ジョン・ハンフリース著 永井喜久子・西尾ゆう子訳「狂食の時代」講談社
もっと多く! もっと多く!
この本を読むまで、私は、現代の大食糧増産時代に潜む異常性に気づくことがなかった。言われてみれば、牛に牛を食べさせるのも、魚を養殖するのも、ホルモンや抗生物質を与えるのも、農薬を撒くのも、遺伝子をデザインするのも、全てはひたすらに収量を増やすためだった。
著者はいう。この衝動は、戦争時代の世界的な食料不足のせいだ、と。途方もない欠食を経験して、人は過度な豊かさを求めるようになった。その結果、食料となる生物にも、肥育者にも、そして大地にも、回復できないほどのダメージを与えるシステムが定着してしまった。それが間違っていることがだんだん分かり始めたけれども、一度なじんだ方法から我々はたやすく離れることができない。なるほど有機はいいだろう。だが、以前のような収量を確保できまい。それで一体うちはやっていけるのか? それで一体人類はやっていけるのか?
答えはわからない。ただ、今の方法をやっていけば、いずれ破滅が来るということだけはわかる。これは恐ろしいことだが、認めなくてはならない。このままでは土は死に、植物の種子はアグリビジネスが独占し、病原菌は無敵になってしまう。そして人の体も!
「エンパイア・ステート・ビルから飛び降りて、窓ごとに『ここまではだいじょうぶだ」といった男のようです。私たちは自分がすでに窓の外に飛びだしてしまったことを知っています。私たちが知らないのは、地上まであとどのくらいかということです」この問題を熟知しているノーマン・サイモンズ医師は言った。
とにかく読まなくてはならないと思う。訳者のおかげで非常に読みやすく平易でありそして何よりエクサイタブルである。真実はいつも人を興奮させるものだ。それが真実の価値だ。そして、少しずつでいいから始めよう。食糧生産の方法を選ぶのは結局消費者だ。我々は既に遺伝子組み換え食品を拒否した。アメリカは我々に遺伝子組み換え食品を売りつけようとしたが我々は拒否した。今は飼料としてしか使われていない。それを後退とみなすか、或いは一つの実現とみなすかは個人の自由だが、私はこれは立派な成果だと考える。我々には気に入らない食品を拒む権利がある。そしてそのためには、自分が選ぼうとしている食品がどうやって生産されたのかを知らなくてはならない。昔ながらのやり方で作られていると信じるのは、ビューティフル・ドリーマーだけだ。
下のむらさんの書き込みに通じる本でした。大変面白いものでした。
管理人 拝