【広告】Amazonから新生活スマイルセール28日から開催予定

RELAY NOVEL
キャラ
世界観
ログ


題 名 メール
名 前 URL

文字色

削除キー (半角英数 8文字以内) クッキーの保存



[64] 二つの宝石 投稿者:泰紀 (2011年06月10日 (金) 15時44分)
雲ひとつない青空だった。
二匹の小鳥がさえずりながらじゃれあうように飛んでいる。
穏やかな風がふいて草木を撫ぜると葉擦れの音が静かに過ぎてゆく。

小高い森の中にぽっかりと小さく空いた野原がある。そこには小さな屋敷が立っていた。
そしてその屋敷の近く、背が低く赤い実を実らせた樹がある。それが作る木漏れ日の下で自然の音に耳を傾け、目を閉じている一人の男がいた。
成人男性の平均身長より少し低めで、露わになっている腕や手首、首筋は白く細い。
それよりも真っ白で細い髪が、より消えてしまいそうな儚げ感を男に与えていた。
風になびかせていた髪を、これまた細い指でそっと掻き分けて、男は目を開けて青空を見上げた。すると、それとほぼ同時に遠くからの轟音が響いて青空に一筋の雲が出来上がる。それは空を飛び国境へと向かう飛空艇だった。

・・・ヘレディウム大陸。
現在この大陸には四つの国が存在しており、そして大陸統一を狙って戦争をしている。この大陸に住まうものならば誰もが知っていることだ。
そしてこの男が住まうこの国は王政国家フィエルテという。

やれ戦争だ、やれお国の為だ、とこの国中が騒いでいても、男にはいまいち実感が沸かず、まるで絵画をみているような印象だった。
何故なら男は生まれつき身体が少しだけ弱く、人里に住むのも汚れた空気が気管に障るからということで、今までひっそりとまるで小さな宝石を隠すかのように人里離れた場所で暮らしてきていたからだ。
今住んでいる所は、国境となっている山脈から吹き降ろす風と、青々と茂る草木のおかげで、綺麗な空気が絶えず流れ続けている。おかげで昔あれほど苦痛だった慢性的だった喘息も今は殆どない。

しかし、たまに人が恋しくなるのが、最近の悩みだった。
どうしても我慢できなくなったときは転移魔法を使い、首都で働く父や疎開で離れ離れになっている双子の妹弟に会いにいく。それでも軍務中の父の邪魔をしたくはないし、弟と妹には身体のことで心配させてしまったりするので、頻繁に会うことは憚られた。
首都に長居すると体調を崩すし、知り合いは家族以外にいなかった。

やがて男は立ち上がり、赤い実に手を伸ばし、二つほどもぎ取ってから屋敷の中に戻っていく。

戦争という現実から遠くかけ離れた場所で、この男・・・希鳥は暮らしていた。






雲ひとつない青空だった。
しかしそれはあくまでも外界での話である。
分厚く高く聳える壁の内側の深くには青色など存在せず、あるのは赤色だった。

こつこつ、と早足で地下室を進む影がある。要所要所に設置された灯りに照らされると、その影が露わになった。
絹糸のように柔らかな金の長髪、真珠をまぶしたような肌、琥珀のように透き通った瞳を持った男だった。その酷く美しい容姿に微笑を湛えさせれば、まるで虫も殺せぬ聖者のように見えたが、この男は軍人である。
慣れた手つきでセキュリティの厳重な扉を開けると、そこが地下室の出口だった。
地下室からでると、がらりと空間の雰囲気が変わってしまう。開け放たれた窓からやっと青色が見える。
扉の横に待機していた二人の軍人が、男に向かって恭しく敬礼するのを横目に、男はまた早足で歩き出した。

・・・ヘレディウム大陸。
現在この大陸には四つの国が存在しており、そして大陸統一を狙って戦争をしている。この大陸に住まうものならば誰もが知っていることだ。
そしてこの男が住まうこの国は軍事国家アンビシオンという。

男の所属している軍こそが国の最高権力であり、戦争の力そのものである。
現在は他国とのにらみ合い状態となっており戦は止まっていたが、すぐに次が始まるだろう。
それまでに捕らえた捕虜から有益な情報を聞き出すのが、この男の先ほどまでの仕事だった。
結果を報告するために、自室へと戻る際、同僚に声をかけられた。それで立ち話が始まる。

「どうだった?」
「たかだが爪三枚で気絶してしまいましたから、ほっぺ引っぱたいて起こして洗面器に顔沈めてやりましたけど?」
「いやそこじゃなくてな」
「ふふ、分かっておりますとも。・・・とりあえず、上に報告できるようなことはありました」
「・・・それだけか?」
「ええ、それだけです」

そういって微笑む男に、お前ね、と同僚がやや呆れたようにした。
それからもう少し詳しいことを聞こうとしたところで、目の前に人差し指を差し出されて制止された。

「聞き出そうとしても駄目ですよ。まずは周りに漏れないように上に報告。それが私のお仕事ですから。ですから、上から正式な報告があるまで、貴方も休んでなさい」
「それ以外にも仕事はたくさん頼まれてんだろ、どうせ」
「ええそうなんですよ。頼られっぱなしで困ったものです」
「・・・お前は本当に末恐ろしいな」

ひくつかせた笑みでそういう同僚に、男はただただ美しい微笑を浮かべる。

戦争に最も近い血生臭いところで、この男・・・ムヴァは生きていた。

名前 文字色 削除キー

[63] 機械の足音 投稿者:ももも (2011年06月10日 (金) 01時19分)


「自動車部門の売り上げはストライクモータースの『タイガー』に押され、前期に比べて2%の低下となりました」


商業国家リシェス、そのどこかにある薄暗い会議室に、淡々とした男の声が響き渡る。
壁を覆うほどの大型の液晶には今期までの自動車部門の売上が折れ線グラフで表示され、その脇に指示棒を持った中年の男が立っていた。
売り上げ低下の原因である、自動車部門長である白髪交じりの男は憮然とした様子でグラフを眺めている。


「よくないですなぁ、これは」


そのグラフを見て、情報家電部門の白髭の男が言う。
その声にはいかにも芝居臭い残念さと、嘲弄の調子が混ざっていた。


「『ふうじん』の開発費は確か、500億ヴェルツでしたな。大丈夫なんですかね?」

「売り上げが伸び悩んでいるとはいえ、赤字を出すようなレベルではありません。その心配は杞憂です」

「ならいいんですが」


情報家電部門長の男の嘲弄の言葉に、自動車部門長の男が憮然と返した。


「…マクファーソン君、進めてくれ」

「わかりました。続きまして、兵器部門の売上に参ります」


そこに割り込むように、兵器部門長の男が進行役の男マクファーソンに先を促し、マクファーソンも手元のパネルを操作して画面を切り替えた。
画面には自動車部門の時と同じように今期までの売上の推移が折線グラフで表示されていたが自動車部門のそれと違い、売り上げは右肩上がりとなっていた。


「兵器部門の売り上げは前期に比べて14%の増加となっております」

「…………」


一番上座に座る、禿頭の、しかし鋭い顔つきの社長フェーゴはその売上向上の知らせにも眉一つ動かさずグラフを眺めている。


「軍への売り上げが効いているようだな」

「はい、特に『信濃伍型』の販売数が…」

「そうか」


フェーゴの低い、無機質な声が会議室に響き渡る。
決して大声ではないのに、彼の声は部屋にいる者達によく通る。
だが、それは単に社長の声質によるものだけではない。
彼の顔付、目線、性質、雰囲気、その全てが他者を飲み込むような、そんな気配を放っていた。


「アンビシオンとの戦線の様子は?」

「エギーユ樹林において戦線が膠着しているようです。兵力の面では僅かではありますがアンビシオン有利とのことです」


短いやり取りの後、フェーゴの目線が兵器部門長カマダの方に向けられる。


「カマダ部長、『秋水漆型』開発の進捗は?」

「…70%程です。後二月もあれば試験運用が可能になるでしょう」

「研究開発に予算を回す。軽量な歩行兵器は軍部も欲しがるはずだ」

「わかりました」









「今戻ったぞ」

「御帰りなさい部長」


カマダが会議を終えて、車で1時間ほどの距離にある兵器開発研究所に戻ったのは午後4時過ぎのことだった。
薄手の上着を椅子の背もたれに腰掛け、椅子に腰かけて一息をついた。


「顔、汗だらけですよ」

「あの会議室は冷房が足らんよ」


部下の軽口にカマダも苦笑しながら答える。
汗の原因は、言うまでもなく社長・フェーゴの雰囲気によるものだ。
カマダが元々所属していた『サルタ工業』が『ドヴェルグ工業』と合併、『サルタ・ドヴェルグ工業』が成立して早二年。
未だにフェーゴが放つ超然とした雰囲気に、カマダは慣れることが出来ないでいた。
フェーゴと会話をするだけでなく、ただ同じ部屋にいるだけで息苦しいまでのオーラが伝わってくる。
本来なら、それで毛嫌いされて消えているのだろうがそのオーラは息苦しさと同時に安心感ももたらす。
超然とした雰囲気と、安心感。その二つが混じり合い圧倒的なカリスマとなって部下達を引き付けていた。

そして、オーラだけでなく経営の腕もまた本物だった。
元々『ドヴェルグ工業』は10年ほど前に創業した比較的若い会社だがフェーゴは人並み外れた苛烈な手腕で『ドヴェルグ工業』を急激に成長させたのだ。

それに対し『サルタ工業』は今年で創業65年になる老舗メーカーだ。
地道、堅実、極力バクチを避ける経営で業界での中堅位置とシェアを維持し続けて来た。


――この先もまた、こういった中堅の経営を続けて行くのだろう。


社内の誰もがそんなことを考えていた矢先、破竹の勢いで成長を続ける『ドヴェルグ工業』が合併を打診してきた。
曰く、「御社の技術が欲しい。見返りとして、充分な販路を約束する」ということだった。
当時の会社規模は両社ともほぼ同じ。
もし合併が成立すればリシェス国内でも有数の大企業と肩を並べるまではいかないまでも、末席に食い込むことが可能だった。
サルタの経営陣とて経営を拡大し、行く行くは国内のシェアを牛耳ることを夢見たことがなかったわけではない。
だがそれは、他の大企業との資金力の格差に阻まれて長らく叶うことはなかった。
だからこそ地道でバクチを避けた経営を続け、覇権を握る機会を辛抱強く待ち続けた。
そこに転がり込んだ合併の提案。


――『ドヴェルグ工業』の勢いに乗れば、可能かも知れない。


合併の提案に、サルタの経営陣はその欲望を呼び覚まされ、合併の提案を受け入れた。
幾度かの会議を経て、『サルタ工業』と『ドヴェルグ工業』の合併が行われ、『ドヴェルグ・サルタ工業』が成立。
一躍大企業と肩を並べるほどの規模に膨れ上がり、売上も大幅に増加した。
案の定、経営陣のトップに誰を据えるかの調整で多少の衝突はあったが、『ドヴェルグ工業』は「フェーゴを社長に」という部分を頑として譲らなかった。
サルタ経営陣としてもこの態度には憮然となり、合併の交渉は決裂するかと思われた。
だが、ドヴェルグ工業側は交換条件として「我が社からの経営陣はフェーゴを社長にしてくれるなら、少数でよい」と申し出て来た。
「旧サルタ系列のが多数なら、すぐに会社の主導権を奪える」、そう考えたサルタ経営陣はその条件を承諾。
取り決めの通り、社長はフェーゴに、そして経営陣は旧サルタ系列の者が多数を占めることになった。
だがサルタ経営陣の目論見とは裏腹に、フェーゴはその圧倒的なカリスマと手腕で職務を精力的にこなした。
会社全体の売り上げは目に見えて上昇、隙あらばフェーゴを引きずり降ろそうと目論んでいた旧サルタ系列の幹部は非の打ちどころのない経営に口を噤まざるを得ないまま、現在に至っている。


「お茶が入りました」


カマダがそんないきさつを思い返していると、涼しげな声と共にデスクの上に麦茶が置かれた。
カマダが声の方向に目をやると、スーツ姿の若い女性が立っている。
長く伸ばした髪は水色で瞳はアメシストのような紫。
顔立ちは一人前の大人のようだが僅かだが子供の面影が残っている。


「メンテナンスは終わったのか」

「はい、30分ほど前に終了しました」


カマダの問いに、女性は無機質に答えた。
カマダはそのまま冷えた麦茶を飲み干すと空になったコップを女性に渡し、再び口を開いた。


「喜べ汀(みぎわ)、予算が増えるぞ」

「やったね部長!」


予算増額の報せに、能面のような無表情だった女性―――汀(みぎわ)が表情はそのままに冗談めかして返した。
だが返答に嫌な予感がしたのでカマダは「それはやめろ」と釘を刺しておいた。


「ただし、『秋水漆型』の完成を優先させるのが条件だそうだ」

「あんなもやし機体より重厚フォルムの『下総参型』の方がいいのでは?」

「それはお前の趣味だろう」

「失礼しました」


そんなやり取りの後、カマダはシェード越しの夕闇に眼をやった。
近い内に、最前線では兵士や機兵達が銃弾、血肉、砲弾、怒声、生命を飛び交わせるようになるのだろう。
兵器部門は、そんな戦争こそが一番の儲け時だ。


「儲かるでしょうか」

「儲けるさ。これに乗じて、売れるだけ売ってやるさ」


カマダはその夕闇を見ながら、お気に入りのタバコに火を付けた。


名前 文字色 削除キー

[61] 束の間の休息 投稿者:はくろ (2011年06月09日 (木) 22時37分)
――― 王政国家フィエルテ、王国騎士団宿舎

長い廊下にコツコツと革靴の音が響く。
周囲には談話している騎士たちの姿がある。

大陸統一の覇権を賭け、長く戦乱が続くヘレディウム大陸……
ここフィエルテも例外ではないはずなのだが、周囲の3国とは睨みあった状態が続いている。
国力を蓄え、軍備に久々に訪れた軽い休息のようなものを彼らは感じているのかもしれない。

本日の騎士団宿舎内の雰囲気は、とても穏やかであった。

彼らの間を二名の部下を連れ、突っ切っていく褐色肌の黒髪の青年をみるや、
談話している騎士達は、慌てふためくように敬礼の姿勢を取ると、青年がそれに返す。

そして、彼らは廊下の突き当たりの部屋の鍵を開くと、その中へと入っていく。
青年に続き、控えの騎士2人が部屋の内部に入ると同時に、扉が閉じられ、鍵が静かにかけられた。

「先日戦が片付いたと思ったら、また次か……」
「ええ、そうですねぇ。こっちもまいっちまいますよねぇ、リトス先輩」

部屋に入るや、青年の脇に控えていた赤毛の隻眼騎士、リトスがぼやく。
その横で、水色の髪のパーマをかけたこちらも若い騎士、アコルデがそれに続いた。
彼らの会話を聞きながら、着ていた黒いコートをハンガーにひっかけつつ、青年、エーヴェルトが口を開く。

「我がフィエルテがこのヘレディウムの覇権を掴むためにはいざしかたがないことだ」

「ですねぇ、隊長」
「そういえば、次の作戦はどんなもんなんです?総長はなんかおっしゃってましたか?」

彼の言葉にアコルデが相槌を打ち、リトスは思い出したかのようにエーヴェルトに訪ねる。

「作戦内容は口外禁止となっている。どこに間者がいるかわからん。何せ、戦争の激化による徴兵で団も騎士を管理できていない状態にある」

首を横に一度振りながらエーヴェルトは答えると、その後にただでも私には敵が多いのだから、なおさらな。と、付け加えた。

「ですか…」

「ほほう。ってことは、アレは隊長が持ってるわけですねぇ?見せてくださいよ」
「いや、今日は配布されていない。正式なものがくるにはまだかかるだろう」

リトスはその返答を聞くや、黙りこむ。
それに反してアコルデはお喋りだ。かけていたメガネをくいっと持ち上げると、このようなことを口走る。
彼がアレというのは、次の戦の作戦書のことである。

「ですか…流石に上も慎重になってきてますねぇ」
「我が国の命運がかかっているからな。慎重にもなるだろう」

アコルデはこう返すと、大人しく黙り込み、彼に代わるようにリトスが口を開いた。

「本日の会議は騎士団の団員のみ出席だったのですか?」

ぴくりとエーヴェルトの眉が動く。

「いや、貴族も同席している。彼らの要望は聞くに堪えないものだったがな。流石の総長殿もたじろいでおられた」
会議中の貴族達のありさまを思い出し、はぁと溜息をつくと、こう続けた。
「もう少々、くだらない見栄を張っていないで、国のことを考えていただければいいのだが」

「まあ、アレらには無理だろうな」

(お疲れ様です……)
(この様子、また嫌味言われたんだろうな…。嫌味だけじゃなくて、嫌がらせもかも)

見た目は20代程の青年だが、やつれて見えるエーヴェルトにリトスとアコルデは同情の念を示しつつ、指示を仰ぐ。

「で、隊長。本日のご予定は?」
「正式なブツが後日になるということで、夕刻に控えていた打ち合わせは見送る」

「ってことは……オフですかい?くっくっく、羽根を伸ばせそうじゃないですか」
「ああ。だが、くれぐれも不祥事だけは起こさないように」
「承知しております」

「行くぞ、アコルデ」
「はい」

その言葉を聞くと、リトスはアコルデを連れてエーヴェルトの執務室兼私室を出て行く。

「……さて、少し仮眠をとらせてもらうか」

エーヴェルトは二人が出て行った後の静かになった部屋の隅、備え付けてある簡素な寝台に寝転ぶ。
ふかふかというわけでも、寝心地が特別いいわけでもないが、何故かここが一番落ち着く場所だ。
そして枕元には手持ちの短刀を忍ばせ、手を添える。
幼い頃よりいつの間にか身についていた襲撃者に備えての対策法だった。


暫くして、エーヴェルトの口から小さな寝息が立てられ始めた頃のことである。
騎士団の宿舎周辺では、草むらの中にぴこぴこと白い薄茶色の虎模様がついた猫の耳が動いていた。

[62] はくろ > 新規リレ小企画ということで、投稿。
(2011年06月09日 (木) 22時40分)
名前 文字色 削除キー

[60] ☆彼氏募集☆ 投稿者:かりん (2009年06月19日 (金) 11時36分)
ずっと一緒にいてくれる彼氏候補募集しまぁ〜す!簡単なプロフつけて送ってね♪ mai-d.k@docomo.ne.jp アタシは大人だから高校生には興味ないょ…

名前 文字色 削除キー

[56] 生きた森へ放り出された者達。 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時36分)
「……ィンさ……! ……ティンさん……!! ……ジャスティンさんっ!!!」
「っ!?」

 遠くから響いていた声が突然大きくなり、ジャスティンは驚きで目を覚ました。
 身体を起こすが、視界が揺れ思わず目頭を押さえる。
 横で心配そうにジャスティンを見ていたのは、ルクラだった。
 ジャスティンが目覚めたのを見て、ほっとした様子で胸をなでおろしている。
 直ぐ近くにはファルとヴァール、そして馬の姿もあった。

「……ここは……? 確か……壁に引きずり込まれて……」
「た……多分、その壁の内側に来たんだと思います……、よ、よくわからないんですけど……」

 ルクラが指差した先には、濃い緑の蔦で形成された植物の壁。
 薬の効果はここまで届いていないのか、辺りを見回しても枯れた様子の植物は無い。
 必ずどこかに壁が張り巡らされており、出口が見当たらない。
 
「後戻りも出来ないみたいで……あ、あの、遺跡ってあれですよね……?」

 再びルクラが指差した方向を見る。
 古びた石で形作られた遺跡に、遺跡の中心を貫くかのように存在する巨大な木。
 そして遺跡を分断するかのように真ん中に張り巡らされている植物の壁。
 薄暗いが、それぐらいの程度は確認できるほどの明るさは保たれている。
 上方はやはり、木々が覆い尽くしている為光が殆ど入っていないようだった。

「あ、あぁ……あれが遺跡に間違いない……。……ラファエルや……他の皆は!?」

 ジャスティンの問いに、ルクラは悲しそうな表情を見せた。

「それが……わからないんです……。もっと遠い場所に居るのか……飲み込まれたときに、はぐれちゃったんでしょうか……?」
「とりあえず……ここに居るのは私達だけ……そういうことよ……」
「待ってても仕方ないんじゃないかな。遺跡を目指さない? きっとはぐれた人も遺跡を目指してるはずだし、合流が出来ると思う」

 ヴァールとファルが近づいてきて、ジャスティンに提案する。

「……僕が起きるのを、待ってたのか。……すまない」
「で、でもよかったです! このまま目が覚めないんじゃって……」
「仲間を一人置いてきぼりなんてしないよ」
「……そう……謝る事なんて無いわ……」
「そう……だな。……もう大丈夫だ、遺跡を目指そう。……まだどこかに誰か居るかもしれない。辺りの注意はしっかり払いながら行こう」

 服についた土や草を払いながら、ジャスティンは立ち上がる。
 
「明かりは……そうか、ラファエルが持ったままだ」
「明かりならまかせてくださいっ!」

 自信たっぷりにルクラは一歩前に出て、胸の前で両手を組み祈るような格好を取る。
 数秒後、ぱっと手を解いて大きく万歳するような格好を取った瞬間、ルクラの頭上に光り輝く珠が現れた。
 しっかりと周囲を照らし出し、闇を払う。

「これで大丈夫です!」
「ありがとう、助かるよ」
「……偉いわねぇ……」

 ファルに褒められヴァールに撫でられ、嬉しそうな表情を見せるルクラ。

「ありがとう、ルクラ。……よし、それじゃあ遺跡へ行こう。……植物の壁が邪魔して、僕が知っている道は使えないから、新しく探すしかないが……」
「……なんとかなるわよ……」
「まずは動かなきゃね、どこかの誰かが言ってたみたいに」
「お馬さんの荷物も全部無事でしたし、いくらでも歩けます! 行きましょう!」

 再び遺跡へ続く道を探し出すため、ジャスティン達四人は馬を引き連れ、森の中を歩き始めた。

[59] ベル > 遅くなりましたが進行完了です。
現在二手に分かれさせています、ご注意ください。

【生きた森ルート】
ジャスティン・ファル・ヴァール・ルクラ
の四名。

こちらは特に戦闘は用意していませんが、何かネタがあれば是非! (2008年08月09日 (土) 00時45分)
名前 文字色 削除キー

[55] 死んだ森へ放り出された者達。 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時35分)
「……ぅ……」

 頭を振りながら起き上がったラファエル。
 少し目の前はぼやけているが、どうやら死んだわけではないようだった。
 丁度自分が倒れていたのは、ぼろぼろの石の上。
 長方形の形をしている事から自然に出来たものではなく、人の手が入った何かであるということがわかる。
 そしてそれは、気の遠くなるほど長い年月を刻んでいる事も解った。
 あたりは、薄暗い。
 ここからもやはり空は見えず、大きな木の枝や葉っぱが光をさえぎってしまっている。

「ここは……うっ……!?」

 意識が覚醒したと同時に、強烈な悪臭が鼻につく。
 今居る場所も、植物が支配しているようだが、どうも全てが枯れ果て、腐っているらしい。
 思わず手で鼻を覆うが、あまり効果は無い。
 投げつけた薬でここまで変貌したかと思ったが、それはありえないとすぐさま否定する。
 水分を吸い取る薬を使ったのだ、そこらじゅう腐った水溜りが出来るはずがない。
 そもそも、そんな短時間で植物が腐るはずは無い。
 元々このような状況だったのだろうか。
 辺りを見回せば、同じように倒れている人影を見つけることが出来た。
 ラファエルは早足で、倒れている人物を起こしに掛かる。


「……状況を確認しておきます。今この場に居るのは……私、ラウルさん、ゼーレさん、ラキスさん、ジンさんの五人。ジャスティン様や残りの方は行方がわからない」
「どうするよ?」
「ここで待っていても……無駄でしょうね」

 何処を見渡しても、必ずどこかに植物の壁があり、通行が出来ない状態になっている。
 如何ここに運ばれたかは解らないが、前に進む事しかできないようだ。
 
「戻ることも出来ない……進むしかないのですね」
「……進入は出来たんだ……別に問題は無い……」
「あれが遺跡だよね? 進んでたらどこかで合流できるかもしれないよ」
「私もこのまま遺跡を目指す考えです。必ずどこかで合流できるはず。ただ見落としが無いとも限りませんから、少し探索に力を入れつつ遺跡へ向かおうと思います」

 ラファエルたちが視線を向けた先には、古びた石で形作られた遺跡に、遺跡の中心を貫くかのように存在する巨大な木だった。
 そして今は、植物の壁が遺跡を分断するかのように真ん中に張り巡らされている。

「こんなヒッデェ場所を遠回りしながらッてか?」

 露骨なまでに嫌な顔をするラウル。
 それも仕方が無い話だった。
 この悪臭に包まれた状態で延々探索を続けるのは拷問に近い。

「仕方が無いでしょう。……まだ誰かが倒れている可能性も否定できません。……例えばヴァールさんですとか――」
「ヨッシャ行こうぜ。いいか草の根分けてでも探す勢いで行けよ! ほらグズグズすンな!」

 態度をころりと変えて探索に乗り出すラウル。
 呆れた様なため息をつくラファエルとジンに、ゼーレやラキスは苦笑を向けた。
 その時。

「…………?」

 かたかた、と何かがぶつかり音を出している。
 次第にそれが、増えていく。

「………………」
「そうか……面白い場所に放り込まれたみたいだよ」

 ジンの目つきが鋭くなり、武器を構える。
 ラキスも同じように、何かを待ち構えている。
 人ならざる者の血が混じったジンに、人ならざる者となった存在を感じ取れるラキスには、何が居るのか大体把握できたらしい。
 少し離れた場所に居たラウルも、姿勢を低く構え薄暗い先を睨みつけていた。

「やれやれ……こんな場所で余り戦いたくは無いのですが」
「同感です。……なるべく早く、戦いを終わらせましょう、ラファエル様」

 左手に剣を持ち、右手に魔方陣を浮かび上がらせるラファエル。
 丁度全員を援護できるような絶妙な距離に位置したゼーレ。
 闇の先から現れたのは、骨だけの姿となった狼、スカルウルフの群れだった。

[57] ベル > 遅くなりましたが進行完了です。
二手に現在分かれさせています。
【死んだ森ルート】
ラファエル・ラウル・ゼーレ・ラキス・ジン
の五名。

敵と遭遇、戦闘になります。
(2008年08月09日 (土) 00時40分)
[58] ベル > 今回の敵データ。

【スカルウルフの群れ】
森の中で交戦したフォレストウルフの成れの果て。
攻撃速度や移動速度、頭は随分悪くなっている。
だが身体を粉々にでもしない限り噛み付こうと襲い掛かってくるためしぶとさだけは一級品。
(2008年08月09日 (土) 00時42分)
名前 文字色 削除キー

[54] 突破? 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時34分)
「何事も無く、順調。……今の所は」

 再び森の中へ進入し、最初の野宿に使った広場にたどり着いたジャスティン達は、あの時と同じように野宿をしていた。
 道はわかっているのだが、進みづらい地形なのは相変らずで、やはり一日ではあの壁の前にはたどり着けなかったのだ。
 今見張りを努めているのはラファエル。
 それも、一番最後の見張りであった。
 彼の言葉通り、植物たちが襲い掛かってくることは今のところ無かった。虫の動く音、獣の鳴き声、それが一切しない、ただ木々のざわめきだけがあたりを包み込む、前回と同じ状況。

「あの壁に手を出したら襲い掛かってくる……あくまで防衛、というわけか。……だが」

 自分の荷物にある瓶の感触。
 それを片手で撫でつつ、ラファエルはあの壁の突破を確信していた。

「足止めもこれで終わりです……。必ずお前を討ち取って見せますよ……ジョーカー」

 普段はジャスティンをなだめるラファエルの瞳に、明らかな憎悪の光が宿っていた。
 彼も冷静を装っているものの、ジャスティンに劣らぬほどの強い信念が秘められているのだ。
 国を、王を、自分にとって親しい者達。
 それをあっさりと奪い取ったあの男の存在は生かしておけない。

「……しかし」

 ふ、と目を閉じて考え込む。
 ジョーカーへの憎しみは変わらない、それは先ほど再認識した。
 それならばもうこの思いはまた心の奥深くへ仕舞いこむべきだ。
 自分にはジャスティンへ常に最適な助言を行うという使命があるのだから。
 次に考えることは、国境で起こった戦闘の事だった。
 
「国境の男……アレは一体なんだったのか」

 国境に居た賊の頭が羽虫へと変貌するその前に、奇妙な事を叫んでいたのは勿論忘れるはずが無い。


――あのヤロォ……こんなふざけたものを寄越しやがってぇ!!! 話がチゲェだろうよぉー!!!


 実力はお粗末なものであったし、仮にも国に仕える騎士達を蹴散らすような技量があるとはとても思えない連中。
 あの蟷螂の化物の助けがあったからこそ国境を占領する事ができたのだろう。

「何者かがあの男に接触して……あの奇妙な笛を手渡したと考えるのが普通か? しかし一体何のために……?」

 あの盗賊たちだけであんな品を手に入れるとは考えにくい。まず間違いなく第三者が関わっている。
 その結論に辿りつくのは容易かった、だが其処から先は行き止まり。

「どうも解らない事がありますね……」

 気がつけば、すっかり焚き火が燃え尽きている。
 見張りの終了と同時に、あの壁のところへ進む時間がやってきたのだ。


「……準備はいいね?」
「いつでもイケるぜ」
「問題ありません」

 ジャスティンの言葉に、それぞれが軽く頷き、またはその動作に言葉を付け足し応えた。
 再びジャスティン達の前に立ちはだかる、植物の壁。
 あの時と同じように、犇き蠢いている様子は不気味だった。
 装備を確認し、そしてあの小瓶を片手に持ち構える。
 
「……行こうっ!!!」
「合わせて下さいね」
「……あぁ……」
「任せとけッて」

 ゼーレが壁の前に躍り出て、両掌を向けた。
 青白い光が掌に収束したかと思えば、膨大な数の光弾が発射される。
 凍りつく壁。
 巨大なそれを全て凍りつかせることは出来ない。
 あくまで一部分だけの凍結。
 その攻撃により壁が再び侵入者の存在を察知して、森が怒り始めた。
 だが。

「おらァッ!!!」
「…………ッ!!!」

 凍りついた場所目掛け、ラウルとジンの強烈な一撃が決まる。
 砕け散り、抉れる壁。
 素早く三人は壁の前から離脱する。

「投げるんだっ!!!」

 それを合図として、大きく抉れた場所目掛けて一斉に小瓶を投げつけるジャスティン達。
 何故か瓶はすべて封を切っていない。
 その理由は、数秒後に明かされた。

「切り裂いてっ!」

 精神集中に入っていたルクラの魔術が発動し、風が荒れ狂い、壁全体を切りつける。
 投げつけられた小瓶も巻き込み、見事に瓶が輪切りになった。
 内容物が一斉に、抉られた箇所にぶちまけられる。
 その瞬間壁の動きが、森のざわめきが止まった。

「どうだっ……!?」

 武器を構え、何が起こってもいいように身構える。
 植物の壁は、痙攣を始めた。
 どんどん壁の結束は緩み、蔦の一本一本が悶え苦しむように踊り狂う。
 まさしくルクラが云ったように、踊り狂い死のうとしているのだ。
 濃い緑だったそれは、あっという間に茶色い、かさかさとした物へと変貌を始める。
 緑一色の壁が、茶色一色に染まり始めた。
 足元に走る蔦も段々と、同じように枯れ始める。

「壁が……崩れていきますっ!」
「成功、ですね」
「よし……っ――!?」

 誰もが壁の崩壊を確信し、突破できると思ったその時だった。
 枯れ果てたはずの蔦が一斉に、ジャスティン達に絡みついたのだ。

「コイツ等……まだ生きてンのかッ!?」
「…………!」
「枯れてるくせにやけに丈夫だよ、これ……!」

 完全に拘束されたと思えば、どんどん壁の方向へ向かって引きずり込まれていく。

「な、何をする気だっ!?」
「かっかべのなかっ、なかにひきずりこまれちゃいますよーっ!?」

 馬にも容赦なく絡み付いていたようで、馬の嘶きが森の中に響く。
 なす術も無く、壁との距離は縮まり。

「くそっ……――ッ!!!」
「王子――ッ!!!」

 全員が、壁の中に飲み込まれた。
 後に残るのは、完全に力を使い果たしたか、不気味に蠢きながら次々と死んでいく植物の山だった。

名前 文字色 削除キー

[53] 再び帰らずの森へ。 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時34分)
 草花の楽園を後にして、東門へ向かうと、既に全員が集まっていた。
 まだ時間には随分と余裕があるのだが。
 早くあの植物の壁を突破したい、その理由は様々だろうが、誰しもそう思っていることをジャスティンは確信する。

「これが? ……ホントに効くのか、これ?」

 ダンシングプラントの原液が入った小瓶を受け取ったラウルが怪訝そうな顔をして尋ねる。

「ルクラの云うとおりなら、これ以上無い位の品だよ」
「絶対効きますっ! あれだって植物に違いないんですから!」
「へェ……。ま、期待しておくかね」
「ぜーったい大丈夫ですっ! 『お船に乗った気持ち』で居て下さいっ!」

 大真面目な顔で話すルクラに、全員一斉に苦笑を向ける。

「……『大船に』、でしょう? お嬢さん」
「……!!! ま、まちがえました……」

 ラファエルの指摘に、一瞬で顔を真っ赤にして俯き、蚊の鳴くような声で一言。
 相変らずの調子な彼女に笑いを提供してもらったジャスティンたちは、門の外に広がる平原に向かって一歩を踏み出した。
 雲ひとつ無い快晴。宿で疲れをすっかり取り除いた今、力強い足取りで街道を進む。

「………………」
 
 歩きながら視線だけを動かし警戒するロフォカレ。
 だが、姿を隠す場所など何処にもない広い平原に、不審な影は見受けられない。
 一番危険といわれる時間帯、夜であっても、一匹の魔物との遭遇をしていないのだ。この時間に出会うはずなど無いに決まっている。
 ジャスティンはそう思いつつも、何も云えなかった。
 自分達を護衛する事が彼の仕事である。邪魔をするのは悪いだろう。
 
「………………」

 それに、彼に習ってきょろきょろと忙しなく辺りを見回す少女にも。
 やがて、ジャスティン達が昨日戦いを繰り広げた国境が見えてくる。
 門は硬く閉じられて、何人かの騎士が見張り台を行ったりきたりしているのを見るとちゃんと機能はしているらしい。
 ロフォカレが大きく手を振った。
 すると、見張り台に居た一人の騎士が反応して手を振り返してくれる。
 お互いの声が届く程度の距離にまで近づくと、ロフォカレは大声を上げた。

「ジャスティン様ご一行を護衛してきた! 開門を要求する!」
「了解した! ……開門ーっ!」

 見張りの騎士の声に応える様に、巨大な門はぎぃぎぃという音と共にゆっくりと開かれていく。
 開ききった門の奥には、甲冑に身を包んだ騎士が一人佇んでいた。
 アーメットである。
 ジャスティン達に近づき、静かに一礼をする。

「報せは王より頂いております。我ら一同、ジャスティン様達の旅の成功をお祈りしております」
「ありがとう。彼……ロフォカレにも、とても助けられた」
「我が隊員の名誉は我が部隊全体の名誉……光栄に思います。……ロフォカレ、任務ご苦労であった」
「はっ」

 直立不動のままの姿勢でアーメットの言葉に応えると、ロフォカレはジャスティン達に向き直り、一礼をしてみせる。
 すっかり戦いの跡が片付けられた砦内部を見て、ジャスティンはある一つの疑問を生み出す。

「ここに元居た騎士達や……恐らく賊に連れ去られたと思われる人たちは、どうなった?」

 アーメットは軽く頷くと、答えた。

「ご心配なく。騎士達は負傷はしていたものの、全員無事であることが確認されております。今は王都に帰還、治療を受けている頃かと。連れ去られた人々も全員救出しております」
「そうか。……よかった」

 ジャスティンや、仲間の間に安堵の表情が生まれる。
 ロフォカレは、嬉しげな表情を表に出したものの、慌てて隊長の前という事に気づいて隠すほどだった。
 公私混同を絶対にしないであろうこの生真面目な騎士とも、ここで別れなければならない


「ありがとう! また、逢おう!」

 国境を抜け再びクラウゼル王国領域の土を踏んだジャスティン達。
 まだ後方に、自分達を見守る騎士達の姿があるのに気づいて、大きく声を上げてジャスティンは手を振った。
 それに習うかのように、各自が思い思いの別れの挨拶を行う。
 騎士達も手を振り返し、その中で特に一人大きく手を振る姿があった。

「やけに情熱的だな。冷静が服を着て歩いていると評判のロフォカレにしては珍しいじゃないか?」
「む……気のせいだ!」
「おや? 顔が赤いぞロフォカレ殿?」
「それも気のせいだっ!」

 周りの騎士から小突かれからかわれ、今までジャスティン達に見せていた生真面目な態度は消えうせ、ただ疑惑の打消しに必死な青年の姿がジャスティン達の目に映る。
 永遠の別れではないものの、彼らと離れる事が少し寂しかった何人かには、その光景は救いであった。
 必ずもう一度ここへ戻る、そんな決意をすることが出来たからだ。
 国境を離れ、ジャスティン達は再びサントシーム南の森、帰らずの森へ。

名前 文字色 削除キー

[52] ダンシングプラント 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時32分)
「忘れ物は無いね?」
「遠足じゃねーんだから、ンなこたァねーだろ」

 一夜を過ごした宿の前に集まった一行。
 商人や客の生み出す喧騒を背に、ジャスティンは話を切り出した。

「それもそうか。……僕たちはロフォカレと一緒に除草剤を探してくる。他の皆は、それについてくるもよし、何か用事があったり、必要な品を手に入れに行くというのなら別行動でも構わない。一時間後、東門前に集合するとしよう。以上だ」

 何人かが、街中へと繰り出していく。
 残ったのは、ルクラ、ヴァール、ゼーレ、ラキス、クロスの五人だった。

「僕はここでお別れだ」

 軽く伸びをしつつ、クロスが口を開く。

「アムニまでの同行って話だったからね。……まさかこんな宿に泊めてもらえるなんて想像もしてなかったけど。……助かったよ、ありがとう」
「なかなか大変だったけど……君の力に随分助けられたよ。こちらこそありがとう」
「大変だと思うけど、君達も頑張って。またどこかで会ったら、よろしく」

 短い会話を終えて、今この場に居る全員に向かって軽く手を振って、クロスは颯爽と街の雑踏の中へと消えていった。

「……行っちゃいましたね」

 ルクラがぽつりと、寂しそうな表情で呟く。

「またいつか会えると思う」
「そ、そうですよね……。ラキスさんの言うとおりですよね……」
「えぇ。そんなに落ち込まなくても、大丈夫ですよ。ルクラ様」
「さっさまなんてつけなくていいですよゼーレさんっ!」
「わかりました、それでは今度からルクラさん、と御呼びしますね。 ……私のことも、呼び捨てで構いませんよ?」
「それはそのっ……えっと……、さ、さんづけにする癖がついちゃって……ごめんなさいっ!」
「ふふ……わかりました」
「……面白いわねぇ……」

 丁寧な言動だが、見た目が小さい上性格も見た目相応といったレベルのためか、よく他の仲間に気を掛けてもらっているルクラ。
 今回も、すぐに沈んだ気分を元に戻してもらっている姿を見て、ジャスティンは自然と笑みをこぼしていた。
 
「そうだね。ラキス君の言うとおり、またどこかで会うかもしれない。そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。僕たちは今やるべきことを、少しずつこなしていこう」
「は、はいっ!」
「それじゃあ、ロフォカレ。案内を頼めるかい?」
「はっ。こちらです、皆さんついて来てください」

 何時ものようにきびきびした動作ではなく、昨日の街までの護衛の姿を知っているジャスティンたちからすればかなりゆっくりとした動作で街を歩き始めるロフォカレ。
 それが何故なのかは、彼の隣をいつものようにぱたぱたと駆けることなく、歩いてついて行くルクラの姿を見ればわかる。
 普段は駆け出さないとついていけない彼女のために、駆け出す必要の無いよう速度を合わせてくれているのだ。
 
「あ、あの! ロフォカレさん!」
「はい?」
「き、昨日はその……ありがとうございました! ……た、大変でしたよね!?」
「いえ、そんなことはありませんよ。……疲れは取れましたか?」
「はいっ! もう、大丈夫です!」
「それは良かった。私も少し、心配しておりましたので」

 すぐ横を歩いているルクラに、ロフォカレは手を差し伸べる。
 ぱっと明るい笑みを見せたルクラは、迷うことなくその手をぎゅっと握り締めた。
 お互いが笑みを浮かべ、ルクラの歩調に合わせた速度で大通りを歩いていく。
 二人が並んで歩く様子は、歳の離れた兄妹、といったところだ。
 生真面目な印象を受けた騎士ロフォカレがこうまで優しげな行動を取るのは、やはり彼女が最年少に見えるからだろうか。

「……いいわねぇ……」
「ふふ、ロフォカレ様は、ルクラさんにすっかり懐かれてしまったみたいです」
「いい事だと思うな。彼女、そんな年頃だし」
「ラキスさん……。貴方がそれを言うと少々実感が湧きませんよ……」
「はは……」

 目の前のほほえましい光景を眺めながら、ジャスティンたちは大通りを歩いていく。
 嬉しそうに会話をするルクラのために、少しだけ距離を離して。


「……ここです、ジャスティン様。私の知る限り、植物に関しての道具はここが一番かと」
「へぇ……。【草花の楽園】、か」
「名前からしてまさに植物専門、といった感じの店ですね」

 案内されて十分程度、所狭しと鉢に植えられた草花が置いてある店の前に辿り着いたジャスティン達。
 沢山の種類の草花があるのに、お互いの香りが邪魔をせず、すんなりと鼻の中に入り心地よい気分にさせてくれる。
 
「買い物が済むまで、私はここで待っています。……何しろ、店内は狭いので」
「わかった。案内ありがとう」

 一礼するロフォカレに礼を言って、ジャスティンたちは店の中へと入っていく。
 少し薄暗い店内は、ロフォカレの言うとおり確かに狭い。
 所狭しと並べられた沢山の棚に、その中に同じように整列している大小様々な瓶。

「あぁ、いらっしゃいませ……」

 店の最奥に置いてあった椅子に深く腰掛けていたのは、様々なことを経験し、それを思い返すことを今の楽しみとしているような、幾つもの深い皺が刻まれた老人。
 彼がこの店の主だという結論に行き着くには、一秒も掛からない。

「何をお探しでしょうか……」
「除草剤です。……この店で一番強い物を探しているんですが」
「ふむ……除草剤……。それなら手前から二番目の棚の、一番下の棚の瓶がそうです……」

 老人の言葉通り、その棚を覗き込むジャスティン。
 そこにある瓶は他の棚にある瓶とは随分違っていた。
 とてつもなく厳重に口の部分に封がされてあったのだ。
 
「その棚にあるのは余程のことがなければ使わない……人にとっても厄介な劇薬……。少々値段は張りますが、お客様が捜し求めている品にこれ以上の物は無いでしょう……」
「人にとっても……か」
「……あ!」

 いつの間にかジャスティンの傍に来て一緒に棚の中を覗き込んでいたルクラが、声を上げた。

「如何しました、お嬢さん?」
「え、えっと……真ん中にある青い液が入った瓶を、取って貰えますか!」

 と、彼女が指差したのは、数ある瓶の中でもひときわ大きな物。
 鮮やかな青い液体がたっぷりと詰め込まれたそれは、小洒落たインテリアとしても通用しそうだった。

「真ん中……これかい? ちょっと待ってくれ……」
「慌てなくていいですから! 絶対落とさないでくださいね!」
「あ……あぁ。わかったよ」
「貴女が一番慌てているような気がするのですが……」
 
 ルクラの言葉に少し緊張しつつ、ジャスティンは棚からその瓶を取り出し、床に静かに置く。
 僅かに揺れる瓶の中の青い液体が、光があまり差し込まない店の中でも宝石のような輝きを発している。
 
「これがどうかしたのかい?」
「この薬がきっと……一番あの森の植物に効くと思います!」
「何故そうだと?」

 断言するルクラに、ラファエルは怪訝な顔を向ける。
 
「この薬……、『ダンシングプラント』って云うんです」
「……踊る植物?」
「はい。この液体に触れたあらゆる物の水分を消滅させて、からからに乾かしてしまうんです。かけられた植物はまるで踊るように乾いていくから……こんな名前がついてるんです」

 ふと、どんどん水分を無くし踊りながら萎びて行く植物の姿を想像し、ラファエルは頭を振る。

「あまり良い光景ではありませんね……」
「これはその『ダンシングプラント』の原液です。本来の使い方は、五百から八百倍程度にまで薄めて散布するんですれど……、それでも人体に触れさせてはいけませんし、普通の植物だったらあっという間に枯れてしまいます」
「よくご存知なんですね、ルクラさん」
「はい! 植物や、薬草のことは好きで、よく調べていたんです!」

 ルクラの話を聞いて、ジャスティンは考え込む素振りを見せる。

「それだけ薄めて普通の植物が枯れてしまうなら……、これをそのままあの植物達にかければ……」
「間違いなくあの壁を突破できると思うな、僕は」
「……そうね……。……私もそう思うわ……」
「私もそう思います。さすがにこれなら、どれだけ守りを固めたとしても無駄に終わるでしょう」

 ラキス、ヴァール、ゼーレもこの薬の存在に勝機を見出しているのだろう、頷いてみせる。
 
「私も彼らと同じ意見です。これ以上の手段はないかと思われます」

 ラファエルも彼らに続き、肯定の意を示した。
 ふとジャスティンとルクラの視線が合う。
 嬉しそうにルクラは笑って見せ、ジャスティンも同じ行動をもってそれに応える。

「よし、決まりだ。この『ダンシングプラント』を下さい」
「わかりました……。注意などは、可愛らしいお嬢様の仰った通りです……。くれぐれも、皮膚にかけたりしない様にして下さい……」
「気をつけないといけないね。……でも、その大きな瓶一つを抱えていくの?」
「……攻撃チャンスが一回というのも……危険ねぇ……」
「そうだな……。小瓶に分けるというのはどうかな? それなら人数分用意できるし、誰かが隙を突いてくれればそれで倒せるだろう」
「それがいいと思います! ……あ、あの! おてすうをかけますが、こわけにしていただけませんか!」

 そうと決まれば話は早いと――恐らくは、自分の知識が役立ったことに対して素直に喜んで興奮しているためだろうが――ルクラは店の主人である老人に近づいて、どこで覚えたのか解らないが丁寧にお願いをする。
 慣れていないのか、若干舌足らずなのが彼女らしい。

「小分けですか……。勿論お客様が望みますなら……。小瓶を取ってきて頂けますか……、確か……手前から4番目の棚の一番上に仕舞っております……」

 ジャスティンが慎重に瓶を持ち上げて、カウンターに置く。
 それと一緒に、ラファエルが財布の中から金銭を取り出し瓶の横へ添える。
 緩慢な動作で老人は椅子から立ち上がり、先に金銭を確認して懐に仕舞いこんでから、瓶に施された厳重な封を解きに掛かる。

「お願いします! みなさん、小瓶を取りましょう?」

 踵を返し、店主の言ったとおりの棚の前へ向かう。
 当然ながら、小さなルクラには踏み台を使っても取れないものなのだが。
 なぜか彼女は背伸びまでして必死に手を伸ばしている。
 
「……元気ねぇ……」
「なんだかルクラ、張り切ってない?」
「きっと今のルクラさんが、本当のルクラさんなんですよ。……少し、安心しました」
「結構な事ですが……。あのお嬢さんがあまりはしゃぎ過ぎて思わぬ失敗をしでかさないよう祈っておきましょうか」
「落ち込んでいるよりかはずっといいよ、ラファエル。……ルクラ、僕が代わりに取るよ」
「あ、はいっ。ごめんなさい、お願いしますっ」

 踏み台からぴょんと飛び降り、代わりにジャスティンが踏み台に上がると、いともたやすく小型の空き瓶を手に取った。
 ジャスティンは、何故だかうずうずした様子のルクラにまず最初に空き瓶を二つ手渡す。
 彼女がそんな様子なのは、ここに来て彼もわかっていた。役に立ちたいという一心で、少し危なっかしいものの張り切っているのだ。
 両手にそれぞれ一つずつ空き瓶を持って、ぱっと笑顔を咲かせるとルクラはぱたぱたと店主のもとへ駆け出す。
 こけることなく無事に辿り着いたのを見届けてから、ジャスティンは他の仲間達にどんどん空き瓶を手渡していった。

「さぁ……できましたよ、お客様……」

 ゆっくりとした動作で小瓶に中身を移し変える作業を見守る事十数分。
 ジャスティン達の目の前に、鮮やかな液体が一杯に注がれた瓶が十八個並んでいた。

「ありがとうございます! ……えっと全部で……じゅうはちですね!」
「丁度一人あたり二つ持てる数だね」
「取り合えず今ここに居る僕達の分は先に分けておこう。余った分は僕とラファエルで分担して運ぼうか」
「畏まりました。」

 一人二本ずつ、瓶を受け取り仕舞いこむ。
 ジャスティンとラファエルの二人は、残った十本をそれぞれ分担して荷物の中に仕舞いこんだ。
 壁を突破できる強力な道具。
 それを手に入れたことにより、ジャスティンは初めて自分の心が少し安らいだ事に気づいていた。

名前 文字色 削除キー

[51] ロケットに誓いをこめて。 投稿者:ベル MAIL (2008年08月09日 (土) 00時29分)
 ジャスティン達が宿泊した階には、割と大きなラウンジが設けられていた。
 他にこの階に宿泊していたと思われる、貴族のような身なりの人物が数人椅子に腰掛けて優雅に紅茶などを飲んでいる。
 そんな貴族達とは少し離れた椅子に腰掛けていたゼーレ、ラキス、クロスの姿をジャスティン達は見つけた。

「あら、おはようございます、ジャスティン様、ラファエル様」
「おはようございます」
「おはよう」
「……あ……ロフォカレ様、でしたね? おはようございます」
「おはようございます」

 昨日の騎士、ロフォカレが一緒に居る事に一瞬不思議そうな顔をしたゼーレだが、またすぐに柔らかな笑みを浮かべて挨拶をする。
 それにロフォカレも、綺麗にお辞儀をして返した。

「おはよう。……まだ、他の皆は寝ているのかな?」
「ファルは朝食を食べに下の食堂へ行ってるよ」
「ヴァール様とルクラ様は、まだ一緒にお休みになっていました」
「ジンは起きては居たけれど、武器の手入れをしていて部屋にこもりっぱなしだね」
「私と一緒の部屋の彼もおそらく寝ているでしょう。昨日は随分遅くに部屋に戻ってきましたから」

 ラファエルの言う彼とはラウルのことである。
 
「これからの事について話しておきたいんだ。そろそろ皆を起こそうかと思う」
「そうだね。もういい加減起きてもいい時間だろうし」
「女性の部屋は……ゼーレ、君に頼めるかい?」
「はい、わかりました」

 手早く分担を決めて、各自部屋へ向かう。
 二十分もすれば、ファルを除く――彼は食堂に居るためである――全員がラウンジに集合していた。

「へェ。……大体解ったぜ」
「除草剤のとっても強いのを見つけたら、すぐに出発ですね!」
「とりあえずは、朝食を取ってからにしよう。僕達も一度部屋に戻って荷物を整理してくる。ロフォカレ、君はもう朝食は済ませたかい?」
「いえ、まだです」
「それなら、彼らと一緒に食べてくるといい。……どうかな?」
「えぇ、そうさせていただきます」
「食べ終わったら荷物をまとめて入り口に集合してくれ。以上だ」

 ジャスティンの話が終わると、皆階下へと向かう。
 後に残されたのはジャスティンとラファエルの二人。

「それじゃあ僕達も、荷物を整えておこう」
「わかりました。それでは後ほど」

 ラファエルも自分の部屋へと戻っていく。
 静かにラファエルが部屋のドアを閉め、姿を消したのを見てから、ジャスティンも自分とゼーレが使っていた部屋へ戻った。
 自分のベッドの上においていた鞄を手に取り、そのままベッドに腰掛けて鞄の中身を確認する。
 必要最低限のものしか入っていない、ごくごく少ない種類の品物。
 まだ鞄にはずいぶんと余裕があった。
 そしてそれは、整理する必要が無い事を意味している。


 ジャスティンは中から、古いロケットを取り出した。
 銀で造られたそれは、あちこち傷だらけで、色もくすんでおり、長い時を刻んできた品だということは一目でわかるものだった。
 しばらく丁寧に、優しくそれを撫でていたジャスティン。
 淵に指を掛けて、ぱちりと乾いた音を響かせた。
 中には、セピア色の古い写真。
 幼き日のジャスティンに、両親が写っている。

「……父上。……母上……」

 ロケットを閉じて、力強く握り締め。
 ジャスティンは拳を額に当てて強く眼を閉じた。
 涙は堪えた。今はまだ、泣くような時ではない。
 そんな気がしていたからだ。
 どれだけそうしていたのか解らないが、静かな部屋にノックの音が響いて我に返ったのは、ロケットを握り締めた掌に、赤い跡がついた程度の時だった。

「私です」
「ラファエル?」

 ドアの外から聞こえた声の主の名を呼ぶと、ドアはゆっくりと開く。
 やはりそこには、ジャスティンが呼んだ名前の人物が居た。

「整理が終わりましたので」
「そうか。……僕はよく考えたら、整理するほど物を持っていなかったよ」

 ふとジャスティンは、ラファエルの視線が微妙に自分の手のほうに向かっている事に気づく。
 見てみれば、そこにはあの古ぼけたロケット。

「鞄を開けたら、たまたま目に付いてね」

 笑ってみせる。
 自分は大丈夫だ、という意思表示のためだ。
 ラファエルもジャスティンの意図は感じ取ったのだろう、薄く笑みを浮かべると、ロケットについてはそれ以上何も言わなかった。

「整理がお済になったのなら……もう一度ラウンジに行きませんか? 皆が食事を済ませるまで時間があるでしょう。私たちは少し早めに起きていますから、眠気覚ましに何か飲み物でも」
「あぁ、そうしようか」

 ぱちりとロケットの蓋を閉じて鞄に仕舞いこむと、ジャスティンはラファエルとともに部屋を出た。
 再び部屋には、静寂が訪れた。

名前 文字色 削除キー






Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】Amazonから新生活スマイルセール28日から開催予定
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板