石から、着信音が鳴り響いた。
ビープ音はピアノメロディ、猫を踏んでしまった貴族の男の子が足を引っ掛かれ泣き叫ぶ様子を歌った曲。
つまり国の上層部からの連絡を意味した。
曲目の設定はワープの趣味だ。

「はい?」

手に取り、魔石の台座に配されたボタンを押す。

「海女、ワシだ。ケンエオウだ」

魔石から響く、壮年を思わせる低いが、威厳に欠ける男性の声。
やや焦ったような声音で、抑揚が乱れていた。

「言われなくても分かってますよ、着信音ちゃんと設定してますから。つうか、何スかその呼び方は」

「海棠家の彼女。お前の通称よ。長いからウミオンナじゃ」

「けー」

とても国の暗部を担う上司と部下のものと思えぬ会話が繰り広げられた後、それで、と魔石口の声が低い調子になる。

「勿論こんな事を言う為に連絡したワケではない。件のネズミの事だがな、予定が早まった。」

「んはぃ?」

思わず間抜けな声を出すワープ。

「ネズミは既に宿舎付近まで近づいているらしい。付近と言えど周辺の町などでのうて、宿舎の窓の下の草むらにおる可能性も有るという事じゃな」

「げ」と一言声を発すると、それを遮るようにケンエオウという男性の声が続く。

「兵士の皆さん方が出兵なされた頃にお前は宿舎の調査に行くんじゃ。」

「なるほどね、了解りました。」

「これから1時間半ほど後、宿舎に迎え、以上、通信を切る。」

「オーバー。」

「こっちのセリフじゃ」

ケンエオウがそう言った後、通信は切れた。

「…装備でも整えときますか。」




「…さぁ、て、怪しいヤツはと…」

人の少なくなった宿舎を探し回る。
草むらを掻き分けたり、以前美人と評判の給仕のお姉さんの入浴を覗く為に空けた穴を覗いてみたり、この隙に何か盗んで間者のせいにしてしまおうかと考えたり。

「ふむふむ、兵士っつってもやっぱりねえ…微妙なラインだね、下級貴族とそうスーパーな差が有るワケじゃないんだねサボテンね」

庭の窓から兵士の部屋を覗いた感想。
そして、ある人物の部屋に差し掛かった。
騎士の一人、「ライマー」の部屋だ。

「…(ケンエオウから連絡が入ったって事は、こいつから指令が伝って来たんだろうな)」

そっと覗き、部屋を見回す。異常無し。

「テメーなんか国の上司じゃなけりゃ毎日出会い頭にパンチしてやるんだよっと…」

心の中でそう呟きながら、足を傷つけそうな葉の落ちた枝ばかりの低木を飛び越えた。
ライマーという人物には以前何度か会った事が有るが、海棠家の一部の人間、自分やダイブのようなタイプとは根底から会わないタイプだった。
少なくとも自分の印象では、貴族染みた高慢さが全身に満遍なく張り付き、その溢れ出る高慢さを絶えず自分より下の気に入らぬ者に浴びせかけるような男だった。

「………………」

庭をぐるっと回り、再び入り口を横切っても、何も見つからなかった。
一階の部屋はだいたい庭の窓から覗いた。
宿舎の中におじゃまして探すか、そう考えた時。

「(ぴこぴこ)」

草むらの中で、何かが動いているのを見つけた。
目を凝らしてみると、それが「耳」である事が分かった。
それも白く、柔らかそうな猫のような耳。

「・・・・・・・・・・・・」

なんだ猫か、と通り過ぎる事は出来なかった。
耳の根元に青い髪の毛が生えていたのだ。

「(ネズミじゃないじゃん。猫じゃん。)」

間者は亜人だった、と直感。
それだけ観察すると、すぐに気配を殺し、「猫」の背後から忍び寄る。
抜き足、差し足、忍び足、3拍子を取りながら接近、気配の殺し方は我ながら完璧、と思いつつ…

「(むんず)」

亜人の小さな体を掴んだ。草に隠れて見えないが胴体だろう。
間を置かず亜人の、幼児のような、猫のような声が響く。

「にゃあああああ!?」

「つっかまっえた」

柔らかい体を強く把持し、20cmほどの小さな体を草から引き出す。

「やぁかわいい猫ちゃん。ここで何してるのかにゃ?」

小さな子供に話しかけるように、笑顔で目を合わせる。

「ひゃっ、ひゃい…お散歩してたら、迷っちゃったのにゃ、見逃してにゃ」

猫は変わらず、怯えた様子で、憐憫を誘うかわいらしい声で懇願して来た。

「うーん、しょうがないなー。アンタかぁいーし、ホントはダメだけど許してあげよっか」

笑顔のまま、心にも無い検討をする振りをした。
血の臭いを感じた。
それと何らかの方法で体を縮小しているが、実際の姿ではない事にも気付いた。
魔法か改造か、骨格、筋肉の手触りから頻繁に縮小、増大を繰り返していると分かる。
コンマの感覚でそれを判断する。
その時、間者も同様に、目の前の相手が同類で有る事に気づいた時。

「駄目っ!」

「にゃああああ!?」

許してあげない、口に出して結果を伝えた。
女の力とは思えぬ強力が紡ぎ出される左手で相手を把持したまま、右手首に仕込んだ隠し銃を額に突きつけた。
引き金を引く、その瞬間

「こっ、こんなとこでやられるワケにゃいかんのにゃ!!」

「いいや、死ぬ     よ!?」

猫が突然巨大化、いや本来の姿であろうと思われる8頭身の青年となった。
当然間者の胴体を把持していた手は増大した幅に遮られ、手を離してしまう。
銃弾はまさか、大幅に位置を変えた脇を通り抜け、にっくきライマーの部屋に突っ込んだ。
しかし、「ざまあみろ」等と考えている暇は無かった。

「へっへん、まぬけー!追いつけるもんなら追いついてみーにゃ!」

すぐさまかなりの速さで遠ざかっていく猫間者。

「ンーピキピキ…」

持てる限りの反射神経で間者の逃げて行く方向へ走り出す。
速さは僅かというにはかなり語弊のある大きさでこちらに分があるように思えた。

「(こちらの方が早い!)」

同時に、相手にそれ相応の戦闘力が有る事も見抜いた。
追いつき、死合に発展した時どう殺すか。
考えつつも、とにかく追走が始まった。

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[87] 「正義」の国の異質 投稿者:yuki (2011年06月16日 (木) 02時48分)


 レインベリルのベッドの上で目を覚ました時、ユカリスは安堵するよりもまず身構えた。『そういう趣味の人』に拾われたと思ったからだ。
 実際自分が着ていた服はなく、ともすれば外と隔絶されているかのようにひっそりとした家の中では安心できる要素を見出せなかった。
 家主のレインベリルはユカリスの名前だけを訊くとすぐに出て行ってしまったが、ユカリスは出るに出られない。
 体中包帯を巻いているとはいえ裸も同然であったし、ここで盗みを働いて面倒事になるのも嫌だった。

 だからレインベリルが深夜に戻ってきた時は、『いよいよか』と思ってしまったほど気が張り詰めていた。
 しかしそれらは全部、ユカリスの取り越し苦労に終わってしまったわけだが……。

 ぱたん、と閉められたドアを、ユカリスは無表情のまましばらく眺めていた。
「出ていく時はって……」
 ついっと、その視線を窓の外へ向ける。闇夜に沈む町は、しんと静まり返っていた。
 当然だ。深夜なのだから。
 しかしそんな時刻でも好きに外出していいとは、どういうことなのだろう。
 レインベリルの性格をつかみ損ねたまま、ユカリスは渡された服に袖を通した。
 変な穴どころか、虫食いのあとすらない綺麗な僧服だった。サイズは少し大きいが、歩き回る分には問題ない。

 服の着心地を確かめたら、そっとベッドから降りてテーブルの方へ向かった。
 なんとなく、この静寂を破りたくはなかった。レインが去ったドアの向こうから、わずかな明かりと、何かを削っているような音だけが漏れている。
 テーブルの上には、パンと冷めたスープ、それにユカリスの持ち物が置かれていた。
 食事よりも先に、そちらの方を手に取る。
「……はぁ……」
 武器であるターバンと、わずかな路銀が入った巾着を確認し、ユカリスはようやく一息つくことができた。
 安堵したら、今度はお腹が鳴りそうになる。思えば2日近く何も口にしていないのだ。
 躊躇いがちに、パンを手に取って口に運ぶ。
 一口齧って、あとは食欲に促されるまま口の中に押し込んだ。
 同じようにスープも匙を使わずに一気に飲み干す。
「………………」
 そして空になった食器の隣に、巾着に残っていた小さな宝石をいくつか置いた。警戒してしまったお詫びのつもりだが、もしかしたらこの意図は伝わらないかもしれない。
 けどまあいいかと思い、巾着に入っていた4つの宝石をすべて出した。
「………………」
 ちらっと作業場の方を見る。
 ドアの向こうの様子は、先ほどと大して変わりがなかった。
「……外、行ってきます」
 閉ざされたままのドアに一声かけて、ユカリスは夜の町に繰り出した。


 夜気は、少し肌寒かった。
 人通りも全くない。
 まるで見えない手で両耳をふさがれているような静寂に、自然と足も速くなる。
 そうして町中をくまなく歩き回りながら、ユカリスはこれからのことを考える。

 まずは、服と装備品がいるだろう。
 そのためには、お金が足りない。……あのテーブルに置いた宝石を全部巾着に戻したとしても。
 朝になったら、レインベリルに手早くお金を稼げる方法を訊いてみよう。

 考えがまとまってきたところで、はた、とユカリスは足を止めた。
 町の中心部。
 黒塗りの影、ユスティティアの特徴でもある教会が、そびえたっていた。
 自分が今僧服を着ていることもあり、なんとなく入口の前に来てみる。
「…………」
 そっと扉に手をかけてみると、意外にも軽く開いた。
 中を覗いてみる。当然、祈りの場には誰もおらず、整然と長椅子が並んでいるだけだ。
「……」
 まるで頭(こうべ)を垂れているようなその椅子の間を、足音を忍ばせて歩く。
 その先、装飾が施された大きな祭壇の上には、この国の象徴でもある『我らが神』の像が佇んでいた。

 ユスティティアの民の願いをすべて聞き入れてくれると言われているその像を見上げて、ユカリスは思う。
「……ユキ……」
 自分の双子の、片割れ。たった1人になってしまった、最後の家族。
 彼女が生きているというのはわかる。
 しかし、どこにいるのかまではわからない。まだフィエルテにいるのだったら、自分はもう一度越境しなければならない。
 だが、どうすればいいのだろうか。
「……ユキ、会いたいよ……」
 願いにしてしまえば、この一言で終わるのに。

――ならば、毎日祈りなさい

「っ!?」
 唐突に、天井から降ってくるような声が聞こえた。すかさず周りを見るが、人の気配はない。
 とっさに袖の中に隠してあるターバンを引っ張り出そうとして、踏みとどまる。
 こんなところで交戦なんてしていいわけがない。それにレインベリルのもとへこれ以上面倒を持ちこむのも憚られた。

――ここで、祈りを捧げなさい。さすれば、汝の願いは叶うだろう

 また聞こえた。しかしどこから聞こえてくるのかはわからない。
 天使が描かれるステンドグラスか、その手前にある巨大なパイプオルガンか。あるいは『我らが神』の像からか。
「……っ!」
 踵を返し、跳ねのけるように扉を押し開いてユカリスはその場から逃げた。
 そして全速力で、来た道を走って戻る。



 レインベリルの家に戻ってきたときには、夜空が白み始めていた。
「あら……」
 小さく息を切らせて玄関に立つユカリスに、レインベリルは「おかえりなさい」と声をかけた。
 ユカリスに何があったのかは、訊かない。
 その代わり、別のことを訊いた。
「……今から朝食にするけど、食べる……?」
 まだ息を切らせながら、ユカリスは小さく頷いた。
 そして呟くような声で、一言だけ謝った。

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[86] 衝突と出逢いと 投稿者:泰紀 (2011年06月16日 (木) 02時09分)
軍事国家アンビシオン。
開放的な晴天の下では、重い沈黙が流れていた。
ゼフィスの挑戦的な視線を、透き通った琥珀色の瞳が受け止める。
その場にいた連中にあった思考はややばらつきがあったものの、一つだけ共通していた。


(何考えてんだ・・・!!)


ゼフィスの提案に誰もがそう思っていた。しかしこの、まるで空気がすべて針と化した様に、ちくちくと張り詰めた雰囲気に痛みすら感じる状況に誰もそう口には出せなかった。
その状況下、最初に動いたのはムヴァだった。くつくつと、口元を押さえて控えめに笑う。しかしそれすらも無機質でまるで決められた動作であるかのよう。


「選出を任せるとは言いましたけど、まさか私を指名されるとは・・・。」

「テメェならついてこれるだろ。そんだけ血の臭い染みつけてんだ。自分はただの参謀だとは言わせねぇぜ。」

「・・・分かりました。しかし私の一存で決められるものでもないので、早急に上に掛け合ってみますね。」


そうしてムヴァは、男でも惚れ惚れしてしまいそうな美しい微笑を浮かべる。
しかしゼフィスには、それが美しいとは到底思えなかった。宝石に封印された悪魔がいる。そんな印象を受けた。







ティマフは戸惑っていた。
突然現れた空間。森の中にあった人口的な野原と屋敷。それはすなわち、人がいるということだ。


(まずい・・・。)


彼女は人を一番に避けてここまできた。そしてこれからもそうするつもりだった。
だからここから離れるべきなんだろう。しかし、すっかり冷え込んだ身体がその考えを踏みとどまらせる。
川から上がってから服も身体もまともに乾かさず、一日中泳いで歩いた。素足は小石や草や枝による切り傷だらけ。何より体力が限界だった。せめてこの濡れた身体をなんとかできたら、と思う。あの家に行けば何か恵んでくれるだろうか。


「・・・最悪のケースを考えていこう。」


甘い希望は持たないほうがいい。そう自身に頷いたその時、屋敷のドアが開いた。
ティマフは反射的に茂みに隠れる。そして様子を伺うと、遠目にみえたのは白銀の髪に、紅地に金の刺繍の羽織り物を身につけた人物だった。性別や顔など具体的なところはわからない。
その人物は屋敷の裏手までいくのを見計らって、ティマフは駆け出して、屋敷に侵入した。
申し訳ないと少し思ったが、服を頂戴するつもりだった。
自分が侵入したのを隠蔽するつもりはないしする手段もなかったので、急いで目的を果たしここから逃げることだけを考える。人の気配はない。どうやらこの屋敷にいるのはあの人物一人だけらしい。
早く、早く。脈打つ鼓動と焦りを抑えてティマフは適当な部屋に入る。最初に入ったのは書籍だった。天井いっぱいの大きさの本棚には本がたくさん並べられている。
ここは違う。目的のものがあるわけがない。しかし時間もない。
次だ、と思って後ろを振り返ったその時。


「わあああああっ!!??」

「きゃああああっ!!??」


ティマフは生まれて初めて、バチリと擬音が聞こえるような視線の合い方を体験した。
それはティマフと視線が合った屋敷の住民・・・希鳥も同様だった。
希鳥は驚いて腰を抜かして地面に座り込むし、ティマフは慌てて観葉植物の背後に隠れる。しかし観葉植物で隠し切れるわけもなく全くの無意味であった。


(やばい!バレた!どうするあたし!)


観葉植物の後ろで、ティマフの頭は混乱していた。せっかく得た自由。苦しいながらもここまで逃げてきたのに。
こうなったら賊のフリでもして脅そうか。いや不法侵入して服を盗もうとした時点で賊と変わりないか。
ティマフの頭の中で色んな考えがぐるぐる回って肝心の行動に移せない。
先に動いたのは、希鳥の方だった。


「あ、あの・・・大丈夫?」

「へっ?」


その問いかけにティマフの思考回路はすべて止まり、素っ頓狂な声をあげる。


「怪我、してるよね。廊下の足跡、泥と血が混ざってたから・・・。」

「え、ええと、あの・・・。」


意外にも臆することなく、心配そうにティマフに近づいてくる希鳥に、ティマフは戸惑う。
細く白い身体。白銀の髪。黒曜石の瞳。なんて儚げで優しげで、それでいて何か魅かれる雰囲気を持った優男なんだろう。
動けずにいるティマフの側まで来ると、そこでしゃがんで、そっとその足に触れた。不思議と嫌な感じはしなかったので、されるがままになってしまう。


「・・・ああ、こんなに冷え切ってる。お風呂丁度沸いてるから、入って。その前に傷に湯がしみるといけないから、傷を治そう。」


そう言って希鳥が歌いだす。この優男にぴったりの落ち着く声だ。治癒効果がある魔法の一種なのだろう。徐々に傷がふさがって、痛みがなくなってくる。
このご時勢、不法侵入した自分を責めるわけでも怒鳴るわけでも追い出すわけでもない。
これが仮に自分を偽る嘘だとしても。


「・・・あの、いいの?」


ティマフはそう聞かずにはいられなかった。
それに対して希鳥は、まるで何も知らない子供のようにきょとんとして小首を傾げるだけだった。






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[85] 老兵と青年と 投稿者:はくろ (2011年06月15日 (水) 23時48分)

「……戦死者5名、重軽傷者合わせて8名……。どうしたのだ?らしくもないぞ」
「申し訳御座いません。私の采配が至らないばかりに」
報告書を提出しながらエーヴェルトは目の前の男に頭を垂れた。

「まあいい。それより本題だ。傭兵団の討伐はどうだった?」
「はっ、第五隊の活躍もあり、本拠地及び別働隊も全滅。傭兵団は壊滅状態にあります」
「ご苦労だったな」
そんな彼を冷たい目で一瞥すると、男はこの度の傭兵団討伐の首尾を青年に問う。
どうやら、傭兵団は壊滅状態にあるようだ。謀反の芽を未然に摘むことができ、男は安堵する。

「それで本題です。……恐縮ながら我が第八隊に10名の隊員補充を要請いたします」
「ほう……犠牲者を出したのは己が采配の不備だろう?それに、それが人にモノを頼む態度かね」
続いて、エーヴェルトがすかさず切り出した隊員補充の要請に、男の眼が更に冷たさを増した。
心の中で舌打ちしながら、エーヴェルトはさっと膝をついて頭を下げる。土下座の姿勢だ。

「………どうか、お願いいたします」
「ふむ……解ればいいのだよ。」

「そうだ」

男の眼が怪しく光り、更に要求を下す。
男の要求にプライドをズタズタにされながらも、犬のように床に這い蹲る若き部隊長はただ耐え忍ぶ。
そして10分ほど後のことだ。ようやく、「もう良いだろう、下がれ」と命が下った。
開放されたエーヴェルトは、すぐさま部屋を後にした。

「…………」
虐げられることは慣れているが、その行為に心が傷つかないほど彼の自尊心は堕ちていない。
プレアデス討伐の件から溜まっていたフラストレーションを抑えながら廊下を歩く。自然と足が速くなった。
と、ドンっと何かにぶつかり、大きな手に抱かれる。

そこではっと気づいたエーヴェルトの目の前には人が居た。

「し、失礼しました。藤堂軍師」
「いや、構わん。それよりも、廊下を余所見するな。わしの言葉を忘れたか?」
エーヴェルトは慌ててそのごつごつした大きな手から離れ、申し訳なさそうに頭を垂れる。
彼をたしなめる老兵、軍師・藤堂梨雪は老いながらも活気溢れる顔に笑みを作った。

「そうですね……もう随分前のことなので忘れてしまいました」
「これっ」
「って!」
冗談交じりにこう返すと、梨雪がエーヴェルトの頭にこつんと拳をぶつける。
さながら新人教育の教官と新兵のようだ。

「……なぜ、貴方が謝るのです?」
「このような方針を通してしまったことだ……私は、上を止められなかった」
あの後すぐに、オリカカン爵位に撤退命令を申し出たが、全く取り入ってもらえなかった。
梨雪は悔しげに、作戦に加担し、その手で指揮を下した後輩に詫びる。

「……あんなことをしても傷つくだけではないか。民も、国も。そして、お前達も」
「傷つくことは慣れました。屈辱に耐え忍ぶことも、心を殺すことも、全部」
そんな梨雪にこう返しながら、エーヴェルトはこう続ける。

「ですが、民と国を傷つけるのはやはり、気が進みません。部下にも悪いことをさせました」
「そうか。気が進まない……その言葉を聞けただけでも安心した」
自分は平気だが、アコルデらを初めとする部下達にはそうとう堪えたことだろう。
更に、エーヴェルトは傭兵団との戦いで数多の犠牲を出してしまっている。
不甲斐ない自分の作戦についてきて、犠牲になった部下には詫びても詫びきれない。

対する梨雪は、青年が国と民を思う心をまだ全て失ってはいなかったと安堵した。
冷たげな視線の中に眠るくすぶる炎を見据え、老兵はまだこの国は捨てたものではないと思うのであった。

「だからこそ、オレは……力が欲しいのです」

次に、エーヴェルトが発した言葉はこうだった。
端正な顔に貪欲さと一種の狂気めいたものを映し、彼は語る。

「む。力とな?」
「ええ、オレが欲するのは力です。圧倒的な権力と地位と発言力、オレはその全てが欲しい」
「! それでお主はどうするつもりなのじゃ?!そのためになら、何をしても構わないというのか!」
「はい。そう考えております」

貪欲に野望を語る後輩の様子のおかしさを見抜いた梨雪が叱咤する。
だが、彼の覚悟は本物だ。自分が諭したとしても、もはや彼は退かないだろう。

現状、エーヴェルトの発言力は、同じく団内で風当たりの強い“鮮血の十字隊”隊長・ブラッドと比べても遥かに低い。
彼には一人で戦況をひっくり返す程の戦闘力とフィエルテ軍参謀長であるパラケルス、そして王国騎士団上層部に君臨する両親の強力なバックアップがあるのだ。
対して、部下とは上手くやってるものの、後ろ盾はほぼ皆無、味方も非常に少ないエーヴェルトとは天と地のような差があった。

リトスやアコルデやツインら部下や、ライマー達同僚に今回のような疑いの目が向けばその手で庇いきることも難しい。
また、家族思いの梨雪のように身近の親しいものすら満足に守れないだろう。
エーヴェルトが貪欲に、狂気をはらむほどの野望を抱く理由はここにあった。

「藤堂軍師、逆に問います。自分の身も守れない非力な男が、国を、民を守れますか?今すぐにでも、権力に潰されそうになる男に、他人が守れますか?」
「できるとも。民と国を思う心があるのなら」
「……あなたはお優しい。あなたのような方が軍(ここ)を支配していたのならどんなに良かっただろう」

物憂げな新緑の瞳が、梨雪の黒曜石のような漆黒の瞳に映る。
梨雪が言葉を返そうとするも、エーヴェルトはぺこりと一礼して自室へと戻って行ってしまった。

「…………」
梨雪は、後輩の背中を送りながら過去を振り返る。
フィエルテ軍の一員として最前線で活躍していたあの現役の日々のことだ。

「みんなにみとめられたい」と笑顔で若き日の梨雪に夢を語る物憂げな少年騎士は、もうどこにもいない。

今彼の目の前にいたのは野望のためならばその手を真っ赤に、その心を真っ黒に汚すことも辞さない、
地位や権力……そう、“力”という呪いのようなものに取り憑かれた青年騎士だった。

迫る戦争。この大きな動きが知れればリシェスは黙っていないだろう。
そうすればこれから民は傷つき、国は荒れるだろう。
犠牲になった“七ッ星”……無実の国民がささいな疑いから無残に切り捨てられる事件だって、今後二度とないわけじゃない。
それにも関わらずわがまま放題の貴族会、腐りきった軍上層部、そしてそれに抗う地位と権力に取り憑かれた青年……

―― 変えなければ……でもどうすればいい?

無力な拳を握り締め、軍師・梨雪は一人涙を流した。

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[84] 暗躍の白猫 投稿者:はくろ (2011年06月15日 (水) 17時58分)
フィエルテ王宮騎士団による傭兵団襲撃から少々時間は遡る。

「こちらにゃー……失礼しました。こちらナーム、いや、かなりのほほんしてますよ?コイツら」
草むらに潜伏している白虎猫の獣人……
むしろ愛くるしいぬいぐるみのような彼は、通信機を片手に報告をしているようだった。

「……リシェス攻めのうんぬんも見られないんすけど」
通信機の先から怒鳴り声が聞こえると、ナームは背筋をぴんと張り、答える。
その内心は、敵の本拠地のど真ん中に身を置く極度の緊張感と、
通信から聞こえてくる苛立った声に怖くていっぱいいっぱいだ。

「……はい、はい。りょーかいです」
取り合えず言うべきことは報告したので、適当に相手に話を合わせる。
上の顔色を伺い、適度にのらりくらりかわしながら相手に合わせなくてはいけないのは
騎士も軍人も傭兵もそう変わらない。

「あ、そうだ。そろそろ商工会議っすよね?頑張って下さいねー」
ぴぽっと通信を切ると、ナームはぶるるっと小さな体を震わせた。

(もう帰っていいかな。正直マジで怖いんだよね。ここ。うひゃー)

と、そっと草むらから顔を出し、近くの部屋の中を覗く。
中には自分よりも少しくらい年上の青年が、簡素な寝台の上で夢の中にあった。

「気持ち良さそうに寝てるのにゃ」

せいいっぱい背伸びして、ナームは部屋の中の様子を探る。
中の青年は軽くうなされるような仕草をして寝返りを打つと、小さな寝息を立てる。
今ならば、殺れるだろうか。

否……

「だめだにゃ、こいつは勘が鋭そうだにゃ」

ナームは彼を襲撃することを諦めた。
このような仕事をしているのだ。
一目見たくらいで相手の実力は大体理解できる。

傭兵とは辛く、過酷な職業だ。
リシェスの様々な兵器や開発品を活用したとしても、そのような鋭い眼がなければ、ここまで生き残れない。
窓の下で招かれざる白猫が様子を探っていると、声が聞こえた。

(むむ?)

声のほうに白い大きな耳をぴくぴく動かし、ナームはその内容を把握する。
どこから取り出したのだろうか?
録音機も稼動させ、息を、気配を殺す。

(ふむふむ……にゃ?リシェス国境に陣取ってる謀反集団の討伐?)

かすかに聞こえてきた男たちのやり取りで、内容を把握すると、ナームはそそくさと隠れる。

(きなくさいのにゃー…)

リシェスが他の3国に内密に武具や装備を回しているのは知っている。
そこから導き出される答えは、幾らそこまで教養を受けているわけではないナームでも容易に把握できた。
恐らくは、そこをいちゃもんつけられ、謀反者にしたてあげられたのだろう。

(これは、もっと探ってみる必要があるにゃ)

暫くして、出兵で騎士たちが出払うころを気配を殺しながら慎重に見計らう。

あれから大体2時間くらい経っただろう。
手元の腕時計を確認すると、アメジストの瞳をぎらつかせ、ナームの口元がにぃっと上がった。


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[83] とまり木 投稿者:yuki (2011年06月15日 (水) 03時06分)

 軍事国家アンビシオンの国境は城壁だが、他の国は自然物が国境の役割を果たしている。
 フィエルテとリシェスは大河と山脈。その山脈はさらにフィエルテとユスティティアの間にも横たわっている。
 そして、リシェスとユスティティアの間には広大な運河が流れている。

 しかしながら、国境にはいくつかのトラップはあれど国境を警備する兵士の数は少ない。
 国境となっている山や川には、魔物が住んでいるからだ。
 飼われているわけではないので、決してどの国のものでもない。しかし、密入国や密輸入を抑制するには十分だった。

 それでも秘密裏に国境を越えようとするのは、金のためだろうか。
 あるいは国のためだろうか。
 それとも、自分の命のためだろうか。


「……自分の命のためにわざわざ死にそうなことをするって、よくよく考えるとバカだよね」
 川から岸へ這い上がり、ティマフは1人ごちた。そう言うことで、自分はまだ大丈夫なんだと言い聞かせる。
 彼女もまた、リシェスから川を渡ってフィエルテに侵入した密入国者だ。
「……はぁ」
 無事に越境を果たした感慨や安堵に浸ることもなく、溜息をついて力を入れ直し、疲労のたまった手足を動かして立ち上がる。
 そうして、目の前に広がる森を眺める。
 人気のない、うっそうとした森。穏やかではあるが、鬼と蛇しか出てきそうにない。
 しかし、鬼よりも蛇よりも魔物よりも、人を最優先で避けなければならいかった。
 これならば、リシェスの市場で売られていたままの方がまだ安全だったとティマフは確信する。


 頑丈な檻の中、大事な『商品』であった彼女は、貞操の心配こそはあれど命を心配する必要はなかった。
 それでも彼女は、自由になることを選んだ。


「よし、行くか」
 国境を背に、意を決して、森へと踏み込む。


 リシェスの市場で、ティマフは虎視眈々と脱走の機会を狙い、檻の外を眺めていた。
 そんな彼女の前に、1人の貴族が足を止めた。
 そして一言、ティマフに檻から出たいかだけを問うた。
 きらびやかなドレス、整えられた髪に、控え目な化粧。典型的な貴族の令嬢だったが、なぜか口調は不躾で訛りがあった。
 そんな彼女を変わり者だと思いつつも、ティマフは当然のように即答した。
 ティマフの答えを聞いて、その令嬢は値札も見ずにティマフをその場で買い取った。


 トラップと魔物の気配を警戒しながら、ティマフは森の中をいく。
 素足のままだから、一歩進むごとに足には傷がつく。しかし、構わず進んだ。
 歩きながら、数奇とも言えるここまでの道のりを思い返す。


 ティマフを買い取った貴族令嬢は、本当に彼女をリシェスから出す手配をした。
 もちろん正規のルートでリシェスから出るのは難しいが、やり方は存外簡単なものだった。
 ティマフが積荷用の箱に入り、令嬢がフィエルテの適当な宛先を書いてその箱に貼る。
 あとは、令嬢の友人だという商人がその荷物を輸送船に載せて運ぶ。
 その商人ももちろんティマフのことを了解していて、令嬢と同じような訛りがあった。
 そしてその商人は、リュステとフィエルテの国境を越える途中、つまり川を渡る船の上から、
「後は気合や」
 とか言いながらティマフが入った箱を川へと落とした。


 示し合わせていたとはいえ、もっと他に方法はなかったものか。
 1日かけて死に物狂いで川を泳いだことを思い出し、ティマフは苦笑する。
 と、いきなり森が開けた。
「あ、れ……?」
 明らかに人の手でなされた空間に、その中に建てられていたものに思わず立ち止まる。
 戸惑うティマフの目の前、誰も住んでいないと思っていた森の中に、1軒の大きな屋敷があった。


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[82] 商工会議 投稿者:ももも (2011年06月15日 (水) 02時43分)
その日、リシェス首都は小雨に見舞われていた。
その首都にある高層ビル街の中に一際大きなビルが存在している。
『リシェスセントラルタワー』と名付けられたそれは「リシェス首都のシンボル」として巨額の資金を投入して作られたもので階数は地上70階にも達し、薄暗い雨空を貫かんとばかりに聳えていた。
階によってはレストランや百貨店、ホテル、電車の駅なども存在しておりビルの関係者だけはなく一般人の出入りも多い。
特に休日ともなればレストランなどは家族連れやカップルなどで大いに賑わい、平日であっても通勤のため電車を利用する者が多く、連日大きな賑わいを見せていた。

そのビルの高層部のとある一室。
一般の利用客では立ち入ることの出来ない厳重なセキュリティに守られたフロアの一室でリシェスを代表する名立たる大企業達の連合、『リシェス商工連合』の会議が行われていた。
ヘレディウムの四国の中でも特に企業の力が強いリシェスにおいてはその存在は国政を大きく左右するほど強大であり、事実上、国家の意思決定機関の一つと言っても過言ではない。



「――猫からの報告は以上です」


この日、『リシェス商工連合』の面々はフィエルテに派遣した間諜からの報告を受けていた。
それによれば、フィエルテの傭兵団「プレアデス」が「リシェスとの裏取引」の容疑をかけられ壊滅させられたとのことだった。
傭兵団プレアデスの壊滅自体はどうでもよかった。
フィエルテの傭兵組織など掃いて捨てるほど存在するし、戦局に大きく関わるような規模の傭兵団でもない、彼らからしてみればまさしく取るに足らない存在だろう。
問題は「プレアデス」が「リシェスとの裏取引」の容疑で壊滅させられた点だ。
現在四国はいずれとも休戦状態にあるが、腹中では皆他国を滅ぼし覇権を手にせんと目論んでおり、それはここリシェスも例外ではない。
そんな中、ここに来てのこのフィエルテでの動向。
仕掛け人の正体はさて置くにしても、開戦の日が近いであろうことだけは確かだった。


「いよいよ、再開か」


老いた男の静かな声が最新鋭の防音を施された会議室に響いた。
声の主の老齢の男は顔に深い皺が刻まれていたが、その作りは柔らかで若かりし頃はそれなりの美丈夫であったであろうことが伺えた。
男は険しい表情はそのままに、続けて口を開く。


「…多少予定は早まりましたが、ご各自準備の方は万端ですか?」


その問いに、各座席に座する者達は一様に肯定の意を示した。
彼らは皆リシェスに君臨する大企業の長達であり、皆連日自社の利益を見てあの手この手で準備を進めて来たのだ。
勝てば極楽、負ければ地獄。そんな当たり前の理屈が想像を絶する規模で襲いかかる戦争。
自分達の財産と地位のために、なんとしてもこの戦争に負けるわけにはいかなかった。


「先日も申し上げた通り、やはり鍵を握るのは―――」

「アルム社長、ですな」


その言葉と共に、会議机の一角に座する若い男に視線が集中する。
周囲に比べれば異様とも言える若さだが、彼もまた会社を経営する社長の1人である。
しかし端正で柔らかな、まだ少年の面影すら残す顔からは一切の表情が消え失せている。
かつては会社の繁栄に躍起になり、輝きに満ちていたであろう双眸からは光が失われ、数多の修羅場を勝ち抜いた海千山千の猛者達である会社経営者達をして、奈落と見紛うほどに深く昏(くら)い。
アルムはその昏(くら)い眼差しはそのままに、口元を柔らかに釣りあげて居並ぶ社長
達に顔を向けた。


「アルム社長。先日にも申し上げたが――」

「ええ、重々承知しています。フィエルテに大きな動きがあった今、あまり時間は無さそうです。件のスキームを急ぎます」


奈落の眼差しでもなおアルムの声は生気を失っておらず、会議室に朗々と響く。
だがそこには一切の感情が含まれていなかった。
そこで代わって『ドヴェルグ・サルタ工業』の社長フェーゴが口を開く。


「エギーユ樹林への兵力投入は前回よりも増強の方向で宜しいか?」

「アンビシオンともいつ戦線が開くわかりませんからな。異論はありません」

「アンビシオン内部との連絡もこれまで以上に密に」

「では、次の議題ですが………」


アンビシオン、フィエルテ、ユスティティア、そしてリシェス。
ヘレディウム大陸に君臨する四国間の緊張はいよいよ最高潮に達しつつあった。

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[81] 作戦指令 投稿者:yoshi0 (2011年06月15日 (水) 02時05分)


なんてことない昼下がり。宿舎の中庭にスペシャルフォースが集められた。
青い空の下、ガチムチ連中が雁首揃えて並ぶ姿はもはや爽快。
皆上半身は裸かタンクトップ、露出した身体は筋肉の鎧。薄く滲んだ汗が光を反射し、筋肉の凹凸をより一層際立たせる。


「さて、お前らに集まってもらったのは他でもない。上層部より作戦指令だ。」

「!」

胸にいくつもの勲章を連ねた軍人がそう言うと、ガチムチ共の顔が一瞬で引き締まる。

「詳しい内容は、アンビシオン軍参謀本部のムヴァから説明してもらう。」




全員の視線が一点に向けられる。
視線の先には金髪の色男、透き通る肌には汗一滴なく、目に付き刺さる日光に表情を崩すこともない。
色男は口を開き、話し始める。

「我々のスパイが、リシェスの兵器開発研究所で『秋水漆型』と呼ばれる"ナニ"かが極秘製作されているという情報を掴みました」

「そこで、この中から数名の隊員を現地へ派遣し、『秋水漆型』の資料の奪取。"ソレ"が我が国へ脅威となりえる物ならば、破壊して頂きたい」


場がどよめく。「リシェス」。商業国家といえば聞こえはいいが、実際は戦争兵器の開発ならば他国の追随を許さない兵器国家。
特に「リシェス兵器開発研究所」と言えば、リシェスのあらゆる科学技術の原点であり、国家最重要極秘施設である。
その万全のセキュリティは、他国のスパイを尽く死体袋へ収める、「スパイの墓場」と呼ばれている。
過去一度だけスペシャルフォースも研究所に派遣されたが、結果は悲惨。
中に入った隊員は扉を一枚も開ける事なく、鉛弾で体重を増やし死体袋で返ってきたのだ。


それだけに今回の「自殺志願者募集」作戦には歴戦の勇士達も思わず表情をにごした。

その表情を知ってか知らずか、ムヴァは淡々と続ける。
「人数は行動しやすく、且つ戦力保てる3名から4名。敵国進入後は無線傍受の心配もあるため、バックアップは期待できません。」
「しかしながら、研究所の内部構造、警備体制、人数などもある程度わかっているので、前回のような失敗はないでしょう。」
「あなた方の能力ならきっと作戦を成功に導くと信じています。」



「・・・・・・・・」

「ムヴァとか言ったな。お前の素晴らしい頭脳では、その成功率は何%だ?」
沈黙する隊員の中から声があがる。隊員達が自然と道を開け、ゼフィスが前へ出る。


「40%ですね」
考える素振りもせず即答。瞬間、ゼフィスの拳がムヴァの胸倉を掴み引き寄せる。

「俺達をおちょくってんのかテメェ。」

「いいえ。正直に話しただけです。そして成功率が何%であろうと、あなた方はこの任務を遂行する責務があります。」
ムヴァはゼフィスの行動に表情を変えることなく、涼しい顔を向けた。

「それとゼフィスさん。今回の作戦は、あなたとカイさんは確定メンバーです。」

「えええ!?」
カイがマヌケな声を上げる。


「技能試験、過去の作戦遂行回数、相性、性格など、あらゆる情報を吟味した結果、あなた方が作成の成功率を一番上げる組み合わせと判断しました。」

「貴様!カイはまだ入隊2年目だぞ!」

「知ってます。………それにあなた達も、そろそろゴキブリポーカーに飽きた頃でしょう。」
ムヴァがはじめて口角を上げた。嫌味じみたモノではない、感情を感じない無機質な笑み。
ゼフィスの血の気が引く。振り上げた拳を止めるのには十分だった。


「残りのメンバーは、ゼフィスさん、あなたが選出して下さい。人数は1人か2人でお願いします。」
ムヴァが胸倉にあるゼフィスの手をそっとはらう。

「先輩!!」

「カイ!」
今にもムヴァに殴りかかりそうになるカイを一喝する。



「まぁ、いい。俺達は飼い犬。主人の言いつけには逆らえんからな。」

「物分りが早くて助かります。」

「それで、残りのメンバーだが、……1人でいい。スリーマンセルだ。」

「そうですか、ではわたし達が得た研究施設の情報を、後でファイルで送ります」

「必要ない。」

「?」

「残りのメンバーはテメェだ」




「……………」

ムヴァの表情はかわらない。

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[78] 朱の中、発つ 投稿者:yuki (2011年06月14日 (火) 23時48分)


 数多の死体に埋もれるようにしてうずくまっていたのは、1人の少女だった。
 地獄の中の、たった1人の生存者。その少女を助け起こそうと、ディプスは手を伸ばした。
「おい、大丈夫――――っ!?」
 刹那、ディプスは伸ばした手を引き、とっさに飛びのいた。
 先ほどまでディプスの胸があった場所を、高熱と閃光を伴って刃が駆け抜け、軽やかな動作で少女が転がり起きる。
 それを見て、ディプスは身構えた。少女にではない。
 彼女が左手に持つ、その剣に対して、だ。
 刃の薄い、風変わりな曲刀。何かの魔法的技術でも使われているのだろうか、その刃はバチバチと火花を散らす雷に覆われ、まるで剣の一部であるかのように切っ先から伸びて刀身を長くしている。
 まやかしでも何でもない、本物の雷だ。
「……ぅぅぁぁあっ!」
 獣のような唸り声をあげ、少女は凶悪な攻撃力を持つ剣を振り上げてディプスに斬りかかった。
 右か、左か、後ろか、どの方向へ逃げようか逡巡したディプスは、しかしすぐにその考えを捨てた。

 まっすぐディプスを見据える少女の目は、怯えと恐怖で塗りつぶされていた。

 ならば、ディプスが取る行動は1つだ。
 少女の攻撃を避けようと浮かせかけていた足を元の位置に戻し、ディプスは両手をめいいっぱい広げた。
「ッ!?」
 明らかな不戦の意思に、少女が一瞬戸惑う。しかし、すでにディプスへ飛び出した後だ。
 飛び込んできたその小さな体を、ディプスはしっかりと抱きとめた。
「大丈夫だ。もう大丈夫だからな……!」
 その声に、言葉に、ふっと強張っていた少女の体が弛緩する。空を切った剣から雷が消え、少女の手から滑り落ちた。
 少女の今にも崩れ落ちそうな体を支えながら、ディプスは血と泥にまみれたその頭を撫でた。
「よく、がんばったな」
「……ぅ……あ」
 小さな嗚咽とともに、少女の肩が震える。
 抑えこんでいるようなそれが大きな泣き声に変わるまで、さほど時間はかからなかった。
「っうぁあああああああ!!」
 少女が落ち着くまで、ディプスは彼女をやさしく抱きしめていた。



 少女は、自分の名前をユキだと言った。
「よかった、しゃべれなくなっているのかと思ったぞ」
 また新しく建てた墓を背に、ディプスはにっと笑みを見せた。少し下がってディプスの作業を見ていたユキも、ぎこちないながら笑みを見せる。
 彼女の全身にべったりとついていた血は、村に残っていた井戸水で洗い流されていた。
 服はどうすることもできなかったので、ユキが村のどこかから見つけてきた服に着替えてある。
「……なるべく、声を出すなって、言われたから」
 少しつっかえるように、ユキが答える。その口調と、まだ彼女の髪などに残っている血痕が、ディプスの胸を痛ませた。

 しかし、たどたどしいながらもユキは頻繁にディプスに話しかけた。
 ディプスも、作業をしながらユキにいろいろなことを話した。

 ユキには双子の姉妹がいること。
 彼女が生きているのはわかるが、どこにいるのかまではわからないということ。
 ディプスは家族を探していること。
 そのために、大陸中を歩き回っているということ。

 しかし、村の襲撃者の話にはお互い触れなかった。


 そのうちユキもディプスを手伝って墓を建て、やがて日も暮れる頃、ようやく一息ついた。
「それじゃ、ディプスと私の目的は一緒なんだね」
 もとは家の土台になっていた石に腰かけ、ユキが言う。その目は、きらきらとした期待を込めてディプスの手元に注がれていた。
 その視線を受けて、ディプスが少し笑う。
「そうだな。手近な村とか、町とか片っ端から見て回るつもりだ」
 瓦礫を集めて起こした火の上では、野菜スープの缶詰が2つ、湯気を立てていた。
 ディプスが缶詰を火から降ろし、火傷をしないように布を巻いてユキに渡す。
「私もついていっていい?」
「もちろん、いいぞ」
 ユキの顔に、満面の笑みが広がる。そしてスプーンを手に取り、待ちかねた夕飯をかきこむ。
「っあっつ!!」
「大丈夫か? 落ち着いて食わないと火傷すっぞ」
 笑いながら頭を撫でるディプスを、ユキが少し恨めしそうに見上げる。
「はは、悪ぃ」
 すぐにディプスが謝るも、ユキはそれっきり拗ねてしまった。



 そして、次の日の早朝。
 ユキとディプスは、2人で村を後にした。
 互いに、互いの手をしっかりとつないで。

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[77] 現実に苛む 投稿者:泰紀 (2011年06月14日 (火) 19時36分)





「なぜ早まったのです!」


だんっ、と机を激しく叩いたのは、磨き上げた鋼のような黒い長髪をもった老人だった。しかし老人といえどもその体は大きく厳つく、若き頃はさぞ力強い武士(もののふ)であったことが伺える。
この男の名前は梨雪。今は戦場から引退した身だが、その豊富な経験と知識で自分の後輩へあたる軍人たちへの指導や軍師としての役割を授けられていた。
その梨雪に怒鳴られていた人物・・・王や貴族会から国軍や騎士団に直接命令を下すオリカカン爵位だ・・・はびくともせず、ただ手を組みそこに顎を乗せて淡々と返す。


「早まってなどいない。かの傭兵団はリシェスから武器を密輸入していた。それが何よりの証拠ではないか。」

「傭兵団はフィエルテ直属の軍隊と違い武器は国から支給されませぬ。彼ら戦を生業とする者が、どうして武器無しに戦えましょうか。」

「ならば他国に頼らず自国から買えばいいのだ。」

「お忘れか! 傭兵たちはフィエルテの民でありながら、国からは第三階級すらもらえず民と認められておらぬ孤高の民です。そんな彼らが武器を買うのはどれだけ容易くなきことか・・・。」


王政国家フィエルテは、文字通り王政がすべてだ。
武器も商法も地均しも、国がすべて運営しており、国の許可と指導無しには民は動けない。


「・・・とにかく、即撤退命令を。無実の傭兵団を王宮騎士団が討伐したなどと民の耳に知れ渡れば確実に不信感を招きます。」

「では逆に問おう軍師・藤桐梨雪。プレアデス傭兵団が謀反を企てていないという証拠はあるのか。」

「ありませぬ。しかし、彼らが黒であるという確定的な証拠もございません。」

「・・・ああ、傭兵団殲滅で開いた穴を奴隷たちで補う。早急に徴兵せよ。他国の諜報員が紛れてくるかも知れんから気をつけろ。嘘発見器を使え。」

「・・・オリカカン殿!!」

「もう遅い。」


オリカカンは近くにいた己の近衛兵に命を下し、そして短く答える。
それに梨雪は悔しげに拳を握り、絞り出すように呟いた。


「何故自国の民を、そんなにも軽んじられるのです・・・!!」


ばたん、と命令を下された近衛兵が扉を閉める。そして部屋に二人きりとなったとき、オリカカンが長いため息をはいた。


「かつてフィエルテは王の意志により国の安寧を願い、幾度と無く対話によって他国との共存を試みてきた。しかしそれは叶わず、戦争は始まってしまった。もう1か0、生きるか死ぬかなのだ。勝てば安寧、負ければ虐殺されるか良くて奴隷だ。」

「・・・それは重々承知しております。だからこそ民は怯えながらも耐えていてくれている。その民を置き去りにするつもりですか。」

「そうではない。今日百の民を殺して明日千の民を守るのと、今日百の民を生かし明日千の民を殺すなら前者を選ぶ。それだけのことだ。」

「それが無実の民を犠牲にするということですか。」

「老いて情に流されやすくなったか梨雪。 ・・・我々はこの戦争に負けるわけにはいかない。負けた先には希望など一つもないのは分かりきっているのだから。お前とてそれが解っているからこそ、民や己が子供にそのような未来を手渡したくないからここに席を置いているのだろう。」

「・・・・・・はい。」

「プレアデス傭兵団はリシェスから武器を密輸入していた。そのルートからリシェスの軍を運んでくる可能性もあった。そのような危険を民に晒せとは言えまい。それこそ民を軽んじるというものだ。」

「・・・しかし、傭兵団達もまた、民です。」

「・・・もういい。下がれ。」


二級国民である梨雪が一級国民でしかも貴族会から直接自分たちに命を下すオリカカンに逆らえるわけもない。それにこのまま話が堂々巡りすることもわかりきっていたし、もう手遅れなのだ。
それでも悔しげに顔をゆがめることも隠さず、梨雪は頭を下げ、そのまま足早に部屋を後にした。




戦争に勝つ為か。自国の民を守る為か。他国に攻め入る口実を作る為か。最悪己が地位や名誉の為か。
フィエルテでは、誰のものか知らぬ様々な思惑が、交錯している。

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